こまつ座『連鎖街のひとびと』稽古場レポート

現在上演中


1983年、作家・劇作家の井上ひさしが座付作家として立ち上げ、翌年『頭痛肩こり樋口一葉』で旗揚げ。以降、井上ひさしに関わる舞台を専門に上演し続けるこまつ座。40周年のラストを飾るのは、2000年初演、翌年の再演から数えて実に22年ぶりの上演となる『連鎖街のひとびと』です。






昭和20年8月、終戦間もない大連の繁華の街“連鎖街”にあるホテルの地下室を舞台に、二人の劇作家がなんとかその地で生き延びようと、ホテルの二代目オーナーや中国人ボーイ長や大連で活動する作曲家やピアニスト、政府の役人(元俳優)、そしてハルビン喜歌劇団のスターといった周囲の人々を巻き込みながら“芝居作り”に奮闘するものがたり。ワンシチュエーションの音楽劇です。過酷な状況下にありながらも歌い、踊り、笑い、喧嘩をしながらも明るくたくましく生き抜こうとする人々の姿が──ほかの井上作品同様、市井の人々への温かい眼差しで、ユーモアたっぷりに描かれます。そしてその影には国家への怒りも。

初演より本作演出を手掛ける鵜山仁さんのもと、新たに2023年の『連鎖街のひとびと』を立ち上げる、熱量たっぷりの稽古の様子をレポートいたします。

この日の稽古は第五場、ものがたりも大詰めです。
ここまでのあらすじは──大連に残された二人の劇作家に課せられたのは、ロシア軍の通訳将校歓迎会で披露するお芝居の台本作り。この一大イベントで彼らを満足させられなければ、揃ってシベリア送りというギリギリの状況ながら、まぁ筆が進まない。幾度となく脱走を試みる二人が、あることをきっかけに傷ついた青年を救おうと奮起し、ボーイ長の陳の力も借りながらついに台本を書き上げ……



塩見利英役:高橋和也さん


片倉研介役:千葉哲也さん

新劇の劇作家:塩見利英に高橋和也さん、大衆演劇の劇作家:片倉研介に千葉哲也さん。お堅いけれど情に篤い塩見と愛嬌たっぷりの片倉、このまったくタイプの違う二人の劇作家が、一緒に芝居を作ることで互いを認め合うようになる。まずそこにひとつの筋があります。高橋さんの真摯で温かみのあるお芝居は塩見にピッタリですし、明るい片倉が発する重みのあるひと言、千葉さんの声がずしりと響きます。そして、お芝居(劇中劇)の稽古が始まり、気持ちが乗ってきたときの二人の輝く瞳、溢れるアイデア、少年のように楽しむ姿。そこに劇作家井上ひさしさんの姿が重なり、すべての劇作家への愛情を感じます。



今西錬吉役:鍛治直人さん、陳鎮中役:加納幸和さん

そんな二人をサポートするのが、先代オーナーから受けた恩に報いるためホテルで働く中国人、加納幸和さん演じるボーイ長の陳鎮中(チン・チンチュウ)です。陳の気働きの素晴らしさ、各方面に溢れる才能といったら! ただ者ではないのですが、いたって飄々としている陳さんなのです。加納さんは、常に芝居の手綱をしっかりとその手に握り、鵜山さんのリクエストに陳として自在に対応されます。(加納さんならでは!というシーンもありますよ)そして最終的な感想としては、陳さんの作る焼飯を食べたい!(そこっ!笑)

ホテルと、そこに隣接する百貨店のオーナで大連市会議員でもある今西練吉には鍛治直人さん。実業家然とした佇まいで、文化芸術にはあまり興味がないという、この地下室に集まった人の中ではちょっと異質な今西。なにかの報せとともに現れます。それはいい報せかわるい報せか、登場するたびに何かが起きる人物です。二代目らしいおおらかさと議員の厚かましさ(!?)を感じさせる鍛治さんのお芝居です。



石谷一彦役:西川大貴さん、崔明林役:朴勝哲さん

続いては音楽家のお二人。所属する管弦楽団で副楽長を務める、若き作曲家の石谷一彦とピアニストの崔明林(サイ・メイリン)、それぞれ西川大貴さんと朴勝哲さんが演じます。西川さんが演じる繊細で純情な一彦、父親代わりのような塩見はもちろん、彼に関わる人はいつのまにか、この若い才能、彼の未来を守らなければと思ってしまうような存在です。本番では客席全体が見守り隊になる予感! 崔は、朝鮮出身。そこがクローズアップで語られることはないのですが、ひと言が幾重にも意味を持つような、決して口数が多いわけではない崔のふとしたひと言にも注目です。初演から同役を務める朴さんの、ピアノの音での芝居(感情表現)も見どころ!



こちらは、石橋徹郎さん演じる、元俳優で今は政府の文化担当官を務める市川新太郎と、霧矢大夢さん演じるハルビン喜歌劇団のスターのハルビン・ジェニィ。かつて恋仲だった二人。その再会が、ジェニィのフィアンセである一彦を悩ませ狂わせる(!?)。この三角関係もものがたりの大きなカギを握ります。それと同時に、演じることを手放したはずの市川は作品を象徴する存在でもあります。

こうして書いていると、本当に、どの登場人物も、どの台詞も、ひとつとして余計なものがない。井上戯曲の魅力、スゴさを再認識します。



塩見と一彦


一彦から市川へ向けられる鋭い視線、敵視!


陳と今西



ご紹介してきたように、塩見と一彦の絆、一彦と市川とジェニィの三角関係、今西と陳の関係、一彦と崔、ジェニィの音楽を通じた連帯、これまでは塩見や片倉の創作を検閲してきた市川と二人の対立など、いろんな角度からの人間ドラマが描かれています。やがてそのすべてを飲み込むように、塩見と片倉のコンビに陳を加えた3人が、演劇を作る=誰かを守るという目的に突き進む中で生まれる結束と情熱が、みんなを巻き込んでいきます。そしてそこに確かにあるのは“演劇讃歌”。過酷な状況の中で、束の間、演劇に救われる人々。生きる活力を得て、なんとか踏ん張ろう!ラストシーンで届けられるものもまた、演劇を用いたメッセージです。過酷を極める時代の「そこに演劇がある風景」を、ぜひ劇場でご覧ください。



鵜山さん(演出)、髙橋さん
気になったポイントを伝えるときは、鵜山さん自らがアクティングエリアに赴いて動いて見せることも! 「そこは二人の前を通ってみようか」動線を少し変えるだけでより鮮明に見えてくる関係性や感情。稽古場のあちらこちらで活発な話し合いが行われ、疑問が生じたらその都度、ちゃんとクリアにしてから稽古は進みます。

また、22年ぶりの上演というところでは、今回塩見を演じる高橋さんが、初演では一彦を演じられていたというキャスティングに、初演を観ていないにもかかわらず、胸が熱くなります。さらに、今回高橋さんが演じる塩見を初演・再演で演じられていたのが辻萬長さんと思うと、そのことにもなんだか泣きそうになります。こうして井上作品が受け継がれていくことの素晴らしさを感じるとともに、今の『連鎖街のひとびと』を作り、届けようと試行錯誤を重ねる鵜山さん、俳優のみなさん(本当にみなさんあてがきなのかなと思うほどの、役としての存在感!)による公演を観られることを嬉しく思います。井上ひさしさんの笑いと音楽にあふれた、2023年の『連鎖街のひとびと』、開幕はまもなくです!


<スペシャルトークショー開催>

どの組み合わせも面白く濃いお話の予感!!

★11月14日(火)13:00公演後 高橋和也 千葉哲也 加納幸和 西川大貴 霧矢大夢
★11月16日(木)13:00公演後 鵜山 仁(演出家)
★11月20日(月)13:00公演後 高橋和也 千葉哲也 加納幸和 鍛治直人
★11月26日(日)13:00公演後 霧矢大夢 石橋徹郎 朴 勝哲 西川大貴
※スペシャルトークショーは、開催日以外の『連鎖街のひとびと』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。ただし、満席になり次第ご入場を締め切らせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。



【公演情報】
こまつ座『連鎖街のひとびと』
2023年11月9日(木)~12月3日(日)@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

作:井上ひさし
演出:鵜山 仁
出演:高橋和也 千葉哲也 加納幸和 鍛治直人
   西川大貴 朴 勝哲 石橋徹郎 霧矢大夢

こまつ座HP

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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