
Ⓒ大野洋介
世田谷パブリックシアターラインアップ発表会が行われました。注目の演劇人による“今”を映すような公演事業と地域に根差した学芸事業の⼆本柱での事業を進める世田谷区・三軒茶屋にある公共劇場です。 4年目を迎える白井晃芸術監督による2025年度のプログラムのテーマ、各公演の演出、脚本を担当するみなさんのコメントの要旨をご紹介いたします。
ご登壇されたのは、6 ⽉〜7 ⽉『みんな⿃になって』演出:上村聡史さん、7 ⽉〜8 ⽉せたがやアートファーム 2025『キャプテン・アメイジング』演出:⽥中⿇⾐⼦さん、8 ⽉あたらしい国際交流プログラム リーディング公演『不可能の限りにおいて』 演出:⽣⽥みゆきさん、 11 ⽉〜12 ⽉ 『シッダールタ』劇作:⻑⽥育恵さん(演出:白井さん)、12 ⽉ シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.17-フィジカル-構成・演出・振付:⾼橋萌登さん、2 ⽉『⿊百合』演出:杉原邦⽣さん、3 ⽉ ⾳楽劇『コーカサスの⽩墨の輪』上演台本・演出:瀬⼾⼭美咲さん。そして⽩井 晃 世⽥⾕パブリックシアター芸術監督です。
【はじめに】
芸術監督:⽩井晃さん
Ⓒ大野洋介
パンデミックがようやく収まりを見せて、落ち着いてきたように思いますが、この4年の間に舞台芸術を取り巻く環境や世の中の情勢も⼤きく変化しています。舞台芸術と観客の皆さんとの距離が少し離れていってしまっている、若い世代との間に隙間が生じてきてしまっているのではないかという危機感を私は覚えています。
2024年度は、プログラム全体を「わたしは、この世界とどのように向き合うか。」というテーマで企画しました。その感覚は今も変わらず、今年はより切迫してきた感覚から
「わたしは、この世界にどう⽣きるか。」というテーマを掲げて、アーティストの皆様と話を重ねながらプログラムを考えてきました。また、もうひとつの理念として
「アートファーム」という⾔葉を掲げ、この劇場の中で演劇・ダンス・サーカス・⾳楽そして美術などさまざまなアートが混在した空間にしていきたいと思います。
【公演紹介】
2025年6⽉〜7⽉ 『みんな⿃になって』 演出:上村聡史
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世⽥⾕パブリックシアターでは、ワジディ・ムワワドの戯曲『炎 アンサンディ』、『岸リトラル』、『森 フォレ』と三作品を上演してきました。ムワワドという作家は、世界基準でみてもかなり独創性のある作家だと思います。
今回の『みんな⿃になって』は、よりアクチュアルな、現実性を帯びる作品になるかと思います。そのアクチュアルな現実性というのは、作劇において、イスラエルという地域性がダイレクトに反映されています。それまでの作品では、作者⾃⾝の出⽣地であるレバノンやその近辺は、具体的に固有名詞を出すことなく、ある寓話性のなかに中東という地域性を感じさせていたのですが、今回はイスラエルという、ユダヤとイスラムの対⽴、そして市⺠の⽣活を破壊する分断と緊張感を生々しく取り入れています。そして、レバノンとは複雑な位置関係にあるイスラエルを、複雑な感情と諦観の視線でしっかりと描き、ムワワドの作品群のなかでも、とても意志の強い作品だと感じています。そういった意味では、前三作とは、少し⽑⾊の異なった⾵合いになるかと思います。
演出者としては、現在進⾏形の惨劇が続く世界のなかで、我々は究極的な選択を迫られているのではないのかといった問いかけを、強⼒なキャスト陣とともに皆さんに投げかける作品を創作したいと思います。
「せたがやアートファーム2025」について 芸術監督:⽩井晃7⽉〜8⽉に「せたがやアートファーム2025」を開催します。「アートファーム」というネーミングには、新しいアートの種をまき、芽を出して、育て、花開かせ、実がなるような場を作りたいという思いが込められています。演劇・ダンス・サーカス・⾳楽・美術などが混在するファームとして、⼦どもから⼤⼈まで誰もが楽しめる作品を提供してまいります。
2025年7⽉〜8⽉ 『キャプテン・アメイジング』 演出:⽥中⿇⾐⼦
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この作品は、翻訳の永⽥景⼦さんから面白い一人芝居があると紹介していただき取り組むことになりました。⽗親と娘の6年間の物語で、10以上の役柄を1⼈の俳優だけで全て演じます。どうしてたった1⼈の俳優で物語のすべてを演じるかということにも深い理由がある作品で、それもこの作品の魅⼒だと考えています。
「キャプテン・アメイジング」という名のスーパーヒーローに扮する主⼈公の⽗親マークとその娘が、娘が7歳の誕⽣⽇を迎える直前まで⼀緒に過ごすという物語です。2⼈のやり取りは温かくて時々やるせなくコミカルでもあり、娘との記憶──彼の中だけにある思い出や妄想、実際にあった出来事がその境⽬を失っていきます。現実とは何なのか、その曖昧さもこの作家の特徴で、余⽩がたくさんありいろいろな解釈ができる作品です。
