これまで数々のブレヒト作品を手掛けた白井晃が、
満を持して代表作『セツアンの善人』の演出に挑む
撮影はいずれも山崎伸康
世田谷パブリックシアターでは、10-11月に、芸術監督・白井晃演出による『セツアンの善人』を上演いたします。
『セツアンの善人』は、第二次世界大戦中、ナチスにより市民権を剥奪されたドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトが亡命先で執筆し、1943年にスイスのチューリッヒで初演されました。神様が地上に降りてきて善人を探すという本作は、ブレヒト作品を代表する寓意劇として、今も多くの人々に愛され、世界各地で上演を重ねています。
これまでにもブレヒト作品が持つ社会への批評性にフォーカスし、現代社会を照射する作品づくりを目指してきた白井が、魅力的な総勢17名のキャストを得て、この度、満を持して『セツアンの善人』の演出に挑みます。
演出家・白井晃 コメント
私にとって長年の念願であったブレヒトの名作『セツアンの善人』を、世田谷パブリックシアターで上演できることを大変嬉しく思っています。
本作は、貧困と不正義に満ちた社会で善良であり続けることの難しさを描いた作品です。現代社会にも通じる人間の葛藤や社会の矛盾を描いたブレヒトのメッセージは、今の時代でも強い共鳴を呼び起こす力を持っていると思います。セツアンは架空の都市ではありますが、そこにあるのは、私たちを取り巻く今の世界の宿図に他なりません。「金は本当に人を幸せにするのか」という命題を浮き彫りにし、現代の問題として接続できるような作品にしたいと思います。
葵わかなさん、木村達成さんの清新で豊かな感性と、集結してくださった魅力的な俳優の皆さんの力強い表現力によって、新たな『セツアンの善人』を示してくれると確信しています。私たちがこの作品を通して、現代社会の在り方や自分自身の生き方について考えるきっかけになればと願っています。
◆また今回の上演に際しては、ドイツ文学者の酒寄進一が新訳を手がけ、ミュージカルやストレートプレイまで数々の音楽を作曲し、『ある馬の物語』(23年)でも白井とタッグを組んだ国広和毅が音楽監督を務め、パウル・デッサウの楽曲を基に、歌ありライブ演奏ありの臨場感のあふれる舞台を、強力なスタッフ陣と共に創出してまいります。
葵わかな、木村達成など 若手からベテランまで
総勢17名の個性あふれるキャストが集結
シェン・テとシュイ・タの二役:葵わかな
貧民窟に暮らす心優しき娼婦のシェン・テと、シェン・テの分身である冷酷にビジネスに徹する架空の従兄(いとこ)シュイ・タの二役を演じるのは葵わかな。シリアスからコメディーまで確かな演技力で役の幅を広げてきた彼女が、相反する性質を持ったシェン・テとシュイ・タをどのように演じ分けるのか注目が集まります。
失職中のパイロット、ヤン・スン:木村達成
水売りのワン:渡部豪太
ヤン夫人:七瀬なつみ
未亡人のシン:あめくみちこ
シェン・テが恋に落ちる失職中のパイロット、ヤン・スンには木村達成が扮します。また、神様と交信する水売りのワンには渡部豪太、息子を溺愛するヤン・スンの母親のヤン夫人には七瀬なつみ、シェン・テが買い取ったタバコ屋の元オーナーである未亡人のシンにはあめくみちこ。
大家族の祖父:小林勝也
人間臭い3人の神様:松澤一之
人間臭い3人の神様:小宮孝泰
人間臭い3人の神様:ラサール石井
シェン・テのタバコ屋に居座る大家族の祖父を小林勝也、そして下界で善人探しをする人間臭い3人の神様を、ラサール石井・小宮孝泰・松澤一之が演じます。
このほか、栗田桃子・粟野史浩・枝元萌・斉藤悠・小柳友・大場みなみ・小日向春平・佐々木春香という、若手からベテランまで、信頼できる実力派の総勢17名の個性豊かな出演者が集結し、百年近く前に書かれた本作を現代社会にも深く通ずる普遍的な作品として立ち上げていきます。
歌あり、ライブ演奏あり 音楽劇としての『セツアンの善人』
相反する女性と男性の二役を、葵がどのように演じ分けるのか? 興味はつきませんが、さらなる楽しみは劇中に出てくる数々の楽曲です。ブレヒトの作品には歌がつきものですが、本作にも、ブレヒト自身が委託した音楽家パウル・デッサウによる楽曲が並びます。バイオリン・チェロ・パーカッションによるライブ演奏を交えて、音楽劇としても存分に楽しめる作品になる予定です。葵わかな・木村達成をはじめミュージカルでも活躍するキャスト陣の歌唱も本作の魅力の一つです。見どころ、聞きどころ満載の舞台に、是非ご期待下さい。
あらすじ
善人を探し出すという目的でアジアの都市とおぼしきセツアンの貧民窟に降り立った3人の神様(ラサール石井、小宮孝泰、松澤一之)たちは、水売りのワン(渡部豪太)に一夜の宿を提供してほしいと頼む。家がないワンは街中を走り回って宿の提供者を求めたが、その日暮らしの街の人々は、そんな余裕はないと断る。ようやく部屋を用意したのは、貧しい娼婦シェン・テ(葵わかな)だった。その心根に感動した神様たちは彼女を善人と認め、大金を与えて去っていった。それを元手にシェン・テは娼婦を辞めてタバコ屋を始めるが、店には知人たちが居座り始め、元来お人好しの彼女は彼らの世話までやくことになってしまう。
ある日、シェン・テは偶々通りかかった公園で、首を括ろうとしていたヤン・スン(木村達成)という失業中の元パイロットの青年を救い出すが、彼に一目惚れをしてしまう。その日からシェン・テはヤンが復職できるように奔走し、挙げ句の果てに彼の子どもまで身籠もってしまう。だがその一方で、このまま人助けを続けることは自滅への道だと悟った彼女は、冷酷にビジネスに徹する架空の従兄、シュイ・タ(葵わかな・二役)を作り出し、自らその従兄に変装をして、邪魔者を一掃するという計画を思いつくのだったが……
『セツアンの善人』は、今までの人生の価値観をちょっと見直すきっかけになる、そんな作品になるかもしれませんよ。
この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました