花屋の裏にある小さな作業部屋を舞台に繰り広げられる、双子の姉妹の濃密な心理劇。SUPERNOVA Kawasaki (スペルノーヴァ カワサキ)にて上演中のミュージカル『白爪草』のゲネプロの模様を、舞台写真とともにレポートいたします。

白椿 紅役:唯月ふうかさん、白椿 蒼役:屋比久知奈さん
撮影:板場俊

撮影:板場俊

撮影:板場俊
「予想を超えてくる」
観劇後、そんな言葉が頭をよぎりました。その魅力をどう伝えるか──サスペンス要素が強いため、物語の核心に触れることは避けたい。けれど、観る側の予想や先入観を心地よく裏切ってくる作品であることは、確かにお伝えしたい。そう思わせる作品です。
四方を観客が囲むセンターステージ、会場全体をワンシチュエーションの劇空間として使う演出で描き出すのは双子の姉妹の心の内と、それぞれの選択。

撮影:板場俊

撮影:板場俊
舞台となるのは、双子の妹・白椿蒼(屋比久知奈さん)が働く花屋。母を殺した罪で服役していた姉・白椿紅(唯月ふうかさん)と、6年ぶりに再会する、その日。互いに何を思い、どんな今を生きているのか、そして6年前の真実とは。

撮影:板場俊

撮影:板場俊
鋭く突き刺さる言葉と、それでもわずかな希望を見出そうとする切実さ、愛を求める幼子のようなまなざし──二転三転しながら展開する90分ノンストップの物語を、観客が固唾をのんで見つめる。電脳少女シロ主演で世界初の“全キャストVTuber”が全ての役を演じ、話題を呼んだサスペンス映画『白爪草』の世界を、演劇として体験できる作品です。脚本・歌詞原案を手がける福田響志さんの言葉が、登場人物の感情を容赦なく浮かび上がらせる。そして、その言葉を受け止め、独特の劇空間へと立ち上げた演出を手がけたのは元吉庸泰さんです。

撮影:板場俊

撮影:板場俊
「近さ」──床面から1mほどの高さのある舞台上をメインのアクティングエリアとするものの、会場の四隅も水場や店内、事務スペースなど花屋の一部として使われます。キャストが客席通路も使って芝居は展開するため、観客がドキドキしてしまうくらいの近さ。それが単なる「近さ」に終わらずに、ひりひりする緊張感、漂う生花の香りにそこで起きている「生」を感じる特別な装置として機能しているのです。
「没入感」──否が応でも引きずり込まれるような展開。蒼と紅、二人の心理に深く入り込む物語は、時に拒絶したくなるほどの切実さ。それでも、音楽・歌詞を担当するヒグチアイさんによる楽曲やメロディ、そしてそれを歌う屋比久さん、唯月さんの表現力によって、心理劇とミュージカルの親和性の高さをあらためて実感させられます。ミュージカルナンバーとしての歌い上げというより、強い歌声がどんどん内面をえぐっていくような印象で、熱量が奥へ奥へと引きずり込む。また繊細な歌声、その響きの余韻までも堪能できる豊かな没入空間です。
「衝撃」──どんでん返し。予想を超える光と影、陰と陽の入れ替わり。これまでの印象から、個人的に屋比久さんは内側に深く沈み込むような“陰”の佇まい、唯月さんは外に向かって広がる“陽”のエネルギーのイメージを持っていました。あらすじを読んだときの意外性は、お二人の新たな一面との出会いという喜びと新鮮さに結びつきます。一方が放つ光によって、他方の影の輪郭を際立たせるような、二人芝居の醍醐味がそこにあります。蒼に、紅との再会を促したカウンセラー桔梗先生は安蘭けいさん(声の出演)が演じます。
「双子」──瓜二つの姉妹を二人の俳優が演じる。同じ見た目でも、異なるアイデンティティを持っていることを視覚化する。そこに浮かび上がるのは、「似て非なる」二人であるという事実。その一方で、常に合わせ鏡のように映るところに宿命めいたものも感じます。

撮影:板場俊

撮影:板場俊

撮影:板場俊
相手の心をえぐるような言葉の苛烈さは、自らを傷つける行為のようにも見えてくる。やがてたどり着く蒼と紅の選択は──二人が見せる、覚悟を決めた人間の凄みも肌で感じ、観劇後、しばし言葉を失うような衝撃。
センターステージゆえ、見える表情もあれば、見えない表情もある。それでも声や肉体から発せられる感情を感じ、想像する楽しさがそこにあります。もちろん別角度から見て、発見するのも面白いですが、「見えない」ことに思いを巡らせる、観劇の一期一会の魅力も感じられる作品です。
会場への道のり案内<ストーリー>
「その人生、私にちょうだい」
花屋で働く静かな日常の中、白椿 蒼(屋比久知奈)は“ある人物”を迎える準備をしていた。
6年前、母を殺した姉・白椿 紅(唯月ふうか)。
──決して避けては通れない過去。
長い沈黙の果てに訪れた再会の夜、姉が語り出す真実と一つの“提案”。
「人生を、入れ替えよう」
揺れる記憶、歪む愛情、絡まる罪と赦し。
双子の姉妹が、一夜で“すべて”を交わす──
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人