日生劇場にて『テラヤマキャバレー』開幕!寺山修司が、今生きていたら、何を思い、何を表現したのか。生と死が交錯するキャバレーを舞台にした音楽劇『テラヤマキャバレー』が開幕。死を前にした寺山修司を演じるのは香取慎吾さん、彼を取り巻く“寺山劇団員”など個性的で比喩的な面々には成河さん、伊礼彼方さん、村川絵梨さん、平間壮一さん、宝塚歌劇団の凪七瑠海さんら、多彩な顔触れがそろいました。そして寺山の夢の世界を描き出すのは池田亮さん、それを舞台に立ち上げるのは演出家デヴィッド・ルヴォーさんです。
いったいどんな作品なのか。開幕のその瞬間まで謎に包まれた『テラヤマキャバレー』でしたが、“摩訶不思議”と“懐かしい”が入り混じる観劇体験が待っていました。初日を前に行われた舞台挨拶の模様と公開GPをレポートいたします。
【舞台挨拶】
脚本:池田亮さん
寺山修司の言葉、戯曲や歌詞、エッセイを読み漁るところから創作を始めたと語るのは脚本の池田亮さん。「寺山の言葉を、今生きている自分たちがどう受け取り、作品にできるのか、何を紡ぐのかをルヴォーさんはじめ関係者の方々とセッションをしながら執筆しました。自分で書いた文字(脚本)が俳優の肉体を通して立体的となったとき、この作品はスタッフキャスト、そして観客のみなさんによって完成するのだと思いました」と語ります。
演出:デヴィッド・ルヴォーさん
演出のルヴォーさんは若き日にロンドンで寺山作品と出会った頃は自らが日本の演劇とここまで深い関係を築くとは夢にも思わなかったと。「一人の芸術家が、我々は何者なんだということを探っていくエンターテインメントにしたいと思い、亮さんとともに作ってきた。それはやがて日本の多様な舞台芸術の形を旅するような作品になりました。個人的には、この作品は日本の演劇へのラブレター。日本の演劇で学んだことへのお返しです。日本の芸術としての演劇を変えた一人の世界的な芸術家の祝祭の舞台をお楽しみください」
寺山修司:香取慎吾さん
本作を通して寺山について知り、そこで感じた彼の難しさ、複雑さの先にあるのはご自身が生きていく上で感じていることと繋がると実感を込めて話す香取さん。「寺山修司さんが亡くなるお話です。稽古中に、寺山さんが亡くなった歳と同じ歳になりました。僕は寺山修司役ですが、このキャバレーのオーナーでもある。ときには香取慎吾でいるような気持ちにもなります。脚本の池田さんが寺山さんの言葉を拾い集めて紡いでくれて、演出のルヴォーさんがそれをやさしく僕らに植え付けてくれました。稽古の中で、だんだんだんだんこの世界が好きになっていく自分がいました。一人でも多くの方に好きになってもらえたら。日常では味わえないエンターテインメントの楽しさ、夢の世界をたくさん感じていただける作品になっていると思います。ぜひご覧ください」
白粥:成河さん
成河さんが演じるのは寺山の夢の中の劇団員・白粥と、寺山さんを語る上で欠くことのできないあの芸術家も。「日本で演劇を作る外国人演出家はたくさんいらっしゃいますが、デヴィッド・ルヴォーさんほど古典から近代、現代に至る日本の演劇、演劇に限らず日本の芸能やもっと言えば日本語、日本そのものに対して興味・関心を持ち続けて創作されている方は稀だと思います。30年、その思いで日本を近くから、遠くからずっと見つめ考えてきたデヴィッドの集大成のような作品になっているんじゃないかな。お楽しみください」
蚊:伊礼彼方さん
伊礼さんが演じるのは蚊。そして寺山が時空を旅をする中ではなんと…! これは観てのお楽しみ。「僕が演じる蚊は、劇団員ではなく寺山のキャバレーの階下の住人。蚊はいろんな人の血をミックスさせて新しい刺激を求めていくのですが、それはちょうど舞台上で混ざり合うキャスト・スタッフのエネルギーに、さらに客席にいる一人ひとりのエネルギーが混ざっていったときに生まれる刺激のよう。お客様にはそのショックを味わい、熱量を受け止めていただきたい」
死:凪七瑠海さん(宝塚歌劇団)
