2012年に舞台作品として演劇集団キャラメルボックスが初演した人気作が初めてミュージカル化! それが現在、サンシャイン劇場にて上演中の『無伴奏ソナタ-The Musical-』です。アメリカの作家、オースン・スコット・カードの短編小説を原作に、すべての人間の職業が幼児期のテストで決定される時代を舞台に、音楽の天才として見出された男、クリスチャン・ハロルドセンの壮絶な人生を描きます。
ミュージカル版の脚本・演出・作詞を務めるのは、舞台版も手掛けた成井 豊さん、わずか30ページほどの原作を2幕もののミュージカルに仕立てあげます。音楽は、元ピアノロックバンドWEAVERのボーカルで現在はソロプロジェクトONCEとして活動している杉本雄治さんによる書き下ろしです。
初日を前に行われた、キャストの平間壮一さん、多田直人さん(キャラメルボックス)、大東立樹さん、熊谷彩春さん、藤岡正明さん、霧矢大夢さんご登壇の囲み取材とGPの模様をレポートいたします。
【囲み取材レポ】
平間壮一さん)
舞台はこれまで何作品も経験していますが、いつも初日前には初舞台のような緊張感があります。準備はちゃんとしてきたはずなのに、なにか抜けているような、心の中にポカンと穴が開いているような気持ちですが、それに負けないように一生懸命頑張っていきたいと思っております。
多田直人さん)
準備してきたものをちゃんと舞台上に乗せて、あとはお客様がどのような感想を持ってくださるのか。それを僕自身も楽しみにしています。舞台版と、演出は同じ成井 豊が手掛けていますが、まったく手触りの違う作品に仕上がっていると思います。もしかしたら舞台版をご覧になっている方は、最初は面食らってしまうかもしれません。違いを比べて楽しむもよし、もちろん初見の方はこの世界観、この音楽に乗せたストーリーを受け止めてください。
大東立樹さん)
これまでの稽古期間ではたくさんのキャストさん、スタッフさんに支えていただいたので、ここからは僕がお客さんをどれだけ楽しませられるか!ワクワクしています。
熊谷彩春さん)
初のミュージカル化ということで、本当にカンパニー一丸となって毎日毎日試行錯誤しながら、作品をベストなものにするための努力をしてきました。楽しんでいただけたら嬉しいです。
藤岡正明さん)
僕は料理が上手いバー&グリルの店主ジョー役を演じます。僕も普段料理をするのですが、時間をかけて作っても食べるのはあっという間なんです。舞台も稽古期間が調理時間だとすると、明日からの本番は食べる時間。あっという間に終わってしまうのだろうと思いつつ、お客様とともに楽しんで、お腹いっぱいになりたいと思います。
霧矢大夢さん)
不思議なもので、いくら本番を想定した稽古を積み重ねても、初日にお客様の前で演じるとまた違う作品に生まれ変わってしまいます。それが舞台マジック。明日の初日にもきっと素敵な魔法がかかると思いますので、皆様、楽しみにしてください。
──平間さんがクリスチャンを演じるにあたって目指したことは。平間さん)
今までの僕の役へのアプローチは、観てくださる方にどうやって楽しんでもらえるか、何を伝えたいか、そしてこの先の未来がちょっと生きやすくなったらいいな。そんな風に自分の中でのテーマをもって演じるというものでした。今回のクリスチャンは、ただただ一生懸命に自分の役を演じ切ることだけを目標にしています。
──熊谷さんは英語での歌唱もあるとのこと。熊谷さん)
私は父の転勤の都合で海外に住んでいたこともあって、日本語よりも英語で歌うことの方が得意でした。今は、初めて舞台上で英語の歌を歌うことにドキドキしていますが、身体に馴染んで伸び伸びと歌えるのですごく楽しいです。
──大東さんに伺います。稽古で共演者の方から学んだことがあれば教えてください。大東さん)まずお稽古がすごく楽しかったです!稽古期間はみなさんから吸収することがたくさんありました。お芝居について休憩時間に平間さんに相談したり……
平間さん)「ハンバーガー食べたいって」言ったりね(笑)!
藤岡さん)おねだりしていなかった?
平間さん)甘え上手だから!
大東さん)ハンバーガーをごちそうしてもらいました(笑)!本当に嫌な顔一つせずに相手をしてくださいました。あと、劇中でギターに初挑戦しますが藤岡さんが実際に弾いて見せてくださって、本当に幸せな時間でした。
──霧矢さんに伺います。成井さんの演出作品は2作目となる霧矢さんから見た稽古場での成井さんの様子をお聞かせください。霧矢さん)
成井さんは稽古中に、キャスト・スタッフから目から鱗が落ちるようないいアイデアが出ると「ああ、そうなんだ!」とすごく大きな声で喜ばれるんです。それが愛おしくて。ミュージカルになるということで、様々なディスカッションも行われた稽古場でしたが、成井さんが一番楽しそうにイキイキとされていたのが印象的でした。私たちも負けないように頑張らなればと思っております。
──大東さん、劇中でのギター演奏の仕上がりは。練習はどのくらいの期間されたのでしょうか。大東さん)
半年近く練習しました。家でも、あえてギターを抱えたまま生活して研究しました。今は小指で持つこともできます(笑)。
(ここでギターを弾かれる藤岡さんから、大東さんのギター演奏についてコメントが!)
