新作ミュージカル『ISSA in Paris』開幕レポート~公開ゲネプロ~



新作ミュージカル『ISSA in Paris』が日生劇場にて初日を迎えました。原案のモーリー・イェストンさんは、日本文学にも深い関心を寄せてきた作曲家。学生時代に日本文学を学ぶ中で、彼の心に強く刻まれたのが、小林一茶の一句「露の世は 露の世ながら さりながら」でした。

愛しいわが子を失った計り知れない悲しみと、それでもなお生きることを手放さない人間の思いを、極限まで削ぎ落とした言葉で描き出す──その俳句との出会いが、本作『ISSA in Paris』誕生の出発点となっています。開幕に先立って行われた公開ゲネプロ(ラファエル:染谷洸太さん、絹子:彩吹真央さん、レミー:見﨑歩誠さん)をレポートいたします。

物語は、「もしも小林一茶が“空白の10年”にパリへ渡っていたら──」という大胆な発想から生まれました。現代と過去、日本とパリ、現実と想像が交錯する構成は一見すると難解にも思えますが、藤田俊太郎さんの演出、モーリー・イェストンさんの音楽(原案・作詞・作曲)、高橋知伽江さんによる脚本・訳詞、そして音楽監督で、編曲・キーボードコンダクターも務める森亮平さんのオーケストレーション、ジュリア・チェンさんによる振付、松井るみさんの美術など、それぞれの分野のスペシャリストの才能を集結させることで、唯一無二の世界が立ち上がります。まさに総力戦で届ける新作ミュージカルです!

海宝直人さん、岡宮来夢さん、潤花さん、豊原江理佳さんをはじめとするキャストも、ファンタジックな世界に、リアルをもたらす表現力と存在感で、この劇世界に生命力を植え付けます。




物語の核にあるのは、“言葉”の力。俳句という限られた音数に込められた想いが、日本語と英語、そして音楽を通して立ち上がっていきます。オープニングは特に印象的で、韻の心地よさや言葉そのものが持つリズムの美しさに、一気に作品世界へ引き込まれます。言葉が時代や国境を越えて人の心をつなぐ──本作を象徴する幕開けです。

モーリー・イェストンさんの楽曲はクラシカルで品のある曲調を基調としながら、ラップやアカペラなど新鮮な試みも盛り込まれ、バラエティ豊かな音楽世界が広がります。キャッチーで耳なじみの良い楽曲や、芝居を支え、物語の流れを生み出す背景音楽まで、全編を通して音楽を堪能できる舞台です。




キャスト陣の歌唱力、表現力も素晴らしい。現代を生きる青年・海人を演じる海宝直人さんは、伸びやかで力強い歌声で物語を牽引します。葛藤を抱えながら今を生きる姿に身近さを感じさせ、心を寄せやすいキャラクターとして海人を立ち上げます。また物語の動の部分を担うのではなく、一歩引いたところから母の遺した言葉とその中に居る一茶をたどっていく俯瞰のキャラクターとして作品を背負う役どころは、海宝さんの新境地。新作に挑み続ける精神、引き受ける責任とそれに応える実力、進化を続ける海宝さんの姿が頼もしく、そしてまぶしく映ります。



小林一茶役の岡宮来夢さんは、誠実さと力強さを併せ持つ表現で、一茶の人生や俳句に込められた想いを鮮やかに体現。若き日の一茶のみずみずしさや純粋さが強烈な輝きを放つとともに、晩年の一茶が歌う「露の夜は」のシーンも印象的。海人の母が遺した一茶研究の書の中の一茶と、実際に一茶が詠んだ句、ファンタジーとリアルがすんなりと結びつくような説得力を感じます。海宝さんとのデュエットの声の重なりも心地よい。



時空を超えて歌われる「俳句」は物語のなかで聞くと美しさが際立つ!


豊原江理佳さんが演じるのは、18世紀のパリに生きるテレーズ。女優としての華やかさに加えて、革命に身を投じる凛とした佇まい、可憐さと芯の強さを感じさせる歌声が物語に奥行きを与え、「どう生きるか」、人の心を動かす求心力のある女性リーダー像に胸が熱くなります。彼女との出会いが一茶を変え、一茶との出会いがテレーズを変える──テレーズが一茶に託した思いは、そのまま現代を生きる人々へ向けられた言葉のように感じます。革命の同志ラファエルには染谷洸太さん(中河内雅貴さんとダブルキャスト)、強い歌声が劇場に響き渡ります。



「俳句」現代パートの歌唱


潤花さん演じるルイーズは、頑なだった海人の心を大きく動かします。快活で、ダンサーとして自己を表現しているルイーズですが、インビジブル・マイノリティ(社会の中で可視化されにくい存在)として差別や偏見にさらされる環境で生活していることから、社会運動にも能動的に参加します。フランスでのデモが日本でも報道されましたが、年金受給年齢の引き上げや差別や分断に対して、立ち上がり、声を上げること。自由や権利を、その手で勝ち取ってきたフランスの人々の力強さを目の当たりにし、わが身を振り返らざるを得ないところも。また、ルイーズのダンススクールに通うレミーとの出会いも海人に大きな影響を与えます。自分が書いた「TALK TALK TOKYO」が、国境を越え、人を勇気づける──スランプに陥り苦しみとなった音楽創作が、再び喜びに変わるような鮮やかなシーンになっています。



キャリアの厚みで物語を受け止める海宝直人さんと、若き一茶として物語の感情を前へ押し出す岡宮来夢さん。その二つのベクトルが交わることで、本作は魅力を増します。


そして、それぞれが異国での出会いから自らを見つめ直し、新たな価値観、新たな道を見つけていく海人と一茶の邂逅はまさに「奇跡」のシーンとして描かれ、作品のクライマックスとして、最高潮に胸が高まります。




若いカンパニーのエネルギーや躍動感とともに、海人の母で著名な俳句・一茶研究者の絹子を演じる彩吹真央さん(藤咲みどりさんとのダブルキャスト)や父を演じる阿部裕さんの存在も肝。彩吹さんは、一茶の母も演じますが、そこから感じるのは輪廻。ほかにもそう思わせるシーンが潜んでいますので、お楽しみに。





また、アンサンブルの活躍も本作の大きな魅力の一つです。衣裳を変えながら現代と過去、日本とパリに暮らす人々を表現します。一体、いくつの役を演じているのだろう、早替えに次ぐ早替えの3時間なのではないかと思いを巡らせてしまうほど。そんなアンサンブルが作り出す、そこに生きる人の息吹が作品を地に足のついたものにします。

異なる国、異なる時代をどう舞台上に描き出すのかという点では──フランス革命期の人々を白で統一した装い、日本の和装、現代的なスタイルが融合する衣裳とすることで、情報を受け渡す役割と同時に、洗練された舞台美術として立ち上がっています。また、装置はシンプルかつ雄弁。板状の装置が、短冊や本棚、障子など、自在に姿を変える舞台装置は、場面転換に無駄がなく、物語の流れを止めません。そしてシンプルかつ雄弁というのはまさに俳句。余白を残し、そこに生きる人間の姿や感情を描き出すところも俳句に着想を得て生まれたミュージカルらしさを感じます。図書館のシーンや、時代が重なり合う瞬間も印象深いです。

こうして過去と現在をリンクさせながら、人の生と死、悲しみや希望、そして未来のために立ち上がることの意味を描き出す物語は、観る者の心に静かに、しかし確かに響きます。

言葉と音楽が持つ普遍的な力が、実力派キャストの歌声に乗ってまっすぐに届くミュージカル『ISSA』。世界初演を見届けられたことへの喜びとともに、いつの世も自らを見つめ、社会を見つめ、未来を見つめる人間たちの力強さと美しさに心奪われる作品です。歴史という過去への敬意と今を生きる人々へのエール、祝祭と人間讃歌のさわやかな幕切れも、一年の始まりのこの時期にふさわしいと思える一作です。

ストーリー
現代の東京に住む、シンガーソングライターISSAこと海人。
海人は突然の母親の死から立ち直れず、呆然自失になっていた。
そんな中、命の儚さをうたった小林一茶の「露の世は露の世ながらさりながら」の句が脳裏に浮かぶ。
また、海人の母は、一茶には消息不明とされる「空白の10年」があり、その期間、鎖国の日本をひそかに抜け出してパリへ行っていたという仮説をたてていた。
海人は天才俳人が日本で小林一茶と名乗るまでの「空白の10年」に一体何があったのかを突き止めるため、そして自分自身が前に進むためにパリへ旅立つことを決める。海人はパリに行き、何を得るのか。
そして、小林一茶の10年には何があったのか。2人の青年が時空を超え、パリで出会う、ファンタジー・ミュージカル。



【公演情報】
2026年1月10日〜30日@日生劇場
2026年2月7日〜15日@梅田芸術劇場メインホール
2026年2月21日〜25日@御園座

原案・作詞・作曲 モーリー・イェストン
脚本・訳詞 高橋知伽江
演出 藤田俊太郎

海人(ISSA):海宝直人
小林一茶: 岡宮来夢
ルイーズ: 潤 花
テレーズ: 豊原江理佳
中河内雅貴・染谷洸太[Wキャスト]
彩吹真央・藤咲みどり[Wキャスト]
内田未来
阿部 裕
森山大輔、塚本 直
井上真由子、岡田治己、尾関晃輔、加藤翔多郎、黒川賢也、木暮真一郎、
斎藤准一郎、渋谷茉樹、島田隆誠、根岸みゆ、般若愛実、引間文香、
深瀬友梨、古川隼大、武者真由、森 加織、大村真佑*、森田有希*
(五十音順)*オンステージスウィング
中井理人・星 駿成・見﨑歩誠(トリプルキャスト)

公演HP:https://www.umegei.com/issa2026/
企画・制作:梅田芸術劇場

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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