ミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』、前日の大東立樹さんに続いて、ダーウィン役:渡邉 蒼さんのGPの様子をレポートいたします。聡明さ、純粋さ、強さ、繊細さ、あどけなさ……それらの要素が多様に絡み合い形作られるダーウィン・ヤングという人物像。タイプの違うWキャストの妙をひしひしと感じる、ありきたりな言葉になってしまいますが“両方見たい”Wキャストです。
ダーウィン・ヤング:渡邉 蒼
この日のダーウィンは渡邉 蒼さん、現在18歳。16歳のダーウィンと実年齢も近い渡邉さん、これは同い年の大東さんにも言えることですが、まず、その年ごろにしか出せない表現の魅力を感じました。難曲ぞろい、ドラマ性も高い本作を駆け抜けるには高い技術も必要なのですが、経験や技術とはまた別の、その年ごろ特有の存在感、纏う空気というような。そんな2023年、2人のダーウィンの「今」と「すべて」が注ぎ込まれた『ダーウィン・ヤング 悪の起源』になっています。
★コメント★ダーウィン・ヤング:渡邉蒼 Wキャスト
「この上ない緊張感です。ただそれよりもっと強くあるのが、“残酷なほどの美しさ”、“明かされてはいけない秘密”、どんな言葉でも言い表せない“得体の知れないもの”が解き放たれるのを今か今かと待っている。そんな感覚です。あとはカンパニーの皆様の胸をお借りし、ダーウィンとして全てを投じるのみ...!必ずこの作品の叫びは沢山の方に届くと思います。シアタークリエでお会いできることを心から願っています!」
ダーウィンの祖父ラナー・ヤング(少年期:16歳の場面):石川 禅
その一方で、上演発表時より石川禅さんが「少年期、壮年期、老年期を演じ分ける」ということも話題になりました。それができるのも演劇、それをやってのけるのも俳優です。どちらも素晴らしい!
物語の舞台は市街が9つのエリアに区分され、厳格なる階級制度が敷かれている架空の都市。階級制度に疑問を抱く、同じ感覚を持つダーウィンとレオは必然的に仲良くなる。
写真右)レオ・マーシャル:内海啓貴
自由を求めるレオは、歴史ある全寮制のプライムスクールに通う保守的な学生たちの中で異質な存在
ダーウィンの父ニース・ヤングは教育部長官という要職に就くエリート。演じるのは矢崎広さんです。長官としての威厳、父としての包容力、自身の父ラナーへの思いなど、あんな顔、こんな顔、そんな顔を見せるニース。一幕で矢崎さんの大人の魅力に新鮮さを覚えていると、二幕の友達とワチャワチャするところでは、あれ、これは知っている感じ!となる。 キャラクターの表現の幅が広く。それをかなりの精度で作り上げ、それがまたナチュラル、つまりあらゆるツボを押してくる矢崎ニースです。
速報レポでもご紹介した「ウィンザー・ノット」の場面。ネクタイを結ぶようになったのか……息子の成長を実感し、喜びを噛み締める父と少し大人になろうとする息子、鏡越しの二人のやりとりにキューンとする素敵な場面。一方、祖父ラナーはネクタイを締めないという……ヤング家。
写真左)ニース・ヤング:矢崎広
ダーウィンたちがネクタイを締めて向かったのは、30年前に16歳で何者かに殺害されたジェイ・ハンターの追悼式典。ニース、バズとジェイは学生時代、仲の良い友人だった。
ジェイの弟でルミの父ジョーイ・ハンター:染谷洸太、レオの父バズ・マーシャル:植原卓也、ニースとダーウィン
写真右)ルミ・ハンター:鈴木梨央
そこでダーウィンは思いを寄せるルミとともに、ルミの伯父ジェイの死の真実を解き明かすために、ジェイの部屋で見つけたとある写真の謎を探り始める。機転が利き、行動力もある、でも一人は寂しいな。そんなルミを鈴木さんが伸びやかな歌声と力強い眼差しでとても魅力的に魅せます。
ドキュメンタリー映画の監督をしているバズとレオもまた父子
ニースやバズの16歳のころは
こちら!
写真右奥)ジェイ・ハンター:石井一彰
あだ名はリトル・ジェイ、伯父ジェイに強いシンパシーを感じているルミ
そんなルミと父ジョーイの父娘関係は……
ニースとラナー、もちろんこの二人も父と息子
こうしてヤング、マーシャル、ハンター、3つの家の3世代にわたるドラマがひも解かれていくのです。
そして物語のクライマックスで登場するのが──現代、30年前、60年前を行き来する物語の主軸となるヤング家の物語が集約する、ラナー、ニース、そしてダーウィンによる壮大なナンバー「青い瞳の目撃者」。孤独と悲しみ、痛み、たくさんの心情を内包する楽曲のメロディがなんと優しく美しいことか。
語るように歌い出す16歳のダーウィン、そしてニース、そこから……
ダーウィンの成長譚というには過酷すぎる旅、演劇として3時間というドラマの中で大東さん、渡邉さんの見せる表情の変化の凄まじさは目にも心にもしっかりと刻まれます。大東さんはカチッと覚醒する鮮やかさが印象的なのに対し、渡邉さんは一つずつ扉を開けていくような印象。個人的には、観劇後、ふとした瞬間に大東さんはレオとのシーンが、渡邉さんはニースとのシーンの記憶が蘇ります。そんな風に観た人の数だけ、その受け止め方、印象は変わることでしょう。そう思えるほど、ひとつの正解、一本道ではない多面的な物語です。
この楽曲の最後に登場する祖父ラナー。激動の時代を生き抜いてきた、第一世代の力というものを知らしめるように、すべてを包み込む禅さんの歌声が劇場に響き渡ります。そんな「青い瞳の目撃者」、思わず心の声が出てしまいますが「この楽曲、もうたまらんのです」。さらにひと言加えるなら、音と心情がともにクレッシェンド、それを受けて気持ちのキャパがいっぱいになりますので……“目から滝”注意報です。
(個人差があります)こうしてたどり着く物語の終わり。「ネクタイ」「フードを被った男」「カセットテープ」「バニラケーキ」……物語に登場したものが、その後のドラマによってそれぞれ深い意味を持ち、心を揺さぶる。最初に公開された、キービジュアルや「悪の起源」のサブタイトルを見ると、あらゆる思いが心を巡りうっかり号泣してしまいそうなくらいです。また、2度目の『ダーウィン・ヤング~』は、真実を知った上で見ると同じシーン、同じ楽曲も違う響きを持つのです。もちろんしんどさもありますが、初見の前のめりの気持ちで引き込まれるのとはまた違う深みが生まれます。初観劇のドキドキ、再観劇のどっぷり、どちらも醍醐味!
そして今は、自分の目で世界を見つめることを選択した、16歳のルミのことを考えています。
一筋の希望を彼女に感じるのです、彼女ならもしかしたら……と。
(心の声:ルミが語るレオ……二人の関係もなんだか気になる。これは原作に手を伸ばすしかないのか)革命に立ち上がった民衆(フーディー)や式典参列者、プライムスクールの生徒たちなど階級や時代を超えての大活躍! 作品世界を作り上げるのはアンサンブルのみなさん
さらにこの深く、濃く、壮大な、めくるめく物語を進める上で重要な役割を果たす映像、陰影を生み出す照明など総力戦で作品を舞台上に立ち上げる、本作演出は末満健一さんです。東京公演は6月25日まで、ご観劇、追チケはお早めに(笑)。その後、兵庫公演あり!
STORY
舞台は市街が9つのエリアに区分され、厳格なる階級制度が敷かれている架空の都市。200年の歴史を誇る全寮制のプライムスクールに入学した16歳のダーウィン・ヤング(大東立樹/渡邉 蒼)は、教育部長官のニース・ヤング(矢崎 広)を父に持つエリートだが、この世界の厳格な階級制度に疑問を抱いている。同じ考えを持つレオ・マーシャル(内海啓貴)と出会い、心を通わせた二人は、骨董品交換会で、古びたフードと、カセットプレイヤーを交換する。
30年前に16歳で何者かに殺害されたジェイ・ハンター(石井一彰)の追悼式典の場、感動的なスピーチをするニースの傍らで、ジェイの弟であるジョーイ・ハンター(染谷洸太)は大袈裟な式典を催すことに不満を漏らしている。ジョーイにとってこの30年は、常に兄のジェイと比較され、劣等感を抱き続けてきた30年間だったからでもある。ニースは、ジェイとともに同級生で親友同士でもあったバズ・マーシャル(植原卓也)から声をかけられ、ドキュメンタリー映画の監督としてプライムスクールの撮影をすることになったので、息子のダーウィンの協力を仰ぎたいと相談をもちかけられる。
そんな折、ダーウィンは密かに恋心を寄せている同級生のルミ・ハンター(鈴木梨央)から、力を貸してほしいと依頼される。好奇心旺盛で頭脳明晰なルミは、伯父であるジェイの部屋で見つけたアルバムの中から、1枚だけ写真が消えていることに気づいた。ジェイの死の真相に迫る《何か》が写っていたはずの写真の謎を突き止めるため、ダーウィンはルミと行動を共にすることに。
この世界の最下層エリアである第9地区、膨大なデータが眠る国立図書館、ダーウィンとルミは、謎解きの旅の中で少しずつ真相に迫っていく。
60年前に起きた「12月革命」。その革命のリーダーだった「額に流れ星のタトゥーを入れた少年」、その特徴と奇妙に符合するダーウィンの祖父であるラナー・ヤング(石川 禅)・・・。
さらに、ラナーが第9地区の出身でありながら、第1地区の教育部長官にまで上り詰めた父ニースの知られざる過去。
真相に近づくに従い、ダーウィンの祖父と父が、それぞれ闇に葬った秘密が明らかにされていく。
殺害されたジェイ・ハンターの死の真相は?古びたフードとカセットプレイヤーに隠された秘密は?
そして、タイトルが暗示する「悪の起源」とは何を意味するのか?すべてを知った時にダーウィンが選んだ道は?
親子孫の三世代の運命が交錯する、壮大なる人間ドラマが今、始まる―。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人