新国立劇場『新版・NINJA』森山開次さん、美木マサオさん対談



6月28日に新国立劇場・中劇場にて開幕する森山開次『新版・NINJA』。本作は、大人も子どもも楽しめるダンス作品の第二弾として2019年に新国立劇場・小劇場ほかで上演された『NINJA』を中劇場での上演に合わせてスケールアップさせた『新版・NINJA』(2022年)の再演です。演出・振付・アート・ディレクションを務める森山開次さん、初演よりご出演され、森山さんの創作もサポートする美木マサオさんにお話を伺いました。


【『NINJA』誕生ストーリー】



森山開次 『NINJA』初演より
©Takashi Shikama



美木マサオ 『NINJA』初演より
©Takashi Shikama


──まずは『NINJA』初演を振り返り、誕生までの取り組みをお聞かせください。

森山:新国立劇場では2015年に「大人も子どもも楽しめるダンス作品」として『サーカス』という演目を上演しました。子どもだけに向けた作品ではないのですが、子どもの視点や客席にいる子どもの存在も意識した現代舞踊のクリエーションから新たな気づきや手応え、意義を感じました。そして第2弾の題材を劇場のみなさんと話し合う中で「“忍者”はどうですか」という提案がありました。なぜか僕の中にも不思議とそんな予感があり、「忍者、きたな!」と思ったことが印象に残っています。

物影にひっそりと潜む“忍者”への憧れは、表舞台で脚光を浴びるヒーローとはまたちがうものがあり、そこに日本の文化も反映できる。舞台上での忍びの表現にも興味がありました。僕自身、子どものころに忍者ごっこをしていましたし、今も忍者っぽいと言われます。それは稽古着のせいかもしれないけど(笑)。

美木:最初にタイトル『NINJA』と聞いたときは、ド直球だなと思いました(笑)。でも、コンテンポラリーダンスに難しさを感じる方もいる中で、“忍者”というモチーフは子どもにも大人にも親しみやすい。また、これまでにも漫画やドラマ、映画、もちろん舞台でもいろんな描かれ方をされているので、開次さんが“忍者”をどう解釈し、どの要素をピックアップするのか“開次さんの忍者”にも興味を持ちました。

──美木さんはキャストでもありますが、それだけではなく……。

美木:開次さんが振り付けたシーンに対して、こう見えます、こうしたらどうですかと提案をするなど、どちらかというと演出面での補佐もしています。

森山:振付助手、演出助手、役割に名前を付けるといろいろとありますが、僕の感覚では、マサオくんは創作過程での信頼できるしゃべり相手というのが一番しっくりきます(笑)。想像を巡らせていて整理がつかないことをマサオくんにしゃべって意見をもらうことで、整理していく。僕がなるべく自由に発想できるように、現場をまとめたり進行を管理したりという面でもすごく頼りにしています。僕がそこもしっかりできるといいのだけど。

美木:開次さんはしっかりされているんです。でも、創作にはしっかりしないときも必要。

森山:みんなの空気もほどほどに察しながら(笑)、子どものように夢を描き、創作に集中できる環境に感謝しています。

──構想から作品へ。どのように作品が立ち上がっていったのでしょうか。

森山:タイトルを決めてからは、まず忍者という言葉から思い浮かぶものをスケッチしていきました。創作過程は、無数に描き出す中で天狗や蛙などのキャラクターをコラージュしていく感覚です。最初からストーリーを戯曲的に作ってしまうとそこに縛られそうなので、稽古場でワークショップを重ね、それぞれのピースを出したり引っ込めたりしながら、組み合わせていく。観た人がそれぞれストーリーを紡いでいく余地を残す作品にしています。

美木:最初は、忍者だから手裏剣、忍者だから蛙、忍者だから忍ぶというように開次さんからいくつもの矢印が出ていて、それがスケッチに落とし込まれ、方向性が見えてきたところでお話を聞いて、こことここを繋いだら面白くないですか?と“おしゃべり”しながらシーンが創られていきました。



公演チラシに描かれているのが森山さんのスケッチ
このNINJAの世界が舞台上に立ち上がります!

──そうして誕生した『NINJA』、再演では小劇場から中劇場にスケールアップしました!



