【その笑顔がマジック】ミュージカル『バグダッド・カフェ』開幕レポート～囲み取材＆公開ゲネプロ～

名曲「Calling You（コーリング・ユー）」と共に、不朽の名作映画『バグダッド・カフェ』がついにミュージカルとしてよみがえります。1989年の日本公開時にミニシアターブームの火付け役となり、今なお多くのファンに愛されるこの物語が、パーシー・アドロン監督と妻のエレオノーレ・アドロンによる脚本とこちらも映画と同じ作曲家ボブ・テルソンのオリジナル楽曲、小山ゆうなさんの演出で、舞台上に鮮やかに立ち上がります。

物語の舞台は、アメリカ西部・砂漠の真ん中にぽつんと立つ「バグダッド・カフェ」。女主人ブレンダ（森公美子さん）のもとへ、ドイツからの旅人ジャスミン（花總まりさん）がやってきたことから、荒れたカフェに少しずつ奇跡のような変化が訪れます。国籍も人種も立場も異なる人々が、音楽とユーモア、そして友情の力でつながっていく──。ロック、ソウル、レゲエ、クラシックなど多彩なサウンドに彩られた心温まるミュージカルが、今、新たな感動を届けます。

初日を前に行われた、演出の小山ゆうなさん、花總まりさん、森公美子さんご登壇の囲み取材と公開ゲネプロをレポートいたします。


──ここに注目！というポイントは。



花總さん）
ジャスミンはなんといっても、マジックを何種類かやりますので、ぜひそこを注目していただけたらと思います。でも、双眼鏡では見ないようにと、皆さんにお願いしたいです（笑）。ピュアな心で見ていただけたらと思います。

森さん）私も同じく「マジック」と言いたいところですが、ブレンダのマジックはジャスミンに教わったという形ですので、私はあんまり凝ったことはできません。そこはあまり期待しすぎずに見ていただけたら（笑）。


──森さんが演じるブレンダは、楽曲のジャンルもさまざまですよね。



森さん）
そうなんです。ブレンダの楽曲のジャンルは広いですね。R&B系の曲ではフェイクもしております。でもやっぱりなんといっても、この『バグダッド・カフェ』には「コーリング・ユー」という大変大変素晴らしい名曲があり、これが一番難しいです。ハモリもありますし、稽古でも2人で悩みながら作ってきました。ぜひこの曲もお楽しみにしていただけたらと思います。



小山さん）
今お話に出た、お二人が歌う「コーリング・ユー」。1幕と2幕、それぞれに登場するのですが、同じ曲でありながら、ジャスミンとブレンダ、それぞれの変化、そして二人の関係性の変化（による表現の違い）にも注目していただけたら嬉しいです。

砂漠地帯で一人、店を切り盛りするブレンダは、力強く前向きなパワーにあふれる女性。まさに森さんにしかできないブレンダです。そんな彼女のもとに異邦人として現れるのがジャスミン。最初はみんなが珍しがる存在ですが、次第にその魅力に惹かれ、変わっていく──その様はまさに花總さんそのもの。稽古場でも花總さんは、ジャスミンのような（特別な）存在でした。


──お二人を演出されて、魅力的だと感じた部分を教えてください。



小山さん）
もう本当にいっぱいありすぎて……。お二人に共通しているのは、トップランナーとして第一線で活躍されているのに、それでもなお、努力をまったく惜しまないところですね。マジックもそうですが、新しいことにどんどんチャレンジされていくお姿が本当に素晴らしいなと思いました。

それに、お二人とも稽古場に来られるのがすっごく早いんですよ。台本を読まれたり、マジックのお稽古をされたり、いつもずっと努力されていました。


──新しいチャレンジ、ご苦労されたことは。



花總さん）
初めてのドイツ語の台詞、それもちょっと南部なまりのドイツ語ということで。お稽古最終日にドイツ語の先生がいらして、私は教わった通りに発音していたつもりですが、そこで「なんて言っているか分からない」と。いつの間にか自己流になっていたんでしょうね。そこからまた発音を意識して（笑）。難しかったです。


──いよいよ明日、開幕！ 公演を楽しみにされている皆さんへメッセージを。



森さん）
初日に、作曲のボブさんもいらっしゃるとお聞きしました。歌い重ねるうちに、自分なりの歌になってきたのですが、改めて譜面に忠実にというのがプレッシャーでございます（笑）。しっかり頑張りたいと思っています。

この作品は本当に楽しくて、コメディの要素もあればシリアスな部分もあって、いろんなことを考えさせられるミュージカルです。とにかく、お客様に楽しく観ていただけることが一番だと思っていますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。

花總さん）
この作品には「友だち」という曲が何度もリプライズで登場します。人と人との絆、そして“友達っていいな”という気持ちを、きっとご覧になった皆さんにも感じていただけると思います。加えてマジックも盛りだくさんで、本当に心がハッピーになる作品です。

あたたかい気持ちで劇場を後にしていただけると思いますので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。



笑顔いっぱいの会見に続いて、公開ゲネプロレポートをお届けします！

【その笑顔がマジック～公開ゲネプロレポート】

アメリカ西部の砂漠にたたずむ、さびれたダイナー兼ガソリンスタンド兼モーテル“バグダッド・カフェ”。ドイツからの旅行者ジャスミンは、旅の途中で傲慢な夫と喧嘩別れし、ひとりそこへ流れ着きます。



彼女の出現によって、静かに、しかし確かに変わっていくバグダッド・カフェに集う人々の日常を、多彩な楽曲に乗せて描くミュージカル。ジャスミンとブレンダの友情物語であり、自立や家族の再生、そしてそこに集う人々それぞれの人生を描く群像劇。一人ひとりに物語があることを感じさせる作品です。

舞台上には『バグダッド・カフェ』の象徴のようなオイルタンク。
現実感と浮遊感のバランスがほどよく、砂漠のオアシスのように、乾いた心に潤いをもたらすジャスミン。ゆったりとした時間の流れと人間関係の変化を丁寧に描き出すのは、演出家・小山ゆうなさんです。



夫と決別し、一歩を踏み出したジャスミン。掃除やカフェの手伝い、マジック……自分にできることで世界を変えていく不思議な魅力を持つ女性を演じるのは花總まりさん。初めての生活、環境にも自分流で向き合うことで、確かな居場所を創り出していく。柔らかな強さがぴったりです。



経営難や子育てに追われ、そのストレスで誰に対しても怒鳴り散らすブレンダには森公美子さん。彼女は、突然現れたドイツ人ジャスミンに誰よりも警戒心を抱きます。次第にカフェになじみ、娘や息子と交流していくジャスミンにも不快感をぶつけますが、ある出来事をきっかけに互いの心情を分かち合い、受け入れるように。

二人の心が共鳴し、互いに癒されるとき、バグダッド・カフェは奇跡のような輝きを放つのです。会見でも垣間見えた花總さんと森さんの間の温かい空気、ジャスミンとブレンダにぴったりと重なります。



ひょんなことから始めたジャスミンのマジックは、やがて周囲の人々を変え、皆の心にも作用する“魔法”へ。ジャスミンの“マジック”は評判を呼び、店は大繁盛！
関係も良好となった矢先──。


ここで登場人物をご紹介すると。




ジャスミンに思いを寄せる画家のルディには小西遼生さん。
かつてハリウッドで映画の背景画を描いていたルディ、重ねてきた人生の年月を感じさせるたたずまいと歌唱で、確かな存在感を示します。ジャスミンをモデルに絵を描くシーンでの、静かで熱い大人の恋模様をスマートに展開。



独特の雰囲気をまとったカフェの店員アブドゥラーを演じるのは松田凌さん。
カフェの仕事や子どもの世話などを一手に担いながら、そこで起こる出来事を静かに見守ります。アブドゥラーとジャスミンの語らい、そして「トマト オニオン」のテンポ感も心地よい。



ブレンダの不甲斐ない夫サルには芋洗坂係長さん。
修理したコーヒーマシンの引き取りを何度も忘れたことでブレンダに追い出されてしまいますが、それでもカフェの様子が気になるサルの姿には哀愁が漂います。



ジャスミンを不審に思うブレンダの通報で駆けつける保安官アーニーには岸祐二さん。
気のいい保安官でありながら、ルールに忠実な人物。岸さんの甘い美声が響く「ローゼンハイム」での照明の変化も思わず“フフッ”となるポイントです。



ジャスミンの夫・ムンシュテットナー氏には坂元健児さん。
高圧的な夫として登場しますが、「マイ・スーツケース－彼の場合－」では、その姿がどこか滑稽に映る瞬間も。



芋洗坂さん、岸さん、坂元さんの3人は、バグダッド・カフェの常連客であるトラック運転手たちも演じ、舞台に厚みを与えます。



ブレンダの心配の種、娘のフィリスには清水美依紗さん。
明るく社交的でファッションが大好きなフィリスを魅力的に演じ、パワフルに歌い上げます。



エネルギーに満ちたフィリスの友人たちやキャンパーの青年は、若さと自由を謳歌する存在として鮮やかに描かれます。アンサンブルキャストの伊藤かの子さん、聖司朗さん、東間一貴さん、中嶋紗希さん、舩山智香子さん、堀江慎也さん、歌にダンスに大活躍！



モーテルに住むタトゥーアーティスト、デビーには太田緑ロランスさん。
ミステリアスな雰囲気漂うボヘミアン。多くを語らないデビーが放つひと言の衝撃にも注目です。



ブレンダの長男サル・ジュニアには越永健太郎さん。
カフェに置かれたピアノを弾き、バッハを敬愛するジュニアは、ジャスミンがドイツ人だと知り喜びます。ブレンダにはいつもうるさいと言われながらも、カフェの客たちに気にかけられている様子も微笑ましいです。




抑圧された人生を解き放つように──。
言葉も文化も異なる二人が、ぎこちなくも心を通わせていく日々。
映画で印象的だったシーンが舞台上によみがえり、ジャスミンとブレンダの心の共鳴を、観客も同じ空間で感じることができる。

会見で小山さんが語っていた、1幕と2幕それぞれに登場する名曲「Calling You」。予感めいた1幕、確信に満ちた2幕──その変化に胸が熱くなります。

人生の折り返しを迎えたころに出会う“友だち”。ゆっくり、たっぷりと語り合う二人の姿はなんと美しいことでしょう。

劇場で味わう『バグダッド・カフェ』で、ぜひ心に潤いを。

【STORY】
アメリカ西部の砂漠にたたずむ、さびれたダイナー兼ガソリンスタンド兼モーテル“バグダッド・カフェ”。
切り盛りするブレンダは子育てや仕事に日々ストレスを抱え、不甲斐ない夫サルを追い出してしまう。
そこへ突然やってきたのが、ドイツ人の旅行者ジャスミン。夫と喧嘩別れして、カフェに流れ着いた。
予期せぬ来訪者にブレンダは不信感を抱き、冷たく接するが、やがてジャスミンの存在がブレンダを始め、娘フィリスや息子サル・ジュニア、画家のルディなどカフェに集う人々の心を癒し、その“マジック”が徐々に日常を変えてゆく──。

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おけぴ取材班：chiaki（撮影・文）監修：おけぴ管理人