自らの死期に気づいていない寺山に、「あなたの時間は止まった」と告げる“死”を演じるのは凪七さん。「宝塚以外の公演への出演は初めてですので、すべてが新鮮で、刺激的で、衝撃的で、ただただ圧倒される日々でしたが、キャストの皆様からたくさんのことを勉強させていただいております。座長の香取さん率いる素晴らしいカンパニーの皆様について行けるように、そして私も死として、この作品にきちんとエッセンスを加えられるように頑張ってまいります」
アパート:村川絵梨さん
村川さんは劇団人・アパート、そして寺山さんととてもかかわりの深い人物を演じます。「何も想像ができないまま稽古に入り、ルヴォーさんという大きな船に乗って未知の旅に漕ぎ出し、あれよあれよという間に明日初日という素晴らしい体験をさせていただいています。熱量とジェットコースターのようなうねりが待ち受けていますので楽しんでください。お客様の感想がこんなに楽しみな作品もありません!」
暴言:平間壮一さん
平間さんは劇団員・暴言と、こちらも寺山さんと縁の深い芸術家を演じます。「『テラヤマキャバレー』というのは正しいとか、間違うとか、愛とか……いろんなことを含めた人間がテーマになっていると思います。そして人間は完璧なものを求めがちですが、不完全なところに面白さがあるんじゃないかなって。台詞だけでなく、それ以外からも人間って素敵だなと感じることのできる、温かみのある作品。それって、池田さん、ルヴォーさん、慎吾さんをはじめとするみなさんの愛や情熱に心を揺さぶられることでもある。深い愛を受け取りに劇場に遊びに来てくれたら嬉しいな」
【公開GPレポート】
いよいよ始まる! チューニングの音(生演奏です!)に緊張感とワクワクがアップする大好きな瞬間。スポットライトに照らされた真紅のカーテンから登場するのはこのお話の主人公、というか“主”の寺山修司(香取慎吾さん)。こうして幕が開いた『テラヤマキャバレー』は死のときが迫る寺山の頭の中、夢の中の世界を舞台に繰り広げられます。生と死、虚と実の狭間に浮かび上がるのは──。
登場人物はそれぞれの声で寺山の言葉を届ける
劇団員ミッキーには福田えりさん(写真右)、寺山を支える女性を演じます
始まりは寺山が亡くなる前夜。寺山修司47歳。
寺山を慕う劇団員たちから名前を乞われ、受け取ったインスピレーションをもとに次々に名前を与える寺山、それが“白粥”や”アパート”といったユニークな役名になるのです。彼らが戯曲『手紙』のリハーサルを始めると、死(凪七瑠海さん)が現れる。残したい言葉がある、胸躍るようなスペクタクルが作りたい、死ぬのはまだ早いとリハーサルを続ける寺山に、死はある取引をもちかける。「日が昇るまでの時間と、過去や未来へ行けるマッチ3本を与える代わりに、私(死)を感動させる芝居を作る猶予を与えよう」と──
1本目のマッチで飛んだのは過去。
近松門左衛門による人形浄瑠璃『曽根崎心中』の稽古場
花王おさむさん(写真中央)の劇団員・舌ちょんぎりからの変化が鮮やか!
2本目のマッチでは、近未来へ。
そこは2024年のバレンタインデーの歌舞伎町。
劇団員・青肺を演じるのは横山賀三さん。台詞と歌で表現する儚さと切実さにグッときます。
混沌のエネルギーに飲み込まれる!
劇団員・白粥を演じるのは成河さん(写真左)。
相変わらず達者でいらっしゃる!
そしてとある劇作家のシーンも見ものですよ
凪七さん演じる、体温を感じさせない死の表情の変化
死のまなざし、死を見つめる寺山のまなざしも印象的
芸術家たちが見つめる過去や未来、彼らの目に“今”はどう映るのだろう
平間さんは言葉をしっかりと心に届けるとともに身体能力もいかんなく発揮し、入れ子構造のような多層的な世界を飛び回ります!
寺山の言葉とともに彼自身の人生も織り込んだ脚本
村川さん演じる業の深き女性、台詞と歌のシームレスな表現が心に沁みます
伊礼さん演じる“蚊”は刺激を求める自由なエネルギーで大暴れ!
