残すところデカローグ7・8(プログラムD/上村聡史さん演出)とデカローグ9・10(プログラムE/小川絵梨子さん演出)となった新国立劇場の『デカローグ』全10篇連続上演! デカローグ9・10の出演者、宮崎秋人さん、竪山隼太さんにお話を伺いました。

竪山隼太さん 宮崎秋人さん
──お二人のこれまでの接点は、宮崎さんがご出演されていた作品に竪山さんがアフタートークゲストとして参加されたということですが、同世代の俳優同士としてどんな印象をもっていましたか。宮崎:いつもいい作品に出ているなーと思って見ていました。
竪山:その言葉、そのままお返しします! それにしてもアフタートークではじめましてってあまりないですよね。
宮崎:共演でもなく、飲み屋さんとかでもなく(笑)。
竪山:不思議な縁を感じています。
──ついに作品でご一緒されます! 9と10、合同で本読みをされたとのことですが稽古場での互いの印象は。竪山:本当に気さく! なれ合いというのとはまた違う、絶妙な距離感での居方が素敵です。
宮崎:本読みの印象では、台本に書かれていることの中でちゃんと遊ぶ、真面目に不真面目なことができる人だと感じました。いろんな作品で求められる俳優ってこうなんだと。
竪山:めっちゃ見られているな(笑)。
宮崎:僕は9メインなので、10はじっくり見ますよね(笑)。
──たしかに! 宮崎さんは9話メインで10話にも、竪山さんは10話にご出演されます。竪山:秋人くんはテイストの違う9と10の重要なところをスポット的に担うからこれは大変だろうなと思うけど、きっとやりがいもあるよね。
宮崎:すごく楽しい。なんて言うか、作品をつまみ食いする感じ(笑)。長編で、ひとつの役をガッツリ追い求める面白さもありますが、ふたつの短編の連続上演で、いくつかの役を演じる。かと言ってひとりで10役とかやるバタバタもなく、一つひとつの役をしっかりと味わえるとても稀有な経験をさせてもらっています。
──映像作品としての「デカローグ」はご覧になりましたか。宮崎:僕はまだ観てないです。過去に同じ作品が上映・上演されている場合、自分がやる前に観る方が良いのかどうか毎回悩んでます。役のイメージに引っ張られすぎて自分が演じる時に制約がかかりそうなので。
竪山:観ない気持ち、分かる! と言いつつ、僕はお話をいただいて“すぐに”10だけ観ました(笑)。すぐに観たのは、早く観て早く忘れたかったから。10を観て、クスッと笑える短編集かと思って1を観たら全然違って。どうやら10が異質なのかも。結局、活字でも映像でも、今、上演されている舞台も観て、それぞれ面白いなと思っています。短い時間の中に人生のいろんなことが詰まっている。
宮崎:そうなんだよね。僕もプログラムA、B、Cと舞台を拝見しましたが、ひとつの作品として結末はあるけれど、どの篇もここからもこの人たちの生活が続いていくんだろうなと感じられるんです。メッセージを届けるとか、変な押し付けがましさがなく、人という存在をいろんな角度から切り取っている連作なのだと思いました。
──ちなみに10篇連続上演、この壮大な企画を知ったときは。宮崎:正直、最初はなにごとか!って思いましたよ (笑)。
竪山:だよね(笑)。3か月に亘る上演、演出が二名体制ということだけでもいったいどういうこと?って。その後、作品ごとに小川(絵梨子)さんと上村(聡史)さんが演出していくことを知って、なるほどと理解しました。
宮崎:そうそう。新国立劇場ならではの面白い企画だと思ったので、そこにお声がけいただいたのは素直に嬉しかったです。そして台本を読む前に、小川さんの演出だというところに惹かれて、即、参加しますと答えました。
──小川さんの作品の印象は。宮崎:僕らが実際に目にするのは小川さんの作品での俳優の演技。そこから感じるのは嘘のない台詞、芝居だということです。作った感情じゃなくて、ちゃんとそこにいる人たちの時間が流れているという印象です。とくに海外戯曲は、日本で暮らす僕らにはなじみのない感覚の台詞や感情の流れもありますが、そこで演じている俳優が発する言葉、固有名詞ですら無理なく受け入れられるのが小川さんの演出のすごさだと思います。これからも続く長い俳優人生、自分の中にそのイズムを取り入れたいという思いがずっとあったので、今回巡ってきたチャンスを嬉しく思っています。
竪山:まったくその通りです。派手な演出で惹きつけるのではなく、人と人とがちゃんと会話をすることがなによりも物語を膨らませるということを観ていても感じますし、一度リーディング公演で演出していただいたときにも実感しました。稽古場の空気作りも、所属していたさいたまネクスト・シアターとはまた違う、みんなで作りましょうというスタイルが嬉しかったんです。
──どんなデカローグ9/10になりそうですか。『デカローグ9』:性的不能と宣告された夫は妻に事実を告げる。夫を励ます妻だが実は妻には既に若い恋人がいた。
『デカローグ10』:父の死により久しぶりに再会した兄弟は、父の遺品によって予期せぬ事件に巻き込まれていく。
宮崎:不倫と聞くと、道徳的にどうなの?と思われる方もいるかもしれませんが、その是非を問うのではないんです。とある状況に置かれたとき、ロマンがどんな行動をとるのか、その可笑しみや悲哀をフラットに味わってもらえればと思います。主人公のロマンを伊達(暁)さんが演じるというのが最大のポイント。僕自身、小川さんがどんなバランスで演出し、物語を組み立てていくのかも楽しみです。
