3月5日、すみだパークシアター倉にて開幕したミュージカル『星の数ほど夜を数えて』、オリジナルキャストチーム(今井清隆さん、白木美貴子さん、音くり寿さん、内藤大希さん、石田佳名子さん)のゲネプロレポートをお届けします。
舞台上、まず目に入るのは青々とした芝生とベンチ。自然豊かな土地の、とある家の庭、美しく穏やかな空間が出迎えます。
この場所で語られるのは、星空を愛したひと組の夫婦の物語。
一緒に星を数えてきた二人。40年の歳月をともに歩んできた夫婦の物語が、多彩な音楽に乗せて紡がれていきます。
まずは作品紹介を──
ミュージカル『星の数ほど夜を数えて』は、2023年に初演された、認知症と夫婦の愛を描いたオリジナルミュージカルです。作・演出は上田一豪さん、音楽は小澤時史さん。小澤さんはこの作品で読売演劇大賞スタッフ賞を受賞。その音楽が高く評価されました。キャッチーでポップな楽曲から壮大な楽曲まで、物語の感情を豊かに支えています。
今回は劇団TipTap20周年記念公演の第一弾として待望の再演。オリジナルキャストに加え、新たなキャストを迎えて上演されます。
◆舞台上手後方には生演奏でライブ感あふれる音楽を奏でるミュージシャンが控え、開演の瞬間が近づくと、舞台上にはキャストたちがおもむろに現れます。そして上演中、5人の俳優は登場人物を演じながら、物語を見守るように常に舞台に佇みます。
気のいいタクシードライバーの夫と、かつてプラネタリウムの解説員として働いていた妻。大学の天文サークルで出会い、一緒に“星を数えてきた”二人の人生は、妻が認知症を患ったことで大きく揺れ始めます。
作品の象徴とも言えるナンバーがタイトル曲の「星の数ほど夜を数えて」。
出演者5人による五重唱は力強く圧倒的な迫力、この空間でこの物語を共有していることの幸福を感じさせます。星空のイメージが広がるなか、音楽がまっすぐに心に届く瞬間です。
また、ミュージカルならではの軽やかな魅力も随所に散りばめられています。
ケアマネジャーをタクシーで送るシーンの文字通り“ドライブ感”あふれるナンバーが印象的。タクシーというモチーフが、夫婦の人生のドライブ──二人の歩みそのものに重なって見えてきます。
認知症の検査の場面では、問診を受ける妻に付き添う夫が思わずジェスチャーで応援する姿が微笑ましく映ります。今井清隆さんは、ちょっと不器用ながらもロマンティストな夫を温かく体現しています。実に魅力的です。
少しずつ記憶を失っていく妻役の白木美貴子さんは、可憐さのなかに芯の強さを感じさせます。「もしあなたのことを忘れてしまったら──」と夫にある約束を結ばせる場面は胸を打ちます。記憶を失うことへの恐れや不安を抱え続ける妻に、夫は静かに言います。「君が忘れても、僕が覚えているから」。そして、日々の出来事をノートに書き留めていこうと提案します。その言葉からは、40年という時間をともに歩んできた夫婦の歴史と、互いを思いやる深い愛情がひしひしと伝わってきます。
夫婦に関わる主治医やヘルパーなどを演じる石田佳名子さんは、時に厳しく、しかし温かく寄り添う人物を丁寧に表現。ケアマネージャー役の内藤大希さんは、明るく晴れやかなパフォーマンスで舞台を彩ります。元気いっぱいの“やること紹介ナンバー”のユニークな振付に客席も盛り上がります。
音くり寿さんは、回想、俯瞰するような視点で物語を語る娘を演じます。
まっすぐに言葉が届く語り口に知性がにじみ、素敵な両親のもとで育った人物像に説得力を与えています。数えた星の数と同様に、決して消えることのない、夫婦がともに歩んだ足跡の象徴として輝きます。
また、本作は「記憶」とは何か、「自分が自分であることの証」とは何かを問いかける作品のようにも感じられます。記憶を失うことは、自分でなくなることなのか。ひとつひとつの出来事が消えていくわけではなくても、それらの積み重ねが人を形づくっているのだとすれば、人をその人たらしめているものとは、いったい何なのか。そんなことにも思いを馳せる帰り道でした。
この日はオリジナルキャストチームのゲネプロを取材しましたが、今回は新キャストチーム(宮川浩さん、⼟居裕⼦さん、敷村珠⼣さん、⽵内將⼈さん、⽥宮華苗さん)も登場!もうひとつの夫婦の物語も、ぜひ!

新キャストのみなさん
作・演出の上田一豪さん、音楽の小澤時史さんの名コンビは、等身大の人生の物語をミュージカルとして立ち上げます。認知症という厳しい現実を描きながらも、そこには常に温かさと前向きな生き方が息づいています。そして芝生や、星空を思わせる美しい視覚効果も、この作品世界を豊かに広げています。展望台のシーンは観客が夫婦の眼前に広がる星空のひとつになったかのような気持ちに。
舞台と客席との距離の近さも相まって、登場人物たちの語る言葉に、そっと耳を傾けるような80分。観客ひとりひとりの心にじんわりとしみこむような静かで、たしかな重みのある作品です。
本作は劇団TipTapの20周年記念公演第一弾として上演されます。2006年3月3日、旗揚げ公演の初日を迎えた劇団は、オリジナルミュージカルを作り続けながら20年という時間を歩んできました。
その道のりは決して容易ではなかったはずです。それでも作品には常に手作りのぬくもりがあり、クオリティは第一線級──丁寧に作り上げられた良質なミュージカルを届けてきました。作り手たちが社会と、自らの人生と向き合いながら生み出す物語は、観客の人生とも静かに重なるからこそ、心にそっと寄り添い、前に進む力を与えてくれる作品に多くの観客が励まされ、救われてきたことでしょう。
同時代を生きる作家と観客をつなぐ作品を生み出すカンパニー、これからのTipTapの創作にも期待が高まります。20周年、おめでとうございます!
公演は3月15日(日)まで、すみだパークシアター倉にて。
写真提供:劇団TipTap
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人