新国立劇場『消えていくなら朝』蓬莱竜太さん×大谷亮介さん×関口アナンさん座談会レポート

『消えていくなら朝』@新国立劇場小劇場
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蓬莱竜太さんが2018年に新国立劇場に書き下ろし、私戯曲的な内容としても話題を呼んだ『消えていくなら朝』。2025年7月、フルオーディション企画第7弾として、蓬莱さん自らが演出を担い再演されます。作・演出の蓬莱竜太さん、主人公で劇作家の「僕」役の関口アナンさん、お父さん役の大谷亮介さんにお話を伺いました。



蓬莱竜太さん 関口アナンさん 大谷亮介さん

撮影:引地信彦


【想像以上にうちの家族って笑われるんだ、それが救いになった】

──蓬莱さんが2018年に新国立劇場に書き下ろした『消えていくなら朝』。初演は当時の新国立劇場演劇部門芸術監督でもあった宮田慶子さんの演出で上演されました。今回はそれをフルオーディション企画で、さらに蓬莱さんご自身が演出を手掛けます。そこに至るまでの経緯をお伺いできますか。

蓬莱さん)
まず「フルオーディション企画で演出を」というオファーをいただき、劇場から提案された候補作品の戯曲を何本か読みました。非常に興味深い作品もありましたが、自分のなかで、フルオーディションで新しく出会う役者さんとともに作るなら、もう少しチャレンジしたいという思いもあり、「この作品もいいのですが、まだほかになにかありますか」というお返事をしたところ、この作品が候補に挙がりました。自分が演出しないことを前提として書き、正直、演出しないから書けたとも言える戯曲を自分が演出するというオーダーにはドキッとしましたが、これは僕にとっても挑戦となるだろう。その意味で一番やりがいがある題材だと思いお引き受けしました。


──少し時を遡って初演の印象をお聞かせください。ご自身の家族や経験を書いた戯曲を宮田さんに預けた初演はどう映りましたか。



撮影:引地信彦


蓬莱さん)
「うちの家族って、なんかさー」と言える気持ち、反骨心がまだ残っている最後の年頃、40代前半に家族のことを書いておく意味があると思って執筆しました。今、自分も50歳近くなると、両親もいたわるべき存在。ただ元気でいてくれればいいという気持ちになりつつあります。
そして初演の本番を見たときは、想像以上にうちの家族って笑われるんだな、滑稽なんだなと思いました(笑)。そうだよなって思いつつ、自分の中で浄化されるような。それは救いでもありました。
家族それぞれの視点に立つことで、自分のことも見えてきて、実際に家族の気持ちを文字に起こしているときはえぐられるような感覚もあったんですけどね。傍から見たら笑えるんだなって。

それは“滑稽な家族”としてこの戯曲を立ち上げるという宮田さんの演出によって生まれた受け取りやすさ。今回、自分が演出するにあたっては、笑いでもなければシリアスでもないところにもっていったら、お客さんはどう観るのかに興味があります。土台は僕の家族の話ですが、客観視してバランスを取りながら、今回の役者で新しい家族を作るような感覚です。でも実際に稽古が始まって僕自身が「僕」を擁護し始めたらおかしいですよね。「僕」はもっといい男だなんて(笑)。

──客観視、少し距離感をもって戯曲に向き合える時期になったとも言えそうです。演出的に、どう立ち上げていこうとお考えですか。

蓬莱さん)
この作品は、お客さんからどう見えたらいいのか、そこをコントロールして作る芝居ではない。あくまでも、ある家族が会話をして、ある一夜が過ぎていく。それを粛々と作っていく作品です。それが人には滑稽に見えるかもしれないし、心に深く刺さるかもしれない。実際には家族でない役者同士がどこまで家族の歴史を体験として味わえるのかがカギ。しかもこの家族の関係というのは、もはや2時間の芝居でなにかが変わるものでもない。価値観が変わっていく芝居ではなく、価値観が明らかになっていく作品なんです。だから稽古では、もともとどういう前提の家族でいるかというところをひたすら探し続けるんだろうなと思います。オーディションで集まったみなさんとともにどこまで掘れるのか、演出家としての作為は最小限にして、どこまで作っていけるのかにも挑戦したいと考えています。


