2001年にオフ・ブロードウェイで上演されたことを皮切りに、その後、各国で上演、2021年にはリン=マニュエル・ミランダによって映画化もされた『tick, tick...BOOM!』がシアタークリエにて上演中!
開幕を前に行われたゲネプロ&会見の様子をレポートいたします。
マイケル役:草間リチャード敬太さん、ジョン役:薮宏太さん、スーザン役:梅田彩佳さん
1990年のニューヨーク、イーストヴィレッジ。
まもなく30歳を迎えようとするミュージカルの作家ジョンは、成功したミュージカル作家たちが軒並み30歳を前に成功していることに焦りを覚える。チック、チック…頭の中ではまるで時限爆弾のように“その時”へのカウントダウンが響く──
ジョンは、本作の作者であり、のちに大ヒットミュージカル『RENT』を生み出すジョナサン・ラーソン自身を投影したキャラクター。ジョナサンの実体験をベースに、夢と現実の狭間で抱く不安や葛藤、愛、友情を音楽に乗せて綴る作品です。
──ゲネプロを終え、いよいよ初日を迎える現在の心境は。薮宏太さん:キャストは3人、僕はジョン1役ですが、ほかの2人は自分のメインの役以外にもたくさんの役を演じるのですごく大変だなと思っていたのですが、ゲネプロで「あ、一回も(舞台袖に)はけてないわ、僕」ということに気づきました(笑)。本番も集中力を高めて臨みたいと思います。ゲネプロでの客席からの歓声や笑い声を聞いて、本番ではどんな雰囲気になるのだろう、もっと盛り上がるのかなと想像していました。早くお客様にお届けしたいです。
梅田彩佳さん:ゲネプロで改めて思ったのは、(キャストは)薮くんとリチャ、自分の3人だけなんだということ、そして2人の存在がメチャクチャ心強いということです。自分が出ていないシーンを舞台袖から見て2人からいっぱいパワーをもらいました。本番も3人で頑張りたいと思います。
草間リチャード敬太さん:舞台上で全編通すと、動きがダイナミックになるせいか稽古場より消耗すると感じました。でも、その分、照明など助けてもらえる部分があるので、みなさんに助けてもらいながら頑張ります。あとゲネプロの客席が怖かった……『RENT』 のキャストさんとかが前方席に座っているって(笑)。
薮さん:そうなんですよ! でも、「僕(=ジョン、ジョナサン)の作った音楽をみなさんが歌っているんですよ」と思うことで乗り越えられました。
梅田さん:最高です(笑)。
──大変だったことは。薮さん:僕はやっぱりピアノですね。それもただピアノを弾くだけではなく、自分の気持ち、感情から出てくる音楽、自分で書いた曲として弾けるようになるまでが大変でした。練習は今年のはじめ、まだ寒かったころから始めました。僕は譜面を見ながら弾けないので、ダンスの振付を覚えるような感覚で演奏を習得しました。ここからもさらに精度を上げていきたい。そのためには毎回必ずピアノの練習をしてから本番に臨む、その繰り返ししかないと思っています。ピアノに触ったのは子どもの頃以来でしたが、音楽教室での経験がなかったらここまでには至らなかったと思うので、通わせてくれた両親に感謝しています。
梅田さん:台詞のない役も含めると10役くらい演じています。特に一瞬にして別のキャラクターに変わるというのは経験したことがなかったので難しいのですが、(お芝居で)相手の顔を見ると、薮くんやリチャが私を“その役”で見てくれているので、それを頼りに演じ分けできているように思います。
草間さん:演じ分けも難しいですし、稽古場で言われていた「もっとニューヨーカーになって! 」「貪欲に、俺が、俺が、自分が一番目立っているでしょ」という表現を掴むのが大変でした。
薮さん:リチャはもっとぐいぐい来るのかと思っていたのですが、意外にもすごくシャイ(笑)。僕もそうなので気持ちがわかるんです。だから2人してシャイなりに心を開放して頑張りました!
草間さん:(薮さんは)いっぱい話しかけてくれるのでめちゃくちゃやりやすかったです。
薮さん:“やりやすい”、はじめて言われた(笑)。
草間さん:後輩が言うのもなんですが(笑)。
薮さん:ありがと。
草間さん:劇場入りしてからも、セットの冷蔵庫に貼ってあるマグネットのアルファベットで単語を作って和ませてくれる。すごくやりやすい先輩です(笑)。
薮さん:なんかかわいい。
すごくいい雰囲気が伝わる会見!
──タイトル『tick, tick...BOOM!』にちなみ、みなさんご自身、ジョンのように焦りや葛藤を感じ、そのもやもやが晴れたという体験は。薮さん:僕らの頃はデビューの年齢が早く、高校生でデビューできなかったらやめようかなと思っていたところもあり、高3に差し掛かってからの1年くらいは塾へも通いました。結果、高3でデビューして、大学へも行ったのですが、もやもやしていたと言えばその頃、16、7歳です。そこでもっと頑張らなければと思ったこと、大学で学んだこと、人との巡りあい、運、いろんなことがあって今の活動ができていることをありがたいと思います。
梅田さん:私は27歳のときにアイドルグループAKB48を卒業しました。10年間グループにいて、卒業して一人になることは大きな決断でしたが、「これからは大好きなミュージカルを頑張る」という強い気持ちで決意し、もやもやが晴れました。
草間さん:僕はやっぱりデビューですね。メンバーとも、それこそ30歳になるまでにデビューしたいねと話していたのですが、ホンマにできるんかなと思うことも。今年5月にデビューできて、パッと晴れました。
薮さん:事務所のWE ARE! Let's get the party STARTO!!のオープニングで、「俺たちの新しい仲間!」とAぇ! Groupが出てきたときの歓声、すごかったよね。
──本作を楽しみにされているみなさんにメッセージを!薮さん:ジョナサン・ラーソンが自らの身を削り、愛を込めて作った作品です。その愛を感じ、自分の愛がどこへ、誰に向かっているのかを想像することで、みなさんの愛がより一層深く強くなるように頑張っていきたいと思います。みなさん、ぜひ劇場までお越しください。
【ゲネプロミニレポート】
※物語に触れますジョンと恋人のスーザンの電話での喧嘩もコミカルに!
こちらは親友のマイケルとジョン、幼いころから一緒だった二人
開演15分前から始まるプレショーから舞台上に登場しキッチンに立ったり、ベッドに横たわったり、ジョンの日常を表現する薮宏太さん。会見でもおっしゃっていた通り、ここから出ずっぱりです。
彼の生活の中心にあるのはピアノ、音楽、ミュージカル!
90年代のニューヨークに生きるアーティストの迷いや夢への情熱、自尊心、友情……作家的な視点で客観的に語るジョンがむき出しの感情を吐露する♪WHYに心揺さぶられます。台詞も歌も、言葉が心地よく心に届く。薮さんが、ジョンの頭の中で起きている“tick, tick...BOOM!”を見事に体現しています。
ダンサーを目指しているジョンの恋人のスーザン、現実を見つめる冷静さ、ジョンへの愛、等身大のキャラクターとして梅田彩佳さんが立ち上げます。エージェントのローザ、ジョンの作品「SUPERBIA」の出演者カレッサなど兼役もキャラクターの輪郭クッキリの演じ分け。中でもスーザンの♪GREEN GREEN DRESS、カレッサの劇中歌歌唱♪COME TO YOUR SENSESシーンは圧巻です。
ジョンの幼馴染で親友のマイケルを演じるのは草間リチャード敬太さん。俳優の夢をあきらめビジネスマンとして成功したマイケルもまたたくさんのドラマのあるキャラクター。マイケルの人生にも心を寄せたくなる奥行きのある演技です。またちょっとした小道具でキャラクターを演じ分ける草間さん、あるキャラクターの慈愛に満ちた眼差しにも注目です。グッときます! 年齢さえも自在!
ニューヨークのエネルギーを感じるポップなシーンも満載です!
プレショーでジョンがピアノの前に座ると、まるで彼の頭の中に流れる音楽を聴いているかのようなバンドのチューニングの音。すると「あれ、どこかで耳にしたような……」。『RENT』、ジョナサン・ラーソンへのオマージュもたくさん散りばめられています。それはジョンの周囲の人々、電話、留守電、ダイナーなど、音楽だけではありません。また、ジョナサンが敬愛したスティーヴン・ソンドハイム(声の出演:石丸幹二さん)やソンドハイム作品へのオマージュも。散りばめられたミュージカル愛もたまらない作品です!
演奏で作品を支えるバンドのみなさんですが、それだけでなく……!
ロンドンミュージカルがブロードウェイを席巻する1990年代、自分たちの音楽で自分たちの時代のロックミュージカルを作ろうとした作家の情熱。名作ミュージカル誕生までのドキュメンタリーのような側面も持っていますが、それと同時に人生の岐路で誰しもが抱く思いを描いている作品でもある本作。『RENT』にも深く携わるアンディ・セニョールJr.の演出、3人の才能豊かなキャストで届けられる『tick, tick...BOOM!』はシアタークリエにて10月31日まで上演、その後、愛知・東海市芸術劇場、大阪COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演です。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人