藤岡さん)
彼の演奏、びっくりしますよ。これはお世辞でもなんでもなくて、今まで劇中で楽器を弾く役を演じるために稽古場で練習をする俳優を数多く見てきましたが、一番上手いです! 期待してください。
大東さん)
恐縮です! 本当にいっぱい教えていただいた師匠の藤岡さんからそう言っていただき嬉しいです! ありがとうございます。
──キャラメルボックスの人気作品のミュージカル化、この挑戦、創作過程について。藤岡さん)
来年、劇団創立40周年を迎えるキャラメルボックスの中でも人気の高い「無伴奏ソナタ」を初めてミュージカル化する。これはすごい挑戦だと思うんです。日本を代表する歴史ある劇団の代表作をミュージカル作品にしてみよう。そこにアミューズさんがコラボして、さらに僕らもコラボしていく。この日本発の作品をなんとしてでも成功させたいと思ってやってきました。
多田さん)
今回、ミュージカルを創作するにあたっては劇団員もしくは成井 豊だけでは本当にどうにもならなかったと思います。ミュージカルの現場でいろんな経験を積まれている方が集まってくださったからこそ出来上がった物語、作品だと思います。一人の力ではなくみんなの力、知恵を集めて創ることができました。
◆ここからは、こうしてみなさんの知恵と経験、情熱がたっぷりと注がれて誕生した『無伴奏ソナタ-The Musical-』のGPをレポートいたします。以下、設定や物語の展開に触れます。まっさらな気持ちでの観劇をご予定のみなさまはご注意ください。
【ゲネプロレポート】
これは“音楽の天才”の物語、舞台上には五線譜をイメージしたオブジェが吊るされています。そこに姿を現すのは、平間壮一さん演じる主人公クリスチャン・ハロルドセン。
すべての人間の職業が、幼児期のテストで決定される時代。それが幸せをもたらすと定められた幸福法が支配する管理社会。ディストピアが物語の舞台です。
クリスチャンは生後6ヶ月のテストでリズムと音感に優れた才能を示し、2歳のテストで音楽の神童と認定され、<メイカー>(自分の音楽を作り演奏する)となる。

テストの結果を告げる検査官のギルバート(西野 誠さん)とジャニス(町屋美咲さん)
喜びも束の間、複雑な反応を示すクリスチャンの両親、リチャード(染谷洸太さん)カレン(原田樹里さん)
「無伴奏ソナタ」がきっかけで結ばれたクリスチャンの両親、息子の才能に喜ぶものの、親元を離れて暮らすことになると聞き、家族と暮す幸せ、音楽家としての幸せの間で葛藤する二人。結局、受け入れ(というか受け入れざるをえない)、クリスチャンは森の中の一軒家でメイカーとしての生活をすることに。
時は流れ、30歳になったクリスチャンは独創的な音楽を創造し続け、仕事のほかの身の回りのことは政府により派遣されたハウスキーパーが担ってくれる生活を送っている。ある日、新しいハウスキーパーのオリビアがやってくる。演じるのは霧矢大夢さん。メイカーの世話をするのは初めてというオリビア、つい口にしてしまった「ピアノ」という言葉に対する反応から、クリスチャンがピアノを知らないことに驚きます。何不自由ない暮らしをしているかのようなメイカーですが、既成の音楽を聞くことも、他人と接することも禁じられているのです。
ある日、クリスチャンは見知らぬ男から「これを聴いてくれ。バッハの音楽だ……」という言葉とともにレコーダーを渡されます。クリスチャンは音楽への興味から、禁を犯してしまう。
クリスチャンと過ごすうちにその人柄に惹かれたオリビアは「あなたの音楽はすばらしい。あなたは世界中の人に愛されている」と励ます。
衣裳に象徴されるように、混じりっけなしの純白だったクリスチャンですが、既成の音楽を聴くことにより、その音楽が変わり、すぐさま当局の知るところとなる。
ここからが急展開! 多田直人さん演じるウォッチャー(監視者)が現れ、クリスチャンはメイカーの職をはく奪され連行されてしまう──というのが最初のエピソード。霧矢さん演じるオリビアが語り手となり、クリスチャンの人生の一ページが描かれます。この後もクリスチャンに関わった人が、彼を語るスタイルで物語は進みます。
次はバー&グリルの場面へ。店主のジョー、ウェイトレスのリンダを演じるのは藤岡正明さんと熊谷彩春さん。静かな森とはがらりと変わり、舞台上もカラフルで生活感があふれます。藤岡さん演じるジョーは口はちょっと悪いけれど、明るく、気さくで人間味あふれる人物。だからこそ弱さも持ち合わせる、奥行きのあるキャラクターになっています。

気のいい店主と元気いっぱいのウェイトレス
二人の丁々発止のやり取りも笑いを誘います!
