新国立劇場『スリー・キングダムス』稽古場レポート~予想を超えてくる!!~

『スリー・キングダムス』@新国立劇場中劇場
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新国立劇場でまもなく開幕する『スリー・キングダムス Three Kingdoms』。イギリス演劇界の気鋭サイモン・スティーヴンスが描く“戦慄のサスペンス”を、日本初演として立ち上げる注目作です。ロンドンのテムズ川で発見された女性の変死事件を追う刑事イグネイシアスが、捜査の中で国際的犯罪組織の闇に迫っていく物語は、ミステリーとしての緊張感に加え、現代社会の不安を鋭く突くテーマ性を備えます。

演出を手がけるのは、繊細かつ大胆な舞台づくりで信頼を集める上村聡史さん。伊礼彼方さん、音月桂さん、夏子さん、伊達暁さん、浅野雅博さんら実力派キャストが集い、緻密な心理描写とスリリングな展開に疾走感と、さらなる深みを与えます。

ここまでインタビューやスペシャルトークイベントで作品の輪郭を追ってきましたが、今回の稽古場取材で、作品が立ち上がる過程を目の当たりにし、『スリー・キングダムス』の世界に、一歩足を踏み入れたような興奮を覚えました。国境を越えて広がる闇に、ひとりの刑事がどう立ち向かうのか──通し稽古の模様をレポートいたします。



伊礼彼方さん


音月 桂さん、伊礼彼方さん


浅野雅博さん、伊達 暁さん、伊礼彼方さん

伊礼さんが「手練れ揃い」と表現したように、演劇ファンなら名前を見るだけで“強い座組”であることは一目瞭然。しかし!その想像を、さらに軽々と超えてくる恐るべきカンパニーです。


【イグ&チャーリー:絶妙すぎる“押し引きの刑事コンビ”】



伊礼彼方さん、八頭司悠友さん、浅野雅博さん

殺人事件を捜査するイギリス人刑事コンビ、イグネイシアス(通称イグ、伊礼彼方さん)とチャーリー(浅野雅博さん)。押したり引いたり、上げたり下げたり、絶妙なコンビネーションで被疑者を追い詰めていきます。



浅野雅博さん

舞台上を所狭しと動き回るダイナミックな取り調べのテンポが抜群に心地よく、時折放たれるチャーリーのユーモラスな言動には稽古場に笑いも。通し稽古と言っても、まだまだ試している段階。浅野さんの変化球を伊礼さんが一瞬“食らってしまう”瞬間も。でも、チャーリーなら言いそう、やりそうと思わせる変化球なのです。

また、イグとチャーリーの取り調べには、明確な“役割分担”が存在し、それぞれがその役割を「演じている」ようにも見えます。刑事として役割を演じているときから、素のイグとチャーリーのやり取りに戻る瞬間──この切り替えの妙にも注目です。



八頭司悠友さん

また、容疑者トミー(八頭司悠友さん)の、現場写真を見せられたときの反応。そこから観客は犯行のおぞましさを知ることになります。直接見せないからこそ増幅する“恐怖”、間接的な表現の力を強く示します。


【イグとキャロライン:語られない“夫婦の不穏”】



夏子さん、伊礼彼方さん

15歳差の夫婦・イグとキャロライン(夏子さん)。旅行ライターの妻と飛行機嫌いの夫──会話は噛み合わず、部屋には不思議な空気が流れ続けます。



夏子さん

夏子さん演じるキャロラインは、語られない空白をそのまま“存在感”としてまとい、イグを見つめる視線、花を見つめる視線、窓の外へ向ける視線……そのどれもが意味深で、手が届きそうで届かない心理を繊細に描き出します。


【“日本語なのに多言語”が生む緊張:難しさを翻訳劇の面白さに昇華】


捜査が進むにつれ、イグとチャーリーは各地で“ひと癖もふた癖もある人物”たちに遭遇していきます。



鈴木勝大さん

被害者の同僚ヘレ(音月桂さん)と、その通訳(鈴木勝大さん)のシーンもその一つ。
本来は多言語が飛び交う場面ですが、すべて日本語で上演されるため、“日本語→日本語”の翻訳という奇妙さがあるのですが、これが意外や意外!補足したり、割愛したり、そのまま伝えたり──“通訳のフィルター”が字幕を介すことなくダイレクトに伝わるからこその面白さを生みます。



前列)伊礼彼方さん、浅野雅博さん
後列)竪山隼太さん


竪山隼太さん

そして、やがて訪れる、ずっと翻訳に徹していた通訳自身がふと本音を語る瞬間。その衝撃はまさにサスペンスドラマ級。「ここでCMに行くやつ!」と思うような引きの強さに、思わず息をのむ場面です。

アレクサンドル(竪山隼太さん)の登場もインパクト十分。
ブッ飛んだキャラクターでありながら“この人はこう生きてきたのだろう”という説得力のある芝居で、物語を一段階進めていきます。アレクサンドルが差し出した“あるもの”をきっかけに、物語の舞台はドイツ、ハンブルクへと移っていくのです。



写真右)音月 桂さん

【ドイツ編突入:そこは“伊達暁ワールド”】



伊達 暁さん


伊達 暁さん、伊礼彼方さん

ドイツの刑事シュテッフェンを演じる伊達暁さん。
とにかく独特な人物。無作法で無遠慮で乱暴、イギリスから来た刑事から見るとカルチャーギャップの塊のような男。感心してしまうほどの強烈さで、場面を一気にさらっていきます。

そしてここからは、イグ、チャーリー、シュテッフェンの“奇妙な三人捜査体制”が始まります。



伊礼彼方さん、音月 桂さん

ホテルでのシュテファニー(音月さん)との場面も刺激的。
イグに向ける好意的な微笑みと無表情が瞬時にスイッチし、二人の間にどこか危うい距離感が漂います。


【イグの“通訳”が生む面白さ】



伊達 暁さん、伊礼彼方さん、浅野雅博さん

ハンブルクでは、ドイツ語が話せないチャーリーのために、ドイツ留学経験のあるイグが通訳を務めます。そこには、思惑や配慮(!)が働き、シュテッフェンの発言→ イグによる英語訳(実際は日本語)の間にズレが生じることも。そんなとき、台本にはない「ドイツ語の尺に対して訳が短くない?」とチャーリーが身振り手振りでツッコむ“翻訳あるある”に、稽古場も笑いに包まれました。

そして観客はすべて日本語で理解できるのに、知らないのはチャーリーだけ──この状況がまた面白い。


【次々登場するキーパーソンたち。真相はすぐそこ……なのか?】



浅野雅博さん、伊達 暁さん、佐藤祐基さん、伊礼彼方さん、


伊礼彼方さん、浅野雅博さん、森川由樹さん、伊達 暁さん

ポルノ映画の監督ゲオルク(佐藤祐基さん)、被害者の元ルームメイトのクリスティナ(森川由樹さん)、ポルノ男優クラウス(坂本慶介さん)など、ハンブルクでは次々と情報を握る人物が現れ、事件の輪郭が浮かび上がっていきます。つまり、ネタバレ注意領域に突入ということなので、あまり多くを語れないのですが。



佐藤祐基さん


森川由樹さん


坂本慶介さん

伊礼さん、浅野さん、伊達さん以外の複数役を演じるキャスト陣は、立ち姿・歩き方・しゃべり方だけでキャラクターの存在感や、その場面に説得力を与えます。短いシーンでもそこに居る人物たちがちゃんとバックグラウンドのある立体的な人に見えるのです。



近藤 隼さん、鈴木勝大さん、伊礼彼方さん


近藤 隼さん

そしてついに舞台はエストニア、タリンへ──
近藤隼さん演じるミスター・ペロトフ、被害者の父の語る“娘の真実”とは……。



伊礼彼方さん、坂本慶介さん、森川由樹さん、夏子さん

ここから先は、ぜひ劇場で受け取ってください。


【音月桂の“ミステリアスな存在”】


音月桂さんが演じる、もう一つの役──“ミステリアスな存在”。
幕開きから歌唱で観客を作品世界へ引きこみ、その後も要所要所で現れては空気を一変させる存在。
注目の歌唱ですが、楽曲のジャンルは幅広く、歌詞は外国語で意味はわからないのに、確実に空気を変え、感情を揺さぶる。男社会の物語を“包み込み、時に転がすような”大きな存在感で、イグと観客に“景色(=物語)を見せる”役割をしっかりと担っています。

インタビューでは、劇中での存在の仕方が『エリザベート』のルキーニのようだとお話されていましたが、なんだかちょっとトート味もあるようなないような。芝居、歌唱、マイム、ダンス……音月さんの魅力のフルコースです。


【 “芝居に全振り”の伊礼彼方をお見逃しなく】



伊礼彼方さん

イグを演じる伊礼彼方さんは、前評判通り、本当に最初から最後までずっと舞台上にいます。

そして攻める芝居の印象が強い伊礼さんが、今回は“攻められる側”。とても新鮮!
シュテッフェンの出現によって、イグの平常心が揺らぎ、一枚、また一枚と身ぐるみはがされるように心を丸裸にされるイグ──トークイベントでの伊達さんの「燃えカスになるまで攻めたい」、上村さんの「これまでと違う伊礼さんを見せたかった」という言葉、カンパニー一丸となって有言実行しています。



伊達 暁さん、伊礼彼方さん、


伊礼彼方さん

ミュージカル作品や、最近ではテレビドラマやバラエティ番組でも活躍されている伊礼さんですが、本作ではがっつり芝居に全振りです。常日頃から「芝居がしたい」と発言している──伊礼さんも有言実行です!

また、戯曲には事件を追う足取りの中に、「花」「カモメ」「不眠」など、イグの心の奥を暗示する要素が散りばめられています。その点と点をどう結ぶか、観客視点で読み解く楽しさもあるのです。


【この作品が“演劇として面白い”理由】


本作は、資本主義の闇、人身売買、人間の根源的な“罪”を描く社会派作品でありながら、ずっと眉間にしわを寄せて見る類の作品ではありません。

・捜査のミステリーとしての面白さ
・イギリス/ドイツ/エストニアで明らかになる衝撃の事実
・多言語での会話を日本語だけで成立させる芝居の精度
・シュールでくすっと笑える瞬間(ハイテンションのアレクサンドルに対して、無表情、無反応で対応するイグとチャーリーや、ノートパソコンの並ぶアパートの一室で淡々と筋トレに励む男たちなど)

重さと軽さが絶妙に同居しています。



上村聡史さん(演出)

さらに上村さんが通し稽古後に語った「人物の抱えてる背景こそが物語になるから」という言葉。
上村さんが求める芝居のニュアンスにするために、戯曲に描かれていないところを、俳優自身が感情と動機を生み出して成立させる。──それを任せられる。その信頼関係が、この座組の力そのものです。

稽古場ではお芝居部分にフォーカスを当てて見学しましたが、劇場入りすると、そこに舞台装置や照明、音響効果などもうひと段階“攻めた”作品になる予感。

そして“仕掛け”の多い作品なので、二度目には違う景色が見えるはず。
あの人の言葉、ある行動が、別の意味を持って浮かび上がるかもしれません。


【 「今年一番攻めた作品」──その触れ込みに偽りなし】


社会の闇を照射する冷徹さと、観客を興奮させるサスペンスのスリル。
そして俳優たちの濃密な芝居のぶつかり合い。
それらがテンポよく展開していく作品。

ぜひ、皆さん自身の目と耳、そして全身で『スリー・キングダムス』を体感してください。
その衝撃は、きっと観劇後もしばらく身体に残るはずです!

『スリー・キングダムス』@新国立劇場中劇場
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新国立劇場『スリー・キングダムス Three Kingdoms』伊礼彼方さん、音月 桂さん取材会レポート

新国立劇場『スリー・キングダムス Three Kingdoms』スペシャルトークイベントレポート

ものがたり
刑事のイグネイシアスは、テムズ川に浮かんだ変死体の捜査を開始する。捜査を進めるうちに、被害者はいかがわしいビデオに出演していたロシア語圏出身の女性であることが判明する。さらに、その犯行が、イッツ・ア・ビューティフル・デイの名曲「ホワイト・バード」と同名の組織によるものであることを突きとめる。イグネイシアスは捜査のため、同僚のチャーリーとともに、ホワイト・バードが潜伏していると思われるドイツ、ハンブルクへと渡る。
ハンブルクで、現地の刑事シュテッフェンの協力のもと捜査を始める二人だったが、イグネイシアスがかつてドイツに留学していた頃の不祥事を調べ上げていたシュテッフェンにより、事態は思わぬ方向に進んでいくのであった。

【公演情報】
2025年12月2日(火)~14日(日)@新国立劇場 中劇場
【作】サイモン・スティーヴンス  【翻訳】小田島創志   【演出】上村聡史
【出演】伊礼彼方、音月 桂、夏子/佐藤祐基、竪山隼太、坂本慶介、森川由樹、鈴木勝大、八頭司悠友、近藤 隼/伊達 暁、浅野雅博

【公式ウェブサイト】https://www.nntt.jac.go.jp/play/threekingdoms/

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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