unrato#12『Silent Sky』観劇レポート

俳優座劇場にて上演中のunrato#12『Silent Sky』、1900年代前半、およそ100年前に実在した米国の天文学者ヘンリエッタ・スワン・レヴィットの人生を描く作品です。




近年、アメリカ国内での上演が非常に多い劇作家としても知られるローレン・ガンダーソンによる本作は、2011年に米カリフォルニア州コスタメサで初演された『Silent Sky』、今回の上演は日本初演となります。

天文学史に残る発見をしたヘンリエッタ(朝海ひかるさん)、音楽を愛しあたたかで家庭的な妹マーガレット(高橋由美子さん)、ヘンリエッタが勤めるハーバード大学天文台のピッカリング台長の部下ピーター(松島庄汰さん)、膨大な数の恒星を分類で成果を残し女性の参政権運動家でもあったアニー・キャノン(保坂知寿さん)、家政婦から天文学者となったウィリアミーナ・フレミング(竹下景子さん)。5人の俳優が演じる5人登場人物の会話劇。翻訳は広田敦郎さん、演出は大河内直子さん、音楽は阿部海太郎さんが手掛けます。

実在の人物、物語の舞台は100年前ながら、現代の観客へ訴えかける戯曲の小気味よい会話のテンポ、物語を進める力強さ、登場人物の描かれ方が印象的な本作。同時代を生きる劇作家らしい筆致の現代劇です。



ヘンリエッタも聖人君子というわけでなく、研究の道へと突き進む姿はときに傲慢にも見える。ただそこにある信念、情熱は本物。朝海さんのほどよく抑制のきいたお芝居が、いささか狂気じみて見えるほどのヘンリエッタの探求心を理性や知性で包み込みます。同僚のアニーもウィリアミーナもタイプの違う自立した女性たち、保坂さん、竹下さんの台詞の切れ味のシャープさとその奥にある温かさがぴったり。ヘンリエッタともに天文学の歴史に名を残す人物たちですが、人間味あふれる描写、彼女たちの連帯に心地よさを覚えます。




そこに登場する唯一の男性キャラクター、ピーターを演じる松島さんは、当時の学内での、社会での“男性”を象徴するという大きな役割とピーター自身のどこか憎めないチャーミングさを体現。そして、髙橋さん演じる妹のマーガレットには、家に残る/家を出る、ヘンリエッタとは真逆の道を歩みながら、天文学と音楽(や宗教観)、“好き”を大切にするところや芯の強さに「やっぱり姉妹」と思わされます。

“光年”、気の遠くなるような時間をかけて届けられる星からのシグナル、光に照らされる現在地。
100年前を生きた人々の姿から感じる現代社会。
天体観測と観劇、まったく違うようなことがすごく近く感じられる観劇体験でした。


ここからは観劇されたおけぴ会員の皆様の感想をご紹介いたします。劇場空間は照明、音楽など、とても“響く”作品です!

まだ女性の科学者としての立場が認められていなかった時代に、このように天文学に取り組んだ女性たちがいたことを初めて知りました。彼女たちの力強さと優しさがシスターフッド的な関係とともに描かれていますが、違う想いを持つひとりひとりの女性であることも同時に伝わってきて、それがとても良かったです。

最初は天文学の用語に面食らうかもしれませんが(私がそうでした)、わからなくても大丈夫。星空の広がり、それに挑み続ける女性たちの姿にすぐに引き込まれるでしょう。




主人公・ヘンリエッタの夢を追い続ける姿勢が素晴らしい。
彼女のことを周囲の人々が助けてくれたり見守ってくれることが自分のことのように有り難くて、救われる。でも、ベタベタした人間関係ではなく、考え方が違う者同士が会話を続けていく場面も好きだ。そして、周囲の人々もそれぞれの信念で歩みを続けていることが嬉しい。舞台装置、音楽も美しく心が洗われた。どの登場人物のことも好きになって、清らかな気持ちで帰途についた。

幕開きからスッと彼女たちの世界に引き込まれ、観終わった後は夜空を見上げたくなりました。絶妙なアンサンブルです。芝居も美術も音楽も余計なものは一つもなくて、素晴らしかったです。