今回トリプルキャストで上演させていただきますので、演じる俳優によっても⾒えてくる印象、⼿触り、⽿に残る⾔葉がかなり違ってくるのではないかなと思っています。たった⼀⼈の俳優とそれを観る観客という演劇に必要な最⼩限の関係で成り立つ作品ですので、ダイレクトな関係を劇場で体験していただけるのではないかと思います。
【公演NEWS】一人芝居『キャプテン・アメイジング』~父と娘の物語を田中麻衣子の演出、近藤公園、田代万里生、松尾諭のトリプルキャストにより日本初演!「あたらしい国際交流プログラム」について 芸術監督:⽩井晃今年度から次代を担うクリエイターの皆さんに国際的に発信していただくために、劇場がバックアップをしていく事業として「あたらしい国際交流プログラム」を立ち上げます。その第⼀弾として⽣⽥みゆきさんに『不可能の限りにおいて』のリーディング公演をしていただきます。
「あたらしい国際交流プログラム」は3年、5年と⻑期的に⾏ってまいりますので、⽣⽥さんには来年度、再来年度も関わっていただくような形で⾏いたいと考えています。
2025年8⽉ リーディング公演『不可能の限りにおいて』 演出:⽣⽥みゆき
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この作品は、2022年にアヴィニョン演劇祭で上演されました。今年の「SHIZUOKA せかい演劇祭」にオリジナルカンパニーが来⽇し『<不可能>の限りで』というタイトルで上演されますが、その直後の8⽉に、我々が東京で、⽇本語で上演するということになります。
この作品は、国際⾚⼗字社と国境なき医師団の⼈道⽀援者へのインタビューを構成して創られたものです。『不可能の限りにおいて』というタイトルには、「変わっていく世界に対して、⾃分たちが何もできないからといって、何もしないわけにはいかない」という思いが反映されていると考えています。このインタビューを受けた方々は「可能」ではなく「不可能」ということがベースにある中で働いていらっしゃる。「変えられない=不可能」な環境下で、ジレンマを抱えつつ「その限りにおいて」活動する方々の姿が戯曲に映されています。こうした方々の切実な⾔葉を、⽇本語で改めてご紹介できるのはとても意義のあることだと考えます。リーディング公演なので⾔葉を届けるということを⼀番⼤切にしながら、創作をしていきたいと思います。
また、「あたらしい国際交流プログラム」として、スタッフや出演者の皆さんとの関係づくりや創作のプロセスを⼤切にしながら、この作品だけでなくその先のクリエイションも意識しながら進めていきたいと思います。
2025年11⽉〜12⽉ 『シッダールタ』劇作:⻑⽥育恵
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ヘルマン・ヘッセはドイツの作家ですが、第⼀次⼤戦中に愛国⼼と⼈道主義・平和主義の間で引き裂かれ、反戦・⼈道に基づくエッセイを書いたためにドイツの⽂壇から追放され、⾟い⽬に遭った作家です。
この「シッダールタ」という作品はヘッセが⾃我への探求を深め、シッダールタというインドの⻘年の物語を書いたものです。貴族として⽣まれたシッダールタが、バラモン階級・貴族社会に疑念を感じて苦⾏者の集まりの中に⾝を落として修⾏する道を選ぶ。そこにブッダが現れて、今度はブッダのもとで教えを請おうとするけれども、そこでは救済は⾒いだせず、⼀⼈になっていろいろな⼈との交わりの中で悟りの道をひらいていくというストーリーです。私がブッタと交わるシッダールタという⻘年について⾯⽩いと感じるのは、作品の中盤にでてくる⾃我と共同体というとても大きなテーマが現れる部分です。本作はシンプルに⾃分という存在はなんなのか、⾃我がどこに向かうのか、果たして⼈間という存在はそれほど重要で重いものなのかという事を突き詰めていく作品になるのではないかと思います。
劇作家としては、⽩井さんからこの作品をぜひ舞台化したいという⻑年の熱い思いで声をかけていただけたことが、とても光栄です。⽩井さんの演劇に対する純粋性、この作品を題材に多層的に世界を見ていこうという眼差し、観客⼀⼈⼀⼈の⼼に深くシンプルなメッセージを届けたいという強い信念等、全てに共感しながら舞台化の道を楽しんで進んでいきたいと思います。
演出:⽩井晃原作の中に「⾃分がシッダールタであるという謎ほど、⾃分を思い悩ますことはない、この世のあらゆるものの中で、最も知ることが少ないのは⾃分⾃⾝のことだ、だから⾃分⾃⾝について学ぼう、⾃分⾃⾝の弟⼦になろう」という⾔葉があります。その⾔葉がとても印象に残っていて、⾃分という秘密を探っていこうということ⾃体が、我々にとって⼤きなテーマなのではないかと考えています。
