『ガールズ&ボーイズ』@新国立劇場 小劇場
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4月9日、新国立劇場 小劇場にて開幕する『ガールズ&ボーイズ』は、新国立劇場主催公演史上初の一人芝居です。一人の女性、〈わたし〉が語る人生──愛、結婚、仕事、そして喪失を、「チャット」と「シーン」によって回想するように紡ぐ本作は、ミュージカル『マチルダ』の脚本でも知られる、デニス・ケリーによる戯曲です。

撮影:田中亜紀

撮影:田中亜紀
演出を手がけるのは、今、大注目の演出家・稲葉賀恵さん。「わたし」は真飛聖さんと増岡裕子さんがWキャストで挑みます。
稲葉さんの演出で、どんな『ガールズ&ボーイズ』が立ち上がるのか。元宝塚歌劇団花組トップスターで、舞台映像に活躍の場を広げる真飛さんと、老舗劇団文学座の増岡さんという、歩んできた道のりの全く異なるお二人による、二人の〈わたし〉への興味と期待を胸に、稽古場にお邪魔してまいりました。
◆一人芝居と言っても色々とあります。本作では、俳優が何役も演じ分けるということはせず、舞台上にいるのは常に〈わたし〉。
「チャット」は、まるでスタンダップコメディのように観客に話しかける、ライブ感あふれるパートで、それに対して「シーン」は、〈わたし〉に起きた出来事が劇中劇のように展開する、見えない相手役に対してお芝居をするという意味では、一人芝居らしいパート。それらが交互にやってきて話は進んでいきます。
なので、お芝居を観ているようでいて、打ち明け話を聞いているような感覚もある。もっと言えば、彼女の体験や記憶を共有している時間のようにも思えます。
「シーン」ではいわゆる「第四の壁」があったり、「チャット」ではそれが取っ払われたりすることで、〈わたし〉の内的な語り、外的な語りのようにも感じられます。

撮影:田中亜紀

撮影:田中亜紀
取材に伺ったのは立ち稽古、一巡目。本読み稽古はお二人揃って行われ、台本を読み解いていったというベースから、それぞれの〈わたし〉が立ち上がる立ち稽古へ。まだまだ芝居の選択肢を残しながら、少しずつ〈わたし〉を立ち上げていきます。
この段階のWキャストの稽古は、入替制で行われます。前半は真飛さん、それが終わると増岡さんが稽古場にやってきてチェンジする。つまりお互いの稽古を見ることなく、それぞれの芝居が作られていくのです。
「チャット」では、稽古場から観客に見立てたスタッフや見学者にぐいぐい語り掛ける二人。
真飛さんの〈わたし〉はカラッと湿度低め。大胆で明るく、思わず耳を傾けてしまう引力強め。
増岡さんの〈わたし〉は昔なじみの友達のような、自然体で語り掛けます。
お二人とも「素」というわけではないのですが、休憩時間のお二人の居方に近い印象を受けます。そして稽古が進むにつれて、それが肝なのかなと思えてくるのです。
〈わたし〉がどんな女性かというと、若かりし日はわりと破天荒。大いに遊び、仕事をし、思い立って旅に出て、空港で未来の夫と出会う。その出会いのエピソードは痛快! 「いい人と巡り合ったね」と、ヒューヒュー言いながらこぶしを突き上げて、ハイタッチしたくなります。こうしてユーモアも交えながら、テンポよく進んでいきます。
そこから物語は年月を経て──この日の稽古での「シーン」は、結婚、出産、子育て、仕事リスタートと、人生の歩みを進める〈わたし〉が、子どもたち―7歳と4歳を想定した姉弟、リーンとダニーに遊びをせがまれる場面です。仕事も始め、疲れている母親に遊びをせがむ子ども。うるさい&面倒くさいという感情が押し寄せつつ、ごっこ遊びに付き合う母親像も、真飛さんと増岡さんそれぞれです。
パパッと片付けようと、ごっこ遊びの設定に乗っかっていく真飛〈わたし〉、「はいはい仰せの通りに」と迎合しているようで実は仕切っている増岡〈わたし〉。
各家庭にありそうな日常の情景、どちらも説得力があります!
また、当然ながらリーンもダニーも舞台上にはいません。台本の台詞も〈わたし〉のものだけ。そこをいかに自然に見せるか。〈わたし〉の台詞に加えて子どもたちの台詞も入れたサブテキストを作り、最初はスタッフが実際に子ども役としてしゃべり、動線もたどりながら、過去の出来事を作っていきます。そこから子ども役を外して、〈わたし〉が一人で演じる。目線の高さも意識しながらの芝居によって、まるでそこにリーンとダニーがいるかのように、〈わたし〉の過去を追体験できるのです。

