今年3月に行われたソロコンサート「佐藤隆紀 オーケストラコンサート」の大盛況を受けて、10月にアンコール公演が決定! LE VELVETSでの活動、ミュージカル作品への出演など、その歌声とお芝居で観客を魅了し続けるシュガーさん(佐藤さんの愛称)にたっぷりとお話を伺いました。本記事では親しみを込めてシュガーさんとお呼びさせていただきます。
──まずは3月に開催された初めてのソロコンサート開催までのお話をお聞かせください。ずっとソロコンサートを開催したいと思ってはいたのですが、グループ活動に加えてミュージカルへも出演するようになり、時間的にも気持ち的にもなかなか具体的に動き出せてはいなかったんです。そんな中で、「オーケストラコンサート」の企画をご提案いただき──と言っても、これまでスケジュールの関係で何度かお断りしていたんです。それでもありがたいことに根気よく声をかけていただき、ついに実現したのが前回のコンサートでした!
──オーケストラとの共演は緊張されるものでしょうか。若い頃は、オーケストラのみなさんと合わせるとなると、勝手にどこか実力を試されているんじゃないかという感じがして構えてしまっていたんです。心配で声が出なくなるくらい(笑)。でも、LE VELVETSでもオーケストラとの共演を重ねる中で、オーケストラは仲間なんだということを実感できるようになって、徐々に楽しめるようになりました。冷静に考えれば当然のことなんですけど(笑)。でも今回はソロコンサートなので1対オーケストラだったので、予想以上に大編成のオーケストラのみなさんを前に、リハーサルでは動揺をさとられないように歌ったことはココだけの話です(笑)。
──ミュージカル、スタンダード、クラシックとシュガーさんらしさが凝縮された多彩なセットリストの楽曲の中には初披露のものもありました。お客様の前で初めて歌ったのは、「昴」や「Bésame Mucho」、「Granada」、「フレンド・ライク・ミー」もそうでしたね。準備の段階から本当に楽しくて! 大変だったことは、たくさんの候補から楽曲を絞ることくらいかな(笑)。選曲では、お客様に飽きずに聞いてもらえるようにということを一番意識しました。
──そうして迎えた初めてのソロコンサート本番!
前回公演より
本当にしあわせでした。当日、ステージ上で「みなさんを “甘党”と呼ばせてください」と宣言したのですが、その後、たくさんの方に「甘党です」と言ってもらえるようになって! みなさんとの心の距離がぐっと縮まった感じがして嬉しいです。
──コンサートで得たもの、思い出は。「Bésame Mucho」はリハーサルの音源を聞き直したときに、オーケストラとのバランスで自分が“歌い過ぎている”かなと感じたので、本番ではもうちょっと抑えて歌うことにトライしました。正直なところ、そうすると高音が出にくくなるかなという不安も少しあったのですが、実際にはオーケストラの音に押し上げてもらって、力ではなく、もっと繊細なところで高音が出せるという発見がありました。楽に歌うというと手抜きのように聞こえるかもしれませんが、とても大事なこと。ビッグナンバー揃いのセットリストを歌い切るという意味でも大きな学びでした! ソロコンサートのリハーサル、本番を通して、僕自身、得るものが多かったですね。
それとは別に思い出に残ったのは「昴」です。MCでは父の十八番だと紹介したのですが、あの日、客席にいた父からコンサート終了後に「1,2回歌ったのをたまたま聞いただけだ」と言われて。その2回が強烈に記憶に残っていたんでしょうね。ちなみにその時は「あんまり上手じゃないなぁ」と思って聞いていました(笑)。ラーメンを作るのはとても上手なんですよ! 「昴」は父の十八番ではございませんでした!ちゃんと訂正しておきます(笑)。
