荒川弘さんの代表作、大人気漫画「鋼の錬金術師」を原作とした舞台『鋼の錬金術師』(以下、舞台ハガレン)は、錬金術というフィクションを通して、「失ったものを取り戻そうとする兄弟の旅」を描いてきた舞台シリーズです。
エドワード・エルリック(エド)と弟のアルフォンス(アル)の物語を軸に、重厚な世界観と人間ドラマを、舞台ならではの表現で立ち上げ、多くの観客を魅了してきました。
シリーズ第三弾となる本作では、脚本・演出を引き続き石丸さち子さんが担当します。これまで積み重ねてきたシリーズの流れを受け継ぎながら、新たな展開が描かれます。
また、新キャラクターであるオリヴィエ・ミラ・アームストロング役としてAKANE LIVさんが初参加!
原作の持つメッセージ性と、舞台ならではの身体性や音楽表現が交差する〈舞台ハガレン〉。
本インタビューでは、本作のお稽古真っ只中のお二人に、作品への思いや、お二人の「出会い」から「今」をうかがいました。
【作品世界に身を置く──初参加の稽古場から見えてきたもの】
──連日、濃密な稽古が続いていると思います。まずはAKANEさんから、今回初参加となる稽古場の様子を教えてください。
AKANEさん)昨日、初めて通し稽古をしたのですが、そこから見えてきたことが本当にたくさんありました。これまではパートごとに作ってきた部分も多かったので、自分が出ていない場面を前から観て、ものすごく感動してしまって。
私が舞台に出るまで少し時間がありますが、その間にカンパニーのエネルギーをたっぷりもらってから舞台に立つ、という感覚。ほとんどが初共演の方ばかりですが、若手からベテランまで、本当に身体能力と表現力がずば抜けた方たちが集まっています。この作品づくりに参加していること自体が、すごく刺激的です。
──原作「鋼の錬金術師」にはどのような印象をお持ちでしたか。
AKANEさん)タイトルはもちろん知っていましたが、今回お話をいただいて改めて原作を拝見しました。「錬金術」というファンタジーの設定ではありますが、語られているのはとても現実的なことで、私たちが生きていくうえで避けて通れないテーマが、作品の隅々にまで描きこまれています。
重いテーマも数多く内包していますが、その中にふっと笑える瞬間や、不器用な人たちの優しさもある。とても魅力的な作品だと感じています。
──その世界が「舞台」として立ち上がっていく過程を目の当たりにして、いかがですか。
AKANEさん)錬金術そのものを実際に見せることはできない。でもそれを、人間の身体と想像力で表現していくところが、舞台ならではの魅力だと思います。
殺陣ひとつをとっても、メインの手合わせだけではなく、奥や端で別の攻防が同時に起きている。引きで観たときに、舞台上のあちこちでキャラクターの心情が動いているのを追えるのが、本当に面白いです。
──ここで石丸さんに伺います。今回、新キャラクターであるオリヴィエ・ミラ・アームストロングをAKANEさんが演じることに、どのような期待を寄せていますか。
石丸さん)AKANEさんは、もともと柔らかくて穏やかで、チャーミングな方です。でも年齢を重ねる中で、重心がぐっと下がったというか、落ち着いた強さを身にまとってきた。舞台に立ったときに背負っているものの大きさが見える──そこに安心感を覚える。それがオリヴィエに合うと思いました。
本質的にはとても柔らかい人が、何もかも切り捨てて生きてきた強い女性を演じる。そのギャップ自体が、舞台上でもすごく面白い。
しかも、ちょっとしたミスの瞬間に、ふっとAKANEさんのチャーミングさが顔を出す。それが稽古場の癒しになっています。
AKANEさん)ずっこけるようなことが多くて、本当に反省しています(笑)。自分でも「いつになったら落ち着くんだろう」って思っています。
石丸さん)でも、その一瞬で場の空気がほわっと和む。そのあと、また一気に集中が戻る。俳優って、そうやって自分の人生ではありえない瞬間を生きられるところが、面白さなんだと思います。舞台上では、まさにクールビューティーなオリヴィエです。
【原作への敬意と、生身の人間が物語を生きるということ】
──俳優の持ち味を生かすと共に、原作ファンの存在も強く意識される作品、役かと思います。
AKANEさん)原作がある作品は、やはりファンの方のイメージを損なってはいけない、という思いが強くあります。自分なりに準備はしてきたつもりでしたが、本読み初日に、皆さんの「圧」を目の当たりにし、「全然足りない」と感じました。それをさち子さんにもズバッと指摘されて(笑)。それは信頼関係ゆえの率直でありがたい言葉。最初の段階で提示してもらえたので、すぐに切り替えることができました。
実は、私の中では、オリヴィエのイメージに一番近いのが、さち子さんなんです。だからこそ、どんなことを言われても立ち止まっている場合じゃない、立ち向かうしかない。緊張感と喜び、その両方がある現場です。でも、カンパニーの仲間と話すと、人によっては「さち子さんは、エドでもある」「いや、賢者の石だ」とさまざま。すべての要素を持っているさち子さんを信じて進めば、絶対に目的の場所にたどり着けると思える。全幅の信頼を寄せています。
──石丸さんは、原作再現と舞台ならではの表現、そのバランスをどう考えていますか。
石丸さん)2次元の存在が、生身の人間になる。それこそが2.5次元舞台と呼ばれる演劇の醍醐味だと思っています。
その大前提として、原作ファンの方が「ここは外してほしくない」と思うポイントは、スタッフ全員で徹底的に話し合います。
例えば衣裳、このキャラクターの衣裳のどんなところがファンの心を捉えているのか──そこは裏切ってはいけない。そのうえで、「この人がこれを着て生活している」と感じられるリアリティを積み上げていく。
汚しひとつ取っても、この人の生活なら、「どこが」「どう」汚れるかを考える。そういう積み重ねが、シリーズを重ねるごとにチームの中に根付いてきたと感じています。
【「劇団ハガレン」と呼ばれる理由】
──素晴らしいスタッフワークと共に、キャスティングにも石丸さんらしさが現れています。
石丸さん)NINAGAWA STUDIO時代からご一緒している人、ミュージカルでご一緒している人、多様なフィールドからキャスティングし、その人たちが一緒に生きることで生まれてくるものも大事にしてきました。いろんなところから集まっていますよね。
AKANEさん)すごく楽しいです。過去シリーズを映像で拝見しましたが、いくつもの役を演じる(大石)継太さんのお芝居の引き出しの多さに魅了されました。稽古前から、あの方と一緒にお芝居できると思うと嬉しくて!
実際にお稽古に入ると、「劇団ハガレン」と呼ばれる理由がわかりました。座付きの作家・演出家のさち子さんを筆頭に、作品をよくするという目的に向かって一丸となる。誰かが困っていたら、ほかの誰かがアドバイスをくれる、手を差し伸べてくれるカンパニーです。私の場合は、今、苦労しているのは殺陣です。
殺陣の新田(健太)さん、鍋ちゃん(真鍋恭輔さん)や桃ちゃん(榮 桃太郎さん)が作ってくださったのですが、私は殺陣はほぼ未経験なので難しい。苦戦していたら、昨日、廣野(凌大)くんが「こうやったほうがいいのでは」と温かいアドバイスをくれました。それでひとつコツがつかめて、さらに殺陣がハマると、その後、自然に気持ちが動くことも実感。殺陣も芝居に持っていけるように頑張ります。
また、過去作でオリヴィエの弟アレックスを演じていた吉田メタルさんは「アームストロング家はカッコよくいきましょう!」と家族愛たっぷりに励ましてくれて、役柄とは逆に「兄」のような存在です(笑)。そのメタルさんと、今回はオリヴィエとバッカニアとしてお芝居ができる。役を構築する上でも、みなさんに助けられています。
【それぞれの「現在」が集まり、物語が立ち上がる】
──「劇団ハガレン」というワードも飛び出しましたが、シリーズ第三弾、このタイムスパンでの新作上演について、どのような意味を感じていますか。
石丸さん)回を重ねるごとに、技術的なところだけでなく、経験を重ねた存在感といったところからも俳優たちの成長を感じています。それは、ほかの作品に関わっているときにもどこかでそれぞれの役が彼らの中にいるから。
──ちなみに一色洋平さんと廣野凌大さんが、エド役をダブルキャストで演じ続けることで、二人のエド像は近づいていくのでしょうか。それとも、より独自性を高めていくのでしょうか。
石丸さん)後者です。それぞれの個性が、より際立ってきます。二人が積み重ねてきた人生経験や、今どこに立っているのか、何を欲しているのか──そうした「現在地」が、そのまま表現に現れてくる。
だから、二人のエドは確かに離れていく。でも、どちらも間違いなくエドなんです。とても面白い現象が起きていると思います。
ウィンリィを演じる岡部麟さんの成長も、目を見張るものがあります。
グループの中で積み重ねてきたところから、一人で勝負するフェーズに入り、存在感や説得力がぐっと増している。こうした変化を見届けられるのも、シリーズを続けてきたからこその喜びです。
エドとアルが失ったものを取り戻していく物語について、原作者の荒川弘先生が「どうすれば彼らが幸せになれるのかを考えながら描いていた」とおっしゃっていたことが、強く印象に残っています。
その物語を舞台として立ち上げるために、それぞれの「現在」を抱えた俳優たちが、またここに集まってくる。
みんなが〈舞台ハガレン〉に関わることの喜びを感じながら、物語に登場するすべての人物が、いつか光を見るところまで行けるように──。
そのためなら、何でもやる。
その思いで、脚本と演出の両方を担っています。
AKANEさん)みんなが作品への愛を持って臨んでいる、すごくいい雰囲気の稽古場だと、私も感じています。だからこそ恐れずに挑める。
それはさち子さんが、まるで天岩戸にこもっていた天照大神を外へ導くように、俳優自身が閉じてしまっている“心の扉”を強引ではなく、自然に、でも確実に開いてくれるから。
そんなエネルギーに満ちている稽古場です。
──今回、歌も入ると伺いました。
AKANEさん)はい。実際に曲を聴いたときに、オリヴィエのイメージが一気に膨らみました。
演出や時間の都合で成立しなければ、それは受け入れるべきことだと思っていますが、もし歌わせていただけるなら、すごく面白い挑戦になるなと感じました。
オリヴィエは低く、エネルギーを内包した声の印象が強い人物ですが、楽曲は意外にも高い音域で鳴る。そのギャップによって、彼女の狂気的な側面や、冷徹さの奥にある別の表情が立ち上がる気がして。
森(大輔)さんがつくってくださったオリヴィエの曲が流れ出すと、自分の中で「次の獲物は何だ」と前へ進んでいく感覚が生まれて、とても助けられています。
石丸さん)AKANEさんの出演が決まったとき、作曲の森さんには「ぜひAKANEさんの歌唱映像を見てほしい」とお願いしました。
この作品はミュージカルではありませんが、重いテーマを扱う場面も多い中で、音楽が持つ“深さ”や“軽やかさ”が、物語を立体的にしてくれると感じています。
──石丸さんは、これまでも音楽の使い方に強いこだわりを持っていらっしゃいます。
石丸さん)そうですね。音楽を「シーンの助け」として使うことはしたくないんです。
だから、使わないときは一切使わない。入れるときは、音楽にも独立して表現してもらって、作品を完成させる。全体を組曲のように捉えています。
──言葉(台詞)と歌、それぞれのもつ力とは。
石丸さん)言葉は、心が動くスピードで生まれて、心情を表し、コミュニケーションを生む。一方音楽は、生まれた言葉をジャンプさせることができる。等身大から広げることができる。だからドラマをぐいぐい進めることができる。
そして歌声は、身体(声帯)という楽器と、心情が結びついたときに、より強度を増した表現ができる。だから今回、AKANEさんには、芝居と歌唱で“役の振り幅”ごと委ねています。
今回、「ブリッグズだ!」「オリヴィエの登場だ!」と楽しみにされている方も多いと思います。その期待に応えるオリヴィエになると、太鼓判を押します!ご期待ください。
【今の時代に立ち上がる、オリヴィエという生きざま】
──ブリッグズのシーンへの期待について、
石丸さん)ブリッグズのシーンでは、俳優たちがしっかり心情の勘所をつかんで演じてくれています。その中で立ち上がってくるのが、オリヴィエという人物の生きざまです。
弱肉強食の世界で、過酷な国境線を守る女性将軍。でも彼女は、人種や性別といった区分で人を見ることは一切しない。ただ「人としてどうあるか」を見る。その根本的な姿勢が、今の時代にとても響くと思っています。
価値観が大きく分断され、互いに寄り添いにくくなっている今、
こういう人物が“上に立つ”ということ自体が、この物語に深みを与えている。だからこそ、今上演すべき作品だと感じています。
AKANEさん)ありますよね。……あ、私の役名はなんでしたっけ?(ど忘れ・笑)
石丸さん)こういうところです! 面白いでしょう(笑)。オリヴィエです。
AKANEさん)すみません(笑)。
オリヴィエの言葉は、私自身がミックスであることもあって、本当に胸に刺さるんです。今も、彼女の台詞に、「こんな人がいるなんて」と感動し、思わず涙が出そうになる瞬間があります。それを描いた荒川先生の視点の広さにも強く心を打たれました。
──この役が担っているものは。
AKANEさん)エドとアルが肉体を取り戻すために、私はその“橋渡し”になる存在だと思っています。
昨日の通しで、兄弟を演じる二人の俳優が、吐きそうになりながらすべてを出し切っている姿を見て、「この物語の力になりたい」と、心から思いました。だからこそ、この作品が、彼らが目的を果たすところまで続いてほしい。その一端を担う覚悟で、毎日稽古場に立っています。
石丸さん)この物語と、俳優たちの現実は、並走しているんですよね。
さっきの話を聞いていてふと思い出したのだけど、最初に出会ったときも、私はAKANEさんにミックスの役を書いたよね。
AKANEさん)そうなんです。あのときも、自分の中でいろんなものが大きく動いた。確かな“縁”を感じています。
石丸さん・AKANEさん)
(声をそろえて)不思議!!
【眠っている可能性を掘り起こす──10年の信頼関係】
──今、お話に出たように、お二人は、2016年のミュージカル『Color of Life』日本初演の頃からのお付き合いになります。改めて、互いの魅力について教えてください。
石丸さん)人はそれぞれ、育ってきた環境や選んできた仕事、社会との関わり方の中で、「こう振る舞ったほうが生きやすい」という型のようなものを、無意識のうちに身につけていくと思うんです。そうすると、表現の方向性も、いつの間にか一つに収束してしまうことがある。
AKANEさんには、もちろん柔らかくてチャーミングな持ち味があります。
でも、その魅力に寄りかかるのではなく、むしろ真逆の方向に踏み出せる振り幅がある人だと感じていました。
それは「捨ててきた可能性」ではなく、「まだ眠っている可能性」。
『Color of Life』の稽古場でも、「そこじゃない、もっと先へ行ける」と伝えると、恥をかくことを恐れずに、何度でもぶつかってくる。崩れても笑って、次の瞬間にはまったく違う姿を見せてくれる。その姿勢が、出会ったときからずっと印象的でした。
だからこの人は、まだまだ掘り起こされていない可能性をたくさん持っている。
演出家は、自分がなれない存在に夢を託す仕事でもありますが、AKANEさんはその夢をちゃんと受け取って、形にしてくれる人。夢をかなえてくれる俳優だと思っています。
AKANEさん)……泣いちゃいますね。
毎回、「今の自分のままでは越えられない」と思う山を、必ず差し出してくださるんです。
でも、さち子さんを信じて挑めば大丈夫だ、と思える。その先に、自分一人では絶対に辿り着けない景色を、必ず見せてくださるから。
『Color of Life』で出会って、本当に自分は変われたと思っています。
あの作品、緊張感と美しさ、静けさがすべて詰まった稽古場も含め、きっと一生、自分の中に残り続けるものですし、観てくださった方からも「一番好きな作品だ」と言っていただくことが多くて。母からも、いまだに「またやらないの?」と言われます(笑)。
この10年間を振り返ると、さち子さんとの出会いの中で、表現者として育ててもらったんだな、と強く感じます。節目節目でご一緒する、さち子さんの現場は、私にとってオリンピックのようなもの。そこで金メダルを取れるように、次に出会うときに胸を張って立てるように、また頑張ろうと思わせてくれる、大切な存在です。
石丸さん)嬉しい言葉をありがとうございます。
早速、今日の稽古から、金メダルを目指して、ともに頑張っていきましょう!
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人