※本インタビューは7月3日に取材しましたが、その後、米沢唯さんが体調不良のため降板し、代わって廣川みくりさんが出演することが決定いたしました。◆7月27日に世界初演の幕を開ける新国立劇場バレエ団こどものためのバレエ劇場2024『人魚姫~ある少女の物語~』。本作はアンデルセン童話の「人魚姫」をモチーフにした新作バレエで、2022年まで新国立劇場に22年間ダンサーとして在籍した貝川鐵夫さんが振付を手掛けることでも話題です。人間の世界に憧れた人魚姫が海の外で出会うのは、恋の喜び、悲しみ、そして……この世の不条理に触れた人魚姫の切ないラブストーリー。人魚姫役の米沢唯さん、王子役の速水渉悟さん、深海の女王役の奥村康祐さんによる見どころ解説をお届けします。
(それぞれトリプルキャストで、人魚姫役はほかに木村優里さん、柴山紗帆さん、王子役は渡邊峻郁さん、中島瑞生さん、深海の女王は井澤 駿さん、仲村 啓さんがキャスティングされています)
あらすじ(HPより)
ある嵐の夜、人魚姫は海で溺れていた若い王子の命を助けます。 王子のことが忘れられない人魚姫は、彼にもう一度会うため、深い海を支配する女王にお願いし、声と引き換えに人間になれる魔法をかけてもらいました。 回復した王子のもとに、人間となった人魚姫が現れます。二人は一緒に楽しい時を過ごし、王子には恋心がめばえました。しかし王子には既に決められた婚約者がいたのです...。
【キャラクター紹介】
<人魚姫>米沢:好奇心旺盛で元気いっぱいな女の子という人物像に加えて、海の世界でも、陸に上がってもどこか馴染めない、そこにある種の繊細さも見えてきています。貝川さんはこの作品を通して生まれてくるものを大切にされているので、リハーサルでは貝川さんの中にある像を具現化するというより、みんなで人魚姫という一人の少女(の人物像)を作っている感覚です。人魚姫役の3人で踊って感じたこと、(互いの踊りを)見て感じたことなどをたくさん話し合っています。
<王子>速水:キャラクターとしてはとても若い王子で、周りにいる貴族たちともどちらかと言うと友達のように接して欲しいと説明を受けました。それを王子像の出発点にしています。王子は海で人魚姫に助けられた後、生きていることの喜びを表現するソロの踊りで登場します。すっかり回復して元気いっぱいなので、いきなり大きなジャンプから始まります。生死をさまよった経験をしたことで、空の青さ、鳥の羽ばたき、海の煌めきなど、地上の様々なことがかけがえのないものだと感じています。
そこで人間の姿になった人魚姫と出会い心は惹かれるけれど、王子の政治的、社会的な立場から既に決まっている婚約を反故にはできない。心は揺れても、一個人の感情で動けない、選べない。そこでの演技は唯さんはじめみなさんと相談しながら作っています。
<深海の女王>
宇賀大将さん、奥村康祐さん、小野寺雄さん
奥村:深海の女王はタコという設定です。タコで魔女で女王という、美しさと不気味さを兼ね備えたキャラクターということで、男性ダンサーがキャスティングされているのだと思います。自分のことが大好きで、周りにちやほやされたいタイプの女王です。女王は物語の中では“悪役”と捉えられがちですが、そうではなく、コミカルさとともに人魚姫に寄り添うような役でもあります。海の世界の生き物として、人間界のことはあまり好きではない。だからこそ仲間の人魚姫を陸に上げたくないし、海に帰ってきてほしいと思う。もしかしたらとても長く生きているのかもしれませんが、美しい。いわゆる美魔女のイメージです。慣れないトゥシューズを履く予定なので、そこも頑張らないと!素敵な脚があしらわれた衣裳もお楽しみに!
【人魚姫と王子、2つのパ・ド・ドゥ】

速水渉悟さん、米沢 唯さん
速水:ひとつ目は1幕の人間の姿になった人魚姫と王子が出会う場面。一命をとりとめた王子は、周りがついていけないくらい元気いっぱい。婚約者が少し休みたいと去り、一人になった王子の前に人魚姫が現れて……。
米沢:人魚姫のほうは、恋焦がれた人との再会。二人は正対するのですが、しばらく見つめ合って互いに静止しているんです。その“しばらく”が永遠に感じるくらい。そこで心の動きを表現することが求められるのですが、難しい。

