チャールズ・ディケンズの名作、18世紀のイギリスとフランスの二国を舞台にした美しいロマンス「二都物語」。2007年にアメリカでミュージカル化され、翌年にはブロードウェイ進出、日本では2013年に帝国劇場にて初演されました。あれから12年。ついに再演の幕が上がりました。
飲んだくれの弁護士シドニー・カートンには井上芳雄さん、カートンと瓜二つのフランスの亡命貴族チャールズ・ダーニーには浦井健治さんが初演から続投!その二人から思いを寄せられる女性ルーシーには潤花さん。2025年の『二都物語』で核となる3人のキャラクターを演じるお三方が登壇しての囲み取材&公開ゲネプロが行われました。
【囲み取材レポート】
──いよいよ12年ぶりの再演の幕が上がります。再演決定のとき、また現在の心境をお聞かせください。
井上さん)
まさか再演できると思っていなかったのでびっくりしました。僕自身もファンの方のなかにも再演を望む気持ちはありましたが、10年以上経っての再演というのは、“相当な事情”、“相当の力”が働かないと……いや、誰のどんな力かはわかりませんが(笑)。
でもきっと帝国劇場が建て替えとなるタイミング、明治座さんで東宝ミュージカルを上演していくというときに、濃密なドラマのあるこの作品がふさわしいとなったのでしょう。再演が決まったときは喜びが湧き上がってきました。
浦井さん)
鵜山仁さんの演出のもとストレートプレイのようにお芝居を積み重ねていく作品。続投となる諸先輩方は12年のときを経て、12年分の垢(あか)といいますか……
井上さん)
垢って(笑)! より濃いお芝居をされていますよね。
浦井さん)
はい(笑)。それが『二都物語』の世界に深みを与えてくださっています。自分たちも、追い越せ……
井上さん)
追いつけ追い越せ、まずは追いつくところから(笑)
浦井さん)
笑!! 追いつけ追い越せで食らいついていきたいと思います。ダーニーの新曲もあるので、そちらもしっかりと務めたいと思います。

(井上さんと浦井さんの、この絶妙なやり取りは12年経っても変わらない!)
潤さん)
今回、はじめて『二都物語』の世界をルーシーとして生きるのですが、初演から携わっているキャスト、スタッフのみなさん、そして鵜山さんがいらっしゃることで、稽古場からとても密度の濃い稽古を重ねることができました。さらに劇場入りしてから、私が出演していない場面を客席から観て、お客さまとの一体感が強く感じられるだろうと思いました。お客様と物語を共有できることを楽しみにしています。
──井上さんと浦井さん、久しぶりに共演されていかがでしょうか。
浦井さん)
大変光栄です。プロデューサーさんからお聞きしたのですが、芳雄さんが「(自分が)カートンを演じるならば、ダーニーは浦井健治じゃないか」ということで、オファーをくださったそうです。相思相愛だなと(笑)。
井上さん)
近いようなことは言ったのですが、それだと僕が全権を握っているような印象を与えてしまう(笑)。僕は、鵜山さんはもちろん、出来る限り12年前と同じ座組でという思いはもっていました。浦井くんは「浦井じゃないとやらない」みたいな言い方をするので……そんなことは……でも浦井くんだと嬉しいなと。
浦井さん)
しどろもどろじゃないですか!(笑)
井上さん)
笑!(浦井くんとは)帝劇の最後のコンサートから一緒なのですが、次の帝劇に繋ぐ5年間のスタートとなる大事な作品での共演は心強いです。
──12年経ち、お互いに変わったところは?
浦井さん)
芳雄さんの権力の大きさでしょうか(笑)。 それは冗談として、お芝居も歌も進化を続けていらっしゃる。それも肩の力を抜いてという方向への進化。同世代のなかで先頭を走り続ける兄貴、先輩の背中の大きさがカートンとリンクしています。みんながついていきたくなるような芳雄さんの頼もしい背中を追い続けたいと思っています。

井上さん:浦井くんは12年前はオーケストラピットに飛び込みそうな勢いが!
浦井さん:(今は)無理だなー、それは!
井上さん)
12年前は、ワーワーキャッキャという若さや勢いがありました。その個性や魅力はそのままに浦井くんも大人になった、立派な俳優さんになったなと頼もしく思います。“僕ら”については、付き合いが長くなることで無駄な話をしなくなりました。そんなにしゃべらなくても心は伝わっているだろうと。そう思っていたら伝わっていなかったりもするのですが(笑)。そんなわかったようでわからないというのが浦井くんの面白さ、魅力の尽きない方です。順花さんはどうです?
潤さん)
浦井さんと似ていると言われるんです(笑)。

浦井さん:怪獣キャラって言われるんだよね。笑い上戸で!
井上さん:ちょっと天然系。みんなから愛されるところは似ています。
浦井さん)
潤花ちゃんがいてくれることで、みんなが明るい気持ちになるんです。
井上さん)
座組最年少。12年経っているので、座組にはおじさんばかりですが、その中で、本当に一輪の花のようにみんなに愛されています。お菓子をもらったりね(笑)。
──潤花さんは宝塚歌劇団退団後、初めてのミュージカルとなります。
潤さん)
退団後初めてのミュージカル作品で、こんなに素敵な皆様と素敵な作品に出演させていただける幸せを噛みしめています。すでに稽古場から、(公演が)終わって欲しくないと思っていました。

