2025年8月9月にシアタークリエにて上演されるミュージカル『ジャージー・ボーイズ』にてフランキー・ヴァリ役を演じる中川晃教さん、小林唯さんの取材会が行われました。

小林唯さん 中川晃教さん
2016年の日本版初演以来、観客を熱狂させてきた本作は、1960年代に活躍したニュージャージー州出身の4人組音楽グループ「ザ・フォー・シーズンズ」の実話に基づいたストーリーを彼らの楽曲を用いて紡ぐ、ジュークボックスミュージカルの傑作です。グループでリードヴォーカルを務めるフランキー・ヴァリはトゥワングという発声法を用いた特徴的な歌声でよく知られた存在で、フランキーを演じる俳優は、グループメンバーで本作音楽のボブ・ゴーディオ氏の許可がなければ演じることができない特別な役。初演より同役を務める中川さん、今回、初役となる小林さん、おけぴ独自取材も交え、それぞれの熱い想いをお届けします。
藤田俊太郎さんの演出で、Team BLACK(中川晃教、藤岡正明、東 啓介、大山真志)、Team YELLOW(小林 唯、spi、有澤樟太郎、飯田洋輔)、5公演限定でTeam GREEN(花村想太、spi、有澤樟太郎、飯田洋輔)そしてNew Generation Team(大音智海、加藤潤一、石川新太、山野靖博)での上演が予定されている2025年の『ジャージー・ボーイズ』。中川さんはTeam BLACK、小林さんはTeam YELLOWをフランキー・ヴァリとして率います。
【常にフランキー・ヴァリという存在が僕の中に息づいていた(中川)
「このチャンスを何が何でもつかみたい」、執念のようなものが芽生えた(小林)】
──ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』(以下、JB)、今年の公演に向けての意気込みから伺います。中川さんは初演から、3度の本公演と2度のコンサートバージョンを経た公演となります。中川さん)2016年の初演から、準備も入れるとかれこれ10年近く経ったということなんですよね。“10年”という数字から実感するものはありますが、感覚的にはあっという間。フランキー・ヴァリ役に挑戦したのがついこの間のような気もします。この10年、本当にいろんなことがありましたが、常にフランキー・ヴァリという存在が僕の中に息づいていました。それでいて今も新鮮な気持ちで作品や役に向き合えている。まるで低温のオリーブオイルに浸されて酸化することなく美味しさを閉じ込める鶏のコンフィのような、そんな状態のフランキー・ヴァリがいます。伝わるかな(笑)。
──気持ちの鮮度は保ちながら、柔らかくジューシーで旨味たっぷりなフランキー・ヴァリの予感です(笑)。そして今年は初演の地、シアタークリエに凱旋です。中川さん)ようやく「ただいま!」って言えますね。今年はシアタークリエで2か月の公演、それが実現するのは、初演からJBを共に作ってきた仲間やお客様が積み重ねてきたJB愛があってこそ。初演は日本版JBをどう立ち上げ、シアタークリエでの1か月をどう成功させるか。みんなで必死に取り組みました。そこからシアターオーブでのコンサートバージョンを経て、再演ではシアタークリエに加えツアー公演も行いました。そして2020年はコロナ禍で帝国劇場での本公演は叶わなかったもののコンサートバージョンとして帝劇再始動の幕を開け、前回は日生劇場で上演。本当に様々な劇場でお客様に作品を届けてきました。その一つひとつの経験、1公演1公演が、日本のJBカンパニーに、自分たちはどんなスタイルでの上演も成立させる柔軟さと強さを持ち合わせているという自信を与えてくれました。
そして今年、JBカンパニーは日本版が産声を上げたシアタークリエに帰ってきます。これまで歩んできた軌跡をすべて詰め込み、JBという作品の真価をお客様に届けられるチャンスを前に、ワクワクと身が引き締まる思いの両方があります。この心地よい緊張感を大切に、シアタークリエに向かっていきます。
──こうしてみなさんの愛情が育んできたJBに初出演される小林さん。まずはフランキー・ヴァリ役が決まったときの心境からお聞かせください。小林さん)