──こうしてお話を伺っていると、初めてのソロコンサートでもとても冷静に客観視されていた様子が伝わります。自分が!というよりお客様に楽しんでほしい、感動してほしいと思ってやっていました。これってすごく当たり前に聞こえるかもしれませんが、歌手って意外とエゴが出てしまうもので(笑)。自分はこう歌うんだ、上手く歌うんだって気持ちが前面に出てしまいがち。でも、人の心を動かすのはそこじゃなくて、誤解を恐れずに言うと、たとえ少しピッチが乱れても、魂をこめて歌っていれば、その姿が感動させる。もちろん技術も必要ですよ。でも楽曲の背景を理解し、自分の中でもストーリーを思い描いて表現することで生まれるものもある。そうやって楽曲に向き合っていくと、どの曲も奥深く、それを突き詰めていく過程も楽しいんです。またあの楽しい作業があると思うと今からワクワクしてきます。
──そのコンサートが大盛況で、今回のアンコール公演が決まりました。決まったときの心境は。めちゃくちゃ嬉しかったです! アンコール公演なのでセットリストについては、基本的には前回と同じで、よりブラッシュアップしてお届けしたいと思います。変わるところと言えば、前回ゲストの阿佐ヶ谷姉妹さんがスケジュールの都合でご出演いただけないのが残念ですが、今回も素敵なゲスト、野口五郎さんをお迎えします。五郎さんとの出会いはある音楽イベント、高音のロングトーンが本当に素晴らしかったんです。普段はそういった場で積極的に話しかけるタイプではないんですが、あまりの素晴らしさに大先輩にも関わらず思わず僕のほうから「どうやってあの声を出していらっしゃるんですか」と話しかけたんです。
すると五郎さんは「わかってくれる?嬉しいなぁ!あれは力を抜いて歌ってるんだよ。」と! まさに力を抜くことの大切さを知ったところだったので、そこから発声の話で盛り上がりました。「徹子の部屋」も観てくださっていて、「G(ソ)の音のロングトーンが素晴らしかったね」と、僕はそこまで聴いていてくださっていたことに感動しちゃいました。僕が『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャン役を演じていることも知ってくださっていて、五郎さんが初代マリウス役をされていたころのお稽古のエピソードなど、貴重なお話も聞かせてもらいました。そんな大好きな大先輩とご一緒できたらと、今回お声がけさせていただきましたが、五郎さんは本当にご多忙。はじめはちょっと難しいかもというということだったのですが、「佐藤くんのコンサートなら!」と調整してくださって、ゲスト出演していただけることになりました。本当にありがたいことです。二人にゆかりのある曲をデュエットする予定ですので、みなさんお楽しみに!
──今回は柴田真郁さんの指揮、前回に引き続き東京交響楽団の演奏です。柴田さんは国立音大の先輩で、これまでにもLE VELVETSのコンサートでも指揮をしていただいています。前回の栗田博文さんもそうですが、柴田さんも歌い手に寄り添ってくださる指揮者さんなので心強いです。
──さきほどブラッシュアップという言葉が出ましたが、ご自身の歌唱について目指すところは。技術的なところでは、ミックスボイスを磨きたいですね。実声の強い声は得意なのですが、柔らかい高音の出し方をより深く理解したいと思っています。あと、これまであまりトライしてこなかったところではフェイクです。ミュージカルコンサートなどで、新妻聖子さんとご一緒したときシンプルにカッコイイと思って(笑)。あの世界観が出せたらなぁと、目指すというか憧れですね。
ただ、最終的にはみなさんの心に響く歌を歌うことが目標です。この間、「プロフェッショナル 仕事の流儀」の靴修理職人 村上塁さんの回を見たのですが、そこで「技術はたくさんある。でも出来上がった靴を見て、お客様が笑顔になるかならないかがすべてだ。お客さんが笑顔にならなかったら技術がひとつもないのと一緒なんだ」とお話されていて、その言葉を聞いて、ポロっと涙がこぼれたんです。歌もそうだなと。どんなに高度なテクニックを駆使して歌っても、お客様の心に届かなきゃ意味がない。プロとしてはそこを目指したいです。今思い出しても、グッとくる言葉です。
