新国立劇場バレエ団「Young NBJ GALA 2025」『O Solitude』中島瑞生さん&五月女遥さん(指導)対談/中村恩恵さん(振付)ミニインタビュー



2025年7月12日、13日に開催される「Young NBJ GALA 2025」。この公演は新国立劇場バレエ団の若手ダンサーにスポットライトを当てたガラ公演の第二弾となります。そこで、ヘンリー・パーセルの哀愁に満ちた美しい旋律にのせて贈るソロ作品『O Solitude』を踊る中島瑞生さん、指導で参加している五月女遥さんにお話を伺いました。また、同作振付をされた中村恩恵さんのミニインタビューもご紹介いたします。濃密で朗らかなリハーサルの様子とともにお届けします。




中村恩恵さん、中島瑞生さん

【中島瑞生の『O Solitude』の誕生】

──中島さんは、今回、オーディションで選ばれたとのことですが、実際にリハーサルが始まった今、思うことは。

中島さん)
僕は、ありがたいことに入団して間もない頃から恩恵さんの作品を踊らせていただいています。恩恵さんの作品は身体に自然に馴染む振りで、振りの通りに身体を動かすことで楽しさを覚えます。今回、こうして『O Solitude』を踊る機会をいただけたことを嬉しく思います。新国立劇場バレエ団で7分間のソロ作品を踊るというのも初めてのことなので、それも楽しみです。

リハーサルで課題となっているのは「。」や「、」が感じられる表現。僕はステップとステップを繋げながら踊ってしまう傾向があって。しっかりとメリハリをつけないと、7分間、お客様の心を惹きつけることは難しい。これまであまり意識したことがありませんでしたが、ひとつのソロ作品を届けるということはこういうことなんだなと感じています。また、肉体的にとてもハードな振付というわけではないのですが、針の穴に糸を通すような神経の使い方が必要なので、精神力も鍛えられています。

──五月女さんにとって『O Solitude』という作品は、ご自身の中でどのような位置づけでしょうか。

五月女さん)
“新国立劇場バレエ団がコンテンポラリーダンスに出会う舞台”として上演した「DANCE to the Future」で、2013年にこの作品を宝満直也くんとWキャストで踊りました。元々恩恵さんが振付された『The Well-Tempered』という作品を踊っていて、そこからソロも踊ってみませんかとお話をいただいてキャスティングが決まりました。入団してから3シーズン目だった私にチャンスをいただけたことがありがたく、また、その後もコンテンポラリーダンスを踊っていくきっかけにもなりました。

──五月女さんから見て、中島さんの『O Solitude』の印象は。



五月女さん)
私たちが踊った時も、宝満くんと私ではまったく違う仕上がりでしたが、瑞生くんが踊っているのを見るとそのどちらとも違いますし、当然、(Wキャストの大木)満里奈さんも違います。

リハーサルで感じるのは、瑞生くんの女性性、男性性、そのどちらかに限定されない中性的な表現力が、恩恵さんの作品にとても合っているということ。踊り手によって作品の解釈も見え方も変わってくるので、瑞生くんの良さが作り出す、彼の『O Solitude』の誕生が楽しみです。


【イメージを伝えるということ】

──中村恩恵さんのリハーサルは拝見していてもとても楽しかったです。




中島さん)
ご指導を受けていても楽しいです。コンテンポラリーダンスはバレエと違い、一つひとつの動きに名前がついているわけではないので、少し期間が開くと動きのニュアンスが抜けやすいところがあります。振り自体は映像を見返すことでわかるのですが、どこにアクセントをつけるか、細部を思い出すために大きな助けになるのは恩恵さんの言葉です。いろんなたとえを交えながら教えてくださるので、それによって頭にぱっとイメージが蘇るんです。

五月女さん)
その感覚、とてもよくわかります。今回のリハーサルが始まる前に、私が踊った時のノートを見返しました。そこにはやはりたくさんのたとえ話が書いてあって、「確かに、こうおっしゃっていたな」と当時の記憶、踊りのイメージが蘇りました。当時は、今ほど手軽に動画を撮ることもなかったので、面白いほどありとあらゆる動きについてメモが残っていました。

──今日もリハーサルで熱心にノートに書きこんでいる姿が印象的でした。



五月女さん)
恩恵さんがリハーサルに参加できない日は、バレエ・ミストレスの遠藤さんと私でリハーサルを見ています。そのために、恩恵さんが大切にされているポイントや、自分なりに気づいたことを書き留めています。

──指導という立場で作品に関わることについてはどう感じていますか。

五月女さん)
自分の中に伝えたいことはあるのに、それをうまく言語化できない。そこにもどかしさを感じています。「こうしたほうがいいな」ということがあった時、自分の身体を使って見せることはできるのですが、人によって身体の使い方も変わるので、言葉で伝えることも大事。恩恵さんのように日常生活で感じたことを言語化し、イメージを伝えられるように、自分の引き出しやボキャブラリーを増やしていきたいと思っています。本当に勉強になっていて、こうして指導という立場でこの作品に携われることをありがたく思います。


【それぞれの孤独】
──ここからは作品について伺います。『O Solitude』というタイトルの作品ですが、本作で描かれる“孤独”についてはどう捉えていますか。



中島さん)
歌の歌詞の翻訳もしましたが、それがどんな孤独なのかというところは、はじめはあまりよくわかっていませんでした。踊りながら発見したのは、至るところに“ぽつねん”を感じる瞬間があるということ。リハーサルでは周りに人もいますし、全然孤独ではないはずなのに、ふと感じる孤独があるんです。

この“ぽつねん”はなんだろうと考えた時、幼い頃、冬の夕方に灯油の移動販売車から「月の砂漠」が聞こえてくるとすごく寂しい気持ちになったことを思い出しました。家のキッチンでは母が料理をしていたので、ひとりぼっちというわけでもないのに、無性に寂しくなる。本作の音楽にもそれに似たものがあるんです。僕はそんな“自分の中にある孤独”を大切にして踊っています。



五月女さん)
私も、まずは瑞生くんと同じく歌詞を訳しましたが、その歌詞の内容を踊りで表現するというのはちょっと違うと感じました。物語を紡ぐというより、場面によって、ひとりぼっちの孤独、みんながいる中での孤独といった具合に、その時、その瞬間の孤独を表現するように作っていきました。

──お二人のアプローチが異なるように、踊り手それぞれの『O Solitude』が生まれる。それがコンテンポラリーの面白さですね。改めて、バレエとはまた違うコンテンポラリーの魅力は。




中島さん)
バレエには、音に合わせた振り、ポジションがしっかりと決まっていることで生まれる美しさがあります。その中でダンサーは自分の表現をしていく。それに対して、コンテンポラリーは振付や決め事はあるものの、もう少し自由で、自分の解釈も入れて表現できる。僕は、その自由度が高いところが好きです。ただ、その2つをまったくの別ものとは思っていません。たとえば遥さんが踊った『O Solitude』の映像を繰り返し見ましたが、バレエの基礎がしっかり身についているからコンテンポラリーを踊っても身体の使い方が的確で、とても気持ちいい。それが、いわゆる“身体が効く”ということ。そこにコンテンポラリーを専門に踊る方とはまた違う、“バレエダンサーが踊るコンテンポラリーの面白さ”があると思います。

──では最後に、公演を楽しみにされているみなさんへメッセージを。

中島さん)
「Young NBJ GALA 2025」では、3つの古典バレエ作品のパ・ド・ドゥと2つのコンテンポラリーダンスをお届けします。僕は、コンテンポラリーの1つである『O Solitude』を踊りますが、僕と大木満里奈さんでは違う印象になると思います。Wキャストの違いも、ぜひお楽しみください。
そしてそれぞれの作品を踊る若手ダンサーの一人ひとりが、公演に向けて互いに切磋琢磨しながらリハーサルを重ねています。僕自身、みんなの頑張り、成長からたくさんの刺激をもらっています。素晴らしい舞台をご覧いただけるように、ここからも頑張りますので、本番を楽しみにしていてください。


【『O Solitude』中村恩恵さんミニインタビュー】



──本作に込めた思いからお聞かせください。

もとはウィリアム・ブレイクの詩集「無垢と経験の歌」にインスピレーションを得た長い作品『Songs of Innocence and of Experience』。白いスクリーンで隔てられた隣り合う2つの空間のそれぞれで、スクリーンに映る影も使いながら男性と女性が同じ曲で異なるソロダンスを踊るというものでした。その一部、女性パートをソロで踊る形にしたのが『O Solitude』です。

『Songs of ~』を創作したのは2011年。春に大きな地震があり、私自身、生きることの困難さや、人は母の胎内から生まれてくるけれど、この世界に出てきた瞬間からひとりになり、そして死ぬ時もひとり──そんなことを強く感じていた頃の作品です。

それから時が経ち、その間にもいろんなことがありました。コロナもそうですし、経済摩擦、いろんなところで紛争も起き、今、こうしている間にも世界の別のところでは子どもたちが飢えて死んでいく。それでも私たちはこうやってダンスをしています。今日のリハーサルを見ていて感じたのは、テーマは孤独ですが、ひとりで踊る孤独なダンサーを見ることで、心が動き、自分たちの孤独が癒される。そんな作品に育っているということです。
時を経て、自分の中でこの作品の感触が変わっていることに気づきました。



──YNBJ、若きダンサーのみなさんへのエールを!

これまで現場で生きてきた私ですが、昨年から大学でも仕事をしています。学問の世界では「巨人の肩に立つ」という言葉、比喩表現があります。「先人たちが積み上げてきた知見の上に立っているから、自分は遠くまで見渡すことができる」という意味です。バレエやダンスも同じで、一つひとつのポジション、ステップやスパイラルは、今踊っている私たちが考え出したわけではなく、先人たちが考え、見つけてきたもの。その上で自分の表現をさせてもらい、新しい風景を見ることができているのです。そして、私たちが今こうして努力していることが、また次の世代の人たちのステップに繋がっていく。自分の存在もその繋がりの中にあるのです。だからこそ伝統のなかで生まれてきたものの上に、みなさんの解釈や発見を加えて表現して欲しいと願っています。
「Young NBJ GALA 2025」が、舞台の上での存在意義を明確につかめるような体験になったら嬉しいです。




中島さん、五月女さんのお話にもあるように、中村恩恵さんのリハーサルはご自身の体験したエピソードやイメージを伝える言葉がいっぱい飛び出します。手をすっと前に伸ばす、その動きに「水を切るような感じ」という導きがあるとそれまでにない切れ味が加わり、なにかを指さす際にもその先が小さな一点なのか、“あちらのほう”という広いターゲットなのか、その違いによって表現も変わります。イメージを表現に即座に落とし込むダンサーもまた素晴らしい! そしてイメージを言語化して伝える一方で、「こうやってみたらどうかな」と動きを伝える際には、重心の移動の仕方や力の入れ方など非常に論理的。そうやってダンサーに問いかけながら進めていくので無理のない、それぞれの身体に合った動きで作られていきます。その結果として、踊る人の数だけの『O Solitude』が生まれるのだと感じました。



【公演情報】
新国立劇場バレエ団「Young NBJ GALA 2025」
パ・ド・ドゥ集 / O Solitude /The Theory of Reality<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>
2025年7月12日~7月13日@新国立劇場 中劇場
予定上演時間:約1時間45分(休憩含む)

パ・ド・ドゥ集
『海賊』より
【振付】マリウス・プティパ
【音楽】リッカルド・ドリーゴ
【出演】堀之内咲希 森本晃介
『ラ・シルフィード』より
【振付】オーギュスト・ブルノンヴィル
【音楽】ヘルマン・ルーヴェンシュキョル
【出演】東 真帆 李 明賢
『白鳥の湖』第3幕より
【振付】マリウス・プティパ / レフ・イワーノフ / ピーター・ライト
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【出演】花形悠月 仲村 啓

O Solitude
【振付】中村恩恵
【音楽】ヘンリー・パーセル
【衣裳】山田いずみ
【照明】足立 恒
【出演】中島瑞生(7/12昼、13) 大木満里奈(7/12夜)

The Theory of Reality
【振付】福田圭吾
【音楽】トラヴィス・レイク
【衣裳】幾左田千佳
【照明】鈴木武人
【出演】
大木満里奈 渡邊拓朗(7/12昼、13)
吉田明花 森本亮介(7/12夜)

渡邊峻郁(7/12昼、13)
米沢 唯(7/12夜) 
ほか新国立劇場バレエ団

公演HP:https://www.nntt.jac.go.jp/dance/young-nbj-gala/

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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