とにかく信じられませんでした。素晴らしい楽曲で構成された作品、ミュージカル俳優のひとりとしていつかご縁があればいいなと思っていました。ただ、自分がどの役を演じるかを考えたとき……フランキー・ヴァリは最初に除外しました。「そこはまずありえない」って(笑)。もちろんどの役も簡単ではないのですが、そう思うくらいフランキー・ヴァリは手の届かない存在でした。それは日本初演からずっとアッキーさん(中川さん)がシングルで演じてきて、なかなかほかにできる人が見つからない、そして前回、ようやく(花村)想太さんという2人目のヴァリが誕生した。その歴史を見ても、もはや神格化された、伝説のような役。そんなこともあって最初は尊敬する海宝直人さんが演じられていたボブ・ゴーディオに挑戦できたらと思っていたところ、「ちょっと歌ってみて」というリクエストから、自分でも予想だにしなかったフランキー・ヴァリ役への挑戦が始まりました。──ご自身でも想定外だったのですね。小林さん)
敬意をこめてこう言いますが、“あんな声”はこれまで出したことはありませんでしたから(笑)。ただ最初は完全に未知への挑戦でしたが、実際にトレーニングをして歌ってみると自分にとって新しい道が開けた感触を覚え、次第に楽しくなってきたんです。そこから少し可能性が見えてきて、さらに練習を重ねボブ・ゴーディオさんご本人に聴いていただくという段階にたどり着きました。その時点ですでに奇跡です。そして認めていただいたという知らせを受けたときは、ひっくり返りましたね(笑)。──そうして大抜擢となったのですね。小林さん)
劇団を退団して2年も経っていない僕が、このように抜擢していただけたこと、そもそもチャンスを与えていただいたことを嬉しく思うとともに、まだまだ始まったばかり、取り組まなければいけないことが本当にたくさんあるので僕も身が引き締まる思いでいます。(中川さんを見て)ご指導ご鞭撻いただきながら準備したいと思います。こうして、今、アッキーさんがお話された作品への想いやこれまでの道のり、みなさんが作り上げてきた盤石な基盤の上に、新しい自分なりのフランキー・ヴァリ像を構築できたらと思います。──オーディションの過程についてもう少し具体的にお話しいただけますか。小林さん)
審査で歌ったのは<Can’t Take My Eyes Off of You <君の瞳に恋してる>>、<Sherry>、<I'm in the Mood for Love / Moody's Mood for Love>の3曲です。中川さん)英語?
小林さん)
そうなんです! 英語でした。最初は日本語だと思っていて、日本語で練習していたのですが、英語でのレコーディングとなりました。考えてみればボブ・ゴーディオさんはやはり英語で聴いてジャッジしたいですよね。レコーディングに向けては、レッスンに通い、自主練も重ね、歌わない日はないというくらい毎日何かしらJBの楽曲を歌っていました。そしてその頃には「このチャンスを何が何でもつかみたい」という、ある種、執念のようなものが芽生えていました。──どのような点に重きを置いてフランキー・ヴァリ役に向かっていったのでしょうか。小林さん)
音域の高さはもちろん、非常に繊細な歌唱技術が必要となってくるだけでなく、楽曲のニュアンス、あの時代の音楽性、グルーヴ感というのも大切。なんと言っても実在したポップス、ロックの神様と言われるグループ、歌手ですから、そこにはある程度の再現性も必要です。そのためにほかのアーティストも含めた“あの時代”の音楽をたくさん聴き、自分の中にそのニュアンスを落とし込んで挑みました。── こうして3人目のフランキー・ヴァリが加わりましたが、中川さんには役を引き継いでいくという意識はありますか。中川さん)役を引き継ぐというより、どうしたらJBが長く愛され、上演され続ける作品になっていくかということを考えています。
もちろん花村想太さんがフランキー・ヴァリに決まったときは嬉しかったですし、初演以来、絶えずフランキー・ヴァリができそうな人はいないかとハンターのように周りを見ている自分もいました(笑)。ですので小林唯さんが加わったこともすごく嬉しい! でも決して自分の役を受け継いでもらうという意識ではありません。何よりも“フランキー・ヴァリという絶対的なスター”の存在があって、それぞれの俳優がいるのですから。役を引き継ぐというより、フランキーや作品への尊敬や誇り、それを引き継いでいきたいと考えています。