【フルオーディション企画は出会いの場でもある】

──7回目となるフルオーディション企画、どのような思いで参加されましたか。



撮影:引地信彦


蓬莱さん)
新国立劇場のフルオーディション企画は、役者さんにとっても、僕らにとってもいろんなチャンスがある“開かれた”企画として興味深く見ていました。全キャストをオーディションで決めるというのは僕自身はじめてのことです。
実際に取り組んでみると、いろんな役者さんに出会える喜びとともに、選ぶ難しさも感じました。2000人以上の方が応募してくださったのですが、審査を進める過程でどんな基準で選ぶのか、落とすのかという難しさです。今回は様々な可能性のなかから、最終的には家族としてのバランスで決めました。いいお芝居をされているけれど今回の作品には……という方もいましたが、それもまた今後、創作、キャスティングする際に頭をよぎる役者との大切な出会い。その意味でも、僕の財産になりました。



撮影:引地信彦


大谷さん)
この企画については友達が出たこともありましたし、興味もあったのですが、どうしたらいいか、やり方(手順)がわからなくて(笑)。今回は事務所のスタッフにも応募を促され、いろいろと手伝ってもらい参加できました。オーディションでは、これまでお目にかかったことのない俳優さんと一緒に芝居ができ、こんな人もいらっしゃるのか、こういう風に取り組んでいるんだと新たに知ることも多かったですね。初めて参加したのですべてをわかったわけではないですが、「こんな風に演劇を作っていくこともあるんだ、なるほど」と思いました。



撮影:引地信彦


関口さん)
僕はフルオーディション企画に挑戦したのは『かもめ』『イロアセル』に続いて3回目です。もともと蓬莱さんの作品が好きだったこともあり、今回のオーディション情報を見て、これは絶対に挑戦しようと思いました。書類審査を通らないと始まらないので、まずは応募書類の最後に「この書類を出したら、神社にお参りに行ってきます」と記すくらいの意気込みで臨みました(笑)。

──三度目の正直ですね!

関口さん)
新国立劇場のオーディションでは「台詞を覚える必要はありません」と言われるんです。そこを見ているわけではないと。でも、僕はちょっとひねくれているのか「そんなわけがない!」と思っていて、毎回、なるべく覚えていくんです。単純にその方が、自分が演技しやすい、居やすいというのもありまして。

※台詞を覚えている/いないは本当に審査に影響しないとのことです

──そのオーディションの結果選ばれたのがお二人をはじめとした6人のキャスト。蓬莱さんを投影したキャラクター「僕」に関口さんを選んだ決め手や選考の際に大切にしたポイントは。

蓬莱さん)
まずは“劇作家であるという匂い”です。集まってくださった30代くらいの役者さんは、どうも作家らしくない。作家じゃないので当たり前なんですけど。なんかみなさん元気なんですよ(笑)。”作家臭“といいますか、どこか物事を斜めに見るんだけど、反骨しているわけでもなく……、そんな”匂い“が大事な役なので、もしかしたら役者がやるのは難しい役なのかなと思い、焦り始めたところに現れたのが関口さん。その姿に、「あっ、居た」と思いホッとしたことをよく覚えています。



撮影:引地信彦


関口さん)
キャストが発表された直後に、モダンスイマーズの劇団員の方から「確かにアナンって若い頃の蓬莱に顔が似ているよね」みたいなことを言われたんです。「え、そういうこと⁉ もしかして外見で選ばれたのかな」とぼんやりと思っていました(笑)。かと言って僕から蓬莱さんに選ばれた理由を聞くのも野暮ですし。今、そういうことだったんだと知りました。