速水渉悟さん
速水:王子は、海で助けられたときは気を失っていたので、人魚姫が助けてくれた張本人だということは覚えていません。でも、出会った瞬間に「どこかで会ったことがあるような」という思いもよぎる。そして、「素敵な人だな、一緒に踊りましょう」と誘います。

米沢 唯さん
米沢:もうひとつはラストシーン。「NBJ Choreographic Group」で貝川さんが作った『人魚姫』のパ・ド・ドゥが基となり誕生した、今回の全二幕の『人魚姫』ですが、そのきっかけとなったパ・ド・ドゥです。こちらは最後、人魚姫が海の泡となって消えていくときに記憶の中の王子と踊るという場面になります。
速水:「タイスの瞑想曲」に乗せて踊ります。役としてもそれまでの元気いっぱいな王子とは違う、人魚姫のしあわせな記憶の中の理想の王子として踊ります。本当に走馬灯のように楽しかった思い出がよみがえるような美しいパ・ド・ドゥです。
※NBJ Choreographic Group:新国立劇場の振付家育成プロジェクト
プロトタイプの試着の様子

プロトタイプの試着の様子
【“こどものためのバレエ劇場”への意気込み&メッセージ】
米沢:私は、子どもは小さな大人だと思っているので、“子どものため”ということを私自身はあまり気にしていません。ただ、子どもたちの方が前情報なしで観る分、厳しいお客様かもしれませんね。この物語の終わり方をどう受け止めるかは、お客様それぞれに委ねたいと思っていますが、私たちはある程度ロジカルに組み立てて、そこに感情を重ねていくことが大事。嘘のない心で物語の中に存在し、言葉で明確に言い表せないまでも、なにかしっかりとした形でお客様に物語を届けたいと思っています。
速水:チケット代やコンパクトな上演時間など少し敷居が低くなっていることもあり、子どもたちに限らず、この機会にはじめてバレエをご覧になるというお客様もいらっしゃると思います。新しいお客様に、次は他の作品も観たいと思っていただけるようにしっかりと作品を届けたいという意識は持っています。今日、別のキャストの通し稽古を見ました。まだ創作過程ではありますが、そこで感じたものと僕たちが作っているものの雰囲気が違いました。リハーサルも一緒にしていますし基本的には同じなのですが、ステップもキャストによって多少変わったり、感情表現もそれぞれのアプローチの仕方によって印象が違ったり、本当に三者(組)三様の『人魚姫』になると感じました。いろんなキャストを見ていただきたいです!
奥村:子どもたちはピュアで正直なので、ある意味、厳しい目で見られているという意識は僕もあります。だからこそ伝えるべきものをはっきりとしっかりと渡すことを心掛けています。あとは、客席に子どもたちがたくさんいてくれるとダンサーとしてしあわせな気持ちになるんです。自分の子どもの頃を思い出すのかな。だからこの時間を楽しんでくれたらいいなという思いが強くなります。暑い夏、海の世界を楽しんでください。ちょっと涼しい気持ちになれるかも! 劇場でお待ちしています。
【実は……】

奥村康祐さん、貝川鐵夫さん(振付)
奥村:『シンデレラ』で義理の姉役を踊ったときに貝川さんから「『人魚姫』の魔女役をお願いしたいと思っている」と、確か本番中に舞台袖で言われました。もしかしたら、僕が姉役を踊っているのをみて、貝川さんが想像する深海の女王役に似合うと思ってくださったのかもしれません。
歌舞伎の女方や宝塚の男役で、男性が演じる女性、女性が演じる男性ならではの良さがあるように、少しデフォルメした表現で女王を演じることを楽しんでいます。お付きの深海魚たちを引き連れて踊る場面も面白くなると思います。そしてそこに人魚姫が「人間の王子に会いたいから声と引き換えに人間にしてください」とやってくる。人魚姫が魔法で人間になるところもコミカルで楽しんでいただけると思います。
◆開幕は7月27日、ドビュッシー、マスネ、ヴェルディ、ロッシーニなど十九世紀の音楽に乗せて、海は地中海、街の情景は貝川さんが留学されていたモナコをイメージした美術の中で繰り広げられる『人魚姫』の物語。美しく切ない人魚姫と王子のパ・ド・ドゥ、愛されキャラの香りが漂う深海の女王と手下たちの群舞など一流ダンサーによるクラシック・バレエの醍醐味も味わえる素敵な時間になることでしょう。
また『人魚姫』公演期間には──
「リカちゃん」×新国立劇場バレエ団 特別展示やこどもバックステージツアー(事前申し込み・抽選制)などイベントも開催!詳細は
こちらから!
写真提供:新国立劇場バレエ団
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人