新作ミュージカル『白爪草』は、心理劇×サスペンス×音楽が融合したワンシチュエーションで展開する新感覚の二人ミュージカル。原作は2020年、コロナ禍に電脳少女シロ主演で世界初の“全キャストVTuber”でも話題を呼んだサスペンス映画です。
物語は花屋を舞台に、6年前に母親を殺した姉・紅(べに、唯月ふうか)と、静かな日常を送る妹・蒼(あお、屋比久知奈)の再会から始まります。長く沈黙していた過去と向き合い、姉が「人生を、入れ替えよう」という衝撃的な提案をすることで、揺れる記憶や歪んだ愛情、罪と赦しが交錯していきます。双子の姉妹が一夜で“すべて”を交わす密室劇。
一体どんな世界が立ち上がるのか──2026年1月8日に開幕するミュージカル『白爪草』の稽古場取材会が開催されました。
【シーン披露】
<二場:再会>姉妹の6年ぶりの再会。その間、二人がどう生き、今、何を抱えているのかを語るナンバー、蒼の<ホトトギス>、紅の<雑草>が披露されました。

「正社員、すごいね」という紅の台詞からスタート。
「運がよかった」など、蒼の言葉の一つひとつが紅の心に波紋のように広がる──
“圧倒的緊張感”とはこのことかと実感します。

弾むようなナンバー<ホトトギス>
大好きなお花屋さんで働くことになったいきさつ、充実感を語る蒼。次第に紅の表情が──

<雑草>先ほどとは一転、力強いリズムに乗せて畳みかけるように語る紅
<四場:因縁>蒼になり代わろうとする紅。イスに拘束された蒼はすきを見て心理カウンセラーの桔梗先生(声の出演:安蘭けい)に助けを求めるも──

幼い日の母の記憶
枯れることなくきれいなまま保存される“プリザーブドフラワー”に母を思う双子の気持ちと記憶が浮かび上がるナンバー。「なぜ毒を手に入れたのか」「なぜ母を殺したのか」問いかけとともに、ある真実が明かされる姉妹の楽曲<プリザーブドフラワー>。続く、紅の<咲き過ぎた蕾>は初披露となる楽曲です。自分たちが双子で生まれてきた意味を考え続けてきた紅、彼女がたどり着いた結論とは。メロディとともに、そこで語られる言葉に聴き入ってしまうような切実なナンバーです。

この瞬間、“蒼の台詞”でシーン披露終了。
それがまた、「え?どう続くの!?」と、とても気になるひと言なんです。
本作には4度のどんでん返しが待ち受けているそうです。これが何度目なのか、最終的にどこへ行きつくのか、それは本番のお楽しみ。すべてが明らかになるのは2026年1月8日です!!
ここからはシーン披露に続いて行われたキャストお二人、演出の元吉庸泰さんによる囲み取材&座談会の様子をレポートいたします。
「決めすぎない」からこそ生まれる、今この瞬間の芝居

シーン披露前に、今一度、確認作業を進める元吉さん。
シーン披露前に、今一度、確認作業を

稽古場の雰囲気は朗らか!
──日々のお稽古について教えてください。
屋比久さん)
これまで経験してきた作品では、ある程度完成された型があって、そこに自分を当てはめていくことも多かったのですが、今回は「今の気持ちを大事にしていい」──否定されることがほとんどなくて、「それもいいね」「じゃあ違う方向も試してみようか」と言ってもらえる環境です。
新しいものをみんなで作っている感覚を、日々強く感じています。
唯月さん)
作っては壊して、作っては壊して、という稽古を繰り返しています。
選択肢をたくさん与えてくださるカンパニーだなと感じていますし、その中で役の紅と自分との共通点を見つけたり、これまでにない感情に出会ったりしています。
戸惑う瞬間もありますが、その戸惑いを「大丈夫だよ」と肯定してくれる空気がある。とても居心地がよくて、とっても濃い稽古時間を過ごしていると思います。
観る、ではなく「体験する」演劇空間
──この作品の見どころを教えてください。
元吉さん)
展開は“怒涛”、非常にスピーディーですが、何より大事にしているのは「お客様が最後の共演者である」ということです。見どころは、音楽やテクニカルの要素もありますが、360℃、どこから観ても新しい発見があり、物語の多面性がどんどん見えてくる演劇空間を挙げたい。今回は4面客席で、お客様との距離が本当に近い。しかも囲まれている。この環境自体が、最大の見どころだと思っています。
“観劇”というよりも、“体験”していく感覚で楽しんでいただけたらと思います。
──演じるお二人から見た見どころは?
屋比久さん)
元吉さんがおっしゃったように、見る角度によって、見えるものが全然違うと思います。紅の表情がよく見えるとき、蒼は見えない、ということもある。でもそれは近さがあるからこその楽しみになる。全体を見ながら、一人に集中するフォーカスを、自分の目で自由に調整できるのは、この舞台ならではだと思います。
唯月さん)
ヒグチアイさんの楽曲が本当に素晴らしくて。楽曲だけでも聴き応えがあるのに、お芝居と結びつくことで伏線が見えてくる。一度観ただけでは気づけない──「あ、ここが伏線になっているんだ」という深みが、2回、3回と観るたびに増していく作品だと思います。ぜひ好きな楽曲やシーンを見つけてほしいです。
元吉さん)
俳優が背を向けた瞬間も、別の角度ではリアルタイムで芝居が続いている。その一瞬一瞬が途切れない。
上演時間が本当に一瞬に感じられるくらい、没入できると思います。
スリラーの先に立ち上がる、温かな「選択」の物語
──原作はサイコスリラー、サスペンスといった“怖い”要素も強いと思われる作品。でも、稽古を重ねる中で、演出の元吉さんはまったく異なる手触りを感じたということですが。
元吉さん)
演劇として立ち上げてみて驚いたのが、「すごく温かい話だな」ということでした。
怖い出来事や強い言葉はあるんですけれど、それ以上に浮かび上がってくるのが、「どう相手を思いやるか」「どんな選択をするか」という一生懸命生きている人間同士の関係性なんです。だから最終的には、「すごく温かい二人の選択の物語」になっている。
怖いという先入観を少し外して観ていただくと、まったく違う作品に見えると思います。
──シーン披露の2つ目、花が散乱している状況に至るまでに何があったのかを想像すると、物語は精神的にもかなり内面をえぐるような展開になると思います。演じてみていかがですか。
唯月さん)
最初に台本を読んだときはどう演じればいいのだろうと思っていたところも、お稽古の中で、紅というキャラクターと見つめ合っていくと「ここ、すごく楽しくできそうだな」と思える瞬間があります。
自分の中の鋭い部分や、今まで見ていなかった感情が見えてくる感覚があって、それがちょっとぞくぞくするんです。「こんな自分がいるなんて思っていなかった」──知らなかった自分に出会うような感覚ですね。
屋比久さん)
率直に言うと、やっぱり疲れます。通し稽古を何回かやっていますが、毎回違う疲れ方をしていて。
苦しい心の動きはたくさんありますが、その分、感情をやり取りしながら相手と向き合っていく中で、新しい発見も多いので──大丈夫です(笑)。そう思えるのは、隣にふうかがいてくれる安心感も大きいなと思います。
蒼サイド/紅サイド──客席によって変わる物語の軸
──元吉さんが見どころにも挙げていた演劇空間。4方向、360度客席という構造について伺います。演出をつけていく中で、元吉さんは蒼サイド/紅サイドという演出の指針はお持ちでしたか。
元吉さん)
客席の中で面積の大きい二方向を、僕らは北面・南面と呼んでいます。そこには意識的に色分けをしていて、片方から観ると蒼の物語が強く見える。反対側から観ると、紅の物語がより前に出てくるようになっています。そして横から観る席では、二人の関係性がイーブンに見える。
テーブルの位置関係や動線、視線の向きまで含めて、そう作っています。
ただこれは何回も観てください、という押し付けではなく、想像すること、感じることも含め、なにが見えたかではなく、「あなたはどの視点でこの物語を受け取ったか」を大切にしてほしいですね。
──どこからでも、また、 一度の観劇でも成立するものとなっているということ。
元吉さん)
もちろんです。片方が見えなくても、もう片方から想像できるようには作っています。
ただ、観る位置によって「どちらの感情を軸に物語を体験するか」が変わる。それがこの作品の面白さでもあります。
プロデューサー談
360度の客席にしたいと考えた最大の理由は、原作となったVTuberという表現手法で制作された映画を観たときの体験にありました。
お客様が客席に入った瞬間、まず「お花屋さん」という空間に足を踏み入れ、そこから物語を追っていくうちに、次第に彼女たちの“心理の中”に入り込んでいく──そんな感覚を味わってほしいと思ったのです。
本作には大きなどんでん返しが4度用意されていますが、それを外側から眺めるのではなく、彼女たちと同じ呼吸、同じ息遣いで体感してもらいたい。そのためには、できるだけ距離をなくし、時には客席の真横で芝居をするような空間が必要だと考えました。
こうした構想については、演出家とも話し合いを重ね、「360度客席」という形が、作品の本質を最も強く伝えられるというところに至りました。観客の皆さんには、物語を“観る”というよりも、その中に入り込み、共に体験していただけたら嬉しいです。
──非常に興味深い演劇空間です。
元吉さん)
本作は本番でも生演奏になります。実際の劇場では、舞台上だけで完結するのではなく、客席の中にあるお花屋さんの水場や棚、事務スペースといったエリアにも役者が降りていき、空間そのものを広く使って物語が展開していきます。いわば、お花屋さんの“裏手”まで含めて拡張したような空間です。
観るたびに変わる、“生きている”舞台
──お芝居面での多面性についてはいかがでしょうか。本日のシーン披露の2場面目は、物語の果てにたどり着く花が散乱したお花屋さんの場面でした。
唯月さん)
その散乱具合も、本当に日によって変わります。
元吉さん)
劇中のある動きは、その日によって蒼と紅、どちらがやってもいいようにしています。どちらがやるかは、日によって面白いくらいバラバラなんです。それって(マイクのスイッチングをする)音響さん泣かせではあるんですけど(笑)。
屋比久さん)
(どちらがやるかは)相談はしません。その時のお互いの呼吸で決まります。
唯月さん)
その瞬間の空気で、「今日は、こちらから仕掛けようかな」とか(笑)。
屋比久さん)
ほかにも、その日のふうか(紅)を見て、近づきたくなる日もあれば、近づきたくない日もある。
そういう違いも含めて、何度観ても違う印象になる作品だと思います。
「観劇」から「体験」へ
──最後にメッセージを。
屋比久さん)
近さ、360度という環境の中で、いかに嘘をつかず、生身の人間として舞台に立てるか。新しい試みの詰まった作品です。でも、皆さんはあまり構えることなく、自由に楽しんでください。そして、いろんな感想をもらえたら嬉しいです。
唯月さん)
物理的にも、心の距離も、皆さんのすぐそばに行きます。アトラクションに乗るような感覚で、全力で受け取ってください。このお花屋さんで待っております。
元吉さん)
これは「演劇を体験する」作品です。
近年、演劇体験は映像で代替されることも増え、目の前で生身の人間が芝居をし、その体温を感じる機会は、少しずつ希薄になってきていると感じています。
だからこそ本作では、俳優がその場に「存在し」、生の人間が生の人間を観ることで、どれほどの体温や感情が生まれるのかを、改めて大切にしたいと考えました。
この距離、この空間だからこそ生まれる演劇体験を、ぜひ味わっていただけたらと思います。
「何を着ていこうかな」「どんなルートで行こうかな」──チケットを取った瞬間から始まる演劇として、ここではないどこかへ、必ず連れていきます。どうぞ安心して、劇場にいらしてください。
──『白爪草』は、観客一人ひとりの視点によって立ち上がる、唯一無二の演劇体験になりそうです!
◆VTuberという、身体(肉体)を持たない存在を起点とした物語が、なぜここまで「生身の人間」にこだわった演劇になったのか。一見すると、両者は対極にある表現のようにも思えます。けれど『白爪草』は、もとになった映画が持っていた“心理の内側に入り込む感覚”を、演劇という俳優の身体性、二度と同じ瞬間を繰り返せない表現で立ち上げ直そうとしている。演出家、俳優たち、それぞれが自分の心を尽くし、言葉を尽くし、作品の魅力を語る姿に、「現時点で誰よりもミュージカル『白爪草』を知るのは自分たちだ」という自信を感じました。
バーチャルとフィジカルという対極にある表現を往復することで生まれる、新しい没入体験。そこにこそ、新たに誕生する“もう一つの『白爪草』”の核があるのではないかと期待が高まる稽古場取材でした。
画面越しではなく、体温のある距離で、同じ空間に存在する人間同士が呼吸を交わすことで、観客は「観ている側」という安全な場所から、いつの間にか物語の内側へと踏み込んでいく。その先に何が待っているのか、ドキドキです!!
<ストーリー>
「その人生、私にちょうだい」
花屋で働く静かな日常の中、白椿 蒼(屋比久知奈)は“ある人物”を迎える準備をしていた。
6年前、母を殺した姉・白椿 紅(唯月ふうか)。
──決して避けては通れない過去。
長い沈黙の果てに訪れた再会の夜、姉が語り出す真実と一つの“提案”。
「人生を、入れ替えよう」
揺れる記憶、歪む愛情、絡まる罪と赦し。
双子の姉妹が、一夜で“すべて”を交わす──
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人