2026/2027シーズン バレエ&ダンス ラインアップ発表会が行われました。

吉田都 新国立劇場舞踊芸術監督
シーズン開幕は新制作の『街の灯』。『ジゼル』の改訂振付を手がけ、カンパニーの個性を理解する振付家、アラスター・マリオットさんが長年温めていたチャップリンの名作映画のバレエ化。吉田都監督は「今のバレエ団にぴったり、劇場にとって財産となる作品になるのではないかと楽しみにしています」と語ります。その思いをさらに尋ねると──
吉田監督)
今の新国立劇場バレエ団のダンサーたちは、表現すること・演じることを重視して、5~6年かけて積み重ねてきた成果が、確実に実を結びつつあると感じています。
特にロンドン公演は大きな転機で、ダンサーたちが目に見えて変化し、ロイヤルオペラハウスに臆することなく舞台を楽しんでいました。その楽しさは、舞台上の表現にもはっきりと表れていました。
また、そこで評価された経験は、「自分たちの歩んできた道は間違っていなかった」という確信につながり、今シーズンは一人ひとりがより自信を持って舞台に立てていると実感しています。その結果、新作においても、細かくすべてを指示しなくとも、一定のガイドがあれば、ダンサー自身が役を考え、主体的に演じる力が育ってきた。最近の『くるみ割り人形』新制作でも、それぞれが「その役として」舞台に立っていることを強く感じました。
このタイミングでチャップリン作品に出会えることは、ダンサーにとって非常に意味がある。ベテランから若手まで層も厚くなった今のバレエ団にぴったりの作品だと感じています。
──サイレント映画にチャップリン自らが手掛けた音楽と効果音がつけられた『街の灯』、バレエ作品としての可能性を感じさせます。
続いて、ロンドン公演にて成功をおさめた『ジゼル』は、福岡と兵庫で凱旋公演を果たします。そして、「DANCE to the Future」では、小㞍健太さんをアドヴァイザーに迎えたコンテンポラリー作品Choreographic Group 作品集と新国立劇場バレエ団ファースト・ソリストの木下嘉人さんの新作が上演されます。小㞍さんは2月に新作も予定され、外部ダンサーに加え、数名の新国立劇場バレエ団のダンサーも出演が予定されています。
吉田監督)
小㞍健太さんには、ここ何年かアドバイスをお願いしています。私自身、彼が踊っていた頃からよく知っており、これまでに作られた作品も拝見してきました。加えて、私はワークショップの場での彼のすばらしさも感じています。
さまざまなスタイルの振付や、表現するためのボキャブラリーをダンサーたちに増やしてあげたいという思いから、ワークショップをお願いしてきましたが、彼は自分の経験を本当に惜しみなく伝えてくださる。多様な表現方法を提示してくれるだけでなく、ダンサーたちが作った作品に対しても、優しい目線でアドバイスをしてくださり、ダンサーたちはきっと大きな支えを得ていると感じています。
また、新しいチャレンジを一緒にできることも大きいですね。ワークショップとは違い、創作となると、プロのダンサーとして外部の方と作品を作り上げる意識が生まれ、そこがお互いにとって刺激になると思います。
新国立劇場バレエ団のダンサーたちにとって、こうした経験はとても貴重です。私としては、もっと自由に表現できるようになってほしいですし、その経験は古典の作品にも必ず生かされていく。経験を重ねなければ辿り着けない表現もありますから、より多くのチャレンジをしてもらいたいと思っています。
そうした理由から、今回お願いしました。
また、貝川鐵夫さん、福田圭吾さんに続いて、木下嘉人さんに新作を委嘱するなど、劇場側から依頼できるような形になってきたことを嬉しく思っています。今後も継続していきたいと考えています。
──劇場不足の問題も質疑にあがりました。そんな中、新国立劇場バレエ団は、来シーズンも公演回数は維持されています。
吉田監督)
公演回数自体は、例年と大きく変わらない予定です。ただ、同じ時期に複数の劇場が閉館してしまっている状況には、正直「なぜこのタイミングで重なってしまうのだろう」と感じています。そうした厳しい状況の中で、私個人の考えとしては、できるだけ他のバレエ団の皆さんにも新国立劇場を使っていただける形にできたらと思っています。
一方で、私たち新国立劇場バレエ団としては、これまで積み上げてきたものがありますし、公演回数も、できることならもっと増やしていきたいという思いがあります。そのために、例えば舞台稽古の時間を調整したりと、今できる工夫はすでに始めています。公演数が少なかった頃は、もっと時間をかけて準備していましたが、これからはダンサー自身がそうした変化に対応していかなければならない──本番を重ねながら、すぐに舞台で力を発揮できる状態をつくっていく必要があると思っています。そうした意識でスケジュールを詰めることで、他のバレエ団の皆さんにも劇場を使っていただける余地が生まれるのではないかと考えています。
新国立劇場で新国立劇場バレエ団が公演を行っている期間に、外部のバレエ団が同じ劇場で上演するというのは、確かに不思議な感覚ではあります。ただ、今の状況だからこそ、助け合っていかなければならない。そう思っています。できる限りのことはしていきたい、というのが率直な気持ちです。
──大きな成功をおさめたロンドン公演、だからこそそこで気づいた課題に質問が及ぶと。
吉田監督)
先ほどお話ししたことと、少し矛盾する部分があるかもしれませんが、ダンサーたちは本当に皆、変な主張をせず、必要なことをきちんと受け入れてくれる。それはこの仕事をする上で、とても大切な資質だと思います。一方で、もっと自分の考えを主張してもいいのではないかと感じる場面もありました。
ただ、それは日本人らしさでもあり、このカンパニーの良さでもあるのだと思っていて、最近は私自身も少しずつ受け入れるようになっています。役柄について具体的に聞けば意見を出してくれるようにはなっていますが、例えば『くるみ割り人形』の新制作でも、ウィル・タケットがいくつか選択肢を提示してくれても、他のダンサーへの配慮から、遠慮してしまう姿が見えてきました。そのあたりが、最近はよく分かるようになってきたんです(笑)。
できるだけ意見を言いやすい空気を作ろうとはしてきましたが、変えるべき部分でもあり、同時に、ダンサーたちのとても素敵なところでもある。そこは今、私自身が考え続けているところです。
──就任以来、吉田監督が取り組んできた医療体制の充実や労働環境の改善は成果を見せつつも、これからも取り組むべき課題でもあるようです。ダンサーのキャリアについて。
吉田監督)
年齢について明確な定年(退団年齢)を設けているわけではありませんが、40歳というのは一つの目安ではあります。ただ、それも人それぞれで、踊り続ける形は変わっていくもの。新国立劇場バレエ団の場合、公演数や人数が限られている中で、どのダンサーにどの役を託すかという判断が必要になり、年齢や経験を重ねることで難しくなる部分が出てくるのも現実です。
もちろん、長く踊ってほしいという気持ちは強くあります。人生経験を重ねたからこそ舞台に出せる深みは、とくにストーリーバレエにとってとても大切です。ただ一方で、今の新国立劇場バレエ団は、全員が支え合いながら公演を成立させていく体制にあり、海外のバレエ団とは状況が異なります。そこが、私にとっても一番悩ましいところです。
ダンサーは一人ひとり、身体も違えば得意なことも違います。私自身も現役時代、早い段階で手放した作品がありましたが、それを選べたのは、そうした選択が許される環境にいたからだと思います。新国立劇場では、公演(出演)が生活と直結しているため、作品選択がそのまま生活に影響してしまう現実もあります。
アーティストとしてのキャリアと人生、生活。そのバランスをどう取るのか──ここは本当に簡単ではありません。
──舞台芸術を巡る厳しい環境の中で、課題を視野に入れながら、挑戦を続ける新国立劇場バレエ団は、「今」だけでなく、「未来」をも見つめています。様々な試みは、夏の「こどものためのバレエ劇場」だけでなく。
吉田監督)
「バレエみらいシート」(バレエを習っている子どもたちが憧れのプロダンサーと交流できる機会を設ける)を『くるみ割り人形』でも開催いたしましたところ、終演後、憧れのダンサーを前に泣き出してしまう子がいたそうです。子どもたちにとって、憧れのダンサーが直接話しかけてくれるという体験──私も幼い頃に同じ立場だったらそうなっただろうと思います。
もうひとつ、新国立劇場こども観劇プログラム(CVJ Kids Program)が『アラジン』公演で実現いたしました。こちらは文化芸術に触れる機会が少ない子どもを対象とした招待です。劇場に足を運び、生の舞台の良さを感じることで、将来、ダンサーや舞台に立つ側としてだけでなく、ファンとして舞台芸術に関わってほしいという思いでおります。
協賛各社のご協力のもと、これからもこういった取り組みは続けていきたいと思っています。
──理事より、チケット価格の改定についても説明がありました。観客動員は伸び過去最高の営業成績だったとはいえ、物価の高騰などによりコスト削減などの自助努力だけでは難しくなったという説明の後。
理事)
現在の水準の公演を安定的に供給し続けるために、チケット料金の改定(値上げ)を行います。
席種によって値上げの幅は異なりますが、バレエ、オペラに共通する大きな考え方として、18,000円以上のチケットは+2,200円、14,000~18,000円未満は+1,650円、10,000~14,000円未満では+1,100円と段階的に値上げを行い10,000円未満では+550円。また、Z席は1,650から+330円で、1,980円となります。
お客様にご負担をおかけすることになって誠に恐縮でございますが、今後も皆様に信頼して足を運んでいただける劇場であり続けられるよう、引き続き努力を重ねてまいります。
ここからは、2026/2027シーズンのラインアップを吉田監督のコメントを交えて紹介します。
「30周年も近づいている中、バレエ団は若手からベテランまでダンサーの層も厚くなっております。なるべくそれぞれのキャリアに合った作品をと考えて、このようなラインアップにいたしました」
2026年10月~11月
街の灯(City Lights)振付:アラスター・マリオット
見どころ:チャップリンの無声映画をバレエ化。言葉を介さずに伝わる感情、ユーモアと哀愁、無償の愛を身体表現で描く世界初演の新作。
「『ジゼル』の改訂振付を手がけ、カンパニーの個性をよく理解してくださっている振付家、アラスター・マリオットさんが長年温めていた名作映画を全2幕のバレエに。哀愁に満ちた美しいロマンティックコメディです。チャップリンが手がけたオリジナル映画音楽を、そのスコアを復元されているティモシー・ブロックさんの編曲・指揮で。今のバレエ団にぴったり、劇場にとって財産となる作品になるのではないかと楽しみにしています」
2026年11月(福岡)2027年1月(兵庫)
ジゼル(ロンドン公演凱旋)振付:ジャン・コラリ/ジュール・ペロー/マリウス・プティパ
(改訂振付・ステージング:アラスター・マリオット)

『ジゼル』福岡公演・兵庫公演 Photo by Tristram Kenton

『ジゼル』福岡公演・兵庫公演 Photo by Tristram Kenton
見どころ:ロマンティック・バレエの本質を保ちつつ、演劇性を強めた吉田都演出版。ロンドン公演で磨かれた成果の“凱旋”。
「ロンドンでの成功、NHKでの放送もご覧いただき、また今週末にもテレビ放映が予定されていますが、生の『ジゼル』を届けたい」
2026年11月
DANCE to the Future新国立劇場バレエ団 Choreographic Group 作品集
振付・出演:新国立劇場バレエ団
木下嘉人新作振付:木下嘉人(新国立劇場バレエ団ファースト・ソリスト)
見どころ:小㞍健太をアドヴァイザーに迎え、バレエ団内から生まれるコンテンポラリー作品Choreographic Group 作品集。木下嘉人新作は、“共鳴”をモチーフにダンサーたちの内なる強さを探る、アンサンブル作品。
2026年12月~2027年1月
くるみ割り人形 振付:ウィル・タケット(レフ・イワーノフ原振付による)

『くるみ割り人形』撮影:鹿摩隆司

『くるみ割り人形』撮影:鹿摩隆司
見どころ:古典の枠を保ちながら、演劇的ユーモアと幻想性を融合。子どもから大人まで楽しめる“新国立劇場版・冬の定番”。
「1から作るというのは大変なことでしたが、自信をもってお届けする作品になりました。今年の公演も、3万人を超えるお客様にお越しいただきました。ここからバレエ団と共に、成長・進化していく作品だと思っています」
2027年2月
ラ・シルフィード 振付:オーギュスト・ブルノンヴィル

『ラ・シルフィード』撮影:瀬戸秀美
見どころ:ロマンティック・バレエの原点。バレエ・ブランが生む幻想性と、妖精の儚い恋を描く詩情。
精確さによる目眩くスリル 2027年2月
振付:ウィリアム・フォーサイス

『精確さによる目眩くスリル』撮影:鹿摩隆司
見どころ:クラシックの型を極限まで研ぎ澄ました超絶技巧。速度、精度、身体の限界に挑むプロットレス・バレエ。
「まったく違うタイプの二つの作品で、今のバレエ団を見ていただきたい。久しぶりの上演となる『ラ・シルフィード』は、初めて踊るダンサーも多いのでブルノンヴィルスタイルを学んでもらいたい」
2027年2月
小㞍健太 新作 振付:小㞍健太
見どころ:国際的に活躍する振付家による委嘱新作。バレエ団の身体性を引き出す、現代的で実験的なダンス。
「外部のダンサーに加え、新国立劇場からも数名参加することになっております。とても興味深いコラボレーションになるのではないか」
2027年3月
ホフマン物語振付:ピーター・ダレル

『ホフマン物語』撮影:鹿摩隆司

『ホフマン物語』撮影:鹿摩隆司
見どころ:幻想と狂気が交錯するドラマティック・バレエ。物語性の強さと演劇的構成が魅力。
「2024年に続いて、大原永子前芸術監督にコーチングをお願いできればと考えています」
2027年5月
ロメオとジュリエット 振付:ケネス・マクミラン

『ロメオとジュリエット』撮影:鹿摩隆司

『ロメオとジュリエット』撮影:鹿摩隆司
見どころ:心理描写の深さと濃密なパ・ド・ドゥ。愛と死を真正面から描くドラマティック・バレエの金字塔。
「今回は、初めてロイヤルオペラハウスのプロダクションをお借りできることになりました」
2027年6月
ドン・キホーテ 振付:マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴルスキー

『ドン・キホーテ』撮影:鹿摩隆司

『ドン・キホーテ』撮影:鹿摩隆司
見どころ:高揚感あふれるテクニックと祝祭性。新国立劇場バレエ団が長年踊り継ぐ代表的レパートリー。
「皆さんご存じの『ドン・キホーテ』、チャレンジングなキャスティングもできるのではないかなと思っているところでございます」
2027年8月
伊藤郁女『喧嘩(仲直り)』振付:伊藤郁女
見どころ:身体そのものの関係性に焦点を当てたコンテンポラリー。感情の衝突と和解をミニマルに描く新作。
「『ロボット、私の永遠の愛』も大変興味深い作品でした。伊藤郁女さんともお話させていただき芸術監督※としても本当に素晴らしい仕事をされていることに、私もすごく刺激を受けました。最初は「喧嘩」だけでしたが、後からやっぱり(仲直り)を足してくださいということで、こちらもどんな作品になるか、楽しみにしています」
※ストラスブール・グランテスト国立演劇センター「TJP」のディレクター(総芸術監督)
2027年7月 こどものためのバレエ劇場 2027
竜宮(りゅうぐう)~亀の姫と季(とき)の庭~ 演出・振付:森山開次

こどものためのバレエ劇場 2027『竜宮 りゅうぐう』撮影:鹿摩隆司

こどものためのバレエ劇場 2027『竜宮 りゅうぐう』撮影:鹿摩隆司
見どころ:日本の昔話「浦島太郎」をモチーフにしたこどものためのバレエ劇場。幻想的な竜宮の世界を通して、時間の流れや別れ、やさしさを描く物語性豊かな舞台。初めてバレエに触れる子どもにも開かれた構成。
多彩なラインアップの詳細は
HPをご覧ください。
おけぴ取材班:chiaki(会見撮影・文)監修:おけぴ管理人