【演出・長塚圭史コメント】
カタチのないものを信じ、多くを託し、預け、委ねている現在にこの戯曲がどう響くのか。またこの終わりなき資本主義社会にこの劇が今何を語るのか。初日が開けた今もまだ確かなことは言えませんが、なぜ今この劇を上演するのかと日々問い続けながら歩みました。どちらかというとアーサー・ミラー作品の中でもあまり注目されてこなかった、どちらかというととっつきにくい史実を扱った、どちらかというと歪な構造のこの『アメリカの時計』ですが、過去と現在とを結びつけ肉付けしてゆく俳優陣、柔軟で迅速なスタッフと共に丁寧に紡ぎました。社会劇としての魅力もありますが、ボーム家のように、近くこのようなことが我が身に降りかかるのではないかと夢想しながらSF劇として観るのもまた一興、いやちょっと恐ろしいか。あらすじ
1920年代のアメリカは史上空前の繁栄をとげ、アメリカ人の誰もが、株さえ持っていれば金持ちになれると信じて疑わなかった。しかしこの状況に疑いを持った、アーサー・ロバートソンは、いち早く株から手を引き、親しい者に警告して回るのだが誰も聞く耳を持たない…。
そして1929年、株式市場を襲った大暴落は、裕福なボーム家にも大打撃を与えた。父親モウ・ボームは剛直な実業家であったが、株に打ち込みすぎて、市場の崩壊とともに財産を失う。母親のローズは、家族が生きるために、宝石類を現金に換える日々。息子のリーは、人々が職にあぶれて飢えていく様を目の当たりにしながら、自身の人生を歩んでいく。