1930年代、世界恐慌下のアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した実在の人物、クライド・バロウとボニー・パーカー。鬱屈とした時代、犯罪に手を染め刹那的に生きた二人の若者の輝きを描いた映画『Bonnie and Clyde』/邦題「俺たちに明日はない」は、今も語り継がれる名作です。
この伝説のギャングカップルの物語を、『ジキル&ハイド』『デスノート』『ケイン&アベル』など人気作を生み出したフランク・ワイルドホーンの珠玉の音楽で彩るミュージカル『ボニー&クライド』。 本作は2011年にブロードウェイで上演、2012年には日本でも初演された後、さらにブラッシュアップされ2022年ウェストエンドで再演、2023年には宝塚歌劇団にて上演されました。そして2025年3・4月、シアタークリエで“新演出版”が上演されるのです!
製作発表には上演台本・演出を務める瀬戸山美咲さん、それぞれWキャストでクライド・バロウとボニー・パーカーを演じる柿澤勇人さんと矢崎広さん、桜井玲香さんと海乃美月さんが登壇されました。歌唱披露&会見の模様をレポートいたします。
【歌唱披露】
歌唱披露では、クライドとボニーがそれぞれに、今の貧しい暮らしから逃れて、いつか必ずビリー・ザ・キッドやアル・カポネのような大物に、クララ・ボウのような映画スターになってみせると夢を歌うナンバー<ピクチャー・ショー>と、ボニーの協力で刑務所を脱獄したクライドがボニーと車に乗り、逃避行を始める時に、「2人の名前を世界に残そう」と歌う、1幕のラストを飾るナンバー<残すのさ名前を>の2曲が披露されました。

桜井玲香さん:第一声から惹きつける歌声

海乃美月さん:スパッと明るいエネルギー溢れる歌声

柿澤勇人さん:張りのある若々しい歌声!