撮影:田中亜紀

撮影:田中亜紀
また驚いたのは、二人の〈わたし〉の小道具の使い方、スタンバイする場所や動きといった舞台の使い方などがまったく違うということ。もしかしたら、稽古が進んで、お互いの芝居を観るようになったとき、真飛さんと増岡さんご自身が、誰よりも驚くかもしれません。というレベルで違います!
互いの〈わたし〉を観た感想を伺いたいくらいです!!

撮影:田中亜紀
そんな二人の〈わたし〉に寄り添い、一緒に悩みながら導くのが稲葉さん。「シェアさせてください」「提案があります」、俳優のもとに駆け寄り、じっくりと話し合う姿が印象的でした。俳優側からも、「動いてみると、この台詞に違和感がある」などが伝えられ、その都度、検証を繰り返していきます。
また、この日に見た「シーン」では、〈わたし〉によってある事実が明かされます。そして「シーン」と「チャット」がやがて曖昧になっていき、〈わたし〉の話が、異なるフェーズへと入っていくという、お話の大きな転換点となる「シーン」。そこで必要になる間合いの取り方や、セットの“窓”の意味合いが稲葉さんから語られました。とてもシンプルなセットですが、それだけにこの窓の存在が大きい。先ほど、「シーン」と「チャット」を内的、外的と例えましたが、さらに深層を見つめるような行動や、そこから「チャット」に戻る〈わたし〉の意思。あの間合いや窓、観客にも必要だろうな──そんなことも感じました。

撮影:田中亜紀
また稲葉さんの演出を見ていて思うのは、真飛さんはこう、増岡さんはこう、と意図的に違う〈わたし〉を作ろうとはしていないということ。各々の持ち味をそのまま持ち込むことで自然と2つの『ガールズ&ボーイズ』になる。それを疑うことなく、確かな手ごたえを感じながら重ねられる稽古。だからこそ、観客としても同じ物語の道筋をたどりながら、そこから受け取るものの手触りはきっと違うものになるだろうと感じます。ただ、その一方で、まったく違う〈わたし〉だったら、最終的に観客の心の中に残るものは違うのだろうか、それとも普遍的ななにかへと集約されていくのだろうか。そんなWキャスト公演への、観客としての好奇心も芽生えました。
誰の立場で、誰のどの表情にフォーカスを当てて見るのかで印象が変わったなど、複数回観劇することで生まれる、作品の面白さもあります。今回のWキャストは、誰の声で、誰の身体を通して、この作品・戯曲に触れるのか、一人芝居なので出演者は一人、これは究極の別視点での観劇体験になりそうです。

撮影:田中亜紀

撮影:田中亜紀
衝撃の結末──とあるので、お話の細部には触れることはできないのですが、確かに順風満帆だった〈わたし〉の人生は大きな転機を迎えます。結末を迎えた後で振り返ると、そこで描かれること、語られることも含めて「チャット」「シーン」「一人芝居」、それぞれが大きな意味を持っていることに気づきます。
衝撃を受け止め、深呼吸してみると。この作品が、シリーズ企画「いま、ここに──」、変わり続ける世界の中で、それでも人はここにいる。ここに、居続ける。いま、ここに生きることと、小さな希望を見いだしていく3つの物語の1つであることがじんわりと心にしみてきます。
誰の声でこの物語を受け取るのか。
その違いが、最後に胸に残るものを変えるのか──
あるいは、どちらであっても同じところに辿り着くのか。
二人の〈わたし〉が立ち上げるこの物語を、ぜひ劇場で確かめていただきたいと思うのです。
『ガールズ&ボーイズ』@新国立劇場 小劇場
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おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人