鳴り響いていた爆撃音が止んだとき、収容所には子供たちが閉じ込められていた。
絶望と希望の中、生き延びようとした彼らの7日間を描くミュージカル。

橋本祥平さん、小西成弥さん
撮影:交泰
2026年3月7日〜15日に本多劇場にて上演される、韓国発のミュージカル『MURDERER』に出演する、橋本祥平さん(アレン役)、小西成弥さん(ピーター役)にお話を伺いました。
原作はドイツの劇作家ゲオルク・カイザーによる『メデューズ号の筏』。戦時中の収容所を舞台に、極限の状況に置かれた子供たちの7日間を描く異色作。脚本・歌詞はチョン・チャンスさん、作曲はハン・ヘシンさん、演出を手がけるのは松崎史也さんです。
戦争、尊厳、生き続けること──深く普遍的なテーマをミュージカルの力で描き出す『MURDERER』。本作の入口に立ったお二人の思いをお届けします。
【「自分だったらどうするだろう」──台本が突きつける問い】
──まず、本作の印象、台本を読んで感じたことをお聞かせください。
橋本さん)
物語を追いながら、いつしか「自分だったらどうするだろう」と考えながら読んでいました。僕自身も物語の中に入り込んでいる感覚があったんです。そして読み終えて──すぐには言葉が出てきませんでした。「この感情をどう言語化すればいいのだろう」と、久々に、読後に考え込む時間が必要な作品でした。
小西さん)
とても普遍的な作品だと感じました。自然と今の世界の状況や、日本の社会へと思考が広がっていったことを覚えています。もともと自分の中にあった問題意識が、この作品によってより強く刺激されたのだと思います。
──この物語で、お二人が演じられるのが“子供たち”であることについては、どう捉えていますか。
橋本さん)
子供たちであることによって、そこで起こる出来事がマイルドに感じられるかと思いきや、むしろ逆で。大人がするような選択を、子供が背負わされてしまう。彼らの変化をなぞっていくのが、なんとも言えない感覚でした。何色にも染まってしまう年頃だからこそ、変わっていく過程が本当に苦しくて、胸が締め付けられる。純粋ゆえに、残酷さがより強く突き刺さります。
小西さん)
僕は最近、姉に子供が生まれたこともあって、「子供」という存在がすごく身近になりました。
だからこそ、本来、守られるべき存在が極限状態に置かれているという状況が、本当に心苦しく感じました。
今回、子供たちと “コギツネ”、そして大人が描かれていますが、その構図が示唆する劇構造自体がとても重たいなと捉えています。
【「正しさ」と「正直さ」、その間で揺れる】
──では、それぞれが演じるアレンとピーターについて、今の段階でどんなキャラクターだと感じていますか。

ビジュアル撮影:保田悟史
橋本さん)
アレンは、この物語の中で唯一、自分が思う「正しさ」を信じ続けようとする少年だという印象を受けました。
生き続けるために周りの人が変わっていく中で、それでも「正しさ」を守ろうとする。その「守る」という行為が誰のためなのか、自分のためなのか、そこにある葛藤をずっと抱えているようなところがあります。

ビジュアル撮影:保田悟史
小西さん)
ピーターは、正直な子だと思います。その正直さゆえに、周囲を振り回してしまう。
自分が感じた疑問や違和感を口にすることで、結果的に自分が傷ついたり、周りに影響を与えたりしてしまうのですが、そこに“人間らしさ”を強く感じます。
──客観的に見て、ご自身が共感するキャラクターは。
小西さん)
今は、ピーターにフォーカスして読んでいるからかもしれないけれど、やっぱりピーターなのかな。大人になると、真実を言うことが歓迎されない場面──自分が正しいと思ったことを言いたいけれど、言わない方がいいと判断する瞬間が、増えてきます。でも、僕らの仕事で言うと、舞台というのはいろんな人と一緒に作るものなので、協調性も大切ですが、自分のこだわりを全部捨ててしまうのも違う。いい作品を作るために、言うべきこと、言わなくてはならないこともある。そのバランスが難しいですが、疑問や違和感を正直に口にするタイプというところは、ピーターに近いのかなと思います。
橋本さん)
僕もピーター寄りだなと思いつつ、でも、アレンのように生きたいという気持ちもあります。
正しい意見というのは、時に集団の中で浮いてしまうこともある。でも、信じたことを貫くしかないときもある。誰かを守ろうとする自分が好きなのか、それともただそうありたいだけなのか、その問い自体が、アレンの、そしてこの作品の核になってくると思います。ほかにも、アンの強さに共感するところも、それを怖いと思う自分もいて。それぞれのキャラクターが自分の中にいるようにも思えます。
──確かに、その集団が社会のように見えたり、自分に内在する一面の象徴のようにも見える戯曲です。
【ミュージカルで描く希望と絶望、そして二人の現在地】
──このように人間を鋭く、深く描く本作は、ミュージカルという表現形式をとります。韓国ミュージカルに対する印象や、本作がミュージカルであることへの期待は?

撮影:交泰
橋本さん)
韓国ミュージカルにも、いろんなタイプの作品があると思いますが、僕の中では派手に歌い上げるイメージがあります。現時点では、この作品の楽曲に触れてはいないのですが、プロデューサーから今回はちょっとタイプが違うと聞いて驚いています。
ミュージカルであることについては、シリアスな状況下の物語に歌、メロディが加わることで、シーンが楽しく、明るくなる面もありますが、それによってかえって残酷に見える瞬間も生まれるのではないか。また、“音”というところでは、“足音”というのも台本を読んでいて印象に残っています。その音は希望なのか、それとも絶望なのか。どちらにもとれる、様々な二面性を感じます。
小西さん)
祥平くんが言う通り、明るく歌っているからこそ、悲しさが際立つということは、確かにあると思います。そして極限状態で“歌う”という行為自体が、希望にも絶望にもなり得る。置かれている状況と、子供たちの感情をすくい上げる歌、曲調、その振れ幅が、この作品のミュージカルとしての面白さなのではないかと。実際、稽古が始まるとどうなるのか楽しみです。
【おけぴ注】
一般的に韓国ミュージカルの特徴として挙げられる、オペラのアリアのような壮大な歌い上げや、超難解なメロディラインとは少し異なる印象を受けます。また、本作では、ハーモニーなどが重要な要素となるとのこと。
──ここからはお二人ご自身について伺います。まずはご自身の俳優としての強みを教えてください。
橋本さん)
そんな大した人間ではございません、私は。ただただ必死に生きております(笑)。
強みというと……毎回、携わらせていただく作品には、「絶対にいいものになる」という確信を持って取り組んでいるところです。基本的に自分に自信はないのですが、その確信だけはこれまで一貫して持ち続けています。僕がいるから、とまでは言えないけれど、でもとにかく「安心、信頼して観に来てください」と言えます。
小西さん)
僕は……割と“演劇愛”は強い方だと思っています。
演じるのも好きですが、観るのも好きで、できる限り劇場にも足を運びますし、この間もちょっとロンドンに行って、14本くらい観てきました。演劇もミュージカルも、ジャンルを問わず、いろいろ観るのが好きですね。
──そんなお二人は、これまでにも交流はありつつ、ガッツリ一緒にお芝居をするのは初めてということです。今作での共演を知ったときは?
橋本さん)
率直に言って、嬉しかったです。近いところにいるのにご一緒する機会のない役者さんっているんですけど、成弥くんはまさにその一人で。成弥くんが出演していた作品の再演に自分が出演するというニアミスみたいな形があったり、舞台もずっと観ていましたし、いろんな話も聞いていたので、「いつか一緒にやりたいな」と思っていました。また、今回の座組はほとんどが初めましての方で、唯一知っているのが成弥くんということもすごく心強いと感じています。
小西さん)
僕もまったく同じ気持ちです。ちょこちょこ顔を合わせる機会はありましたが、ちゃんとご一緒するのは初めてなんですよね。祥平くんの名前は、いろんな作品でずっと目にしていて、「いつか一緒にできるのかな」と思いながら、なかなかそのタイミングがなかったんですよね。だから今回、この作品で一緒にできるというのがすごく嬉しいです。
──初共演にして、かなり親密な芝居になりそうです。

撮影:交泰
小西さん)
だからこそ、むしろこのために取っておいたんじゃないかなって(笑)。
橋本さん)
満を持しての共演です!
──最後に、これから始まる稽古、そして本作への意気込みを聞かせてください。
橋本さん)
稽古前から、すでにしびれる作品だなと感じています。演出の松崎さんが作られる作品はいつもセンスが光っていますし、創作の過程ではキャスト・スタッフの全方向への向き合い方がとても丁寧な方なので稽古開始が楽しみです。最初はテーブル稽古でしっかり話し合う時間があるとも聞いているので、自分なりの考えを持った上で、みんなで話し合い、作り上げる過程を楽しみながら、柔軟に作品や役と向き合っていきたいです。
小西さん)
物語の性質上、明るい稽古場になるかは分からないですけど(笑)、ものづくりとしてはすごく濃密で、楽しい時間になる予感がしています。みんなで考えながら、この作品を立ち上げていけたらいいなと、今からとても楽しみです。

撮影:交泰
【おまけ】子供の頃のふたり
──お二人は、どんなお子さんでしたか?
橋本さん)
子供の頃はとにかく車が好きで、その中でも一番好きだったのがゴミ収集車でした。幼稚園の休みの日になると、ゴミ収集車が来る場所に行って、ずっと眺めているような子供でしたね。
あの車の中がどうなっているんだろう、というのがとにかく気になっていたんだと思います。
小西さん)
僕は小学校高学年くらいから、弁護士になりたいと思っていました。
母子家庭だったので、母を助けたいという気持ちが、どこかにあったんだと思います。だから、割と勉強もしていましたね。そこからどういう流れか、今は俳優をしていますが(笑)。
橋本さん)
成弥くん、優しい子だったんだね。すごく伝わってきた!
◆創作活動においても、その創作物(作品)でも関係性を作り上げることに長けた演出の松崎さんと、お二人の、役を捉える感性がどんな化学反応を起こすのか。そしてほかにも魅力的なキャストが揃う、このカンパニーが、作品とどう向き合い、どんなミュージカル『MURDERER』の日本初演が立ち上がるのか。お楽しみに!
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人