矢崎広さん:少し大人びた豊かな歌声

Wクライドの掛け合いもスペシャル
躍動感あふれるナンバーを“カッコよく”歌う4人。掛け合いも個性あふれ、ここから役を深めた本番ではどんなボニーとクライドになるのか楽しみになりました。そしてやっぱり楽曲がいい!
【記者会見】
瀬戸山さんは、
「もともと映画のもつ乾いた雰囲気、ボニーとクライドの刹那的な生き方に惹かれていた」とのこと、その上で、
「ミュージカル版では史実や映画とはちょっと違う、“夢と現実”のコントラストもしっかりと描かれた疾走感があるエネルギーに満ちた作品にしたい」との意気込みに期待が高まります! 柿澤さんは
「世の中をひっくり返すような爆発力のある作品に仕上げたい」と語り、矢崎さんは
「民衆に応援してもらった二人なので、同志になって応援してください」と“潜入捜査”として会場に招かれたみなさんへ語り掛けます。桜井さんは歌唱披露の緊張から解き放たれ
「このカップルの大ファンになってもらえるように」と笑顔を見せ、海乃さんは
「愛と信念が混ざり合った二人の人生を全力で生き抜きたい」と力強くご挨拶されました。続いては質疑へ、まずはそれぞれ演じる役について。
──クライドの原動力はなんだと思いますか。柿澤さん)
一番大きいのは怒りの感情。1930年の世界恐慌後、抑圧され、人々は希望の光も見えずに諦めていた時代。なにか変えようとしても変わらない、神も救ってくれない。それに反逆するエネルギーの源は怒りなのかな。現代を生きている僕のなかにある“ふざけんなよ!”をぶつけようと思っています。
矢崎さん)
アメリカの歴史のなかでも世界恐慌は本当に大変な時代。クライドは、“自分は何者なのか”と、自分の存在について自問している人で、実は“もっと大物になるんだ”、それだけだったかもしれない。そこからボニーと出会うことで、“何者かになりたい”という思いが加速していく。そんな二人なんだと、僕は思います。
──ボニーの人物像をどうとらえていますか。 桜井さん)
ボニーとクライドはいろんな作品のモチーフになっていますが、作品ごとにボニーの印象は違っています。どういう面を自分たちのボニーに乗せていこうかということを稽古場でも(Wキャストの)二人で話しています。今は、ボニーは小さい頃から、なぜか周り人を惹きつける魅力を持っていた人だったので、見ているみなさんが気になる、目が離せない女性像を目指しています。
海乃さん)
玲香ちゃんのお話に加えて、文章、詩を書くことが好きで、文才もあったボニーはきっと想像力が豊かな女性だと思います。家庭環境のためかすごく真面目なところもありますが、クライドのような人と出会って心が揺れ動き、惹かれ過ぎるくらい惹かれてしまう。そこからは二人の相乗効果で、時代を駆け抜けるような存在になる。そこではボニーの信念の強さも大事にしていきたいと思っています。
──ボニーとクライド、二人の物語をどう描こうと思われていますか。瀬戸山さん)
ほかの人より少し欲望が大きかった二人。もって生まれた“人を惹きつける才能”を持て余していたクライドとボニーが出会ってしまったことでこうなってしまった。それをしっかり描きたいと思います。カポネやビリー・ザ・キッドに憧れるクライドとクララ・ボウに憧れるボニー、目指す方向は違うけれど、求めるエネルギーの大きさ、生きている体温が似ていた。また、クライドが犯罪を始めたけれど、ボニーが引っ張っていた瞬間もある、そんな対等な関係だったから当時のアメリカの人々が熱狂したのだと思います。二人が合わさったときに圧倒的にカッコイイ、その過程をしっかりと描きながら熱狂していった民衆のパワーも段階を踏んでお見せできたらと思っています。
──キャスト4人の印象は。瀬戸山さん)
柿澤さんは、爆発力が素晴らしいと感じています。怒りや悲しみ、寂しさ、ヒリヒリする感情が瞬間、瞬間に見えるところが魅力。矢崎さんは10年前にご一緒したことがあり、そのときからとても楽しい俳優さんでした(笑)。すごく大人になられて、そして今も楽しい俳優さんです。作品の背景や人物像をすごく掘り下げていて、常に稽古場でちょっと面白いことにトライしようという気持ちがあふれています。
桜井さんは、なんて言うか“ボニー的”。以前から拝見していて、こういう役がお得意だろうと思っていました。お稽古していても、ボニーのなかにあるなにか満たされない感じ、世の中に対する反発、もがいている感じがお芝居にも出ていてとても素敵です。海乃さんは最初に歌を聴いたとき、その明るさにびっくりしました。クライドが惹かれた輝きを感じました。一方で、稽古をしていていると突然、殺気のようなものを感じるときもあって(笑)。そこにボニーの残酷さが見えて面白い。今、新しい入口に立たれている海乃さんご自身と、ボニーが新しい扉を開けることがシンクロしていったらいいなと思っています。
──フランク・ワイルドホーンさんの楽曲について。柿澤さん)
ワイルドホーンさんの作品には何作か出演経験がありますが、今作も変わらずシンドイです(笑)。エネルギーが必要なんです。力を込めて、踏ん張らないと歌えない。実際、『ジキル&ハイド』よりキーが高いですし、そこは自分にとっての課題です。でもフランクに言わせると疲弊するのが正解。なぜ台詞でなくて歌うのか──それは感情が高まって抑えきれないなにかがあるから歌ったり踊ったりする。それがミュージカルの基本だと。クライドやボニーに限ったことでなく、1930年代、抑圧された時代を生きたそれぞれのキャラクターがいろんな思いをもって歌うことで、作品がすごいエネルギーになるのだと思っています。
矢崎さん)
カッキー(柿澤さん)ほどではないですが、僕もワイルドホーンさんの作品へ何作が出演しました。耳に残る心地のいい楽曲という印象です。10年以上前に出た作品の歌も家で口ずさんでしまうくらいずっと残っています。今作も同じように感じます。この曲と仲良くなりたい、この曲とともにこの作品を表現したいと思わせてくれる曲です。大ナンバーばっかりなので、大ナンバーばっかりなので(大事なことは2度!)楽曲の力を借りながらともに歩いていきたいと思います。そして先ほどのワイルドホーンさんの紹介を聞いていて、最初はカッキーの紹介かなと思うくらい、『ケイン&アベル』以外はすべてカッキーの出演作で(笑)。

柿澤:気を使ってくれたんだよ
矢崎さん)
横にそんな柿澤勇人がいてくれるのは本当に心強いです。カッキーとともに、楽曲とともに頑張ります!
桜井さん)
一曲、一曲が立っていて、すべて違うインパクトのある楽曲が揃っている印象です。ワイルドホーンさんの曲はスケールが大きく、大きい中に余白もあって、そのときの気分や自分のノリでカッコよくなるならいかように表現してもいいですよと仰ってくれる、ワイルドホーンさんご自身も心が広い方です。全力で歌わなければ置いていかれるような曲が多いのですが、早く余裕をもって楽しめる、遊べるようになれたらいいなと思っています。
海乃さん)
私はワイルドホーンさんの作品に携わるのははじめてですが、『スカーレット・ピンパーネル』や『ジキル&ハイド』も大好きでしたので、今回、挑戦できることを嬉しく思っていました。いざ自分が歌うとなるととても難しいのですが、お芝居をしながら歌うと、ここで盛り上がりたい、気持ちのいいところで音階が変わったり、リズムが入ったり、お芝居と楽曲がとてもリンクしていることがわかります。演じていてとても心地がいいです。
──稽古場の雰囲気や印象的なエピソードは。瀬戸山さん)
Wキャストのよさが出ている、とてもいい稽古場だと思っています。役について話し合うときにもいろんな解釈が出て、それをみんなで話し合って良いところを採用しながら作っています。演出家だけがいい雰囲気だと思っていたらショックですが(笑)。
(このあと口々に稽古場のいい雰囲気について語るキャストのみなさん。それを作り出しているのはほかならぬ瀬戸山さんのおおらかさとのこと!また、「目指す方向や根本にあるものを共有しながら稽古できるWキャストの心強さ」を語ったのは海乃さん、桜井さんも「私たちずっと喋っているよね」と返し、素敵な関係が垣間見えました。すると……)
──クライドのお二人は稽古場でどのように過ごされていますか? 
矢崎:じゃあ、僕が本当のことを言いましょう!
柿澤:今まで嘘だったの?
矢崎さん)
カッキーは、めっちゃ自由です(笑)。さすが柿澤勇人だなというくらい。気づいたらストレッチしたり、気づいたら芝居に打ち込んだり、本当につかみどころがない。
柿澤さん)
いやそれ普通じゃない?
矢崎さん)
あんなにあちこちに居る人は……地面にいたり、高いところにいたり、おサルさんみたいだよ(笑)。
柿澤さん)
よく言われます(笑)
矢崎さん)
僕はこんな感じでマイペースで、“上げ”でも“下げ”でもない感じ。桜井さんはまだ様子見している感じで、海乃さんは真面目(笑)!
柿澤さん)
僕に言わせれば、ぴろし(矢崎さん)こそクソ真面目。役者としてとにかく新しいことにトライする。1個の正解を求めずになにが自分にフィットするかを常に考えている。その姿勢が本当に真面目。クライドについても、この時代のアメリカのことに関しても勉強していて、二人になると「あのシーンはこうだよね。だからここでコントロールして」「喉がこうだった」って、常に芝居のことしか話さない。僕は、「今日帰ったらなにするの?」とか「どっかいいサウナない?」と、芝居以外のことばかりしゃべっていて(笑)。

柿澤:もしかしてむかついてた?
矢崎:いや。え? 俺、うざい?
柿澤:いやいや(笑)
柿澤さん)
こんな風に、同い年ですし和気あいあいとですね、僕らはなにも気を使うことなくやっています(笑)。
海乃さんは、宝塚を退団されて最初の作品。今回は瀬戸山さんのご意向でインティマシーコーディネーターさんが入ってくださっていますが、ボニーとクライドですから、キスシーンやラブシーンなど密接なシーンもあります。その際は、キャストはボニー役とクライド役の僕らだけの稽古場にしてくれてみんなで細かくディスカッションしています。海ちゃんは男性と芝居をすることもはじめてで、僕の想像が及ばない緊張もあると思います。それでも作品に対してポジティブに向き合っている姿はとても美しく、カッコイイと思います。玲香ちゃんはいつもよりニコニコしている(笑)。いつもは緊張していたんだね。
──最後にお一方ずつメッセージを! 瀬戸山さん)
『ボニー&クライド』というと、死を迎えたときの状況が有名ですが、今作では生きた彼らの姿をしっかりと届けたいと思っています。そして生きた時代は違いますが、現代と通じるところもあり、私には彼らが友達のように感じる瞬間もあります。お客様にもそんな感覚になってもらえるような作品にしたいと思います。
海乃さん)
ボニーを自分に落とし込んで、身近に感じながら演じたいと思っています。映画では客観的に二人を描いている部分もありますが、今回は二人が生きた過程を丁寧に描いているので、それをしっかりとお見せできるように稽古をしっかり頑張っていきたいと思います。
桜井さん)
ボニーとクライドがなぜギャングになったのか、そこにはちゃんと理由があって、気持ちがある。そこが丁寧に描かれている作品です。そしてとにかく楽曲もビジュアルもカッコいいので、二人を見て、「スカッとした!」と思ってもらえるような作品にしたいと思います。
矢崎さん)
すごくポップな曲も、素敵なバラードもあるこの作品を、僕はすごくイケてると感じています。それをぜひ劇場で体感していただき、「なんかすごく悪い奴らだったけど好きになった」と思ってもらうことを目指して稽古を頑張ります!
柿澤さん)
ボニーとクライドは犯罪者ではありますが、ボニーの葬儀にはファンが3万人、クライドの葬儀には1万5千人が集まったことが史実として残っています。なんでクライドのほうが少ないんでしょう、それはいいとして(笑)。たくさんの人が、二人をアンチヒーローとして見送った。そこには「悲しいな」とか「暴れてくれてありがとう」とかいろんな感情があったと思います。僕らも、お客さんに「(悪いことばかりやっているけど)頑張れ!行け!」と思ってもらえるように稽古を重ねていこうと思います!本日はありがとうございました。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人