『新版・NINJA』より
©Takashi Shikama



『新版・NINJA』より
©Takashi Shikama


森山:まず再演の機会自体が貴重でありがたいことでした。時が経てば変わるものもある。作品も、僕自身そうありたいと思っています。中劇場では、奥行きを活かし、いろんな命が潜む森や山の奥をイメージし、さらに張り出し舞台にすることで、足を一歩踏み入れやすくなる空間づくりができました。面白いことにステージから見た客席もどこか森のようでした。

そこから感じたのは、劇場に足を運んでくれたお客様にちょっと違う世界を覗いてもらいたい、現実世界と異界の境界線、それこそ“神隠し”にあうようなギリギリの怖さをまたいでもらいたいという思いが自分の中にあるということです。

──“境界線”への思いについては、記事後半(【「どろん」と唱えると】)で深掘りいたします!


【ダンスと言葉】



森山開次 『新版・NINJA』より
©Takashi Shikama


──開次さんのダンサーとしてのカッコよさは。

美木:難しいです(笑)。すべてカッコいいから。

森山:緊張するな(笑)。

美木:創作過程で悶々としていたり、作品を監督、振付する立場で責任を負って進めていても、舞台上ではそこは関係なくしっかり爆発するところですね。そこでちゃんとダンサーとして生きているんです。

森山:ダンサーの本能なんでしょうね。舞台上ではダンサーとして楽しみたいし、演出家として舞台に立ちたくない。それまでの思考は捨て、ただ身体を捧げる。ひたすら生きる喜びを表現するためにそこに居ます。

──では、美木さんはどんなダンサーですか。



美木マサオ 『NINJA』初演より
©Takashi Shikama


森山:形容しがたい存在です(笑)。ダンサーであり、演出家でもある。実際に演出、演出助手、振付、俳優もされているマサオくんは、僕の感覚的には身体ダンスもやるけど言葉も使う人。だから芝居、ダンスの両面から話ができるんです。キャストとしては今回、言葉を操る役回りをマサオくんに一任しています。すごく良い声なんですよ。前に観に来てくださった方から「伝統芸能の人かと思った」と言われるほど。

美木:恐れ多いです(笑)。

森山:でも、僕もマサオくんの第一印象は声なんだよね。笑い声! そして人を仕切るときは普段とまた違うとても高いトーンで号令をかけるでしょう。今回の台詞でも「お殿様のおな~り~」がすごいハイトーンで、思わず「あれって裏声なの?」と訊いてしまったくらいです。そこに僕が低い声で「よ~っ!」と合いの手を入れて遊んでいます(笑)。

──美木さんの美声の秘密は。声の強さを持ちつつ、一般的に声を用いないダンスの道でのご活躍をされているというのも面白いです。

美木:俳優からキャリアをスタートさせたことも関係しているかもしれませんが、子どもの頃から声は大きかったです(笑)。そこからダンスに出会い、コンテンポラリーダンスの世界に足を踏み入れて今に至るのですが、やっぱり演劇やミュージカルも好き。ミュージカルの振付もしています。そこも開次さんと重なる部分かもしれません。

森山:そうだね。僕もミュージカル出身でダンスと出会い、言葉からちょっと離れて言葉のない表現を追求してきたので。でも、やっぱり言葉の魅力も気になる、それが最近、表現にも表れています。言ってしまうと、まあまあ言葉を使うんです(笑)。

先ほど、スケッチから舞台を立ち上げるというお話をしましたが、同時に行っているのが言葉遊びです。「にんじゃ、にんにん」「ひっそり、こっそり」そんな言葉を発しながら絵を描いていました。忍者が唱える言葉やそこから発想したことを集めて音楽担当の川瀬浩介さんにメールで送ると、川瀬さんがそれを取り入れつつ独自の感性で楽曲に反映してくれます。


【「どろん」と唱えると】


──美木さんのお役は?

森山:マサオくんの役は、僕の中では語り部のように存在する「爺(じい)」。舞台には野山の動植物たちだけでなく、いろんなものがいろんな忍び方で潜んでいる。その一人、気づくとそこに語り部がいることで、作品を届けやすくなる。それだけでなく、ほかのキャラクターが存在できるように黒衣というか後見的な役割もほかのキャストとともに担ってもらいます。

“居るのに居ない存在”の黒衣や後見、文楽の人形遣いのように裏と表の中間に存在する身体に僕はとても興味があり、そこも担ってもらおうと。

美木:その間(はざま)に居るというが、僕もすごく好きです。開次さんの作品の中では、そのダンサーが生きている存在なのか、死んでいる存在なのか。境界があいまいになる瞬間がたびたび訪れます。居るけど居ない、その役割にやりがいを感じ、楽しんでいます。