※モダンスイマーズ:蓬莱さんが所属する劇団

──蓬莱さんが感じたという“劇作家の匂い”について自覚はありますか。

関口さん)
物事を斜めに見ているかなぁ(笑)。自分が気づいていないところでそういうところがあるのかもしれませんね。覚えなくていいと言われても、台詞を覚えてオーディションに臨みますし (笑)。

蓬莱さん)
実は、関口君とは10年くらい前に飲み屋で一度会っているんですよ。お芝居も見ていて、そのことも覚えています。今回の書類を見たときも、あのときの役者さんだとすぐにわかりました。でも実際にオーディションで芝居を見たら、こんな役者さんだったかなと。10年間で印象がずいぶん変わりました。いい感じに斜めってきたなって(笑)。

関口さん)
ありがとうございます(笑)。

──お父さん役の大谷さんについてはいかがでしょう。

蓬莱さん)
「僕」と同じくらいお父さん役も選ぶのが難しい役でした。理由の一つはやっぱり自分の親父のイメージがちらつくから。それと、この家族はすべてお父さんを軸として動いているということも大きい。兄貴や妹についてもお父さんとの距離感が大事なポイントになる、家族の中である種のカリスマ性を発揮する役なんです。「僕」にしたって、お父さんには抗いながらもある種の吸引力を感じざるを得ない。清濁併せもつ、そんな骨格を持つ人物像です。
大谷さんは自分で哲学したり、演劇に対しても独自の捉え方をされていたり、どこか“その時代を生きた俳優の匂い”がある。その力をお借りしたいというのがあり、大谷さんに演じていただくことに決めました。あと、うちの親父もそうなんですが、まだどこか男でもある。そんな匂いもするんです。おしゃべりすると親しみやすいおばちゃんのような方なんですけど(笑)。


【この家族について】

──大谷さんはご自身の役やこの家族についてどう感じますか。



撮影:引地信彦


大谷さん)
父親として、ちゃんと考えている人。難しさもありますが、難しいと考えていたらできなくなっちゃうからね。家族が集まり、そこにお客さんもいて(「僕」の彼女レイ)、話の成り行きで家族関係や昔の話になったときに、状況を見てバランスを取りながらしゃべる。基本的にそういうことをちゃんとできる父親だけど、ついカッとして言ってはいけないことまで言ってしまう。ドキッとするようなところもあります。

関口さん)
自分の父親もちょっと似ているところがあって、家族の大黒柱というような存在というのが昭和の男というか。そんな父と息子の関係性は僕のなかにも結構あるんです。あとは、僕自身は男兄弟なので、そこに妹がいるというのがどんな感じになるのか。そこに彼女を連れてくることでひとつ外からの力が加わって……いろんなベクトルが複雑に混じり合うようなところも大事にしていきたいです。


──「僕」という役や作品の印象はいかがでしょう。

関口さん)
過去のある出来事をずっと心に抱えている。それがあるから“こういう人間”になっている「僕」。この“ずーっと思っている”というのがすごいですよね。

蓬莱さん)
(小声で)フィクションなんですけどね(笑)。

関口さん)
演じる上では、“ずーっと思っている”ということと、どう向き合っていくかを考えています。稽古場で蓬莱さんに訊けることもあると思いますので、そこは心強いです。
作品自体については、一夜の話ですが、すごい濃度の濃いことが起こっている。それをどう体現していけるか。そこではやっぱり“家族になれるか”というところに行きつくと思うんです。
キャストが決まってから本読みをしたのですが、あんなに疲れた本読みはなかったというくらい、終わったときは汗だく。それだけエネルギーを必要とする作品なんだと実感しました。初めての本読みの緊張感と、芝居でのやりとりの緊張感が入り混じる感覚、家族の間で「はじめて打ち明ける話」なので、この感覚に慣れないように、新鮮でいなければという気持ちももっています。


