ミュージカル『ケイン&アベル』開幕レポート~開幕記念会見編~に続いてお届けするのは、~公開ゲネプロ編~です。
【公開ゲネプロレポート】
“オリジナルキャスト”という言葉の重み、尊さを感じる世界初演!スタッフワークにキャスティング、いろんな要素がカチッとはまる瞬間が幾度も訪れる、ミュージカル『ケイン&アベル』公開ゲネプロレポートをお届けします。
(物語に触れます)物語をストーリーテラー、フロレンティナの回想の形で運び、ケインとアベルの人生を切り取った「スナップショット」を点としてピックアップ、それらを巧みに繋げることで大河小説を舞台作品として構成する。それを舞台上でスムーズな展開で見せていく。まずそこに脚本・演出の両方をダニエル・ゴールドスタインが務めることの強みが表れています。
音楽についてはソロ、デュエット、カルテット、アンサンブルを含めた合唱など……20世紀のアメリカ音楽を基調とするワイルドホーン楽曲が非常にキャッチーかつ演劇的。テイストも多彩、ミュージカルを知り尽くした氏ならではの名曲揃いと言えるでしょう。ビッグバンド的な音もバシバシ飛んでくるオーケストラの生演奏も大迫力で、ミュージカルナンバーだけでなく、アンダースコアも含めて劇世界を作り上げる要素としてしっかりと機能しています。フランク・ワイルドホーンとジェイソン・ハウランドの名コンビへの信頼は増すばかり!
さらにパーティーシーンのチャールストンを基調とした社交ダンス、2組のカップルの愛の芽生えを歌うシーンでのコンテンポラリーダンス、軍隊の行進にアクションを取り入れた戦場のシーンなどジェニファー・ウェーバーの振付も洗練されています。
◆20世紀初頭、同じ日に生まれた二人の物語。一人はアメリカ・ボストンの裕福な家庭に生まれたウィリアム・ケイン(松下洸平さん)、もう一人はポーランドの山奥で生まれたヴワデク(のちのアベル・ロスノフスキ、松下優也さん)。フロレンティナ(咲妃みゆさん)とアンサンブルキャストによる力強い<宿命の二人>で幕を開けます。(<>は楽曲名)

アベルの生涯の友となるジョージ(上川一哉さん)、アベル(松下優也さん)、後に妻となるザフィア(知念里奈さん)
アベルは、貧困と劣悪な環境で育ち、やがて戦争によるロシア軍の侵攻により孤児となる。そこから命からがらアメリカへ渡り、アベル・ロスノフスキを名乗るようになる。アベル、ジョージ、ザフィアらのナンバー<アメリカン・ドリーム>では、皆がこの地で成功を掴もうとする野望とその先にある祖国への思い、希望を溌剌と、そして高らかに歌い上げます。優也さんは初ワイルドホーン作品ということですが、一曲目から相性の良さを発揮。

ケイン(松下洸平さん)
一方、ケイン登場のナンバーは<最高の時代>。狂騒の20年代、文字通りアメリカの好調な時代、ハーバード大学を卒業したケインと親友のマシュー・レスターを祝うショーアップされた華やかなパーティーシーンです。フラッパーたちのファッションやジャズ、スウィングが華やかでなんとも心地よく、チャールストンの足さばきにも見惚れます。このナンバーの群舞ではマシューを演じる植原卓也さんの華麗なダンス、視線泥棒ぶりがさく裂!
そこに初々しさとともに選ばれしものの風格を纏って登場する洸平さん演じるケイン。そこで父のように慕うアランから、ケインとマシューが(ケインにとっては)自らの家名を冠するケイン・アンド・キャボット銀行に入行することが発表される。

ヘンリー・オズボーン(今拓哉さん)とケイン
それに続く、亡き実父への思い、決意を誓うケインのソロナンバー<父の名に恥じぬよう>。誠実さ、高潔さ、前途洋々で光に包まれているようなケイン。洸平さんの歌唱表現から、キャラクターの心情を丁寧に歌に乗せる技術の高さを感じます。そして言葉が心に届く! そんなケインに近づく、義父ヘンリー・オズボーンに今拓哉さん。嫌~な感じをたっぷりと見せる今さん、好演です!

ジョージとアベル
まったく違う世界を生きてきたケインとアベル、二人の人生がプラザホテルのレストランで初めて、そして一瞬、交わる<ゲームのルール>!見事な客さばきとしゃれた切り返しから伝わるアベルの頭の回転の速さと類まれなるビジネスセンス。優也さんの濁りのない歌声は、野心や激しさのなかにも純粋さもにじませるアベルにピッタリ。そんなアベルの才覚に目を付けたリロイとの出会いのシーンでもあります。
チャーミングなジョージには上川一哉さん。ジョージのナンバーはポップで、それに合わせて踊る上川さんと優也さん、ダンス巧者のお二人の華麗なステップも見どころです!
また非常に情報量の多いシーンですが、歌唱、ダンス、芝居で観客にしっかりと状況が受け渡されるところにこの作品の完成度の高さがうかがえます。そして客として訪れたケインと給仕として接客するアベルのファーストコンタクト、アベルの腕輪もちゃんと印象付けられます。

ケイト(愛加あゆさん)とケイン
のちに妻となる女性との出会い、その恋模様が描かれる場面も秀逸。
それまでは二人の歩みを交互に見せていたかところから、2組のデュエット(四重唱)とコンテンポラリーダンスで表現する<愛が始まる時>では、ケインとケイト、アベルとザフィア、別の場所にいる2組のカップルを同時に舞台上に存在させる演出趣向でロマンティックに描かれます。

リロイ(山口祐一郎さん)とアベル
アベルと、まるで父子のような温かい関係性を築くホテル王デイヴィス・リロイを演じるのは山口祐一郎さん。築き上げてきたすべてを託せるアベルとの出会いを喜び、自らの潮時を歌いながらも、そこにリロイの人間性の大きさをも感じさせる山口さんの歌唱。
ここから、幼き頃、両親の喪失を経験してきたケインにもたらされる新たな喪失、対立の決定打となるアベルを襲う悲劇……物語は怒涛の展開を見せます。そんなとき、取り乱すアベルをなだめ、励ますザフィアの<あなたならできる>を歌う知念さんの力強く伸びやかな歌声が劇場を満たします。名曲誕生!

ケインとマシュー(植原卓也さん)
美しいメロディに乗せて

アラン(益岡徹さん)とケイン
父のようにケインの成長を喜ぶアランには益岡徹さん。温かさとともに銀行家としてのシビアな面ももつアランと次第に意見の対立も生まれ……。
ここで1幕ラストを飾る対決ソング<命ある限り>へ。ケインの銀行家としての葛藤、アベルのケインへの憎しみ、復讐心……畳みかけるメロディ、音の圧、感情とともに音楽もどんどんクレッシェンドしていくワイルドホーン節炸裂! 洸平さんの深い歌声、優也さんの鋭い歌声が、そのままケインと葛藤とアベルの激情のぶつかり合いとなって届けられます。こうして、激しいビジネス戦争の火ぶたが切って落とされるところで幕。
第一幕ラストは、客席が明るくなってもすぐに立ち上がることができない興奮と衝撃。二幕はぜひ劇場で!というところですが、ここだけは触れたいところをピックアップ。
戦場でケインが歌う<また会う日まで>も作品を代表する名曲、名シーンとなるでしょう。洸平さんの柔和な中にも一本筋の通った歌唱、芝居がシアターオーブの空間を支配します。パーカッションのきらめきも効果的で、ラストの美しいファルセットからも感情がしっかりと伝わります。

リチャード(竹内將人さん)とフロレンティナ(咲妃みゆさん)
アベルの娘フロレンティナ(ストーリーテラーから、その時代を生きるフロレンティナ自身となり登場)とケインの息子リチャード、二幕から登場する彼らもまた<宿命の二人>。天真爛漫な二人を見ていると世代間ギャップかとも思うのですが、意志を貫く強さは親たちから受け継がれているようにも思えます。みんな頑固!
そこからの展開はぜひ劇場でご覧いただくとして、終盤のナンバーは効果的なリプライズがいっぱい! このメロディをこの歌詞でこの人が歌うとは……の連続で、ミュージカルファンにはたまりません。
別々の道を歩きながら、運命に引き寄せられ交わっていく二人。面と向き合って芝居をするシーンはそこまで多くはないのですが、それでも深いところで繋がっているような関係をどう描くのだろうかと思っていたふしも確かにありました。でも、実際に観てみると、それが舞台表現に向いているという嬉しい発見となりました。たとえば別空間である両家、ケインは青、アベルは赤で表現された部屋を舞台上に配し物語を展開させることで、二人の人生を“同時進行”で見せることができ、それによって観客には二人の対比がよりドラマティックに映ります。
そしてキャスティングの妙について。洸平さんの理知的なたたずまいと落ち着き、秘めた情熱がケインの青白く燃える炎に、優也さんの野心的な強い眼差しと躍動、激情型のエネルギーがアベルの真っ赤に燃える炎にピッタリマッチするのです。それだけでなく、知的でキュートなフロレンティナの咲妃さん、包容力とたくましさのある二人の妻、ザフィアの知念さんとケイトの愛加さん、アベルの師であり父であり時代に翻弄される象徴でもあるリロイの山口さんをはじめとする、それぞれのキャストがキャラクターにしっかりとはまる。素晴らしいキャスティングだと思いながら、ふと頭をよぎったのは“オリジナルキャスト”だから当然のことなのかもしれない、それが“オリジナルキャスト”なのだという思いでした。
もちろん原作があるので、そこで描かれている人物像というものもありますが、舞台に生きる人物としてキャラクターを立ち上げたのは今回のキャストお一人お一人にほかなりません。“オリジナルキャスト”という言葉の重み、尊さを改めて感じるのでした。
第一次世界大戦、大恐慌、第二次世界大戦と20世紀前半、激動の時代のアメリカを生き抜いた二人の男、高い志を持った銀行家のケインと自由を求めてアメリカにやってきた移民のアベル、彼らとその家族たちの物語。最終場が1967年ですので、決して遠い昔の話ではありません。いくつもの喪失を乗り越え、懸命にひた走ったケインとアベルが歳を重ねるなかで見ていた景色はどんなものだったのか。私たちは最後に見える光、希望の先に立てているのだろうか。心に深く刻まれるマスターピース誕生の瞬間をお見逃しなく。
最後に世界初演初日、感動のカーテンコールダイジェスト映像をお届けします。
ストーリー
物語は、フロレンティナ(咲妃みゆ)の回想で始まる──。
20世紀初頭──ボストンの名家ケイン家に生まれ、銀行家の父の跡継ぎとして祝福された人生を歩むウィリアム・ケイン(松下洸平)。幼くしてタイタニック号の事故で父親を亡くしてしまうも、父のような銀行家になるべく学業に専念し、名門ハーバード大学に入学。卒業後はケイン・アンド・キャボット銀行に取締役として入行する。
ウィリアムが生まれた同じ日にポーランドの山奥でヴワデク(のちの、アベル・ロスノフスキ)(松下優也)は生まれ、貧困と劣悪な環境で育ち、やがて戦争によるロシア軍の侵略により孤児となる。度重なる苦難を乗り越えて、アメリカへ渡り、アベル・ロスノフスキと名乗るようになる。その後、アベルはウェイターとして働く中で、持前の頭の良さと忍耐力を発揮。のちに、ホテル王、デイヴィス・リロイ(山口祐一郎)に認められ、ホテル経営に携わるようになる。同じ移民仲間のザフィア(知念里奈)と結婚する。
しかし、そんな矢先、ニューヨークが大恐慌に襲われる。株の暴落によりデイヴィス・リロイが非業の死を遂げる。
アベルはリロイのホテルへの融資を断ったウィリアムに復讐することを決意。2人は対立を深めていく。。
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人