彼女たちの身体に刻まれた、戦争という名の疵跡あと
──それでも彼女たちは、明日を歌う新国立劇場が、2027年5月に小劇場にて上演される演劇『Ruined 奪われて』の出演者公募オーディションを開催。2026年3月5日(木)正午より応募受付がスタートしました。
本作は、アメリカの劇作家リン・ノッテージによる、コンゴ内戦下で性暴力を受けた女性たちを描いた作品です。善悪の二元論では捉えきれない、様々な立場の登場人物たちの姿を通し、厳しい現状と、それでも生き抜こうとする女性達の姿を鮮やかに描き出した本作はピュリッツァー賞、オビー賞をはじめ数々の賞を受賞。遠い国の出来事を「自分ごと」としてとらえるきっかけを私たちに与えました。
演出を手がけるのは、第30回読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞した五戸真理枝さん。『貴婦人の来訪』などで、その斬新な起点が高く評価された五戸さんが、繊細かつ緻密でありながら、大胆な発想を取り入れた演出でこの難作に挑みます。 寄せられたコメントで五戸さんは、
「目を背けたくなる現実を見つめ、そこに生きる人の尊厳を観客とともに探すことができるのも演劇の力」と語ります。また本作は戦争、差別、暴力など人間の暗い側面を正面から描く作品である一方、
「絶望を描くための演劇ではなく、観客に何らかの希望を手渡すための作品」であると続け、オーディション応募者へは
「見つめなくてはならない現実が厳しいからこそ、より安全で誠実な創作の場を築き、一人ひとりがこの物語の中にどう立ち、存在するのかを探っていきたい」とコメント。
今回の公演では、出演者11名のうち3役を公募オーディションで募集。募集される役は、戦禍の中で傷を負いながらも生きる若い女性サリーマ、彼女を探す兵士フォーチュン、そしてその従兄弟サイモンの3役。応募受付は3月22日までで、4~5月にかけてオーディションが行われます。五戸さんのコメント全文は以下の通り。
<演出 五戸真理枝さんよりメッセージ>
私は、演劇は人を幸せにするためにあるものだと信じています。
目を背けたくなるような現実を見つめ、そこに生きる人の尊厳を、観客と共に探すことができるのも演劇の一つの力。
『Ruined 奪われて』は、そのような演劇です。
コンゴ民主共和国は、アフリカ中央部に広がる熱帯雨林の国です。
この地の人々の暮らしが「奪われ」はじめたのは、1885 年のベルギーによる植民地支配に遡ります。土地に密着した生活は引き裂かれ、1998 年に勃発した紛争は、2026 年現在も収束していません。地下に眠る豊かな鉱物資源が争いに火を注いでいるのです。
ここで採掘された鉱物は世界中に流通し、私の手の中にあるスマートフォンにも使われています。にもかかわらず、大規模な紛争のことは、世界のメディアで大きく取り上げられることは多くありません。
リン・ノッテージさんの戯曲『Ruined』は、このような紛争地に生きる人々の現実を、決して目を逸らさず描いた作品です。
大多数の人間が経済活動を最優先に進む世界の中で、こぼれ落ちていく物語を舞台にかけ、見つめ直すこと。これは、劇場や演劇が担うべき大切な役割の一つでもあると、私は考えています。
この作品を日本で上演するにあたり、私は、戯曲に封じ込められた現実を、日本に生きる演劇人としてどう受け止め、どのように観客の皆さんと分かち合うのか、自分自身の生き方をかけて真剣に向き合いたいと思っています。
本作は、戦争、差別、女性蔑視、暴力、性的暴行など、人間の恐ろしい側面を真正面から見つめなければ立ち上げられない物語です。俳優自身の、想像力と感受性、そして何より精神的な体力が求められます。
それでもなお、この作品に取り組みたいと思える俳優の皆さまと、対話を重ねながら、共に舞台を立ち上げたいと考えています。見つめなくてはならない現実が厳しいからこそ、より安全で誠実な創作の場を築き、一人ひとりがこの物語の中にどう立ち、存在するのかを探っていきたいと思っています。
『Ruined 奪われて』は、絶望を描くための演劇ではありません。
現在、あるいは遠い未来に、観客の皆様に何らかの希望を手渡すための作品です。
戦争と紛争の止まない世界の中で、私たちがそれでも握りしめることのできる希望の姿を、ぜひ一緒に探してください。
【公演情報】
『Ruined 奪われて』
2027年5月公演予定@新国立劇場 小劇場
作:リン・ノッテージ
翻訳:小田島則子
演出:五戸真理枝
芸術監督:上村聡史(2026年9月就任予定)
主催:新国立劇場
ものがたり
コンゴ民主共和国の内戦が続く中、ママ・ナディは政府軍、反政府軍や鉱夫が入り乱れる小さな町でバー兼売春宿を営んでいる。ある日、行商人のクリスチャンが、性的暴行で心身に深い傷を負った二人の女性、サリーマとソフィを連れてくる。ママ・ナディは、金儲けのために彼女たちを雇い入れる一方で、必死に安全を守ろうとする。店では、女性たちが客にサービスを提供しながらも、歌やダンス、ささやかなおしゃべりを通して、わずかな日常と尊厳を取り戻そうとしている、しかし、戦火はバーの内にも迫り、兵士たちの襲撃や暴力が繰り返され、彼女たちは再び傷を負う。
この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました