<上村聡史演出 × サイモン・スティーヴンス作『スリー・キングダムス Three Kingdoms』>
2025年12月、いよいよ姿を現す戦慄のサスペンス──その迷宮を旅する演出家、キャスト登壇のスペシャルトークイベントが開催されました。
上村聡史(演出)、伊達 暁、夏子、伊礼彼方、音月 桂、浅野雅博
12月2日より新国立劇場 中劇場で上演される『スリー・キングダムス Three Kingdoms』。
ロンドン、ハンブルク、タリン──三つの都市を舞台に、人身売買をめぐる闇と、人間の根源にある“罪”を追いかけるミステリー。作家サイモン・スティーヴンスが描く“攻めた演劇”として賛否両論を巻き起こした作品の本邦初上演となります。
開幕を前に、作品の深部に潜むテーマから、稽古場で巻き起こる笑いまで、その魅力をたっぷりと語るスペシャルトークショーが行われました。劇場へ向かう心の準備のために、観劇しようかな、難しいのかな?と迷っている皆さんに、イベントの模様をたっぷりとお届けします。
上村聡史さん
演出家が語る『スリー・キングダムス』とサイモン・スティーヴンス
“先進国の影を照射する”サイモン・スティーヴンスの作品に高い関心を寄せ、これまでにも2作品を演出された上村聡史さんは、作家性ついて、こう語ります。
「彼の出身地、マンチェスターのストックポートというローカルな視点から、日常に満たされない者たちの喪失感を描いていく作家。たとえるならば、バケツの底に穴が開いていて、どんなに水を注いでも満たされないような──その感覚に強いシンパシーを抱いています」
一方で、今回手掛ける『スリー・キングダムス』はちょっと違うテイストもあるとのこと!
「本作は、イギリス、ドイツ、エストニアの3カ国のクリエイターによる共同制作で誕生したため、ローカルから少しはみ出したグローバルな展開を見せます。国をまたいで移動していく中で、レイモンド・チャンドラー風のミステリー要素をベースとし、同時に登場人物の心理、内面に迫る作品。加えて、会話の軽妙さも本作の特徴です。“ヨーロッパの闇”と“会話の軽妙さ”のアンビバレントが非常に面白い」
登場人物たちは、3カ国、3都市を移動しながら、ある種“時間と悪夢の境界”を旅していきます。当初は日本版として、舞台を“東京-プサン-ウラジオストク”に置き換える案もあったそうです。
「数年前のことになりますが、1週間ほど俳優たち
※と読書会を行いました。その結果、やはりこの作品のベースにはキリスト教的な考えがある。舞台を置き換えてしまうと、演じ方から変わってしまうのではないかという話になり、ヨーロッパの西から東へ向かう物語、先進国の影を照射する設定をそのままに、そこから普遍的な物語──本作で描かれる男性側の前時代的な価値観が声なき人を苦しめていくということに対する痛烈な批判を、今の社会に投げかける意味があると考えました」
※上演キャストとはまた別の俳優さんたちとの読書会でしたが、伊達さんはそちらにも参加された多層的なヨーロッパの文脈を、日本で上演される。越えなくてはならない壁は高そうですが、男性社会が抱える無意識の暴力性、前時代的な発想が声なき人々を苦しめるという問題は決して遠い話ではありません。そして、そこで軽妙な会話が絶妙に展開される──このひと癖ふた癖ある作品に挑み、成立させるだけの力を持った“強い”キャストが揃いました。
伊礼彼方さん × 浅野雅博さん
イグネイシアスとチャーリー、スコットランド・ヤードの 刑事バディは息ぴったり
“応援してあげてください”まずは主人公のイグネイシアスを演じる伊礼彼方さん、そして相棒チャーリー役の浅野雅博さん。
台本の初読の感想を伊礼さんに振られた浅野さん。「ミステリーを謳った作品、ほとんどがNGワード(ネタバレ)なんですよね(笑)」とプレトークの難しさも訴えつつ。
「台本を読んだときは、『この作品を中劇場で上演するって、上村さん、攻めてるな』と思ったんです。今は稽古を楽しんでいます。“ヨーロッパの闇を──”と、あらすじを読んで身構える方もいるかと思いますが、思ったより笑えますから!まぁ、僕はシリアス担当で──」
そこに絶妙のタイミングで「いやいや、違うでしょ!!」とツッコミを入れたのは、主人公としてこの迷宮を旅するイグネイシアスを演じる伊礼さん。同じく初読の感想を問われると。
「正直めちゃくちゃ難しかった、情報量が多すぎて混乱しました。読み終わって、とりあえず5分休憩するくらい(笑)。でもそこに潜む闇をもっと知りたいとも思ったんです。社会に潜む闇、それを描いたサイモンさん、新国立劇場で演出する上村さん、(そんなに切り込んで)大丈夫なのかと思うほどの社会的メッセージを持った“攻めた作品”。僕自身も、攻めの姿勢を大切にしているので、その責任は負えると思いました」
すると浅野さんが「この方(伊礼さん)はずーっと出ているんです。出ていないのは1シーンだけ。本当にずーっと出ているので……応援してあげてください(笑)」
劇中とはちょっと温度感が異なるかもしれませんが、すでにいい感じのバディの呼吸ができているお二人です。
音月 桂さん
物語を導くミステリアスな存在
“歌わせていただきます”音月 桂さんは、ヘレ・カチョーノフ、シュテファニー、そして“観客と舞台をつなぐミステリアスな存在”という、3役を務めます。
「最初は自分のなかで消化しきれず、どんな作品になるのか予想もつきませんでした。それが稽古場で、上村さんの演出によって立体的になってくるとすごく面白い。実際に人が演じることで、こんなにも世界が広がるんだと実感しました」
気になる“観客と舞台をつなぐミステリアスな存在”ですが、実はこれは台本には一切書かれていない役、シーン。ことあるごとに登場する(!)とのことですが、それが単なる説明ではなく、そのシーンを挟むことによって、全然関係のないと思っていたシーンの繋がりが見えたり、「なるほど!」という気づきを与えるように上村さんが作り上げているとのこと! さらに幕開きから歌うという、この役どころについて、音月さんは「大丈夫かなと思っても、思い切ってやってみるとちゃんと成立する。上村さんの演出が絶妙です」と、力強くコメント!
伊達 暁さん
ハンブルク刑事シュテッフェン
“異物として存在し続ける”物語がドイツへ渡ると登場するのが、伊達 暁さん演じるシュテッフェン。
サイモン・スティーヴンス作品への出演経験もある伊達さんは、作者の“旅する作家性”をよく知る俳優さんです。
「ロンドン、ハンブルク、タリン──3つの都市をイグ(イグネイシアス)と観客が共に旅をするような作品。その中で、僕はハンブルクでイグとチャールズを迎えるドイツの刑事を演じます。彼らにとって、言葉も、文化も、捜査方法も違う、 “異物”として存在し続けたい。出ずっぱりの伊礼さんですが、こちら側としては、伊礼さんが疲弊して、疲弊して、燃えカスになるまで攻め続けたいと思っています。
元は英語、ドイツ語、エストニア語で書かれ、3カ国の俳優たちがそれぞれの国の言語で演じて、(補完のために)字幕を出すという上演形態だったものを、僕たちは、すべて日本語で上演する。つまり英語のセリフを日本語で、ドイツ語のセリフを日本語でしゃべるわけなんです。さらには僕、シュテッフェンがたまに頑張って英語を使ってみる、それも日本語。複雑すぎて、こんがらがっちゃう(笑)。そんな日本語同士でも、言葉が通じたり通じなかったり。そこも楽しんでください」
夏子さん
遠く離れた妻キャロライン
“遠いところに来ちゃったな”伊礼さん演じるイグの妻キャロラインを演じる夏子さん。
「イギリスで帰りを待つ妻です。さきほどから“旅”がキーワードとして登場しています。私、海外旅行先、ホテルに着いたときに「すごい遠いところに来ちゃったな」と思う瞬間があるんです。それはワクワクでもなければ、ネガティブなことでもない。ただ体感として、そう思うことがあります。今回、皆さんのお芝居を稽古場で見ていて、最後の最後に「すごい遠いところに来ちゃったな」と思うことが何度もあって。すごいお芝居だなって思うんです」
この実感のこもったコメント、観客として物語を旅したときに、“遠さ”の真意がわかるのかもしれません。
【稽古場には笑いがあふれる】
トークイベント後半は、稽古場の様子がうかがえる和やな雰囲気。
──上村さんの演出を、もうちょっと深掘りしてみると。上村さん)
チェーホフの『かもめ』の“本歌取り”や受難劇の流れなど、演劇を知っていたらより楽しめる要素も取り入れていますが、知らなくても面白いように作っています。(←言い切りました!カッコいい!)
自分でも、新国立劇場で手掛けた作品で一番攻めた演出をしていると感じています。今回のチーム、実験的な取り組みをしても、みんなそれを一瞬にして表現にしてしまうんです。だから稽古場では笑いも絶えない。それによって1分に1回くらい見せ場がある作品になっています。それは演出していても新鮮。難しいところは難しく感じてもらっていいんです。それが相反して楽しいというように作っています。
──稽古場ではカッコいい禁止令?! 伊礼さん)
稽古場で上村さんからは、いつも「黙って」と言われています(笑)。
上村さん)
「黙って」とは言わないでしょう。「そのカッコいい仕草、いやだからやめて」って(笑)。
浅野さん)
そうそう!この人(伊礼さん)、いちいちカッコいいんだ。それを上村さんが矯正してくれているんです。
上村さん)
「そのカッコいい笑い方もやめて」と言ったときなんか、なんのてらいもなく「無自覚に出ちゃうんですよね」って(笑)。
伊礼さん)
ずっと、こんな感じのやり取りが行われています(笑)。
──ここから浅野さん曰く「テレビショッピングみたい!」という伊礼さんによる華麗なる全方位プレゼンが始まります。伊礼さん的推しポイントは! 推し① 上村さんの演出によって飽きることのない作品ですが、なんかちょっと飽きそうになると、絶対にチャーリー(浅野さん)が出てきますからね。注目してください。
推し② 音月さんの役は、自然のエネルギーそのもの。出てくると確実に空気を変え、その瞬間にロンドンからドイツ、エストニア、そしてさらにどこかへ連れて行ってくれる。チャーリーとは違う意味で(笑)、目が離せません。
推し③ シュテッフェン(伊達さん)という役は、イグネイシアスの心をかき乱す、かき乱す。現在、過去、未来……すべてを洗い出して脳みそをグシャグシャ洗濯されるような不思議な感覚に陥ります。めちゃめちゃ面白い存在。
推し④ 台本を読んで、一番難解だったのが夏子さん演じるキャロライン。イグネイシアスとキャロラインは43歳と28歳、これがなんと僕らの実年齢と同じ。この15歳差というところにも、すごくメッセージ性があるので覚えておいてください。で、この夫婦、まったく会話がかみ合っていないんです。それがなにを物語っているのか、最後にどう繋がるか、お楽しみに。
注目ポイントは壇上の皆さんだけでなく──
推し⑤ 階上でトークイベントを見学しているキャストの皆さん!このメンバーが本当にすごい!ワンシーン、ワンシーン、全部かっさらっていきますので、ぜひとも楽しみにしてください。
いい感じに締まった……かと思いきや。
「とは言え──」と、カットインしてきたのは上村さん!
推し⑥ 伊礼さん演じるイグの意識とともに、皆さんもイギリス、ドイツ、エストニアを旅していくような作品。今回、伊礼さんにこの役をお願いしたのは、今までの伊礼さんとは違うものを見たかったから。自分のなかの蓋が外れる瞬間を作ってほしいと、稽古場でいろいろと試しています。今までと違った“伊礼彼方の質感”が見られると思うので、そこもご期待いただければと思います。
さらに!イベント中、伊礼さんからヒントとして挙げられたのは、
ゲーテの「ファウスト」:悪魔に魂を売り渡した男の自滅とイグネイシアスが重なるようなところがある
「聖イグナチオ」(アンティオキアのイグナチオ):なにか罪を犯したわけでもないのに世界が変わったことで必要のないものとされた聖人
直接的にそれらが描きこまれているわけではないのですが、この辺りを踏まえると、より理解が深まりそうです!公式サイトの
あらすじマンガもおススメ!
これはもう、観るしかない!!そう思わせてくれるトークイベントでした。

イベント冒頭、立ち上がって話し始める伊礼さん。
「後ろの席のお客様にも見えるようにと思って」と、行動でも”カッコいい”発動!これはウェルカムなカッコいいです!
新国立劇場『スリー・キングダムス Three Kingdoms』伊礼彼方さん、音月 桂さん取材会レポートものがたり
刑事のイグネイシアスは、テムズ川に浮かんだ変死体の捜査を開始する。捜査を進めるうちに、被害者はいかがわしいビデオに出演していたロシア語圏出身の女性であることが判明する。さらに、その犯行が、イッツ・ア・ビューティフル・デイの名曲「ホワイト・バード」と同名の組織によるものであることを突きとめる。イグネイシアスは捜査のため、同僚のチャーリーとともに、ホワイト・バードが潜伏していると思われるドイツ、ハンブルクへと渡る。
ハンブルクで、現地の刑事シュテッフェンの協力のもと捜査を始める二人だったが、イグネイシアスがかつてドイツに留学していた頃の不祥事を調べ上げていたシュテッフェンにより、事態は思わぬ方向に進んでいくのであった。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人