【「……」に蓬莱さんの作品の醍醐味がある】



撮影:引地信彦


──俳優から見た蓬莱作品の魅力は。舞台を見ているだけではわからないところですが、戯曲を拝読すると「(笑)」が多かったりします。

関口さん)
多いで言うと「……」も(笑)。

大谷さん)
多い多い。この作品でも最初のシーンとかね。

関口さん)
そこに蓬莱さんの思いがあるのではないかと。そこを稽古で言ってくれるのか、くれないのかはわかりませんが(笑)、「(笑)」や「……」に蓬莱さんの作品の醍醐味があると思っています。また登場人物の台詞と実際の感情が同じではないという面白さもありますよね。その解釈やそこから生まれる芝居の化学反応を一緒に作っていくのが楽しみです。

大谷さん)
蓬莱さんの作品はいくつか読んだり、観たりしています。僕は戯曲を読むと、どうしてもどんな台詞なのか、その構造はどうなっているのかと論理的に考えてしまいますが、家族の会話ってそんなに論理的なものではないんですよね。父親であり、人間でもあるけれど、そこでは動物的な生理も大事になってくるんじゃないかと思っています。ほかの俳優さんが演じる家族と、どう父親として接していくかがポイントになると考えています。ただ台詞の半分くらいが「……」だと、そこはどうすればいいんだろうとは思います(笑)。

──最後にひと言ずつ、こんなところを楽しみにしていてくださいというコメントをお願いします。

蓬莱さん)
これが温かい話なのか、怖い話なのかは、僕にもわかりません。
この戯曲のなかの会話では、どこまでが本音か、虚勢を張っているだけなのか、いろんな駆け引きがあります。少なからず家族ってそういうスリリングなところがありますよね。そんなスリリングな体験をしてもらえる作品になるといいなと思っています。

関口さん)
とても人間的なお話ですし、家族というのは共感しやすい入口ではあると思うんですけど、僕も終わったときにどうなっているか全然わからないんです。でも、なんて言うか、観た帰り道で考え込んで電車をひと駅乗り過ごしてしまうくらいの作品にはなると思います。期待して待っていてください。

大谷さん)
僕たちが子どもの頃は、遊びに行くというとちょっとお金持ちの親戚のうちに行っておいしいケーキを食べるとか、そういう感じだったんです。大人たちがなにを話しているのかよくわからないけれど、なんかみんなが笑っている。しかもそんな風に4時間くらいしゃべって、帰っていく。わからないながらに、それがいとこだったり親戚だったり、なんか大切なつながりのように思えた。この戯曲のお父さんと僕は同世代だから、やっぱり家族で集まって、なにか食べるとか、話をするとか、そこへの思いは通じるものがあると思う。でもこの作品で、家族の中心、その象徴のような父親がいて、子どもたち、奥さんがいて……いろんな問題があるなかで、ご主人の気持ちもよくわかるんだけど、僕の人生を振り返ってみると奥さんも気の毒だなというか……。

蓬莱さん)
自分のことに話が広がっていますが……。大谷さん、ここ締めだから(笑)。

大谷さん)
でも、やっぱり自分のことを考えちゃうよね(笑)。

蓬莱さん)
そうですね。確かにそういう話でもあります。

大谷さん)
そんなところでいかがでしょう。

一同:(笑)

──ありがとうございました。決して答えがない、家族の会話劇のスリルというのは確かに大なり小なり思い当たるところがあります。みなさんがどんな家族を作り上げるのか、楽しみにしています!



撮影:引地信彦



『消えていくなら朝』@新国立劇場小劇場
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【公演情報】
シリーズ「光景─ここから先へ─」Vol.3『消えていくなら朝』
2025年7月10日(木)~27日(日)@新国立劇場 小劇場
※開場は開演の30分前です。

作・演出:蓬莱竜太
キャスト:大谷亮介、大沼百合子、関口アナン、田実陽子、坂東 希、松本哲也

芸術監督:小川絵梨子
主催:新国立劇場

写真提供:新国立劇場
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人

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