◆2025年12⽉ シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.17-フィジカル-構成・演出・振付:⾼橋萌登
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新作公演では、リミナルスペースをテーマに、⼈が無意識のうちに感じる、ここでもない、あそこでもない場所と⼈との関わりを探求するダンス作品を発表します。リミナルスペースとは元々は建築⽤語で、廊下や階段、ロビーなどの場所と場所をつなぐ、⼈が移動するための空間を指します。しかし、近年では⼈の気配のない空間でありながら妙な懐かしさや不安を感じる場所として、SNSやインターネットで注⽬を集めています。なぜ⼈はこうした空間に惹かれるのか、私はそこに、どこにも属さない感覚と、その狭間にいることへの⼼地良さがあると感じました。
私⾃⾝、クラシックバレエとストリートダンスを織り交ぜたスタイルで振付を⾏っています。異なるジャンルを踊りながら、どこにも完全には属さない感覚を持っていました。しかしその曖昧な場所にこそ、⾃由や創造の余地があるのではないかと考え、このテーマを作品にしてみたいと思いました。ダンス作品を劇場で観たことがない⽅や、普段は演劇しか観ない⽅、劇場はちょっと敷居が⾼い場所だと思っている⽅にも⾯⽩かったと感じてもらえる機会にしたいと思っています。私の⽬標は、映画鑑賞やスポーツ観戦と同じような感覚でダンス公演を劇場に観に来てもらうことです。そんな作品となるよう全⼒で挑みます。
◆2026年2⽉ 『⿊百合』 演出:杉原邦⽣
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世⽥⾕パブリックシアター主催公演での演出は初めてであり、また泉鏡花の作品を演出するのも今回が初めてとなります。
泉鏡花は、幻想的でロマンチックな世界観を美しい⾔葉で繊細に構築している作家だという印象がまずあるのですが、⼀番の魅⼒は⼈の営みや⼈間の存在は常に⾃然の中、そして宇宙の中にあるものだと私たちに語りかけてくれるところだと思っています。⼈間という⽣き物は⾃然の⼀部であり、宇宙の⼀部であるということから⽬をそらさずに物語を⽴ち上げていることはとても印象的です。その泉鏡花という作家が持っているダイナミズムを、世⽥⾕パブリックシアターという空間に演劇という⼿法を使ってダイナミックに出現させたいと思っております。今回初めて、脚本の藤本有紀さん、⾳楽の宮川彬良さんとご⼀緒させていただきます。特に宮川彬良さんは以前からのファンで、蜷川幸雄さんの『⾝毒丸』の⾳楽は宮川さんが担当されているのですが、⼈⽣で⼀番多く⽣で観た舞台で7回観劇しています。
劇場にいらっしゃった観客の皆さんが『⿊百合』を観て興奮して帰っていただけるような作品にしたいと思っています。
◆2026年3⽉ ⾳楽劇『コーカサスの⽩墨の輪』 上演台本・演出:瀬⼾⼭美咲
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⽩井さんからお声がけいただき『コーカサスの⽩墨の輪』の上演台本と演出を担当します。この作品は、私⾃⾝もとても⼿掛けたいと思っていた作品です。今回は、本作をこの時代にやるということで、劇作家としてもこの作品を読み直したい、書き換えたいと思っています。酒寄進⼀さんの翻訳をもとに、今この時代に即した形でまず劇作家としてこの作品に向き合ってから、それを演出家としてどう観客の皆さんと共有するか考えていきたいと思います。
この作品には、現代的な題材もたくさん潜んでいます。例えば、その⼦どもは誰のものであるか、という中⼼に据えられた問題がありますが、現代においても⽣殖医療などが発達し、代理⺟などさまざまな場⾯で⽣まれてきた⼦どもが誰のものなのかということが問われる機会も増えてきていると思います。また、本作は戦争の後の物語ですが、戦争や虐殺が続いている現代においても、これからどういう出来事が待っているのかという事が⽰唆されていると思います。
原作ははるか昔の物語として書かれていますが、今回、私はあえて未来の戦争が終わった後の世界の物語として再構成したいと考えております。また、今回は⾳楽劇ということで、完全にオリジナルで今に即した楽曲を創る予定です。
お客様になるべく体験・体感してもらえるような仕掛けも考えて、頭と⾝体を両⽅刺激するような作品にしていけたらと考えております。
◆世田谷パブリックシアターラインアップ
『フリーステージ2025』
2025年4月26日(土)~5月5日(月・祝)
@世田谷パブリックシアター・シアタートラム
『みんな鳥になって』
2025年6月~7月@世田谷パブリックシアター
【作】ワジディ・ムワワド【翻訳】藤井慎太郎【演出】上村聡史
せたがやアートファーム2025
<パフォーマンス>
『キャプテン・アメイジング』
2025年7月~8月@シアタートラム
【作】アリスター・マクドウォール【翻訳】永田景子【演出】田中麻衣子