──ここで改めてグループ活動と俳優としての活動を両輪に、今年16年目を迎えるシュガーさんの進化し続ける歌声の変遷をお聞かせいただけますか。学生時代からは本当に変わりましたね。LE VELVETSの仲間たちと切磋琢磨してきたことで、最初は裏声でしか歌えなかった音域が実声でも出せるようになったし、ミュージカルでさらに変わりました。歌の表現について新たな気づきをくれたのもミュージカルです。それまではメチャクチャ技術人間だったんですよ(笑)。グループ活動でも、一時、テクニックに走りすぎて壁にぶつかって、テクニックを一度手放して気持ちよく思いっきり歌ったらお客様の反応がすごくよかったんです。その経験の上で、テクニックではないところの歌の表現、良い声だけではなく、良い芝居を届けることをより深く考えるようになったのがミュージカルです。ミュージカル『エリザベート』の稽古場で城田優くんと山崎育三郎くんに言われた「なんでそんなに大きな声で歌っているの?」は衝撃でした。目の前に大切な人がいるのに、そんなに大きな声で「エリ~ザベ~ト」って歌い上げるの?って。それが最初の気づき、そこから歌の捉え方が変わっていきました。
──多ジャンルの楽曲で構成されたコンサートで歌い方を変えることは。発声も全然違ってきますよね。ポップスではモノマネにはならないように、詞の世界、情景を思い浮かべて“言葉をしっかりと届ける”ことを意識しています。あんまり感情移入せずに歌うことで、お客様それぞれの楽曲の世界を感じてもらえたら嬉しいです。
ミュージカルナンバーでは、その役としての感情を乗せて歌います。曲が盛り上がるにつれて声を響かせていく技術は使いつつ「良い声で」という誘惑をはねのけて(笑)、役として歌っています。逆にオペラでは、きちんとテクニックを使って、響かせるところに常に入れるようにキープして歌うようにしています。
でも、お客様はリラックスしていろんなジャンルの楽曲を楽しんでください。いろんな歌い方をしているなと、うっすら気づいてもらえると嬉しいですが(笑)。
──かつてのご自身や歌を学ぶ若者たちへ声をかけるとしたら。僕も昔は尖っていたんですよ(笑)。「感動?」、「みんな褒められるために歌っているんじゃないの?」と思っていた時期もあって。そこからLE VELVETSの活動やいつも温かく見守ってくれるファンのみなさんの存在、ミュージカルで出会ったカンパニーでの創作、ひとつひとつの経験が僕を成長させてくれました。感謝の心も自然にわいてきて、ここまでお話してきた「みなさんを感動させたい」というところへ気持ちがシフトしていきました。
その中で、ずっと変わらないのは「歌を楽しんできた」ということです。
若いうちは名声を求めても、野心を抱いてもいいんです。でも、歌を楽しむ、歌が好きだという思いだけは決して忘れずに、歌に真摯に向き合う。そうすれば困難なことがあっても、周りは助けてくれるし道は開ける!
──では、シュガーさんが思う歌の楽しさとは。歌って、ちょっと意識を変えただけで本当に変わるんです。“ただの歌”にもなれば、お客さんの“心を動かす歌”にもなる。それを探求し続けるのも楽しいですし、なにより歌で甘党のみなさんと繋がった瞬間には最高のしあわせを感じます。コンサートで、あの一体感をまた味わえると思うと楽しみで仕方がないです。
──では最後にひと言!佐藤隆紀の歌を聴きたいなと思ってくださる甘党のみなさん、10月5日は 東京オペラシティ コンサートホールに大集合だよ!
──心地よい空間、時間を共有するのが楽しみです!甘党、どんどん増えそうですね。
表現者としての哲学から、これまでの歩み、硬派なお話に感動していたら、まさかの「大集合だよ」の締め! このギャップもシュガーさんの魅力ですね。コンサート、舞台、これからの活躍もますます楽しみになるステキなお話をありがとうございました。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人