歴史を動かした女性たちの物語なのですが「女性として」という事に焦点を当たり過ぎず「職業人」として「人間」として、誇りや志を高く持ち続けて生きる姿が描かれているように感じました。演者の芝居のうまさが、壮大な世界をバックグラウンドとする台詞劇を軽やかに仕上げており、幕が降りた時に清々しい気持ちでいっぱいになりました。劇場で時間を共有する幸せが実感できる演目です。

実在の女性天文学者を演じた朝海さん。スッとした立ち姿とちょっと低めの声が魅力的でした。客席通路を使った演出や、ため息が出るほどステキな照明、そして演者の皆さんの言葉のキャッチボールが心地良かったです。

ひとりができることは星々のように小さく、人はいつか去ってもその思いは時代を越えて繋がっていくのだというのを感じて、涙が止まらなくなりました。




数学、天文学という一見無機質なものも、大量の台詞のやり取りでとても魅力的に変わり、ピアノと讃美歌が宇宙とつながる美しい物語でした。皆さんお芝居が本当に上手い!

日本初演の初日を観劇出来たことは、本当に光栄なことでした!この舞台を、俳優座劇場で目撃出来たこともです!宇宙という計り知れない壮大な空間を、計算手という仕事で星の写真だけを観測して、小さな研究室内の机上から発見していくヒロインと、妹、戦友のふたり、戦友に加わったひとり、五重奏の音楽が、劇場に響き渡りました!ラストシーンは胸に迫るものがありました!

俳優座劇場は、2025年4月末で70年間の歴史に幕を閉じると聞き、今回観劇できて良かったと思いました。





朝海さんの清潔な雰囲気と向学心に溢れる天文学者が非常に良くリンクしていて見応えがありました。客席通路を使う演出もあり臨場感たっぷりです。出演者は少ないのですが芸達者な方々でちょっとウィットに富んだ会話で全く飽きませんでした。天文学の業績はちょっと難しく感じられるかもしれませんが広大な宇宙を感じられる上質な舞台でした。

朝海さんの邪気なく真っ直ぐな視線は、研究者志望に相応しい印象。竹下さん、保坂さんの気概を持って生きる社会人女性らしい信頼感。高橋さん松島さんも堂々としていて、向上心溢れる一団を臆することなく彩っていました。(阿部)海太郎氏の音楽と舞台に散りばめられた星々が美しかったと思います。



公演は10月27日(日)まで東京・俳優座劇場にて、11月1日(金)~11月4日(月・休)は大阪・ABCホールにて上演。現代に届くヘンリエッタたちからのメッセージを劇場で受け取ってください。

STORY
ヘンリエッタ・レヴィットは家族の支えもあり大学卒業後、ケンブリッジにあるハーバード大学天文台で働き始める。しかし、そこでの女性は望遠鏡に触ることもできず、ピッカリング天文台長の指示で星の色や明るさ、スペクトルなど、膨大なデータの処理や集計、分類などの作業を行っていた。ピッカリングのもとには“コンピュータ”と呼ばれる分析や記録作業をする女性の計算手が集められており、ヘンリエッタもその一人だった。
ピーターや同僚たちと交流を深める中、休憩時間も無給で独自の研究を続けるヘンリエッタは、自分の道を模索しながら、大きな研究成果を残していく。

【公演情報】
unrato#12『Silent Sky』
2024年10月18日(金)~10月27日(日)@俳優座劇場
2024年11月1日(金)~11月4日(月・休)@ABCホール

作:ローレン・ガンダーソン(Lauren Gunderson)
翻訳:広田敦郎
演出:大河内直子
音楽:阿部海太郎
出演:
朝海ひかる 高橋由美子 松島庄汰 保坂知寿 竹下景子 (戯曲掲載順)

公演HP:https://ae-on.co.jp/unrato/silentsky/

写真:友澤綾乃 感想:おけぴ会員の皆様
おけぴ取材班:chiaki(編集・文)監修:おけぴ管理人

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