新国立劇場バレエ団『ジゼル』ロンドン公演記者発表レポート

新国立劇場バレエ団が英国ロイヤルオペラハウスの舞台に!
2025年7月24日(木)から27日(日)にかけて、英国ロイヤルオペラハウスにて『ジゼル』を上演する新国立劇場バレエ団。吉田 都舞踊芸術監督が演出を手がけた本作は、2022年の初演に続く、2025年4月の再演でも高く評価されました。今回のロンドン公演は、新国立劇場が主催する初の海外公演であり、新国立劇場バレエ団にとっても英国ロイヤルオペラハウスへの初登場となる、記念すべきステージです。



木下直哉さん、吉田 都さん、米沢 唯さん、井澤 駿さん


開幕に先立ち行われた記者発表の模様をレポートいたします。登壇されたのは、新国立劇場舞踊芸術監督の吉田 都さん、ロンドン公演初日の主役を務める米沢 唯さん、井澤 駿さん(ともに新国立劇場バレエ団プリンシパル)、オフィシャルスポンサーとして公演を支援する木下グループの代表取締役社長兼グループCEOの木下直哉さんです。



木下直哉さん)
都さんから伺っていたとおり、新国立劇場バレエ団のレベルは近年非常に高く、特にこの数年間の成長は本当に素晴らしい。ただ国内ナンバーワンとも言えるバレエ団ながら、残念なことに世界ではまだまだ認知されていない。そういった現状も踏まえ、都さんが率いる新国立劇場バレエ団の公演で日本のバレエの力を世界に示すことが必要だと考えました。都さんの悲願でもある、ロンドンの英国ロイヤルオペラハウスでの公演を成し遂げることは、バレエ団にとってはもちろん、日本のバレエ界にとっても大きな価値のあることでしょう。ロンドン公演の成功を心からお祈りするとともに、今後も、バレエ団が世界の舞台に旅立っていくサポートをしていきたいと思っています。

吉田 都芸術監督)
ロンドン公演の実現に導いてくださった木下さん、グループの皆様へ、この場を借りて心より御礼申し上げます。木下さんとは、ロイヤルバレエ学校の日本人留学生のスポンサーのお願いに上がったのが始まりです。快くお引受けいただき、今も生徒たちをサポートしてくださっています。またこの度のロンドン公演のみならず、日頃から新国立劇場バレエ団を支えていただいております。さらに私たちだけでなく、ほかのバレエ団のサポートなど、広くバレエ文化を応援してくださっている木下さんですが、実はご自身も、バレエのレッスンを始め、先日、新国立劇場で行われました東京バレエ団の『ザ・カブキ』公演へもご出演されました。“木下さんの舞台デビューを、私が新国立劇場の客席で観る”というのは不思議な感覚でございました(笑)。


──思い入れのある英国ロイヤルオペラハウスでの公演は、長年の悲願だったとのこと。



吉田監督)
新国立劇場の参与の頃から、遠い夢としてぼんやりと思い描いておりました。はじめは、ダンサーたちがあの舞台に立ったらどんなことが起きるのだろうか、なにを感じるのだろうか、そしてその後にどう活かされるのだろうかと、ダンサーの立場で考えていました。
そこから芸術監督になり、違う欲も出て参りました。手前味噌にはなりますが、新国立劇場で作り上げる舞台は本当に世界レベルです。それを世界中のみなさんにご覧いただきたいという欲です。

今回、広報宣伝は現地のプロモーターにお願いしていますが、それ以外は我々、新国立劇場のスタッフですべて行っています。この経験は、ダンサーの成長を促すだけでなく、そこで得たノウハウは劇場の財産となっていくでしょう。大変なこともたくさんありますが、成功裏に終わったらきっと次につながっていくと思います。このバレエ団はまだまだ歴史も浅く、世界での認知度も低い。今回のロンドン公演を機に、これからも海外公演をしていけたらと思っています。そして新国立劇場のロンドン公演が、日本とイギリスのかけ橋となったらいいなという思いも抱いております。


──演目は『ジゼル』、2022年に吉田監督の演出で初演、今年の4月に再演されました。再演での変化、ロンドンへの手応えは。

吉田監督)
初演は一から作り上げることにエネルギーを要しました。今回はダンサーの身体に振付も入っているので、踊りはもちろん演技においてもより深く掘り下げることができました。私がイギリスで学んできた演劇性の高いブリティッシュスタイルの流れを汲みながら、さらに新国立劇場バレエ団らしさもある作品になったと自負しています。また、再演の幕が上がった際は、セットや衣裳、照明など総合芸術としての素晴らしさ改めて実感しました。

──新国立劇場バレエ団らしさというのは。



新国立劇場バレエ団『ジゼル』撮影:長谷川清徳


吉田監督)
『ジゼル』で求められる繊細な表現やコール・ド・バレエの美しさ。コール・ドは、振付のアラスター・マリオットさんがバレエ団のために作ってくださったかなりチャレンジングなフォーメーション。そこで気を配ったのは、機械的にならないということ。全員が揃う美しさというのもありますが、それでは人の心は動かない。一人ひとりが自分のストーリーをもち、伝えなくてはなりません。再演では、一幕は村人として、貴族として、二幕は死後の世界の存在として、しっかりとコントラストが見える作品になりました。



新国立劇場バレエ団『ジゼル』撮影:長谷川清徳



新国立劇場バレエ団『ジゼル』撮影:長谷川清徳



──初日のジゼル役の米沢 唯さん、アルブレヒト役の井澤 駿さん、現在の心境、楽しみにしていることは。



米沢 唯さん)
まだまったく実感がないというのが正直な気持ちです(笑)。私はイギリスに行くのもはじめてですし、コベントガーデンは幼い頃に見た映画「マイ・フェア・レディ」の舞台となった場所、ロイヤルオペラハウスはバレエのビデオで見ていた場所という認識。私のなかでは、すべてがおとぎの国のような感覚です。ですので、数週間後に、自分がそこで踊るというのはまだ夢のよう。(公演に向けて)スーツケースを買ってはみたものの、「本当に行くのかなぁ」と毎日思っています(笑)。こうして今、会見をしていてようやく「いよいよ行くんだな」とドキドキしていきました。ロンドンの舞台に立つ、そこに足を踏み入れることがなにより楽しみです。



井澤 駿さん)
僕も楽しみで仕方がないというのが一番にあります。改めて、このような機会を作ってくださったみなさんに心から感謝しています。ありがとうございます。ロイヤルオペラハウスで踊るということはダンサーにとって奇跡のような、夢のようなことです。プレッシャーもありますが、自分なりに『ジゼル』という作品、アルブレヒト役を表現したいと思います。

──米沢さんはプリンシパルとしてバレエ団を牽引するダンサーのお一人です。少し前にはご病気で舞台を離れる時期もありましたが、4月の『ジゼル』の公演で全幕主役に復帰を果たしました。4月の公演は特別な思いがあったかと思います。



米沢さん)
「この先、全幕を踊ることは無理かもしれない」と覚悟を決めた時期もありました。あれから一年、大好きな『ジゼル』で全幕復帰ができ、さらにロイヤルオペラハウスで踊ることができるなんて、こんなに嬉しいことはあるのだろうかというほど嬉しいです。感謝を胸に、精一杯、踊りたいと思っています。

(全幕復帰に向けては)呼吸、水分摂取、睡眠など、身体との向き合い方、踊り方、舞台へ向かう心の準備の仕方、すべて一から見直しました。これだけやってなにかあったら、もうそれはしょうがないと腹をくくって舞台に上がりました。舞台に出る前に吉田監督の顔を見たら、涙が出てきて、二人してちょっと泣いてしまいました。私にとって、新国立劇場の舞台が大切でかけがえのないものだと改めて感じた瞬間でした。

──吉田監督からは“リアルジゼル”だったとの言葉も聞かれました。

米沢さん)
別のバージョンも含め、これまでにもジゼル役を踊ってきましたが、元気過ぎたり、か弱過ぎたり、ジゼルというキャラクター造形をつかむことに苦労したこともありました。それが今回は、“踊りたくてしょうがない少女”というところが自分とリンクして、そこを手掛かりにすっと役に入ることができました。

──ロンドンに向けて。

米沢さん)
吉田都という素晴らしいダンサーを愛したイギリスのみなさんに、新国立劇場バレエ団も愛していただけたら嬉しいです。

──井澤さんは、今シーズン、ゲストダンサーの佐々晴香さん(ベルリン国立バレエ/『眠れる森の美女』)や高田茜さん(英国ロイヤルバレエ/『不思議の国のアリス』)という、世界で活躍されているダンサーと共演されましたが、そこで得たものは。

井澤さん)
技術的なことも含めた表現力など勉強になることばかりでした。リハーサルでは、毎回、「こんな表現してくるんだ」と驚かされ、直近の『不思議の国のアリス』では、相手からもらう生の感情を受け止めて自分の表現にすることで、3回の本番、毎回違うものとなりました。また自分の中に「もっとアリス(=パートナーである女性ダンサー)に楽しんで踊って欲しい」という思いも生まれました。そこで得た学び、課題に向き合い、今後に活かしていきたい。ロンドンの公演に向けて4月の公演で唯さんと二人で作り上げた『ジゼル』を、さらに磨き上げていこうと思います。



──木下さんが、今こそロンドン公演を実現させようと後押ししようと思った理由は。

木下さん)
こんなに素晴らしいダンサー、バレエ団を世界に紹介したいというのが率直なところです。先ほど都さんがお話された、コール・ドの統一感に加えて、この数年で磨かれたのはダンサーお一人お一人の表現──役の人生を自分の中で解釈し、どう表現として伝えるかです。そしてこちらにいらっしゃる米沢さんがそれを象徴するお一人です。


──ダンサーのお二人に伺います。ロンドンの公演を控えたバレエ団の雰囲気は。



米沢さん)
バレエ団の皆、リハーサルにも熱が入っています。合間には、なにを持っていくか、「梅干しは?」「味噌はどうする?」というような話をしています(笑)。銭湯好きなダンサーが多いので、一番心配なのはお風呂です。バスタブはあるといいねということも話題に上がります!


──“米沢唯ならではのジゼル”とは。



米沢さん)
“私ならでは”……それは私にはわからないこと。観てくださった方が「これが米沢唯のジゼルなんだ」と思っていただくのがいいかなと思っています。私には、「これが私」というこだわりがあまりないんです。あ、都さんが笑ってらっしゃる(笑)。



吉田監督)
本当にこだわりがなく、いつでもニュートラルなところが素晴らしい。だからこそどのようにでも変化していける。やはりこれだけのベテランダンサーともなると「私はこう伝えたい、こう踊りたい」というものがあるはずなんです。それを敢えてなくしているのか……唯さんには本当に毎回、驚かされます。



米沢さん)
敢えてというより、私の性格的なものかもしれません(笑)。
自分の踊り方にこだわると、どんどん表現の幅が狭まってしまうので、私自身、毎回違う踊りにしたいという思いがあります。

──井澤さんはいかがでしょう。

井澤さん)
作り込んでしまうとすべて型になってしまう。僕も、物語の背景や人物像を捉えた上で、その時、舞台に立ち感じたことを、そして相手役となる唯さんの表現に応えるように踊りたいです。


──ロンドン公演での目標は。どのような評価を目指すか。



吉田監督)
海外公演、環境が変わることでいつもとは違うプレッシャーもあるでしょうが、私としては、「みんなそのままでいい」と思っています。4月の公演のように、自分たちが積み上げてきたものをしっかりとイギリスのお客様に伝える。それを楽しんでもらいたいという気持ちです。また、先日、ロンドンでこの公演の宣伝のために取材を受けましたが、「日本のバレエ団?なにができるの?」というようなちょっと冷めた感じかと思っていたところ、意外なほどに(笑)、「応援しているよ」「楽しみにしているよ」と温かく迎えてくださいました。まず、そのことを嬉しく思います。その上で、彼らから舞台の評価として辛口の評が出たとしても、それはそれとして受け止めます。私たちはとにかく舞台に真摯に向き合って、良い舞台を作ってそれをお見せする。それが目標です。

──現地での観劇が叶わない観客に向けて、公演を拝見する機会などのご予定はありますか。

藤野公之新国立劇場理事)
計画段階でございますが、公演を録画し放映する方向で、現在調整を進めております。



木下直哉さん、吉田 都さん、米沢 唯さん、井澤 駿さん、藤野公之さん

ロンドン公演チケットはすでに9割がた売れているとのこと(素晴らしい!)ですが、まだお席はあるそうです!ロンドン公演の成功はもちろん、それを経た新国立劇場バレエ団の来シーズンもますます楽しみになります。皆様、行ってらっしゃいませ!!


【公演情報】
新国立劇場バレエ団『ジゼル』ロンドン公演
2025年7月24日[木]~7月27日[日]@英国ロイヤルオペラハウス

【振 付】ジャン・コラリ / ジュール・ペロー / マリウス・プティパ
【演 出】吉田 都
【ステージング・改訂振付】アラスター・マリオット
【音 楽】アドルフ・アダン
【美術・衣裳】ディック・バード
【照 明】リック・フィッシャー

キャスト、公演詳細は公演HPをご確認ください

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

おすすめ PICK UP

【おけぴ観劇会】『デスノート THE MUSICAL』おけぴ観劇会 12/11(木)18時開催決定!

【濃密な二人芝居】 unrato#13『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』公演レポート

ミュージカル『ジェイミー』開幕レポート~初日前会見、プレスコール、公開ゲネプロレポート~

新国立劇場バレエ団『ジゼル』ロンドン公演記者発表レポート

新国立劇場『消えていくなら朝』稽古場レポート

こまつ座 第154回公演『父と暮せば』稽古場レポート~戦後80年の年に、新たな父と娘で届ける~

ミュージカル『SPY×FAMILY』製作発表記者会見レポート~アーニャ役お披露目にわくわく~

かつてないスケールで届ける!ミュージカル『ナイツ・テイル -騎士物語-』ARENA LIVE製作発表レポート

コンサート『Life's A Joy! Life Goes On!!』~with 20 years of Gratitude from Umeda Arts Theater~伊礼彼方さんインタビュー

ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』中川晃教さん、小林唯さん対談

【おけぴ観劇会】スパイファミリー SPYxFAMILY おけぴ観劇会開催決定!

ミュージカル『ある男』製作発表レポート~平野啓一郎/著 読売文学賞受賞のヒューマンミステリーがミュージカルに~

【おけぴ観劇会】『ジャージー・ボーイズ』おけぴ観劇会 YELLOW&BLACKでW開催!

おけぴスタッフTwitter

おけぴネット チケット掲示板

おけぴネット 託しますサービス

ページトップへ