そして作品については、僕自身、30代でこの作品と出会えたことは大きな転機となりました。この作品の核は“ポップス”。その歌唱法を会得しなければ、どんなアプローチもできないくらい独特のポップス歌唱が大事。さらに僕にとって4人組のコーラスグループという、自分の物差しだけでは測れないチームとしての音楽性を作ることへの覚悟も必要でした。そして集まった4人で“スターを生きる”──JBにはほかの作品では味わえない喜びがあり、それを歴代のチームの仲間たちと分かち合ってきました。初演から一緒の藤岡正明さん、そして東啓介さん、大山真志さんというBLACKはもちろん、初演のREDとWHITEの吉原光夫さん、福井晶一さん、中河内雅貴さん、海宝直人さん、ぴろしくん、あれ突然呼び方が(笑)、矢崎広さんから始まって、BLUE、GREENのみんなで切磋琢磨してきました。素晴らしい仲間との出会い、その意味でもJBと巡り会えたことを幸せに思います。
【いい意味でミステリアスな歌声(中川)/スターというのは楽しんでいる人(小林)】
──ともにフランキー・ヴァリを演じるお二人、お互いの歌声の印象は。中川さん)『レ・ミゼラブル』でアンジョルラスを演じる小林さんを拝見しましたし、YouTubeの歌唱動画も見ています。
小林さん)
(小声で)動画まで見てくださっているなんて恐縮です!中川さん)似ているというのとは違うのですが、どこか同じ事務所の井上芳雄さんに通じる声の質感、響きをお持ちだなと感じました。そこにまだ僕が知らない、人となりや聴いてきた音楽、抱いている希望や夢、理想、目標、さらには何を食べて、何を考えて生きているのか、そこから生まれる個性どんなアプローチをされるのか、果たしてどんなフランキー・ヴァリになるのか、いい意味でミステリアスな歌声。だからこそフランキーだけでなくいろんな役で見てみたいと思わせる方です。
小林さん)
ありがとうございます。アッキーさんは、もう日本のキング・オブ・ポップですから!中川さん)(小声で)それは恐れ多い(笑)
小林さん)
「まったく力みなしでその音域が出るんですか!」という驚きから始まり、地声からファルセットへもシームレス、あらゆる音を同じ音圧で出せる。本当に誰も真似できない唯一無二の歌声をお持ちの方です。あとはとにかく歌うことを心から楽しんでいらっしゃるのが、身体の動き、リズム、表情から伝わってくるんです。その精神が、先ほどの話に合った“スター”を体現している。僕は、スターというのは楽しんでいる人のことを言うと思っているので。一緒に稽古をしながら、そのDNAを少しでも受け継げたらと思っています。中川さん)実際、歌っている映像を見返したとき、自分の顔を見て吹き出しそうになって(笑)。“楽しい”が出過ぎるとちょっと鬱陶しくないかと、自分で反省していたところなんです。でも褒めてもらえて嬉しいです。
小林さん)
歌っている人が楽しんでいることで、お客様も楽しくなるってあると思います!──あると思います!というか、あります! 【運命の出会い~どちらのチームにも“ハーモニーオタク”がいる~】
──チーム制というのも日本版JBの特徴です。それぞれTeam BLACK、Team YELLOWはどんなチームになりそうですか。小林さん)
まだ4人が顔をそろえたのは撮影時の1回だけなので、ここから深めていこうという段階ですが、僕にとっては、まず飯田洋輔さんがいらっしゃることが心強いです。劇団四季を同じタイミングで退団し、『レ・ミゼラブル』でもご一緒させていただいているというご縁のある先輩。劇団時代も、2015年に僕が札幌公演で『キャッツ』デビューしたときも共演していて、その頃から二人で飲みに行く仲。こうしてまたJBで同じチームというのも感慨深いです。精神面だけでなく、洋輔さんはコーラスやハーモニーが大好き、学生時代からハモネプ※にも出ていたくらいの、いわゆる“ハーモニーオタク”なんです。そこでもすごく頼りにしています。
spiさんはご出演されていたミュージカル『手紙』(演出は藤田俊太郎さん)を拝見し、本当に歌もお芝居も素敵でした。有澤くんはまだ一度お目にかかっただけですが、とても爽やか! ご一緒したのは短い時間でしたが、温かい人柄が伝わってきて、ボブ・ゴーディオとフランキー・ヴァリのようにいい相棒になれそうだなと、稽古が楽しみになりました。今の段階で、いいチームになるなという手応えを感じています。ここからどんなチームに仕上がるのか僕自身、楽しみです。※ハモネプ:TV番組「青春アカペラ甲子園 全国ハモネプリーグ」。飯田さんはアカペラグループ「ブラスターズ」を結成し出演されていました。中川さん)それぞれのキャリアをもった4人が運命の出会いを果たし、ここからJBが始まっていく。今のお話を聞いていて、初演の頃を思い出しました。
