先日、
稽古場取材に伺ったミュージカル『翼の創世記』。大好評上演中!! 本作は演出家の石丸さち子さんの企画・脚本・演出・プロデュース、森大輔さんの作曲・音楽監督・演奏で届けられる新作オリジナル作品です。
世界初の動力有人飛行を成し遂げたライト兄弟の物語を、30曲を超える多彩な音楽で綴るミュージカル『翼の創世記』ゲネプロ(チームA)をレポートいたします。
オーヴィル:鈴木勝吾さん ウィルバー:上川一哉さん キャサリン:門田奈菜さん
劇場はブルースクエア四谷。劇場内の壁面に施された『翼の創世記』のためのペインティングも効果的、舞台(物語)と客席の一体感が味わえる空間で俳優の目線、息づかい、ほとばしる汗……ライト兄弟に共鳴し、心を動かされる。熱い観劇体験が待っています。
チームAは──兄ウィルバー・ライト(ウィル):上川一哉さん、弟オーヴィル・ライト(オーヴ):鈴木勝吾さん、妹キャサリン・ライト(ケイティ):門田奈菜さんというキャスト。
成績優秀・スポーツ万能の頼れる兄ウィルを上川一哉さんがさわやかに演じます。誠実な歌声と理知的なたたずまいのなかに見えるチャーミングさで、ウィルを等身大の人物として立ち上げます。ただ夢中になりすぎると時々常軌を逸することも。努力の人でありながら、その奥にある天才のギラリとしたものも光るウィルです。
兄の背中追いかけ、生来の器用さと、次第に抜群の商才を発揮する弟オーヴを演じる鈴木勝吾さんは、兄を見つめる、妹を見つめる瞳が印象的。物語の語り部でもあり、兄がいてこその自分であることを誰よりも自覚するオーヴ。受けの芝居を積み重ねるなかで存在感をしっかりと示し、半歩後ろを歩んでいたようなオーヴが次第に横に並び、共に歩き出す過程が鮮やかに描かれます。
そして失敗も糧にしながら互いを鼓舞して飛行実験に挑む二人の姿には希望と勇気をもらいます。この希望とか勇気という言葉、ちょっと照れくさいようなところがありますが、直球で感じ取れるのもミュージカルの魅力。
高め合い、ぶつかり合い、躍動していく兄弟を見守るのがもう一人のライト、ケイティです。自らの夢を追うことより、兄たちを支える道を選ぶケイティ。あの時代の女性の置かれていた現実も感じさせ、葛藤も見せながら、自ら前向きの決断する賢さと強さのあるケイティの視点が、本作をより立体的に奥深くします。門田奈菜さんのケイティの献身と強気のバランスが心地よく、全身を使った表現が清々しい!
小劇場で空を飛ぶことを目指したライト兄弟の物語を描く──そこでは脚本、演出の石丸さち子さんのアイデアや工夫も炸裂します。試行錯誤を繰り返す初期の実験段階での閉塞感、やがて飛行実験への挑戦、そして空へ! その視線先に広がる大空を芝居で体現する俳優の表現力、観客のイマジネーションを信じるからこその劇空間が立ち上がります。そしてもうひとつ、物語に翼を与えるのは森大輔さんが作り、奏でる音楽です。開演前からいい感じのジャズが流れ、ひとたび物語が始まれば躍動感、疾走感、解放感、と絶望、感情で言うなら喜怒哀楽のすべてを届ける音楽の魔法。稽古から作品に寄り添う森さんの演奏が表現に自由度を与え、俳優たちは伸び伸びと役を生きます。そして森さんはシングルキャスト(キャスト!?)です。ほかにも見立て使いで自在に姿を変える舞台セット、希望も絶望も照らし出す照明、羽ばたきを聴覚で届ける音響……スタッフワークも大きな見どころ。
「空を飛ぶことなんて不可能だ」と思われていた時代に、夢を見て、決して諦めることなく挑戦を続けたライト兄弟の情熱が、こうして現代によみがえる。成し遂げたことの偉大さは規格外ながら、そこで笑い、涙し、怒り、もがき、喜びを分かち合った等身大の人間たちのドラマとして描き出される本作。そのことと新作ミュージカルを作り、世に送り出すことが重なって見える瞬間も何度も訪れます。なにより物語を演じ切ったときに劇場を満たす空気の爽快感と大きな喜びは、まるでライト兄弟のファーストフライトのような感動! そして苦労も喜びも分かち合う人、仲間がいることのしあわせも!
チームは全部で5つ、同じ物語、同じ楽曲でもキャストの組み合わせによって新たな発見がありそうな作品です。ここから次々と飛び立つ『翼の創世記』をお見逃しなく!
チーム:ウィル/オーヴ/ケイティ
A:上川一哉/鈴木勝吾/門田奈菜
B:上口耕平/鈴木勝吾/門田奈菜
C:上口耕平/鈴木勝吾/福室莉音
D:鈴木勝吾/工藤広夢/福室莉音
E:百名ヒロキ/DION/山﨑玲奈
多才な音楽に乗せて、幼き日から、晩年まで演じる俳優のエネルギーがライト兄弟の軌跡を力強く描き出すミュージカル『翼の創世記』は、ブルースクエア四谷にて12月25日まで上演です。
<STORY>
老いたオーヴィル・ライト(上口耕平、上川一哉、鈴木勝吾、百名ヒロキ)は、毎日同じ時間に、起き、食事し、小さな発明を続け、誰と話すこともなく、夜を迎え、眠りに就く。彼の日々、二十四時間の積み重ねは、追想で支えられている。
一人静かに、孤独という静かなる狂気と暮らしていれば、兄ウィルバー・ライト(鈴木勝吾、工藤広夢、DION)と妹キャサリン・ライト(門田奈菜、福室莉音、山﨑玲奈)の声が聞こえてくる。
世界初の動力有人飛行をともに成し遂げたライト兄弟の偉業は、人間の自由と可能性を希求し開拓する、輝かしい栄光の物語。それは前人未踏の地を行く、不屈の精神と、教育ではなく自らの好奇心で勝ち得た知性によるものだった。
またそれは、双子のように思われながら全くタイプの違う兄と弟の、愛の変遷の物語でもあり、自らの夢を捨てても兄に尽くした妹の心の物語でもあった。
1903年12月17日。彼らのファーストフライトから、世界は音をたてて変わっていく。兄弟の夢の飛行機械は、第一次世界大戦で、偵察機、ひいては戦闘機として急速に発展を遂げていく……。
ミュージカル『翼の創世記』おけぴ稽古場レポート
この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました