2026年1月10日に日生劇場で開幕する、モーリー・イェストン原案・作詞・作曲の新作ミュージカル『ISSA in Paris』。
俳人・小林一茶の“知られざる空白の10年”と、現代東京でスランプに苦しむシンガーソングライター・海人(ISSA)が、時空を超えてパリで出会うという独創的な物語です。
「新作」ということで、どのような物語展開なのか、楽曲なのかと関心が集まる本作。制作発表会見には、演出の藤田俊太郎さん、海宝直人さん、岡宮来夢さん、潤花さん、豊原江理佳さんが登壇し、作品の魅力や創作の手応えが語られました。また、制作発表の冒頭には「露の世は」(岡宮さん)「俳句」(海宝さん、岡宮さん、潤さん、豊原さん)「一つの言葉」(海宝さん)、3曲の歌唱披露がありました。演奏はピアノ=森亮平さん(音楽監督・編曲・キーボードコンダクター)、フルート=下払桐子さん、チェロ=柴崎紘生さん・白佐武史さんです。
繊細な「露の世は」、それぞれのドラマが交差する四重唱「俳句」、壮大な歌い上げ「一つの言葉」と、“繊細”“大胆”“奇跡の交差”作品の魅力を象徴するような3曲。丁寧に言葉を紡ぎながら『ISSA in Paris』の世界を届けます。
<作品解説>
◆ 作品の起点となった一句「露の世は 露の世ながら さりながら」本作の創作は、小林一茶の代表句「露の世は 露の世ながら さりながら」から始まっています。イェストンは学生時代に日本文学のハイレベルな翻訳を学び、最小限の言葉で、愛しいわが子を失った深い悲しみを表現する、この句に強く心を動かされたそうです。この一句が、海人と一茶、東京とパリ、音楽と俳句という本作を貫く“二重構造”の核になっています。そこから始まった『ISSA in Paris』創作の旅。脚本・訳詞は、高橋知伽江さん。演出は、イェストン作品『ナイン』を手掛け高い評価を得た藤田俊太郎さんに託されます。
◆ 藤田俊太郎さん「音楽が生まれる祝祭の瞬間を観客と分かち合いたい」本作のテーマは“音楽が誕生する喜び“。スランプによって10年ものあいだ曲を生み出せずにいる海人(ISSA)。一方、弱き者に寄り添いながら、自然と人間の儚さを17文字で表現する若き日の一茶。現代と江戸時代、異なる時を生きる二人が時空を超えて出会い、一つの言葉から音楽が生まれる。藤田さんは「観客の皆様には、劇場でその祝祭の瞬間に立ち会い、音楽の尊さを感じてほしい」と語りました。
◆ISSAと一茶~キャラクター紹介~海人(ISSA)YouTubeのヒットで一世を風靡したものの、スランプで10年間曲を書けなくなったシンガーソングライター。俳句研究家だった母の死をきっかけに、「小林一茶は日本の鎖国を抜け出し、パリに渡っていた可能性がある」という母の研究を知ります。母の愛した俳句「露の世は 露の世ながら さりながら」がふと脳裏に浮かび、止まっていた時間が動き出すように、海人はパリへ旅立ちます。
小林一茶(弥太郎)江戸後期の俳人。本作では、史実では語られない“空白の10年”に焦点が当てられています。異国への憧れから出島を出てオランダ船に乗り込み、辿り着いたパリは1788年、フランス革命前夜。そこで出会うのが、舞台女優であり革命運動の闘士でもあるテレーズです。
現代と過去に生きる二人、ISSAと一茶が、パリで出会い──
< キャストが語る『ISSA in Paris』>
【 海宝直人さん(海人/ISSA)コメント】
──海人/ISSAの人物像について。原作のないオリジナル作品を一から生み出していく作業は大変ですが、とてもやりがいを感じています。海人は、スランプやその根底にある家族への複雑な思い──誰もが人生で経験する葛藤を抱えた、人間味あふれる人物。そんな彼が、亡き母を通して、一茶と出会い、気づき、成長していく姿に、観客のみなさんも、それぞれの人生を重ねて共感できるのではないかと思います。
──歌唱披露、楽曲の印象について。制作発表での歌唱披露は責任重大で緊張しますね、恐ろしい(笑)。
(←堂々たる歌唱を目の当たりにした、会場にいた誰もが「いやいや、とてもそんなご様子には……」と思ったことでしょう)本作楽曲は、現代と江戸時代、日本とパリ、時空を超えていく物語ということで、日本的な旋律からモダンなリズムをもつものまで、幅広いという印象を受けました。「これぞ!」というイェストンさんらしさと、新しいサウンドの両方があります。
【 岡宮来夢さん(小林一茶)コメント】
── 一茶の人物像について。僕は、長野県出身なので信州人の小林一茶を演じられる喜びをかみしめながら稽古しています。史実とは異なる、“一茶がパリに渡っていたらどうなるのか”というファンタジー的な設定から人物像を構築していく作業に、楽しさを感じる日々です。
一茶は、弱き者や貧しき者、儚い存在に視線を向けながら、同時に海や山といった大きな自然にも目を向け、それをわずか17文字で表現してきた俳人です。そのスケールの大きさ、繊細な心の動きを大事に、優しさと情熱の両方を併せ持つ一茶を、自分なりに丁寧に立ち上げ、“自分だけの一茶像”をつくり上げたいと思っています。
──歌唱披露の感想。歌唱披露のトップバッターにプレッシャーも感じつつ(笑)。初めて聴いたとき、“みずみずしさ”や“緑”の印象を受けた「露の世は」をピアノ、フルート、チェロの伴奏で心地よく歌わせていただきました。いつもはピアノに合わせているので、今まで見えなかった新たな景色が見えたように感じました。ほかにも奥行きのある豊かな楽曲ぞろいなので、さらにいろんな楽器が加わったときに、どうなるのかワクワクしています。
【 潤花さん(ルイーズ)コメント】
──ルイーズの人物像について。ルイーズはフランス人の父と日本人の母を持つ、本業はダンサー・振付家の女性です。副業として現地ガイドをしています。パリで日系人として生きる中で、痛みや辛さ、差別といった経験をしてきたからこそ、弱い立場の人に寄り添い、声を上げられない人に手を差し伸べられる女性だと感じています。
そして藤田さんの言葉をお借りすれば“海人に新しい世界を見せる人”。海人に初めて会ったときから心に深く関わっていくのは、海人の母との出会いや、小林一茶への思いを通して抱いた強い感情が背景にあるから。その積み重ねが、海人に“新しい世界”を見せるための力につながっていくのだと思います。
──歌唱披露の感想は。4人で「俳句」を歌わせていただきました。まだ稽古が本格的に進んでいない段階でのお披露目でしたが、テレーズ(役の豊原江理佳さん)と目を合わせた瞬間、“同じ時代を生きていたら、きっと同じ気持ちで一緒に戦っていたのではないか”と思うほどの強い共鳴を感じました。素敵な瞬間でした。
【 豊原江理佳さん(テレーズ)コメント】
──テレーズの人物像について。私が演じるテレーズは、舞台女優として活動する一方で、革命運動にも身を投じている女性です。台本をいただいて藤田さんと役について話した際、“これまでのフランス革命作品で描かれてきたようなリーダー像ではなく、まったく新しい女性リーダー像をこの作品でつくりたい”という提案をいただきました。
物語では、革命前夜のパリでの運動と、現代のデモの在り方が対照的に描かれており、そうした視点の中で、どう立ち上げていくか──自分の中にある正義感や、“どんな時に自分は声を上げようと感じるのか”といった部分と照らし合わせながら、今までにない新しい女性リーダーとしてのテレーズ像を見つけていきたいと思っています。
──楽曲の魅力は。ミュージカル『タイタニック』で初めて触れて以来、モーリーさんの楽曲が大好きです。今作の楽曲の魅力は、驚くほど高い俳句との親和性です。まったく違う国の音楽のはずなのに、音楽と俳句が融合し美しさが倍増していると感じています。
【藤田俊太郎さんコメント】
──作品のどのようなところに共振しますか。小林一茶の俳句から感じる、弱き者、小さき者へ優しい眼差しと、未来人のように大胆に世界を捉える眼差しが生み出す“繊細さと大胆さの共存”に強く共振しています。また、そこをどう表現するかが、演出上の重要な軸になってきます。
作品全体はファンタジーであり、そこでユーモアや“人間の力”に満ちた世界観をつくりたい。そのためにスタッフワークを駆使し、総力戦で「時空を超える瞬間」を大胆に表現します。
また、俳優陣は誰も演じたことのない人物像を想像力で立ち上げています。
豊原さんのお芝居を見ていると、テレーズは18世紀の新しい女性像であるとともに、歴史にその名は残っていないけれど、実在した女性の姿なのではないかと思えてきます。潤花さんは、移民としての誇り高い姿をルイーズを通して見せてくださいますし、来夢くんからは「こんな一茶がいていいのか」というほどみずみずしい表現が生まれつつあります。そして“弱さも強さも備えた、誰もが共感できる人物像”、今の海宝くんにしか演じられない海人になっています。
──最後に、藤田さんに締めのコメントをいただきます。ここは、ぜひ一句。
突然の「では、一句」の振りに海宝さん、岡宮さんのほうがびっくり(笑)。しかし、藤田さんは「僭越ながら──」と続け。
やはりここは、私ではなく、一茶の詠んだこの句を──
「露の世は 露の世ながら さりながら」
この句を「露というのは、儚き一滴。一瞬で消えてしまうものかもしれないけれど、だからこそ美しい」と捉えています。これは一茶が亡くなった子どもを思って詠んだ俳句ですが、この繰り返すリズムに死を悲しむ、慈しむ思いとともに、そこから再生しようという尊い瞬間も感じ取れます。私たちがつくる作品もまた、お客様と共鳴する時間は露のように儚く消えてしまうかもしれない。でも、その美しい時間は心の中に残り続けるのではないか、と。
劇場でお会いしましょう。
──ここでなんと、スペシャルゲストとして長野県PRキャラクター「アルクマ」(特技は信州のお国自慢。好きなものは山と蕎麦とりんご)と信濃町PRキャラクター「一茶さん」(俳句の腕は日本屈指)が登場! 
一茶さんが選んだ一句を、岡宮さんが披露!
俳句解説──季節が秋から冬へと移り変わる頃、村のあちこちで祭りの太鼓の音が響いている。その音を「行く秋を送る太鼓だ」と一茶は感じ取り、この句を詠みました。「秋を送り出す太鼓のように、今、この舞台をめでたく響かせたい」という思いで、この句をご披露してくれました。
俳句と音楽、江戸とパリ、そして現代が響き合う本作が、どのような風景を立ち上げていくのか。今後の創作に大きな期待が高まる制作発表会見でした。

スペシャルゲストの登場に、壇上の皆さんもテンションアップ!!
【藤田俊太郎さんによるストーリー解説】
※物語の核心に触れます。本作の原案として、当初からモーリー・イェストンさんによる大きな起承転結を描いたストーリーが存在していました。その骨格をもとに高橋知伽江さん、そしてカンパニーの皆さんの多彩なアイデアを重ね、数年をかけて現在の脚本が完成しました。
タイトルの「ISSA(イッサ)」には二つの意味があり、現代を生きるクリエイター・海人(ISSA)、そして江戸の俳人・小林一茶という“二人”の存在を示しています。
海人はシンガーソングライターとして活動しながら、曲が書けなくなる、ヒット曲を生み出せなくなるという壁に直面します。実は海人は俳句研究家の母と父のもとに育ち、小さい頃から俳句に親しんできた一方で、それをコンプレックスとして抱えて生きてきました。母は「小林一茶はパリへ渡っていたのではないか」という大胆な仮説を追い続けていましたが、その研究をまとめ上げる途中、パリで志半ばにして亡くなってしまいます。
母の足跡を追うようにパリに渡った海斗は、母の残した原稿を手にすると、そこに記されていた“生き生きと躍動する、これまで自分が知らなかった一茶の姿”に強く心を動かされます。その瞬間、海人は時空を越えて江戸時代の小林一茶と出会うことになります。
パリの街で、海斗は貧しい人々や移民、格差の中で虐げられている弱き者たちの姿を目の当たりにします。その経験を通して、彼は “弱き者の視点から描かれた“小林一茶の俳句の本当の意味”に気づいていきます。
さまざまな運命的な出会いを重ねながら、海人が新しい曲を生み出すことができるのか、できるのならば、それはどのような楽曲になるのか──というラストシーンを私たちは作り上げて、この作品を終わろうと思っています。全部言ってしまいたした(笑)。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人