僕たちTeam BLACKは、コロナ禍に結成されたチームです。藤岡さんは続投でしたが、東さんと大山さんは帝国劇場での上演に向けての大抜擢。劇場規模が大きくなることへのプレシャーもある中で、感染症の拡大により本公演が中止となり、それに代わってコンサートバージョンの上演が決定。波乱のスタートとなりました。稽古や本番、当たり前のように用意されていたものが無くなってしまったり、変わってしまったりすることに臨機応変に対応しながら、歌のスキルも役作りも自分たちで生み出していかなければならなかった。そしてそれを成し遂げたTeam BLACK。ある意味、苦難の道で僕たちが出した答えがチームとしての深みになっているのかな。このチームでさらなる高みを目指したいです。
小林さん)
Team BLACKの歴史の重みを感じるお話です。Team YELLOWでは何十年も一緒に過ごしたグループを3時間の作品で表現するために、強いコネクトを作っていくというのも大きなテーマになってくると思います。経験者のspiさんや有澤くんの存在も心強いですし、洋輔さんはハーモニーでも頼りになる。新参者ながら、僕も精一杯務めたいと思います。中川さん)過ごした時間の長短だけが問題じゃなく、チームとして互いにどう向き合い、どう取り組みが大事だと思う。あと、Team YELLOWには飯田さん、Team BLACKには藤岡さん、どちらのチームにも“ハーモニーオタク”がいるんだということも、今日知ることができました。それぞれのチームの良さが相乗効果を生んで、JBがより魅力的な作品としてお客様に届くといいね。
ここからはおけぴ独自取材!
【『ジャージー・ボーイズ』には夢がある】
──ちなみにお二人の音楽的ルーツは?小林さん)
僕はあんまり音楽を聴く子どもじゃなかったんです。今、ミュージカル俳優として歌っているのが不思議なくらい(笑)。 でも、両親が60-70年代のアメリカのポップス、ロックが大好きで車でも家でもずっと流れていました。特に記憶に残っているのが<Sherry>です。あの時代の音楽を聴いて育ったということが、JBのオーディションに臨むにあたっても気持ちの面で支えになりました。中川さん)アメリカの音楽で育ったんだね。僕はいろんなジャンルの音楽に触れ、演歌もよく聴いていたんです。でも実は、The Four Seasonsの音楽にはあまりなじみがない状態でJBと出会いました。でもJBの音楽を聴いたとき、「あれ?この曲はよく行く和食屋さんでいつも流れていたな」という記憶が蘇りました。だから僕の中では和食とThe Four Seasonsがマリアージュしているんです(笑)。音楽ってそういう潜在的な記憶も呼び起こすから面白いよね。
──では最後に。公演を楽しみにしているみなさんにメッセージを! 中川さんには、今回初めての試みとなるNew Generation Teamについてもコメントをいただけますか。小林さん)
僕自身も、僕らのJBがどのような形になるのかとても楽しみです。Team YELLOW、新しいチームカラーにふさわしい新しいJBをお見せできるように頑張ります。楽しみにしていてください。中川さん)安定のTeam BLACK。安定しているからこそ果敢に挑戦していきたいと思います。気心が知れている仲間と、より丁寧にキャッチボールしてJBのドラマを紡いでいきたいと思います。
そしてNew Generation Teamは、夢がありますよね。初演のときからみんなで話していたことですが、作品を観たお客さんの中から「僕も、私も『ジャージー・ボーイズ』に出たい!いつかあの役を演じたい」と憧れを抱く若者が現れること、夢をもってもらうことも僕たちが果たすべき仕事。それが形になったのが、New Generation Team、これは夢のチームです。ぜひとも見届けていただきたいですし、おこがましいですが僕も彼らを応援しています。もはや親目線です!!
New Generation Teamから刺激をもらい、BLACK、GREEN、YELLOW、それぞれのJBをお届けします! シアタークリエでお待ちしています。
おけぴ取材班:hase(撮影)chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人