新国立劇場では、2025年に日韓国交正常化60周年を迎えることを記念し、同年10月に日韓合同公演『焼肉ドラゴン』を上演することが決定。今回の上演にあたり、焼肉屋を営む金家の一人息子「金 時生」役の公募オーディションを行うことが発表されました。作・演出の鄭 義信さんより応募してくださる皆様に向けてコメントが到着しました!
2011年上演『焼肉ドラゴン』 撮影:谷古宇正彦
<作・演出 鄭 義信 コメント>
『焼肉ドラゴン』時生オーディションを受けようと思っている君へ僕は正直言えば、オーディションが嫌いだ。君も、たった数分の面接や、短い台詞の読み合わせで、「おれのなにがわかるんだよぉ!」と、憤懣の声をあげたくなるだろう。
たしかに、慌ただしい遭遇では、君の得意とすることはなんなのか、君の美点はどこにあるのか、わかるはずもない。
今回のオーディションも、君の要望に応えられるものでないだろう。でも、僕が求めているのは、輝くような才能でもなく、飛びぬけた演技力でもない。『焼肉ドラゴン』という物語の中、家族の浮沈みを静かに見守る、時生という魂がほしいのだ。上手い、下手ではない、この在日コリアンの家族と寄りそい、ともに笑い、ともに涙する魂がほしいのだ。
僕がオーディションが嫌いな最大の理由は、たった一人を選ぶために、君たちの大勢をふるい落とさなければならないことだ。残酷で、とてもつらい作業である。けれど、君かもしれない、他の誰かかもしれない時生と出会うために、僕は今回、真摯に立ちあおうと思っている。
まだ見ぬ時生君、僕に会いに来てください。僕に君の思いを伝えに来てください。
◆『焼肉ドラゴン』は、日本で万博が開催された高度経済成長に踊る1970年前後、関西の焼肉屋を舞台に、ある在日コリアンの家族を通して、日韓の過去、現在、未来を、音楽入り芝居でおかしく、そして哀しく切なく描 いた 作品です。高度 経済成長で輝く未来を信じ沸き立つ世間の裏側で、日々ただ懸命 に生きた市井の人々を描いた、いわば日本の影の戦後史。日韓両国の俳優が参加する合同公演として、 2008年、2011年、2016年に、東京・兵庫・北九州・ソウルで上演され、毎回スタンディング・オベー ションとなる熱狂的な支持を受けました。今回は、日韓国交正常化60周年を迎える2025年を記念しての再演となります。
ものがたり
万国博覧会が催された1970(昭和45)年、関西地方都市。高度経済成長に浮かれる時代の片隅で、焼肉屋「焼肉ドラゴン」の赤提灯が今夜も灯る。
店主・金 龍吉は、太平洋戦争で左腕を失ったが、それを苦にするふうでもなく淡々と生きている。
家族は、先妻との間にもうけた二人の娘、静花と梨花、後妻・英順とその連れ子・美花、そして、英順との間に授かった一人息子の時生…ちょっとちぐはぐな家族と、滑稽な客たちで、今夜も「焼肉ドラゴン」は賑々しい。ささいなことで泣いたり、いがみあったり、笑いあったり…。
そんな中、「焼肉ドラゴン」にも、しだいに時代の波が押し寄せてくる。
この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました