【公演NEWS】舞台『陽気な幽霊』開幕レポート

シアタークリエにて上演中の舞台『陽気な幽霊』の開幕オフィシャルレポートが到着しました。


田中圭が主演する舞台『陽気な幽霊』が5月3日(土)、東京・シアタークリエで開幕した。俳優にして作家、演出家、映画監督、作曲家と多彩に活躍したイギリスの才人ノエル・カワードによる戯曲で、1941年の初演時には1997回というロングランを記録、その後2度映画化もされている傑作喜劇。今回は熊林弘高が演出を手掛ける。共演に若村麻由美、門脇麦、高畑淳子ら。




ガラガラと幕が音を立てて開くと、そこは広く品のいい、上流階級の邸宅の居間。だがメイドのエディスがガチャガチャと、あまりこの屋敷に似つかわしくない音を立て動き回っている。エディスと女主人ルースの会話によると、客人が来る予定のようだ。そこへ、白のタキシードでこの家の主人・チャールズが登場。どうやらチャールズは小説家で、小説の取材をしようと霊媒師マダム・アーカティを呼び、降霊会を開く予定らしい。医師ブラッドマン夫妻も呼んで行われた降霊会は大騒ぎの中、マダム・アーカティの能力は嘘っぱちだという結論で終わった……はずだった。だが、実はチャールズにだけ、亡くなった前妻エルヴィラの幽霊が見えるようになったのである――。

エルヴィラの幽霊に翻弄され混乱するチャールズ、その夫の姿が奇行にしか見えず心配し、次には自分がからかわれているのではないかと苛立つ妻のルース、その二人をおちょくるかのように奔放に振る舞うエルヴィラ。幽霊を挟んだ“すれ違いコント”のような噛み合わない会話に笑っていたはずが、次第に笑いのポイントは、生者死者関係なく男女が意地を張り合い、マウントを取り合う大人げない会話へと変化。いつの世も、嫉妬や癇癪は変わらずあり、愛の前ではそんな感情をコントロールできなくなるのが人間なのだなぁと、笑いながらもしみじみしてしまう。そんな人間のどうしようもなさを、毒っ気をまぶしながらも軽妙に描き出す作品である。



田中圭は、見目良い色男でありながら、わざとかわざとでないのか、女性のプライドを逆なでするような失礼な物言いで小さな地雷を次々と踏むチャールズを、絶妙な無神経さを醸し出しながら演じていく。一方で嫌味の応酬のような会話を妻と交わし客席をヒリつかせたかと思いきや、実はそんな会話を楽しんでいるだけ、といった上流階級の人間らしい余裕もしっかり表現。とはいえ物語では早々にその余裕は剥ぎ取られ、追い詰められていくチャールズもまた可愛らしいので、これから作品を観る方はぜひお楽しみに。




幽霊のエルヴィラは若村麻由美。何と言っても幽霊らしい浮遊感と、圧倒的な美しさが素晴らしく、さらに小悪魔のような奔放さで「魅力的だが頭にくる女性」と称されるエルヴィラを説得力もって体現。チャールズを困らせる迷惑な存在だが、その根底にはチャールズへの愛がしっかりあり、しかしながら好きな男にも媚びないカッコよさも伝わる好演だ。門脇麦は、チャールズに苛立ち常に怒っているようなルースを、ヒステリックではなく自分の主張を正しく通す理知的な女性として構築。門脇自身の個性も重なり、聡明で嫌味のない魅力的なルースになっている。





高畑淳子は、心霊オタクのようなミーハーさがユニークな霊媒師マダム・アーカティを賑やかに演じ、舞台上の空気を攪乱、次々と笑いを注入した。ブラッドマン夫妻は実の夫婦でもある佐藤B作とあめくみちこ、テンポの良いやりとりはさすが。融通のきかない田舎者のメイド、エディスを演じる天野はなも、ある種いい加減な人たちの中、杓子定規な存在がユーモラスで、良いスパイスになっている。




熊林演出らしい堅実な、どこか乾いた質感の舞台の中で、愛や嫉妬、意地の張り合いなどの生々しい人間同士の感情がぶつかり、賑やかに繰り広げられる大騒動。楚々と品良く装っていた登場人物たちの人間性が赤裸々になっていくのだが、その剥き出しにされた姿がなんともチャーミングで、人間とはなんと愛らしい生き物なのかと思わずにいられない。そして浮かび上がる、生と死。幕切れは切なく、“孤独”を強調する熊林の演出も相まってやるせないが、それでも見終わった後にどこかロマンチックな甘さも残る。それは、登場人物たちが愛に生きたことがしっかり伝わったからだろう。笑って笑って、ちょっとしみじみもする物語を、芝居巧者揃いのキャストの息の合ったやりとりで魅せていく大人の上質なコメディ。満足度の高い一作だ。

初日公演は万雷の拍手の中で終幕したが、公演を終えた田中は「いくら稽古を重ねても不安が払拭できずに迎えた初日です。初日らしく色々なことがありましたが、とりあえず無事に幕が下り、安堵しました。思った以上に皆さんがたくさん笑ってくださり、そして4回もカーテンコールをしてくださって嬉しかった」と心境を語り、「この『陽気な幽霊』は、80年以上前、戦時下という命の危険と隣り合わせの中でノエル・カワードが生み出した戯曲で、それをたくさんの人が観て楽しんだ。そこには共感性や、救いのようなものもあったのでしょう。そして“笑う”という行為がどれだけ素晴らしいことなのか、ということも伝えてくれています。悪意はまったく出てきません。それはなんて素敵なことなんだろうと思います。しかも、楽しいだけじゃない、というところも魅力です。3時間、劇場にいる間は思い切りこの世界に浸って、幸せな気持ちで帰っていただけたら。とにかく僕らは一生懸命この世界を生きるので、自由に、お好きにこの世界を楽しんでください」とコメント。

また若村は「初日、エルヴィラとして必死に生きましたが、実際にお客さまの前でこの役を演じることで、今日初めて感じる心情もいくつもありました。夫チャールズをとても愛している妻であるエルヴィラの魅力を、もっともっと発見できそうですので、さらに役を豊かにしていければと思っています。随所にウィットが散りばめられている、大人の楽しいコメディ。熊林さんの演出が随所に光り、美術や照明もミステリアスです。クスっと笑いながら、最後に残る切ない余韻を持ち帰っていただけたら」、門脇は「稽古初日から、演出の熊林さんがとても生き生きとされていて、そこに引っ張られ、みんなで良い作品にしようと同じ方向に向かっている時間が気持ちのよい稽古期間でした。舞台ならではの生の楽しさ、コメディらしいコミカルな会話のテンポは存分にありつつも、どっしりとした質感も味わえる作品です。3時間、みんなが怒涛のように喋っています。演じる私たちも3時間があっという間ですが、観ているお客様も体感はあっという間だと思います。目の前で起きる怪奇現象、想像もつかないような展開を全力で楽しんでください」、高畑は「いい初日でした。喜劇は特に、お客さまの反応から教えていただくことがすごく多い。やっぱりお客さんの力ってすごいなと思います。『陽気な幽霊』という作品は84年前に初演されています。長く生き残っている戯曲なだけあって、ツボがちゃんとあるのだなと感じています。また今回のカンパニーがとても面白く、フラットに接してくれる圭さん筆頭に、共演者に恵まれました。皆さんが注目してくださっている作品なので、今日の新鮮さを忘れないように、作品の中でマダム・アーカティとしてしっかり生きていきたいです」とそれぞれコメントを寄せた。

公演は5月29日(木)まで同劇場にて上演。その後、大阪、福岡でも上演される。

(取材・文:平野祥恵)

ストーリー
 舞台は1941年、イギリス・ケント州にある小説家チャールズ・コンドマイン(田中圭)の自宅の居間。チャールズは再婚した妻ルース(門脇麦)と暮らしている。
 新しく雇ったメイドのエディス(天野はな)が不慣れで準備がままならないが、チャールズは小説の取材をしようと霊媒師アーカティ夫人(高畑淳子)を呼んで、かかりつけの医師ブラッドマン (佐藤B作)とその夫人(あめくみちこ)を招待し、降霊会を催した。
 霊は現れず、アーカティ夫人はイカサマだという結果に終わったが、客が帰った後、7年前に亡くなったチャールズの先妻エルビラ(若村麻由美)が幽霊となり姿を現す。しかしエルビラの姿はチャールズにしか見えず、ルースはチャールズが酔っていると思いこみ、一方でチャールズは先妻がいると言い張る。エルビラはチャールズとルースの間に色々とちょっかいを出し、それは徐々にエスカレートして夫婦の間に諍いが生じ、やがてとんでもない結果を招いてしまう――。

作品紹介
 ノエル・カワードは1899年イギリス・ロンドン郊外に生まれ、上流階級・中産階級を背景にした洒脱でウィットに富んだコメディの劇作家として成功をおさめ、俳優、作詞家、作曲家、演出家、映画監督、プロデューサーとして多彩に活躍し、社交界のセレブリティとしても有名でした。喜劇を中心に四十数篇の戯曲を書き、その代表作のひとつが『陽気な幽霊』です。
 カワードはこの作品を、第二次世界大戦中のロンドン大空襲で数々の死と破壊に直面した経験を元にして、わずか6日間で書き上げたと言います。戦時中に幽霊を題材にしたコメディを上演することに否定的な意見が多かったものの、その予測を裏切り、多くの熱狂的な観客に迎え入れられたこの作品は、幽霊も生きている人間も同じ存在という、カワード独特の人間観を描いています。

【公演情報】
『陽気な幽霊』
2025年5月3日(土祝)~29日(木)@東京 シアタークリエ
2025年6月2日(月)~8日(日)@大阪 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2025年6月11日(水)~15日(日)@福岡 福岡市民ホール 中ホール

作:ノエル・カワード
翻訳:早船歌江子
演出:熊林弘高

出演:
チャールズ・コンドマイン:田中圭
エルビラ:若村麻由美
ルース:門脇麦
エディス:天野はな
ブラッドマン夫人:あめくみちこ
ブラッドマン博士:佐藤B作
アーカティ夫人:高畑淳子

製作:東宝

公式ホームページ
https://www.tohostage.com/yokinayurei/

この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました

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