井上さん:そういう気持ち、久しく忘れていました(笑)
浦井さん:覚えていてください!
──潤花さんから見た井上さん、浦井さんの印象は?
潤さん)
お人柄が本当に素晴らしくて! また、お二人が取り組む姿勢から、お芝居は、キャストはもちろんスタッフのみなさんも含めたコミュニケーションによって作られることを強く感じました。お二人とも目、耳、さらにセンサーがいくつあるんだろうというほど、いろんなことに目と耳を向けられて……本当にいろんなことに気を配られています。
<続いては役作りについて…深い!!>
──役作りについてお話しいただけますか。
潤さん)
台本から直感的に受け取ったのは、自分の中で役を作っていくというより、みなさんとのお芝居、鵜山さんの演出を受けて作っていくことが大切になるということです。お稽古で、みなさんからお芝居の道標となるような助言もたくさんいただきました。ここからもいろんな発見をしながら、無我夢中でぶつかっていきたいと思います。
井上さん)
ルーシーにピッタリです。みんなから愛されるというのが、ややもすれば共感を得にくい存在、物語ですが、そこに説得力を持たせてくださっています。
僕は、飲んだくれで世の中を斜めに見ている弁護士カートン。12年前とは違う受け取り方ができています。カートンは聖人のような選択をしますが、最初からそうだったわけではなく、投げやりになったり、恋をしたり、僕たちと同じような感情を抱きながら生きてきた。その中で、愛する人たちのために一つひとつの選択をしていった結果、最後にすごいことを成し遂げた人物だと感じています。この素晴らしい物語が特別な話ではない。物語と自分たちとの距離が近まり、そこに希望が湧くような感覚です。
また、『二都物語』の“二都”の意味についても。パリとロンドンというだけでなく、カートンとダーニーだったり、フランス革命という背景を考えると貴族と民衆だったり、いろんな相反する2つのものに置き換えられる。2つのものがあると、争いになってしまうというのが世の常。僕の解釈になりますが、シドニー・カートンは、最後に、相反する2つの間を取り持てると思ったのではないか。再演ではタイトルについてもすごく考えました。
浦井さん)
『二都物語』でのカートンとダーニーが“瓜二つ”と言う設定も、置かれた状況、生まれた環境が異なる男性二人が、同じ志、愛をもってどう生き抜いたか、生き抜こうとしたのか──その結果として考え方が“瓜二つ”だったということなんだと思います。見た目がどうこうではなく。再演では、それを印象的に形作れたらと思って挑みました。
もうひとつ、これは家族の物語だということ。ルーシー一家、ダーニーの家柄という、切っても切れない血縁がある一方で、カートンとミスター・ロリーのように実の親子ではないけれど一緒に過ごした時間によって家族になることが可能なのではないか。ディケンズが物語に込めて未来へ託したメッセージに心を寄せながら稽古してきました。
──最後にメッセージを。
井上さん)
まず12年ぶりの再演を嬉しく思います。先ほども申しあげたとおり、帝劇が一時クローズした今、ここからの5年は明治座さんをはじめとしたいろんな劇場で東宝ミュージカルを上演していくことになります。そのスタートの1作品としても、しっかりと務めたいと思っております。先月は、この劇場で『1789 -バスティーユの恋人たち-』というやはりフランス革命のミュージカルを上演しました。日本のミュージカル界が革命づいていますが、その理由を考えたことがあります。僕が思ったのは、ミュージカルの力で届けられる“世の中を変えてきた先人たちの姿”から、「自分たちで世の中を変えられるんだ」ということを思い出せるからではないかということ。日々、生きていくのも大変な世の中ですが、『二都物語』は劇場に来たときより、帰るときのほうがみなさんの中にエネルギーがみなぎるような作品。僕たちも一生懸命、エネルギー溢れる舞台をお届けします! 明治座でお待ちしております。
【おまけ】
囲み取材でも、軽妙なやり取りをしつつ、本質的なコメントをしっかりと伝える井上芳雄さんと浦井健治さんのコンビ再び!に胸が熱くなりました。演技は深く、絆は強くなるお二人ですが、チャーミングなところは12年前のまま。
(公開ゲネプロカーテンコールより) 浦井さんを相手に、安心してふざける井上さん。これは強い信頼あってのこと。
この関係性が、舞台上、お芝居でも素晴らしい化学反応を見せるお二人。緩めるところは緩め、締めるところは締める──トップランナーたちのメリハリには信頼しかない!
そして「これが『二都物語』です」、揺るぎない自信がみなぎるような力強い舞台に、新鮮な気持ちで感動し、切なさで胸がいっぱいに。それでいて清々しさもある!
挙げればきりがないですが、<いまは子どものままで>は歌唱、芝居、演出……すべてがハマり絶品! 観劇中からすでにリピートしたくなる興奮、お早目のご観劇をおすすめします。
STORY
18世紀後半、イギリスに住むルーシー・マネットは、17年間バスティーユに投獄されていた父ドクター・マネットが酒屋の経営者ドファルジュ夫妻に保護されていると知り、パリへ向かう。無事に再会し父娘でロンドンへの帰途の最中、フランスの亡命貴族チャールズ・ダーニーと出会うが彼はスパイ容疑で裁判に掛けられてしまう。そのピンチを救ったのはダーニーと瓜二つの酒浸りの弁護士シドニー・カートン。3人は親交を深め、ダーニーとルーシーは結婚を誓い合う仲になる。カートンも密かにルーシーを愛していたが、2人を想い身を引く。穏やかな暮らしが続くかに見えたが、ダーニーは昔の使用人の危機を救おうと祖国フランスに戻り、フランス革命により蜂起した民衆たちに捕えられてしまう。再び裁判に掛けられたダーニーだったが、そこで驚くべき罪が判明し、下された判決は死刑。ダーニーとルーシーの幸せを願うカートンはある決心をし、ダーニーが捕えられている牢獄へと向かう──。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人