ルヴォーさんは香取さんをこう称えます。
「彼は稀有な才能をお持ちです。それは自然と観客のみなさんと一体化して繋がることができる才能。この作品においては、寺山修司という役が客席と必ず繋がらなくてはならない。物語の語り部として香取さんは素晴らしい。最初の稽古から魔法を見せてくれました」
舞台にたたずむ香取さんを見ていると舞台挨拶での言葉「寺山修司役でありながら、ときには香取慎吾でいるような気持ちにもなります」が頭をよぎります。同時に、「寺山修司さんと香取慎吾さんの二人にあてがきした」という池田さんの脚本執筆時の感覚にもなるほどと。今、そこに生きる香取慎吾さんに寺山が宿るような稀有な体験。『テラヤマキャバレー』の主として十分な存在感で作品をけん引します。そして絶え間なくその視線の先を想像させる、観客の想像力を刺激する寺山です。
寺山の周囲の人々は群像であったり、個であったり、その在り方を自在に変容させながら寺山修司の頭の中の世界を立ち上げます。そしてみなさん口跡がイイ!寺山と集合体たる劇団員、蚊、そして死がまるで宇宙のような広がりを生み出すルヴォーさんの魔法にかかったような時間。そんな浮遊感と対照的な作用をもたらすのが歌唱シーンです。「さよならだけが人生ならば」「あしたのジョー」など、寺山さんが作詞を手掛けた楽曲の大衆性は、最初はちょっと戸惑うほど。この歌も寺山修司だったんだ!という驚きとともに、リアルタイムでは聴いていなくてもどこか懐かしさ、昭和ノスタルジーを感じさせる楽曲たちの浸透力たるや。令和の世をのほほんと生きる自分とは遠いと思っていた世界が、どこかで繋がっていて、「自分たちはそれを失った」と実感する。なんとも不思議な感覚です。寺山修司を知らないから……と臆することなかれ、感じることはできるのです。一方で、寺山修司についてよく知る方には舞台上の言葉、肉体、音楽などが幾度となく“刺さる”のだろうとも感じます。つまり、それぞれの感性で味わうことのできる、ルヴォーさんの言葉を借りれば“エンターテインメント作品”として届けられます。それほど遠くない過去と現代、それを寺山修司が繋ぐ『テラヤマキャバレー』はそれぞれの感性で楽しむことができる作品です。
最後に、会見での香取さんの言葉をご紹介いたします。
「日常生活では、上を向いて笑顔でいられる時間ばかりではないと思います。下を向いてしまう時もある。でも劇場に来てこの作品を見ていただけたら、帰る時には、上を向いて、何か自分の中に残った言葉を見つめる時間が訪れると思います。未来の笑顔に向かっていける作品になっていると思います」
◆公演は2月29日まで日生劇場にて、その後3月5日~10日は梅田芸術劇場 メインホールにて上演。生と死が交錯するキャバレーを舞台にした祝祭の音楽劇『テラヤマキャバレー』。
「どんな鳥だって想像力より高く飛ぶことはできないだろう」──寺山修司
この言葉に心惹かれたら、ぜひ劇場へ足をお運びください。
ストーリー
1983年5月3日(火)、寺山修司はまもなくその生涯を終えようとしていた。寺山の脳内では、彼を慕う劇団員がキャバレーに集まっている。寺山が戯曲『手紙』のリハーサルを劇団員と始めたところへ、死が彼のもとにやってきた。死ぬのはまだ早いと、リハーサルを続けようとする寺山。死は彼に日が昇るまでの時間と、過去や未来へと自由に飛べるマッチ3本を与える。その代わりに感動する芝居を見せてくれ、と。
寺山は戯曲を書き続けるが、行き詰まってしまう。そこで、死はマッチを擦るようにすすめた。1本目、飛んだのは過去。近松門左衛門による人形浄瑠璃「曽根崎心中」の稽古場だ。近松の創作を目の当たりにしたことで、寺山の記憶が掻き立てられる。2本目は近未来、2024年のバレンタインデーの歌舞伎町へ。ことばを失くした家出女や黒蝶服、エセ寺山らがたむろするこの界隈。乱闘が始まり、その騒ぎはキャバレーにまで伝播。よりけたたましく、激しく肉体がぶつかり合う。
寺山は知っている。今書いている戯曲が、死を感動させられそうもない、そして自身も満足できないことを。いまわの時まで残りわずか。寺山は書き続けた原稿を捨て、最後のリハーサルへと向かう。
【「質問」配信決定】
香取さんが『テラヤマキャバレー』の中で歌う楽曲「質問」が2月16日(金)より各音楽配信サービスにて配信スタートします!
グローバル化が進む一方で、人々はお互いの多様性を認め合い、共存共栄できるようになるのか、そんなことを憂いた音楽プロデューサーである朝妻一郎さんは、まずは“Keep Asking”=一人一人が問い続けることこそが大切だと考えました。そんな朝妻の想いを受け取った、テレビプロデューサーの黒木彰一さんが3年ほど前に香取さんの所属事務所へ「質問」という楽曲を提案。その後時を経て「質問」の作詞家である寺山修司を舞台で演じることになった香取さんが現代風にカバーし舞台で歌唱、この度配信もスタートすることになったというとてもドラマティックな過程を経て実現したとのこと。
香取さんコメント
「『質問』という曲も、言葉もこの舞台においてとても大切。僕もたくさんの質問を、この舞台からも、それ以外でも、いろんな人に投げかけていきたいと思います。ぜひ聴いてください」
【香取慎吾「質問」リリース情報】
2024年2月16日(金)0:00 配信リリース
配信リンク: https://shingokatori.lnk.to/shitsumon
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人