新国立劇場『ガールズ&ボーイズ』真飛聖さん×増岡裕子さん対談~最大の味方であり、同志のような存在と共に挑む一人芝居~

『ガールズ&ボーイズ』@新国立劇場 小劇場
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ミュージカル『マチルダ』の脚本でも知られる劇作家デニス・ケリーが2018年に発表した一人芝居『ガールズ&ボーイズ』。ロンドンのロイヤルコートシアターでキャリー・マリガン主演により初演され、その鮮烈な語りと現代性で大きな反響を呼び、ブロードウェイでも上演されました。ある女性が自身の人生を語る形で進む本作は、愛、結婚、仕事、そして出会いと喪失を通して、現代社会に潜むさまざまな歪みを浮き彫りにします。

新国立劇場主催公演として初の一人芝居となる本作の演出を手がけるのは、第33回読売演劇大賞最優秀演出家賞の受賞も記憶に新しい稲葉賀恵さん。主人公「わたし」を、宝塚歌劇団退団後も舞台・映像で活躍を続ける真飛聖さんが稲葉さんと初タッグで演じます。さらに本公演では、作品に多角的な視点と深みをもたらすべく、異なる世代によるダブルキャストを採用。2025年9月の公募オーディションを経て、増岡裕子さんの出演が決定。それぞれ異なる歩みを重ねてきた二人が、同じ役に向き合う時、「わたし」という存在はどのように立ち上がるのか。互いを“同志”と呼び合うふたりのお話から、本作の魅力に迫ります。


【これは“一人芝居”ではなく、“みんな芝居”です】

──HPには「"わたし"の順風満帆な人生──胸を衝く〈結末〉」とある本作ですが、最初に台本を読んだ時、この物語をどのように受け止めましたか。



真飛さん)
ひと言で「楽しい」「面白い」とは言えない作品でした。いろんな表現の仕方があると思いますが、とにかく「すごかった」というのが第一印象です。

コメディ要素もシリアス要素もあり、ジェットコースターのような展開でありながら、すごく身近にも感じられる。主人公の「わたし」の話に、一緒になって腹が立ったり、「わかる!わかる!大丈夫だよ」と円陣を組みたくなったりしました。ですので、物語を“観る”というより、誰かの話をみんなで聞きながら、その時間を一緒に過ごすような作品になるのではないかと感じました。

──ご自身が「わたし」を演じるということについては。

真飛さん)
普段は台本を客観的に読むことが多いのですが、今回は違いました。読みながら、すでに自分がその中にいる感覚があったんです。

だからこそ直感的に、「これは私がやるべきことだ」と思いました。「演じさせてもらう」というよりも、「ここに立つべきなのは自分だ」と。その直感を大切にしたいと思っています。



増岡さん)
私が台本を最初に読んだのは、オーディションに向けた準備の時でした。最初は冒頭部分しか渡されていなかったので、コミカルな台詞も多く「面白いな」と楽しく読んでいたんです。

そして最終選考に進み、戯曲のすべてを知って、衝撃を受けました(笑)。ただ、衝撃は受けましたが、決して難しい話ということではなくて。「わたし」に共感できる部分がとても多く、「これ、わかる!」と思いながら読み進めていくうちに、気がつけば物語に巻き込まれていて、思いもよらないところまで連れていかれた。そんな感覚でした。

──共感されたのはどんなところでしょうか。

増岡さん)
たとえば「わたし」が子どもを産み、キャリアと子育てについて語る場面です。まさに今、私にも4歳の娘がいて、しばらく舞台を離れていましたが、少しずつ仕事に復帰しているところなんです。子どもが生まれると夫婦の関係性も変わってきて、そこで浮かび上がってきたのが “育児、どっちがやるの問題”。「私が女性だからやるの? でもあなたパパだよね、あなたがやってもいいよね?」って(笑)。本当に自分の日常と重なって、「うわぁ」と思いました。ただ、私は、この戯曲を書いているのは男性だということにも意味があると思っていて。そのことに、すごく救われる気がしています。