竪山:秋人くんはハンカの不倫相手として登場するのですが、そのマリウシュがまた愛おしいんです。ずっと「ハンカが好き」しか言っていないようなマリウシュなんだけど、彼はただただ真剣に、必死にそう思っているんです。滑稽と言ってしまったらちょっと簡単すぎるような、なんとも言えない愛おしさがあふれるんです。
──ロマンの屈折、複雑さに対して、とても真っ直ぐでシンプルなマリウシュです。宮崎:マリウシュはとにかくハンカが好き! この話の中では拒絶されっぱなしで、ハンカはそもそもマリウシュのなにが良かったのか?と思われるかもしれませんが(笑)、きっと愛し合っていた時期もある。ただ片思いしてつきまとう人ではなく、惹かれ合った二人だという裏付けが滲むような人物にしたいと思っています。
竪山:最初はもっとドロドロしたものを想像していましたが、少し光が差し温かさを感じるようなお話です。それは10も同様です。
──では10に話を移しましょう。こちらは父の死により久しぶりに再会した兄弟のお話です。竪山:最終話は、プラスのエネルギーを感じる話。父親が遺した切手に価値があることを知った兄弟の愚直さが滑稽で笑えるのですが、そこに思いを受け継ぐとか人を信じるとか、人間の素敵なところが見えてくる。僕は弟のアルトゥルを演じますが、お兄ちゃん役の(石母田)史朗さんと、まずは兄弟の関係をしっかりと作っていこうと話しています。そこに次々と現れる人物たちがどう関わり、僕らがどう変化していくかが見どころになりますが、対峙する俳優さんたちが素晴らしい方々なので、稽古場では伊達さんだ!次は秋人くんだ!と、次々に芝居の猛者たちと戦うような感覚です(笑)。
──『デカローグ8』で大滝 寛さんが演じる切手コレクターが兄弟の父親です。8も気になるところですね。竪山:観たほうがいいのか観ないほうがいいのか、これは史朗さんとも相談しようと思っています。長く疎遠になっていた父なので、あまり知らない方がいいような気もするんです。ただ、プロデューサーから伝え聞いたところでは、お父さんも欲しかった切手を手に入れたときの様子は、すごく楽しそうにしていて、僕ら兄弟と通じるところがあるそうです。
──観客は続けて観ると「やっぱり親子ね」なんて思うのかもしれません。竪山:そうやって物語を見る角度によって、8からの流れを受けつつ10になるとか、本当に巧みだし面白いですよね。1と3を観たときも、1で息子を亡くした父・クシシュトフ(ノゾエ征爾さん)が3の冒頭にも登場し、クリスマスではしゃぐほかの家庭の子どもたちを見つめる姿に“ずーん”とくるものありました。そういう感情や愛おしさなどが蓄積した最後のプログラムという重みも感じます。
── 9が「ある孤独に関する物語」で10が「ある希望に関する物語」、このサブタイトルについてはどう思いますか。※補足:ポーランドや英語圏では「デカローグ1」というようにナンバリングだけで、日本で公開する際につけられたのがこのサブタイトルとのこと。宮崎:正直、なにが孤独なのか、まだ自分では見つけられていません。妻が浮気しているから孤独だとも言えますが、それだけはちょっと表層的な気がして。決して孤独を孤独のままにして終わる物語ではないので、「孤独」というのはちょっと意外なワード。そう名付けた意味が、稽古していく中で見つかるといいな。
竪山:僕も最初に映画を観たときは「希望」?となりました。でも、1から順に追っていくと、やっぱりそうなのかなという気も。受け継ぐとか夢とか信じるとか、言葉にしたらちょっと気恥ずかしいようなことを、「希望に関する物語」とするところがいいなと思っています。あと、10のラストシーンはキェシロフスキ監督の最初の原作シナリオと、そして撮影現場できっと変わっていったんだろうなという映像版シナリオなどでいくつかのバージョンがあるのですが、今回はいい塩梅でミックスされています。僕は今回のラストがすごく好きです。最終的にどうなるのかはわかりませんが、ご期待ください。
宮崎:うん、すごくいい後味だよね。
──最後に、ここからお稽古を重ね、どんな初日を迎えたいと思いますか。宮崎:このプログラムEが『デカローグ』の最後になるので、それにふさわしい満足度の高い作品にしなければと思っています。でも、そういった相対的な位置づけとは別に、僕らにできる絶対的なことは、この作品とひたすらに向き合うことだけ。ちゃんとお客様が楽しめる、力強い作品にしたいと思います。
竪山:そうだね。1からの流れ、積み重ねられたものを心地よく背負って10に臨む。でも、気負い過ぎることなく、ただただアルトゥルの人生を生きる! あとは小川さんの演出に委ね、僕らは役を全うするのみです!
──ありがとうございました!◆『デカローグ9・10』についてのお話を伺うということは、それすなわち、4月に始まった『デカローグ』もついにゴールが近いということ。そう思うとさみしさも感じますが、まだ7~10観劇の楽しみがある!と前向きになれるお二人のお話でした。最終シーズンは6月22日~7月15日! 声を大にして
「お見逃しなく!」です。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人