シリーズ累計発行部数3,800万部を超える遠藤達哉の大人気コミックを舞台化したミュージカル『SPY×FAMILY』。2023年に帝国劇場で初演され大成功を収めた本作が、2年ぶりに再演! 9月に行われた川越でのプレビュー公演を経て、いよいよ10月7日より日生劇場にて本公演が開幕します。
物語は、平和を守る極秘任務に挑む“スパイの男”が“超能力者の少女”や“殺し屋の女”とともに、互いの正体を隠したまま仮初めの家族を築く姿を描いたもの。シリアスなスパイアクションとコミカルなやり取りが絶妙にブレンドされた世界観、巧妙なセリフ回しとアクションとギャグを織り交ぜたストーリーテリングはミュージカル版でも健在!
愛すべきキャラクターに息を吹き込むキャストも魅力的。ロイド・フォージャー役を森崎ウィンさんと木内健人さん、ヨル・フォージャー役を唯月ふうかさんと和希そらさん、そして観客を魅了するアーニャ・フォージャー役は泉谷星奈さん、月野未羚さん、西山瑞桜さん、村方乃々佳さんが交互に登場。ほかにも瀧澤翼さん、吉高志音さん、山口乃々華さん、鈴木勝吾さん、鈴木壮麻さん、朝夏まなとさんら、続投キャスト、新キャストの化学反応で、豪華なステージが立ち上がります。
日生劇場での本公演、そして全国5大都市へと広がるツアー公演のスタートを前に、川越でのプレビュー公演をレポートいたします。
【オペレーション〈梟(ストリクス)〉再始動!】
ジャジーな音楽(作曲・編曲・音楽監督:かみむら周平さん)に乗せて繰り広げられるスピーディーな物語展開に、胸が高鳴り、笑い、やがて温かい気持ちになるミュージカル『SPY×FAMILY』が帰ってきました! 華麗な変装で敵を欺く完璧なエージェント〈黄昏〉の活躍、まさかのシチュエーションでの“プロポーズ”、入試での“ハプニング”、「ちち」「はは」といった愛らしい呼び方……原作ファンにはたまらない名場面が舞台上で次々とよみがえります。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
東西冷戦下、仮初めの平和が保たれる東国〈オスタニア〉と西国〈ウェスタリス〉。西国の情報局〈WISE〉に所属する凄腕スパイ〈黄昏〉は、極秘任務オペレーション〈梟〉を命じられる。それは、危険人物デズモンドに接触するため“一週間以内に家族を作り、息子が通う名門校の懇親会に潜入せよ”というものだった。
精神科医ロイド・フォージャーに扮した〈黄昏〉が出会ったのは、心を読む力を持つ少女アーニャと、殺し屋〈いばら姫〉の顔を隠す女性ヨル。互いに秘密を抱えながらも利害が一致し、3人は仮初めの家族として暮らし始める。世界の平和は、この奇妙な家族に託されたのだった。
【仮初めの家族】

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
ロイド・フォージャー(凄腕スパイ/コードネーム〈黄昏〉)を演じるのは木内健人さん。端正なたたずまいに象徴される完璧さとコミカルな一面のバランス、お芝居の緊張と緩和のリズムが心地よい!幼少期の記憶に誓った「すべてはよりよき世界のために」という信念をしっかりと背負い、冷徹なエージェントとして任務に生きる〈黄昏〉。けれど、アーニャとの生活の中で生まれる変化に戸惑い、思わず人間味が溢れ出てしまうロイドが愛おしい。木内さんの芯のある歌声、台詞のキレ、ダンスの軽やかさで、新ロイドとしての存在感も抜群です。とくに、ポツリとつぶやく心の声のトーンの巧みさには、客席が笑いに包まれます。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
《妻》となるヨル・フォージャーを演じるのは、和希そらさん。
柔らかい雰囲気の市役所職員でありながら、超人的な能力を持つ殺し屋という二面性を鮮やかに魅せます。不意に“殺し屋スイッチ”が入ったときの凄みのある声のカッコよさはもちろん、ちょっと抜けた天然な一面もとてもチャーミングなのです!さらに「普通」への憧れをにじませるシーンでは、どこか憂いも感じさせる、奥行きのある人物造形が印象的です。幼い頃に両親を亡くし、弟のために生きてきたヨルに、ロイド・アーニャとの新しい“家族”ができて──不器用ながらもしっかりと成長していく姿も大きな見どころです。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
ロイドの《娘》となるアーニャは、西山瑞桜さん。
「アーニャ、ピーナッツが好き〜」と自己紹介する場面の歌とダンスは、まさにキュートの極み! 観客の心を一気に鷲掴みにします。表情の変化や台詞の間の取り方も絶妙で、観客には可愛さが伝わりながら、ロイドには“理解不能”というギャップが生まれるのが面白いところ。そしてロイドやヨル、周りの人々の心を読んだ瞬間に見せるハッとした表情もアーニャそのもの!
「普通の家族」「普通の幸せ」とは縁のなかった3人が、互いに秘密を抱えながらも利害が一致し、仮初めの家族として暮らし始めたフォージャー家。アーニャの「ずっと一緒がいいです」というフレーズが「ちち」「はは」だけでなく観客の心もほっこり温めてくれます。
そしてロイドの、ヨルの、アーニャの“秘密”を知っているからこそ楽しめる“観客視点の妙”も、この作品ならではの魅力です。
【フォージャー家に関わる個性的な人々】

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
ヨルさんに“大切な存在”ができたと聞いて、黙っていられないのが弟・ユーリ・ブライア。東国の秘密警察であることを姉に隠して生きるユーリを演じるのは、吉高志音さん。大好きな姉への愛を、高らかに、伸びやかに歌い上げる姿が印象的。ロイド(=愛する姉の夫)を見定めようとする眼差しも鋭く、バチバチです! 一方、ロイドを慕う後輩スパイ・フィオナ・フロスト(コードネーム〈夜帷〉)を演じるのは山口乃々華さん。「自分こそが《妻》役を務めるべき」とヨルにライバル心むき出しで挑んでいきます。
振り切った芝居が痛快かつ滑稽な、ユーリとフィオナ、気持ちよいほど愛が空回りする二人の存在が物語の最高のスパイスとなっています。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
もじゃもじゃ頭が印象的な〈黄昏〉の情報屋・フランキー、“愛されキャラ”を自在に演じるのは、鈴木勝吾さん。アーニャに懐かれる姿がなんとも微笑ましく、物語に彩りを添えます。初演では木内さんが演じたこの役、お二人の息の合ったシーンでは、そんな記憶もふとよみがえります。

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社

製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
フォージャー家が挑むのは、名門イーデン校の入試!イーデン校の誇り高き寮長(ハウスマスター)ヘンリー・ヘンダーソンを演じるのは鈴木壮麻さん。そして、〈鋼鉄の淑女(フルメタル・レディ)〉の異名を持つ〈黄昏〉の上官・シルヴィア・シャーウッドは朝夏まなとさん。お二人は初演から続投、再会の喜びを感じます。
「エレガンス〜」「こんにちはあるいはこんばんは」など、それぞれのキャラクターを象徴する台詞も見事で、精度の高いキャラクター造作は、もはや“ナチュラルボーン”なのではと思わせる完成度です。お二人が、役どころ同様に芝居でもしっかりと作品を支えます。
【舞台だからこそ】
こうして再演のプレビュー公演を観劇し、改めて感じるのは──
原作が持つ世界観を、舞台美術・照明・音楽・衣裳・映像効果で舞台上に立ち上げ、その中で生身の俳優たちが「アクション×コメディ×家族愛」を見事に融合させていること。舞台芸術の素晴らしさが、ぎゅっと凝縮されています。
そんな大胆な演出と舞台機構を駆使しながらも、細やかな人間ドラマを描き出すのはG2さん(脚本・作詞・演出)。 漫画やアニメで愛されてきた魅力的なキャラクターたちが、目の前で心を動かし、歌い、踊り、怒り、喜び、笑うことで生まれる“わくわく”は、舞台ならではの醍醐味だと再認識。“心の声”を活字(流れる字幕)で映し出し“見せる”演出も効果的かつ原作への敬意を感じます!
また、敵も味方も、町の人々も学校関係者も、アーニャが大好きなテレビスパイアニメの登場人物まで演じるアンサンブルキャストのみなさんは、それぞれの役を早替えで演じながらセットも動かす大車輪の活躍! 見事な連携でめくるめく物語を届けてくれところに、アナログの魅力も宿ります。
こうしてカンパニーが一丸となって作り上げる極上のエンターテインメント、ミュージカル『SPY×FAMILY』。今回は新キャストを中心とした公演をレポートいたしましたが、森崎ウィンさん、唯月ふうかさん、瀧澤翼さんの続投キャストの役の深まり、そしてもちろん、4人のアーニャによるバリエーション豊かな舞台にも期待が高まります!それぞれの個性が光ることで、作品の魅力がさらに広がっていく予感。その化学反応もお楽しみに!
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人