──「直感」に「理屈」をつけていただくようで恐縮ですが、出演したいと駆り立てるものはなんだったのでしょうか。

真飛さん)
私は、自分の心が動かないと舞台には立てません。舞台で育ってきたからこそ、その厳しさも、大変さも身に染みてわかっています。腹をくくって、そのすべてを引き受ける覚悟がないまま立つことは、舞台にも作品にも失礼だと思うんです。

台本を読んだ時、「やってみたい」という気持ちを超えて、「これは私がやらなければならない」と思いました。まさに「心が動いた」ので、やらないという選択肢は、ありませんでした。

もちろん、この作品に立ち向かうのは並大抵のことではないと思っています。この先、「なぜ引き受けたのだろう」と思う瞬間もあるかもしれません。それでも、共に作り上げる皆さんを信じて、挑戦しようと決めました。

── 一人芝居というところはいかがでしたか。

真飛さん)
一人芝居と聞くと、どうしても演じる側も、お客様も身構えてしまうと思うんです。だから私は、客席を巻き込もうと決めました。

── 一人じゃない!

真飛さん)
そう。一人芝居ではなく、これは“みんな芝居”です。
劇場は、いわばカウンセリングの場所のようなものだと思っています。観に来ている皆さんも、それぞれに育児や仕事、人間関係など、さまざまな悩みや「聞いてほしいこと」を抱えている。その中で、たまたま「わたし」の番が来て話しているという感じです。

劇中には客席に問いかける台詞もありますが、その時には「わかる」「そうそう」とお客様にも一緒に感情を動かしてもらいたい。一人で完結するのではなく、同じ地平で物語を共有していくものにしたいと思っています。そんな話をした時、増岡さんも「それめっちゃいい」と共感してくれたんです。

だから今回は、観客の皆さんと一緒に作っていく、巻き込み型の一人芝居。“みんな芝居”になればいいなと思っています。

──増岡さんが出演したいと思った決め手は。

増岡さん)
作品の概要を読んだ時、40歳になった今の自分と非常にリンクする物語だと感じました。40歳は“不惑”と言われますが、私自身はまったくそんなことはなくて、まだまだ迷いながら進んでいます。その感覚と、「わたし」の姿が重なって、「これは今の自分が向き合うべき物語なのかもしれない」と思ったんです。

一人芝居も初めてで、不安がないわけではありません。でも、真飛さんの“みんな芝居”という言葉を聞いて、お客様を味方にしながら、この作品を生きていけばいいのだと感じることができました。お客様と一緒に、この物語を作っていけるような時間にしたい。その思いで、稽古に向かいたいと思っています。


【最大の味方であり、同志のような存在】



──ダブルキャストについては、どのように捉えていらっしゃいますか。

真飛さん)
これまでミュージカル作品でダブルキャストは経験してきましたが、やっぱりどこかで比較されるものでもありますし、いろいろ言われることもある。そういう意味でプレッシャーを感じることもありました。でも今回は、そういう関係ではなくて、本当に「最大の味方」だと思っています。同じ役を生きる者同士にしか分からないことがあって、それは演出の稲葉さんでさえ、もしかしたら感じることのできない領域かもしれません。実際に舞台に立つのは私たちなので、そこは本当に同志のような感覚です。

まだ稽古は始まっていませんが、何かを盗むというよりも、「これはどう思う?」「こういう解釈もあるかな?」と、分からないことはお互いにどんどん聞きながら、一緒に作っていけたらいいな。そう思える存在がいることは、とても心強いです。そしてお客様には、同じ台本でも、演じる人が違うことで、こんなにも言葉の響きや印象が変わるんだということ自体を、楽しんでいただけたら嬉しいです。

増岡さん)
文学座の研修生の時に経験はありますが、外部の公演でのダブルキャストは初めてです。最初は、自分がダブルキャストというものをどう感じるのか、正直わからない部分もありましたが、私たちだと、もう見るからにまったく違うものになるだろうなと(笑)。

だからこそ、私自身も真飛さんのバージョンを観るのがすごく楽しみなんです。これから稽古が進む中で、どうなっていくのかまだわからないことも多いですし、迷うこともきっと出てくると思います。そういう時には、相談に乗っていただけたら嬉しいなと思っています。

真飛さん)
この作品が千穐楽を迎えた時、きっと特別な景色が見えると思うんです。その景色を一緒に見たいですし、そこを目標にやっていきたい。選んでいただいたからには、私たちふたりには責任もありますし。


【この人となら一緒に戦える】



──まだお会いしてから間もないと思いますが、お互いの印象をお聞かせいただけますか。

増岡さん)
実は私、15年前に、真飛さんの宝塚(歌劇団)の退団公演を観に行っているんです。しかも、それが初宝塚観劇で。「こんなにカッコいい人がいるんだ!」と心を鷲づかみにされて、グッズのクリアファイルまで買いました(笑)。まさか15年後に、こんなご縁をいただけるなんて、本当に夢にも思いませんでした。

真飛さん)
それを聞いた時は、本当に大爆笑でした(笑)。まさかそんなことがあるなんて、と。まったく別の道を歩んできた私たちが、15年という時を経て、この作品で出会うなんてね。

昨年の暮れ、ポスター撮影で初めてお会いしたんですが、会った瞬間に「大丈夫だ」と思ったんです。うまく言葉にはできないのですが、「この人となら一緒に戦える、きっと乗り越えていける」と、自然に思えました。

それに、私は「真飛聖」という名前で活動していますが、本名は「裕子」で、漢字まで同じなんです。そういうことも含めて、巡り会うべくして巡り会ったのだと感じています。

増岡さん)
しかも、ふたりともてんびん座なんです。

真飛さん)
私たち、ほぼ一緒です(笑)。

──稲葉さんの演出を受けることについては、どんなことを楽しみにされていますか。

増岡さん)
稲葉さんは文学座の一期後輩で、演出を受けるのは10年ぶりになります。大胆な印象のある演出家ですが、私は特に細部の作り込みが好きなんです。細部にこそ、彼女の心意気が宿っていると感じます。

稽古場では、悩みながら、話し合いながら、一つひとつ積み重ねていく。その粘り強さと、磨き続ける姿勢が本当に素敵だと思っています。この間、読売演劇大賞の最優秀演出家賞も受賞され、まさに新進気鋭という言葉がぴったりの演出家。今回、改めてご一緒できることを、とても嬉しく思っています。

真飛さん)
今のお話を伺っていて、文学座でご一緒され、お互いの芝居のやり方、進め方がわかる状態からのスタートが切れる増岡さんがちょっと羨ましいなと思いました。私は、初めてご一緒します。逆にフラットな状態で臨めることを活かして、何も知らないからこその「ぶつかり稽古」スタイルでいこうと(笑)!

実は私自身、舞台は約3年ぶり。自分の中で眠っていた舞台の感覚を目覚めさせる意味でも、稲葉さんに全力で向き合っていきたい。きっと、すべてを受け止めてくださると信じています。

──増岡さんは、オーディションで稲葉さんとどんなお話をされましたか。

増岡さん)
オーディションでは、悲しいシーンで、悲しい気持ちに引っ張られて涙が出てきてしまう場面がありました。でもその時に、「そうじゃない表現」を求められました。この女性はただ悲しみに沈む人ではなく、そこから脱却して前に進もうとする人。悲しいから悲しい、というストレートな表現ではないものを試してみましょう……と。オーディションの最終日に少しだけ交わした会話でしたが、その解釈は自分にはなかった視点だったので面白いと感じました。だからこそ、これからの稽古がとても楽しみです。


【今日が人生でいちばん若い日だから】

──ここからは、おふたりの“現在地”についてお伺いしたいと思います。



真飛さん)
昨年、芸能生活30周年という節目を迎え、そのタイミングで宝塚退団後初めてのソロライブを開催しました。そこで、自分自身の原点を再確認できたように感じています。

そして31年目となる今年は、さらなる原点回帰として、舞台、そして演劇にしっかりと向き合いたいと思いました。まだ自分の知らない演劇の世界に身を置き、もう一度深く浸ってみたい。そんな思いが芽生えたタイミングで、今回のお話をいただきました。

舞台で生まれた「真飛聖」という存在に、もう一度きちんと向き合いなさいと、神様に言われているような気がしたんです。舞台は生ものであるからこその魅力がありますが、同時に怖さもある。つい不安な気持ちになることもあります。でも、「みんな味方だから大丈夫」と、自分自身に言い聞かせるように、言葉にして、信じて進んでいこうと思っています。
そう思えるようになったこと自体が、自分にとって大きな変化。ひとつの分岐点に立っているのだと感じています。



増岡さん)
40年の人生を振り返ると、特に30代は私生活でも大きな出来事が続きました。夫の仕事でブラジルに住み、帰国後は母の介護、そしてコロナ禍と出産を経験して、本当に激動の日々でした。その中で、大好きなお芝居に全力で取り組めないもどかしさもありました。

それでもここ数年で、少しずつご縁が繋がり始めて、今回、主役、そして一人芝居という、自分にとって初めての挑戦の機会をいただきました。

40歳を迎えた今、自分の中で何かが大きく変わり始めているのを感じています。求められるものも変わり、新しい表現に踏み出す時期に来ているのだと。ここからフェーズが変わっていくのだという実感もあります

──ちなみに真飛さんは久しぶりの舞台とのこと。久しぶりにして、この作品に飛び込んでいく勇気はどこから湧いてくるのでしょう?

真飛さん)
私もね、できることなら楽して生きたいですし、美味しいお菓子を食べて楽しいことだけして過ごしたいです(笑)。でも、今年、50歳という節目を迎えようとしている今年、ようやく自分自身を面白がれるようになってきた気がしています。

宝塚時代は本当に幸せでしたが、自問自答の日々でもありました。背負うものや責任の重さに向き合い続けて、楽しむというより、苦しさの方が大きかった時期もあったように思います。その後も、コロナ禍で大切な人を突然亡くすという経験をして、「面白がらずにどうするの?逃げてどうするの?」と、自分に問いかけるようになりました。

そして舞い込んできたチャンス。これは自分で面白くしていくしかない。すべてを味方につけて飛び込んでみたら、きっと何かが生まれるはずだと。そう思うようになってから、少しずつ楽になってきたんです。映像の世界でも、最初はアウェーに感じていた場所が、15年かけてようやく自分の居場所になってきた。そして今、舞台で生まれた自分なのに、そこから離れてしまうのは違う、と。

今日が人生でいちばん若い日だからこそ、思い切り生きたい。正直、今も怖さはあります。でも、その怖さも含めて「面白い」と思える自分でいたい。こうして言葉にすることで、自分を信じていける。言霊のように、言葉が自分を前に進ませてくれる。そんなふうに感じています。

増岡さん)
素敵です。ついていきます!

──増岡さんは、一度遠ざかった俳優業に戻ってこられたわけですが、演じることを手放さなかったのは?

増岡さん)
つらい時、苦しい時に舞台を観に行くと、元気が出る。やっぱり舞台なんです。自分自身、身をもってそれを感じてきたから、お芝居、舞台をやりたいと思った。それが一番の理由です。


──最後に、舞台を楽しみにされている皆さんにメッセージを!

増岡さん)
難しい話ではないので、心の壁を取っ払って楽しんでいただけたらと思います。劇場でお待ちしています。

真飛さん)
“みんな芝居”を、ぜひ面白がってください。気持ちとしては、ジャケットを脱いで、Tシャツに短パンくらいのラフさで(笑)。あまりかしこまられてしまうと、こちらもドキドキしてしまうので。

喫茶店で雑談をするような、井戸端会議のような感覚で、たまたまそれが新国立劇場の小劇場だった。そのくらいの心持ちで、この時間を一緒に過ごしていただけたら嬉しいです。


『ガールズ&ボーイズ』@新国立劇場 小劇場
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【公演情報】
いま、ここに──[1]『ガールズ&ボーイズ』
2026年4月9日(木)~26日(日)@新国立劇場 小劇場

作:デニス・ケリー
翻訳:小田島創志
演出:稲葉賀恵
出演:真飛 聖/増岡裕子(Wキャスト)

芸術監督:小川絵梨子 主催:新国立劇場
公式ウェブサイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/girls_and_boys/
(トリガーアラートあり) 

写真提供:新国立劇場
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人

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