店には常連客のトラック運転手たちもやってきて仕事のあとのビールを楽しむ、陽気なシーンです! クリスと名前を変えてやってきたのは音楽を禁じられたクリスチャン。なかなか周囲に打ち解けようとはしない。
ここでの語り手は熊谷さん演じるリンダ。クリスのことが気になっているリンダの可愛いアプローチも微笑ましい。会見でも話題に上がった熊谷さんの英語での歌唱も心地よく、思わずクリスが伴奏してしまうのにも納得。
店にあるピアノに触れた瞬間、禁止されている音楽への衝動が抑えられなくなるクリス。その演奏は素晴らしく、瞬く間にうわさが広まりクリスは人気者に。こうしてクリスチャンは音楽を介して周囲の人との関係を深めていきます。しかし楽しいときは束の間、とあることをきっかけにまたしても当局の知るところとなり、クリスチャンは罰せられてしまう。
続いてクリスチャンが送られたのが、ワイナリーのブドウ園。そこで出会うのは陽気な作業員たち、その一人、音楽が大好きなギター弾きのギレルモ(大東立樹さん)は太陽のように明るい青年。
メイカーどころかシンガーにも、プレイヤーにもなれなかったギレルモですが、心の底から音楽を愛し、楽しんでいる姿を遠くからただ見つめるクリスチャン。二人のの対比が切ない。大東さんが伸びやかに演じ、歌い、踊り、ブドウ園の仲間たちはもちろん、観客をも笑顔に変えていきます。愛されるギレルモ!

人との出会いが、音楽の力が、頑なだったクリスチャンの心をほぐしていきます
名前をなくしたクリスチャンを仲間たちはシュガーと呼び、彼の名もなき歌を「シュガーの歌」と名付け愛唱します。にぎやかで力強い、ブドウ園の仲間たちの血の通った生命力あふれる歌声。生きている!ことを強く感じさせます。
ここでの語り手は作業員班長ブライアン、演じるのは畑中智行さんです。クリスチャンに向ける温かい眼差し、彼の過去を知りながら守り抜こうとする心優しき班長です。
やがて故郷へ帰って行った作業員たちによって「シュガーの歌」が広く愛されるようになると──登場するのがウォッチャー。ただ、クリスチャンも覚悟の上の行動です。そでもやはりウォッチャーは容赦のない厳しさでクリスチャンに接します。衣裳の黒がそのキャラクターを物語っているよう。
ここからは、劇場にてお楽しみいただくとして。
数奇な人生を送る音楽の天才クリスチャンを演じるのは平間壮一さん。無垢な表情、音楽を奏でる喜び、外界に触れた衝撃、禁じられても抑えられない音楽への衝動、そして悲しみ……ほぼ出ずっぱりで想像を絶する運命をたどるタフな役、お芝居に真っ向勝負を挑んでいます。類まれなる才能をもつだけでなく、“好き”の強さと優しさを感じさせるキャラクターを演じさせたら、この方の右に出る者はいないのではないか、そんなことを思いました。ウォッチャーの登場により悲劇的な幕切れとなる各エピソードではありますが、それを語るオリビア、リンダ、ブライアンの瞳は優しく、言葉は愛に満ちています。クリスチャンが自らを語ることなく、周囲の人たちの証言で浮かび上がるクリスチャンという人間。それを肌で感じられるのは舞台の醍醐味です。謎に包まれたウォッチャーについては多くを語れませんが、物語終盤にいろんなことが腑に落ちて、なるほど!と多田さんのお芝居に唸ることでしょう。
また、平間さん、多田さん以外のみなさんは複数の役を演じます。クリスチャンを守る人、大切に思う人にもなれば、故意ではないにしても結果として絶望に突き落としてしまう人にもなる。一色でないのが社会。それを体現していく実力派キャストの競演も見どころです。さらに雄弁で多様な音楽も作品世界を豊かに彩ります。
劇中、何度か問いかけられる「幸せですか」の言葉。観劇後にも、それが心にこだまします。
クリスチャンの人生は壮絶、受け止め方はそれぞれになると思いますが、そこはキャラメルボックス! 考えさせられることもあれど、下だけを向いて劇場を後にする作品ではありません。人生に敷かれたレールはなく、迷いながら、間違えながらも日々を生きるすべての人へのエールでもある。そして、誰にも奪えないものがある! そう思わせてくれる作品です。そして……これ2回目見たら、また違う景色が広がるという心憎い作品でもあります(笑)。東京公演は8月4日までサンシャイン劇場にて、続いて大阪公演、8月10日、11日に森ノ宮ピロティホールで上演です!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人