森山:生と死の狭間の存在の不確かさ──それを身体表現で追い求めることもありますが、『NINJA』では、「どろん」と言ったら居ませんと、存在と不在をチープな手法で表現する。ある種、忍者ごっこ的な感覚です。

──そのあたりも大人も子どももという視点が活かされているようです。「死」を描くことに対して、子どもには難しいもの、触れてはいけないものという感覚の親御さんもいらっしゃるかもしれません。

美木:「どろん」という表現によって、あえて茶番にすることで子どもにも違和感なく伝わると思います。

森山:言葉のポップさとともに、深いことを超ドライでポップに伝えてくれる川瀬さんの音楽とムーチョ村松さんの映像も本作の強みです。「これは絵ですよ、演劇ですよ」と届けられる。それは伝統芸能の、リアリズムよりひとつの型にはめて届けるという打ち出し方に通じるものがあります。だから伝統芸能も僕から見ると超ポップ。舞台上ではごっこ遊びのようにユーモラスなシーン展開の後に、戦いや死など忍者にまつわるシリアスな部分も描いていますが、彼らの映像と音楽があることで舞台作品として届けられる。舞台上で悲劇も観ている子供たちを、最終的にはポップな演出で現世に引き戻す。見せ物としてのギリギリの駆け引きの塩梅が、僕らの勝負所。芸能とはそういうものだと思っています。



『新版・NINJA』より
©Takashi Shikama


──「どろん」や黒衣、人形遣いなど舞台表現と観客の暗黙の了解。これは伝統芸能のみならず、森山さんがカオナシ役でご出演されていた舞台『千と千尋の神隠し』でもパペットを操ることでキャラクターを表現しています。それでも観客はキャラクターそのものとして認識しています。

森山:そこに人がいてやっていることはわかっていながら想像力でお客様と一緒に創っていく楽しさがそこにある。“千と千尋~”なら、ハクの龍を動かしている人たち、言い換えればそこに命を吹き込む人たちの姿が見えるからこそ、より一層躍動感や迫力が伝わる。それは祭で神輿を担ぐ人たちの姿と重なります。古来より芸能と祭事の結びつきは強く、それが日本の文化として僕らに根付いているから、暗黙の了解が成立するのだと思います。

──“大人も子どもも”の言葉の通り、たくさんの人に響く作品になりそうです。



『新版・NINJA』より
©Takashi Shikama



『新版・NINJA』より
©Takashi Shikama


森山:ここまでお話してきたことに加え、もう一つ大切にしているのがキャストとの出会いです。忍者だけに、いろんな技を持ったダンサーたちが集まっています。新しいキャストも多いですし、続投のキャストもこの2年で培ったものを持ちこんでくれるでしょう。僕がなにかを変えようとすること以上に、そんなキャストが作品を新しくしてくれると信じているので、今回も『“新版”・NINJA』になると自信を持って言えます。劇場でお待ちしています。




舞台の隅々まで工夫が凝らされた作品。お客さまそれぞれの視点で楽しめる『新版・NINJA』は6月28日~30日に新国立劇場・中劇場にて上演の後、7月6日(土)に兵庫県立芸術文化センター(兵庫県)にて、7月14日(日) に長岡市立劇場(新潟県)にて上演されます。ひっそり、こっそり、躍動する忍者をお見逃しなく! 一緒にワクワクしましょう。



森山開次 『新版・NINJA』より
©Takashi Shikama




【公演情報】
森山開次『新版・NINJA』
2024年6月28日(金)~6月30日(日)@新国立劇場 中劇場
予定上演時間:約1時間50分(休憩含む)

演出・振付・アート・ディレクション:森山開次
音楽:川瀬浩介
照明:櫛田晃代
映像:ムーチョ村松、Thomas PAYETTE
衣裳:武田久美子
音響:黒野 尚

【出演】
森山開次 青木 泉 浅沼 圭 佐藤洋介 根岸澄宜 府川萌南(新国立劇場バレエ研修所)
美木マサオ 水島晃太郎 南 帆乃佳 吉﨑裕哉

公演HP:https://www.nntt.jac.go.jp/dance/ninja/

写真提供:新国立劇場
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人

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