『せたがや夏いちらくご』宣伝写真
Ⓒ山添雄彦
『せたがや 夏いちらくご』
2025年7月27日(日)@世田谷パブリックシアター
【プロデュース】春風亭一之輔 【出演】春風亭一之輔 ほか

『ブレイブ・スペース』作品写真
ⒸMark Ronson
アロフト・サーカス・アーツ 『ブレイブ・スペース』
2025年7月28日(月)~7月31日(木)@世田谷パブリックシアター
【演出・コンセプト】シェイナ・スワンソン
to R mansion『走れ☆星の王子メロス』〔提携公演〕
2025年8月9日(土)~8月11日(月・祝)@世田谷パブリックシアター
<ワークショップ等>
・夏休み子ども生活工房(仮)
・to R mansion ワークショップ
・小学生のためのエンゲキワークショップ
・中学生のためのエンゲキワークショップ
・高校生のためのエンゲキワークショップ
・世田谷パブリックシアター インターンシップ
あたらしい国際交流プログラム
リーディング公演 『不可能の限りにおいて』
2025年8月@シアタートラム
【作】ティアゴ・ロドリゲス【翻訳】藤井慎太郎【演出】生田みゆき

『トリプティック』作品写真
ⒸMaarten Vanden Abeele
ピーピング・トム『トリプティック』
2025年9月27日(土)~9月30日(火)@世田谷パブリックシアター
【構成・演出】ガブリエラ・カリーソ フランク・シャルティエ

『三茶de大道芸2024』風景写真
ⒸShinya B
世田谷アートタウン2025『三茶de大道芸』
2025年10月@キャロットタワー周辺

『キャストシャドウ』作品写真
© Christophe Raynaud de Lage
世田谷アートタウン2025関連企画
カンパニー・ルーブリエ/ラファエル・ボワテル
『Ombres Portées/キャストシャドウ』
2025年10月@世田谷パブリックシアター
【演出・振付】ラファエル・ボワテル
『シッダールタ』
2025年11月~12月@世田谷パブリックシアター
【原作】ヘルマン・ヘッセ「シッダールタ」「デーミアン」 【翻訳】酒寄進一
【劇作】長田育恵 【演出】白井 晃

シアタートラム・ネクストジェネレーションMWMW 過去作品写真『巳己巳己』
© Sugawara Kota
シアタートラム・ネクストジェネレーションvol. 17-フィジカル-
高橋萌登・MWMW『新作公演』
2025年12月@シアタートラム
【構成・演出・振付】高橋萌登
『黒百合』
2026年2月@世田谷パブリックシアター
【原作】泉 鏡花 【脚本】藤本有紀【演出】杉原邦生
音楽劇『コーカサスの白墨の輪』
2026年3月@世田谷パブリックシアター
【原作】ベルトルト・ブレヒト 【翻訳】酒寄進一 【上演台本・演出】瀬戸山美咲

『地域の物語2025』WS風景写真
『地域の物語2026』
2026年3月@シアタートラム世田谷パブリックシアター 2025/04-2026/03 主催公演ラインアップ
この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました