新国立劇場『焼肉ドラゴン』制作発表レポート~それでも生きていく、希望のメッセージ~





鄭義信さんが日本の戦後史の影を描いた傑作『焼肉ドラゴン』が、9年ぶりに待望の再演。初演オリジナルキャストを含む日韓の実力派俳優陣が集結し、4度目の上演として新たな命を吹き込む本作は、2025年という節目の年──大阪・関西万博の開催、日韓国交正常化60周年──にふさわしい舞台となることでしょう。

物語の舞台は1970年代、高度経済成長と大阪万博に沸く関西の地方都市。焼肉店「焼肉ドラゴン」を営む在日コリアン一家と、そこに集う人々の姿を通して、家族の絆、民族の記憶、そして生きることの希望を、笑いと涙を交えて描き出します。2008年の初演では東京・ソウル両都市でスタンディングオベーションを巻き起こし、日韓両国で数々の演劇賞を受賞。2018年には鄭さん自身の手で映画化もされました。

今回の上演は、10月の新国立劇場 小劇場公演を皮切りに、11月の韓国公演、福岡・富山での全国公演を経て、12月には新国立劇場・中劇場での凱旋公演へと続きます。初演から17年──日韓両国の言葉がエネルギッシュに飛び交い、さらに音楽が交差する“あの焼肉店”と愛しい家族たちが、再び帰ってきます。

巷では“焼肉の日”と呼ばれる8月29日、製作発表会見が行われました。深い思い、熱い意気込み、楽曲披露──抽選で選ばれた一般オーディエンスのみなさんも招いた盛りだくさんの制作発表をレポートいたします。


【作・演出 鄭義信さん】



鄭義信さん)
2008年の初演以来、新国立劇場で4度目の公演となります。初演の時には、まさか4回も上演するとは思っていませんでしたが、皆様の後押しによってこうして実現できたことを、本当に嬉しく思っております。

近所で犬の散歩をしていると、まったく知らないおじいさんに「『焼肉ドラゴン』は今度いつやるの?」と声をかけられました。その方にも、次にお会いしたら「やりますよ!」と報告したいと思います。

韓国・日本キャスト、そして初演のメンバーが戻ってきてくれて、新しい方々とともに、もう一度初心に立ち返り、新たな『焼肉ドラゴン』をお届けしたいと思います。

──多様性を否定するような、排外主義的な考え方が世界を取り巻く昨今、今、『焼肉ドラゴン』を上演する意味を問われたらどう答えますか。

鄭義信さん)
本作は、オーストラリアやアメリカでリーディング作品として招聘されたことがあります。そのとき驚いたのは、僕自身は日本の中の小さな在日の家族の話を描いたつもりだったのですが、海外では「これは移民の話ですね」と受け取られたことです。「そういうことか」と気づかされました。

世界中どこにでもある移民という問題、戦争で国を離れざるを得ない人々がいるという現実──それでも人は生きていかなくてはならない。その希望のメッセージを感じてもらえたら、ありがたいです。


【哲男役(梨花の夫)千葉哲也さん オリジナルキャスト/2011年以来14年ぶりの出演】



千葉哲也さん)
14年ぶりなので、哲男が何歳になったのか分かりませんが(笑)、みなさんの足を引っ張らないように頑張りたいと思います。

──初演を振り返り。

千葉さん)
『焼肉ドラゴン』は日韓交流の作品です。まず、韓国キャストの台本にはハングルと日本語の両方が書かれているので、日本キャストの台本よりも厚みがあるんですよ。僕は東京出身なので、関西弁はもうめちゃくちゃなんですけど、なんとかなるんです。でも、日本語をまるまる覚えなきゃいけない韓国キャストは本当に大変だと思います。敬意を持っています。

初演の頃から、稽古時間はすごく長く取っていました。手探りで作品を作っていって、台本にまったくないことも義信さんのアイデアでどんどん膨らんでいったんです。その意味では、再演・再々演である程度の形ができているところからのスタートなので、あとは僕の年齢だけですね。頑張ります(笑)。


【梨花役(次女)村川絵梨さん 初参加】



村川絵梨さん)
初演のレジェンドの方々がカムバックされる伝説の『焼肉ドラゴン』の一員となること、本当に光栄で、身が引き締まる思いです。すでにセットが立ち、その中で立ち稽古が始まっていますが、初参加チームとしては震えるような気持ちです。とんでもない熱量に負けず、挑んでいきたいと思います。楽しみにしていてください。


【静花役(長女)智順さん 初参加】



智順さん)
初めてお話をいただいた時は、「絶対に嘘だ」と思いました(笑)。信じられなかったです。もちろん嬉しい気持ちもありましたが、それを上回る「本当に?」という疑いの気持ちがありました。いざ稽古が始まると、「もう、うだうだ言っている暇はないな」と思わされるみなさんのエネルギー。ちょっとすごすぎます(笑)。今は、一生懸命食らいつこうという思いで頑張っています。


【呉信吉役(店の常連客)櫻井章喜さん 2016年に続いての出演】



櫻井章喜さん)
9年前は、大量の涙と汗を流し、大きな声で騒いで、歌って、踊って、とにかく大変だったな、疲れたなという記憶が真っ先に浮かびます。その時のメンバーも、みんな大好きでした。今回のメンバーもとても魅力的で、チョンさんをはじめとする『焼肉ドラゴン』という大きな家族が、どんなチームに育っていくのか、今から楽しみで仕方ありません。日韓の素晴らしい俳優・スタッフが集まり、語り継がれる舞台になると思います。


【阿部良樹役(アコーディオン奏者)朴勝哲さん 映画版を含め、全ての上演に出演】



朴勝哲さん)
『焼肉ドラゴン』は映画も含めて皆勤賞ですが、記者会見は初めてです(笑)。“焼肉ドラゴン”というお店にずっといる常連客として、初演の懐かしいメンバーと新しいメンバーで見られる景色をとても楽しみにしています。僕も、その中で生きられるように、楽しんでやっていきたいと思います。

(太鼓奏者・佐々木健二役の崔 在哲さんは、本日は欠席となります。崔さんは、韓国太鼓(チャング)の演奏家で、今回が初参加となります)


【長谷川豊役(クラブ支配人)石原由宇さん 初参加】



石原由宇さん)
僕は、デビュー作が鄭さんの書き下ろしの作品です。再び鄭さんの芝居のセリフを話せることを嬉しく思っています。ただ、僕は東京出身で、関西弁の芝居が初めて。今はまったくアドリブができない状態ですが、千秋楽までにはなんとか頑張りたいと思います。


【時生役(長男)北野秀気さん 初参加/オーディションで選出】



北野秀気さん)
オーディションに受かったという連絡は、公園でぼーっとしていた時にもらいました。とりあえず滑り台を3回滑りました(笑)。それくらい嬉しかったです。最年少ですが、誠心誠意、精いっぱい取り組みたいと思っています。


【高原美根子/高原寿美子の2役を演じる松永玲子さん 初参加】



松永玲子さん)
初演はテレビの舞台中継で、再演・再々演は客席で拝見しました。雷に打たれたような衝撃を受け、しばらく立ち上がれなかったのを覚えています。そしてまさかの再々々演で出演依頼が! このタイミングで“ええ感じのおばはん”になれていた自分を褒めたいです(笑)。初代・水野あやさん、二代目・あめくみちこさんに続き、誠心誠意三代目のおばはん、頑張ります!


ここからは韓国キャストのご紹介です!



【金龍吉役(店主) イ・ヨンソクさん 初参加】



イ・ヨンソクさん)
この作品に参加が決まった時、演劇関係の知人・友人に本当にうらやましがられました。それほどまでに『焼肉ドラゴン』は韓国でも伝説的な作品です。夢を見ているような気持ちでオファーを受けました。韓国語と日本語が入り混じる舞台、両方の言語の混ざり合いに意味があると思っています。父親役として、どういう心持ちで臨むか──しっかり悩み、作品に貢献したいです。

──鄭義信さんの作品の魅力は。

イ・ヨンソクさん)
初めて観た鄭さんの作品は『人魚伝説』でした。劇場に入った瞬間から、観客に夢を見させてくれるようなファンタジー性を感じました。『焼肉ドラゴン』では、人間──特に一番近くにいる家族に関する絶え間ない悩みや議論が描かれていると感じます。家族は近くにいて、一番わかっているようでいて、実はよくわかっていない。むしろ他人である友人のほうが理解してくれていることもある。そんな家族への探究を、僕は楽しんでいます。


【高英順役(龍吉の妻):コ・スヒさん オリジナルキャスト】



──コ・スヒさんは本作で第16回読売演劇大賞 優秀女優賞を受賞。千葉さんと同じく、2011年以来、14年ぶりのカムバックとなります。

コ・スヒさん)
コ・スヒが作り上げるヨンスン役の『焼肉ドラゴン』が帰ってまいりました。オープンする日をみなさん待ち望んでくださっていると思いますが、その期待に応えられるように努力してまいります。

──本作への取り組みで大切にされていることは。

コ・スヒさん)
14年という年月が流れたとは思えないほど、身体がこの作品を覚えています。ただ世の中も、私自身も変わりました。年齢を重ねたことで、より深みのある母親像を表現できるのではないかと思っています。


【尹大樹役(静花の婚約者) パク・スヨンさん オリジナルキャスト】



──千葉さん演じる哲男とのマッコリ飲み比べシーンが印象的。

パク・スヨンさん)
初演は30代、再演は40代、今回は50代で臨みます。ある意味、よかったのではないかと思っています。マッコリに関しては年々飲む量が減っていますが、頑張ってしっかり飲めるように練習しています。


【呉日白役(信吉の親戚) キム・ムンシクさん オリジナルキャスト】



キム・ムンシクさん)
長い時間を経て再び『焼肉ドラゴン』に出演するとは思っていませんでした。とても嬉しく、興奮しています。このドキドキワクワクを舞台でしっかり伝えたいと思います。


【美花役(三女) チョン・スヨンさん 初参加】



チョン・スヨンさん)
美花は最善を尽くす人、そして夢見る人だと思っています。彼女がキラキラと輝く姿を作り上げられるよう、頑張っていきたいと思います。



会見では、朴 勝哲さんとチョン・スヨンさんのお二人による、劇中音楽「ニルリリヤ」が披露されました。

また、会見では韓国での反響についても言及されました。『焼肉ドラゴン』は韓国でも「最高の作品」として認められており、演劇を学ぶ学生たちの教科書にも掲載されるほどです。彼らが学び、演じてきたこの作品が再び上演されることで、「ようやく本公演を観られる」と期待が高まっています。

公演は10月に新国立劇場 小劇場にて開幕、その後、11月には韓国公演、12月は福岡、富山をまわり、新国立劇場 中劇場へ凱旋! エネルギッシュなあの家族とそこに集う人々に会いに行きましょう!



ものがたり
万国博覧会が催された1970(昭和45)年、関西地方都市。高度経済成長に浮かれる時代の片隅で、焼肉屋「焼肉ドラゴン」の赤提灯が今夜も灯る。
店主・金 龍吉は、太平洋戦争で左腕を失ったが、それを苦にするふうでもなく淡々と生きている。
家族は、先妻との間にもうけた二人の娘・静花と梨花、後妻・英順とその連れ子・美花、そして、英順との間に授かった一人息子の時生......ちょっとちぐはぐな家族と、滑稽な客たちで、今夜も「焼肉ドラゴン」は賑々しい。ささいなことで泣いたり、いがみあったり、笑いあったり......。
そんな中、「焼肉ドラゴン」にも、しだいに時代の波が押し寄せてくる。

【公演情報】
日韓国交正常化60周年記念公演『焼肉ドラゴン』
2025年10月7日(火)~27日(月)@新国立劇場 小劇場
2025年12月19日(金)~21日(火)@新国立劇場 中劇場<凱旋公演>

作・演出:鄭 義信
出演:千葉哲也、村川絵梨、智順、櫻井章喜、朴 勝哲、崔 在哲、石原由宇、北野秀気、松永玲子
イ・ヨンソク、コ・スヒ、パク・スヨン、キム・ムンシク、チョン・スヨン
芸術監督:小川絵梨子  主催:新国立劇場

韓国公演
2025年11月14日(金)~23日(火)@芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター) CJトウォル劇場
全国公演
[福岡公演]2025年12月6日(土)、7日(火)J:COM北九州芸術劇場 中劇場
[富山公演]2025年12月12日(金)、13日(土) @オーバード・ホール 中ホール


公式ウェブサイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/yakinikudragon/

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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