「歌い続ける」その先へ──中川晃教さんが語る『I Sing』と『ジャージー・ボーイズ』 10月3日(金)東京国際フォーラム ホールCにて開催される中川晃教コンサート2025「I Sing」、シンガーソングライター中川晃教の“いま”を感じ、“歌う”ということに重きを置いたコンサート。中川さんに、『I Sing』への思いと、まさに“絶賛上演中”のミュージカル『ジャージー・ボーイズ』のお話を伺いました。記事ラストには、中川さんからの動画メッセージも!
【ホームグラウンドで“ジャージー・ファミリー”を実感】
──まずは、現在上演中の『ジャージー・ボーイズ』について伺います。 初演から9年を経た、今年の『ジャージー・ボーイズ』は、積み重ねた情熱と愛が結実した舞台。初演から応援してくださっている方は、その成長や深化を肌で感じているでしょうし、再演以降、今回初めてご覧になった方も、この作品の魅力はもちろん、その奥にある歴史までも含めて劇場で体感してくださっていると思います。そうやって生まれる一体感の中で、僕らは公演をさせてもらっています。そんな観客も含めた“ジャージー・ファミリー”の存在が生み出す、作品の深化と一体感に、作品の歩みを改めて実感する毎日です。
それは、劇中のザ・フォー・シーズンズと、彼らを押し上げたファン(=一般大衆)の関係とも重なります。とにかく舞台上も客席も、すべてが熱いんです!だからこそ、僕たちはこの作品に関わってくださるすべての方を“ジャージー・ファミリー”と呼ばせてもらっています。“ジャージー・ファミリー”は単なる愛称ではなく、それもまた“実感”なんです。
── 舞台上の“ジャージー・ファミリー”も増えました。 フランキー・ヴァリ役で言えば、前回、花村想太さん、今回は小林唯さん、そしてNew Generation Team(ニュージェネ)として大音智海さんが加わりました。僕は、それが作品のあるべき姿だと思っています。だから舞台上でのパフォーマンス以外の場面でも、次のフランキーが誕生するために自分にできることを考え、努めてきました。ほかのアーティストの歌を聴いているときも、いつの間にかフランキー役に合った歌声を探していることがあったくらいです。
──初演から携わった皆さんが、作品の人気と基盤を確かなものにし、高いクオリティを保ち続けたからこそ実現したのが、今回のNew Generation Teamとも言えます。 初日の公演を拝見しましたが、とにかく「よかった」。僕が、それ以上を改めて語る必要もないのかなと思っています。
「初演から陰でフランキーの歌声を支えていた」「この作品の特徴であるダブルボーカルを担当していた」「アンサンブルキャストだった」……いろんな言い方があると思いますが、『ジャージー・ボーイズ』の幕を開け続けてきた我々のカンパニーから、ザ・フォー・シーズンズを演じる4人が現れたということがすべてです。客席で感じたことは、それぞれの役を手中に収めた彼らを、ずっと見守り、応援し続けた観客のみなさんが、4人の努力が実った瞬間を心から喜び、舞台を楽しんでいたということです。もちろん僕もその一員。本当によかった。
僕らは、自分のことを知っている人も知らない人も、ときには興味すらない人もいるような現場で、本当にさまざまな人たちに向けて表現を届けていきます。もちろん、4人もこれまでそういった経験をしてきたと思います。でも、あの日の客席には、4人のことを知らない人は一人もいなかったんじゃないかと思うんです。そういう場は、時に必要だと思う。そして4人は存分に力を発揮し、評価につながった。すごく温かさを感じるニュージェネ公演の初日でした。
──初演から『ジャージー・ボーイズ』を届け、フランキー・ヴァリを演じてきた中川さんのニュージェネ公演への愛と、プロ意識の高さを感じる言葉です。さて、そんな中川さんご自身は、今年の『ジャージー・ボーイズ』公演へは、どのような思いで臨まれましたか。 特別なことをしようという考えはなかったのですが、とにかくシアタークリエというホームグラウンドに戻ってきたことがすごく嬉しかったんです。シアタークリエで作り上げた、春・夏・秋・冬の一つ一つのシーンと、そこで味わった一体感。それがあったからこそ、帝国劇場でのコンサートバージョンや、本公演としても全国ツアーやより大きな日生劇場に飛び出していくことができました。
そして今、さまざまな経験をして、再びシアタークリエに帰ってきたことで、うまく言葉にできないのですが「この感じだよね」という手応えがありました。いい意味でリセットされるものがありましたし、これは次の目標に向かっていくための再演なのだろうと。
それは稽古中から予感していたことなのですが、劇場で、お客様が入ったことで確信に変わりました。
──これまで上演された劇場での感動も心に刻まれていますが、それとはまた別のシアタークリエで沸き起こる「この感じ」というものは、観客もかみしめていると思います。ちなみにフランキー・ヴァリ役として、常に鮮度を保つ秘訣は。 やっぱり“垢がたまってくる”というか、いろいろと余計なものが付いてきますよ(笑)。だから、余計なものを必死でそぎ落としながら頑張っています。
それでも新鮮に観ていただけるのは、きっとこの作品が「音楽を主役」にしているからだと思います。「音楽が主役って、なに?」と思われる方も多いかもしれませんが。この作品を“奇跡のミュージカル”と呼ぶ人もいますが、ザ・フォー・シーズンズの4人の軌跡を描く脚本の素晴らしさによって演劇として楽しめるのはもちろん、既成曲でありながら、それがあるときは物語の中に存在し、歌詞が台詞のように紡がれ、またあるときはヒット曲をライブ感覚で味わうこともできる。音楽の存在の仕方が、ひとつの奇跡なんですよね。
──まさに「歌は世につれ世は歌につれ」で、あの時代の音楽シーンを追体験しているようでもあり、目の前でのライブに高揚し、そこはコンサート会場のようでもある。独特の感触のある作品です。 日本のミュージカルシーンにおいて、大きな変革をもたらす可能性のある作品だと自負しています。これからも高い志を持って臨めば、もっともっと広い観客層にもアプローチできるのではないかと、僕自身期待しています。
そうそう、『ジャージー・ボーイズ』の客席を見ていて、思うことがあります。
ヒューヒューという歓声が飛んだり、拍手が鳴りやまなかったり、ショーストップがまるで演出で決められているかのように起こる。ほかの作品でもそうなのかな、と。隣の人に先導されて拍手したり、自ら率先して行ったり、それぞれだとは思うのですが、毎公演ショーストップが起こるというのはとても興味深いです。
たとえば<Sherry><Big Girls Don't Cry><Walk Like A Man>の3曲連続でヒット曲を生み出すシーンの高揚感は、俳優たちの力だけでなく、お客さんがぐんぐん押し上げてくれる──まさに、ボブ(・ゴーディオ)の台詞の通りのことが劇場で起こっているんです。そして言葉にできない感動を味わい、一体感が生まれる。それを一番感じられるのが、シアタークリエという空間なんです。ここからも『ジャージー・ボーイズ』の進化はきっと続きます!
【充実した日々の中で、浮かぶ問い】
──ここからは10月3日に開催される「I Sing」についてうかがいます。2013年にスタートし、文字通り“歌う”ということに重きを置いた、中川晃教さんがフォーリズムの生バンドとともに贈るコンサートです。 「I Sing」シリーズは、2019年以来の久しぶりの開催となります。
今はとても充実した日々を過ごしていますが、その一方で、自分の一部を失いかけているような、少し複雑な心境でもあります。たとえば、もともと料理が好きだった人が、お店を開いて、注文に応じた料理だけを作り続けている感じ。ふと、「自分が本当に作りたい料理ってなんだっけ?」と立ち止まりたくなるような……。もちろん、プロの料理人として成長していきたい、素晴らしい料理を届けていきたいという思いはあるけれど、どこかで不安になるような感覚です。「I Sing」の準備が始まり、自分の音楽に向き合う時間を過ごす中で、そんなことを考えました。
たとえば、同じポップスでも、ミュージカルでは演出家の意図もありますし、台詞としての言葉をしっかり伝えることに意識を向け、歌で背景も含めたドラマを見せていきます。一方で、音楽活動で“歌うこと”は、もう少し感覚的なもの。歌詞ももちろん大切ですが、それ以上に、気持ちが高揚したり、楽しかったり──その瞬間の“中川晃教の音楽、歌声”をシンプルに届けていく表現です。
──そのどちらも大切というわけですね。 僕にとって、ミュージカルと音楽活動は、大切な両輪なんです。その片方のタイヤが回っていなかったな、と気づいたことで、「このままだと、自分はどこへ向かうのか?」と改めて考えるきっかけになりました。
それでふと思い出すのは、小劇場演劇をやっていた先輩俳優が、大劇場でのミュージカル公演中に、「無性に小劇場のお芝居がやりたくなる」とおっしゃっていたこと。どちらが良い悪いという話ではなく、人それぞれに必要な両輪があるんだなと。
──では今回の「I Sing」は、どのような構成になりそうですか。 僕の24年の音楽活動を集めたセットリスト。その一曲一曲に、今の自分が新たに息を吹き込むとどう届くのか——そんなことを想像しながら、セットリストを組んでいます。限られた時間の中でどう組み立てていくか、まだ確定ではありませんが、だいぶ形になってきました。そこには自作の曲だけでなく、ミュージカルからの楽曲も含まれています。
そして今の僕の音楽活動は、コンサートの音源を商品化していくことを軸にしています。だからこそ、コンサートでは必ず新曲を届けたいという思いがあります。つまり、現在、新曲を絶賛創作中ということです(笑)。
──気になりますね。 どんな曲作りをしているかというと。もともと音楽に“正解”はないものですが、いつの間にか自分なりの正解を意識下に置いていたような気がします。でも今は、「新曲を作ろう!」と構えることなく、もっと自由に、自分から自然に出てくるものを大切にしています。鼻歌のような感覚で作っているんです。そこは、ちょっとした変化かもしれません。当然、音楽として、ポップスならポップスのセオリーやルールのようなものはあるけれど、日々の生活から生まれてくる感覚を大切にしながら曲を書いているので、必然的に今の僕が投影されているんじゃないかな。
そして偶然か必然か、『ジャージー・ボーイズ』公演後に、自分のコンサートを開催することが多いんです。そこで感じるのはフランキー・ヴァリを演じた余韻、その力を借りて、ポップスを歌うニュートラルな自分に戻りやすいということ。ドラマとしては重いものも内包しているけれど、音楽、とくにポップスの楽しさにあふれた作品。それが、コンサートでポップスを歌う自分に通じると思わせてくれるんです。もしソンドハイム作品だったら、また違う音楽性のコンサートになるかも(笑)。
──フランキーの「僕は歌い続ける──」という最後の台詞が、中川さんの人生とも重なるようで、まるであのお芝居の続きを見ているかのような気持ちにもなります。 あれって、フランキー・ヴァリさんご本人の気持ちでもあるけれど、もっと大きなメッセージでもあると思うんです。幕開けも、彼らの曲「Ces soirées-là」(「December 1963 (Oh, What A Night)」のフランス語版)が、2000年にパリで若者たちが歌いヒットしたというところから始まりますし、実際に名曲たちは、フランキー・ヴァリ、そしてザ・フォー・シーズンズを演じる俳優たちによって、世界中で歌い継がれています。
そうやって、フランキー・ヴァリさんももちろん歌い続けるし、『ジャージー・ボーイズ』という作品によって、ザ・フォー・シーズンズが永遠になる。それが奇跡なんだと思います。
歌い続けるフランキー・ヴァリさんの人生を演じたご縁、それにあやかってというわけではありませんが、今年の公演を終えた後に控える2025年の『I Sing』では、僕自身も自らの音楽に向き合い、お客さんとともに楽しめる空間、時間にしたいと思っています。僕も歌い続けます。みなさん、お待ちしています!!
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ミュージカルと音楽活動の両方に誠実に向き合い、作品と自分自身の成長を重ねている中川さん。『ジャージー・ボーイズ』の熱気冷めやらぬまま開催される、2025年の「I Sing」では、より自由で“いま”が感じられる音楽表現、歌声を聴かせてくれることでしょう──これは見逃せない、聴き逃せないコンサートになりそうです!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人