【前編より続く】【“狭間の世代”として】
──お二人のお話を伺っていると、演劇に対する考え方や向き合い方に共通するものがあるように感じます。お互いに似ていると感じる部分はありますか。成河)
端的に言えば、世代だと思います。現代演劇史の中での世代という意味で。
上の世代がいなくなり、下の世代がこれから出てくる、その狭間にポンと置かれた世代。
藤田くんにとっては蜷川幸雄さん、僕にとってはつかこうへいさん、師と仰いだ方々が亡くなり、継承が一度途切れる。その中で、「これからどうすればいいのか」を自分たちで考えなければならなくなった。
しかも、教えてくれた人たちは、最後に「俺たちのやり方はもう違う」と言って去っていくんです。それは簡単に語れることではないけれど、そのこともわかった上で、僕たちはリスペクトして、薫陶を受けた。でも、次の時代へ行かなくてはならない。そのとき弟子はどうする──って。
演劇を取り巻く環境も、劇団公演からプロデュース公演に移行していく過渡期へ。ミュージカルも今のように当たり前ではなかった頃。やがて公演が経済優位性に舵を切ったとき、「つかさんはなんて言ったか」「蜷川さんはなんて言ったか」と考えながら、自発的に何かを始めるしかなかった世代。
あとは、僕も藤田くんも、日常を生きるのが不器用というか、良くも悪くも、ほかのことがあまりできないくらい演劇に没頭してしまう。そういう“病的”な部分も似ていると思います(笑)。
──藤田さんはいかがですか。藤田)
大きく二つあって、一つはまさに今おっしゃったように、同じ時代を生きてきたということ。演劇人として価値観が大きく変わっていく過渡期を共有している世代だという点です。
僕たちは1980年度生まれ、年齢も同じ。世の中全体の価値観が、アナログからデジタルへ移行していく時代を、ちょうど真ん中で経験している世代でもあります。子どものころに、8ビットファミコンが発売され、僕らは「ビット」の世界に入っていきました。それ以前は、デジタルという概念そのものが生活に近いところにはなかった。その変化は、演劇にも大きな影響を及ぼしていて、演劇も、価値観というか、対峙するもの自体が変わってきたように思います。そこで、上の世代の価値観をどう受け継ぐのか、あるいは受け継がないのかを常に考え続けてきました。
さらに下の世代の新しい感性、可能性とも出会っていく。その中で、自分たちはどこに立つのかを問い続けている世代だとも言える。だからこそ演劇を通して、今の時代や社会とどう繋がるか、もしくは繋がれないのかに常に自覚的である成河さんに共感し、とても素敵だと思っています。
もう一つは、成河さんに対する敬意です。
──と言いますと。成河さんは同世代のトップランナー、僕のはるか先を走っていました。
かつてベニサンピットというクリエーションの場所があり、僕らはその上にあったニナガワスタジオのプレハブで、月5,000円の会費を払い、日夜、稽古に励んでいました。そこで、役者だった僕は、仲間と古今東西の素晴らしい戯曲の断片をエチュードにして演じ、蜷川さんに見ていただいていました。清水邦夫さんの戯曲を取り上げたときは、「お前たちの世代はこの言葉をきちんと語れる力を持っていない」と言われて落ち込んだり。「では、具体的にどうするのか?60年代、70年代に書かれた戯曲を取り上げるなら、(時代背景を勉強しながらも) 00年代以降の言語体系、君たちの言葉でやってこそ君たちの物語だ」と蜷川さんはおっしゃっていたのです。
言葉を選ぶだけでなく、その言葉の向こう側に何があるのかをちゃんと考えるということ。それって先ほど話していた「翻訳」「作家性」の話と同じことなんです。
話がちょっと逸れましたが、そうやって僕は、みんなと一緒に、蜷川さんが言わんとしていることはなんだろうと考えていた頃です。
ある日、そのベニサンピットで上演されていた『エンジェルス・イン・アメリカ』(2004年)を観に行きました。成河さんは、その舞台に立っていた。彗星の如く現れたわけではないでしょうけど、僕らには彗星の如く──と映りました。
成河)
彗星でも何でもない、20代前半、ピザ屋さんでバイトしながら地道に演劇をやっていましたよ(笑)。
藤田)
「同じ世代にこんな人がいるのか」と衝撃を受けました。正直、「これは勝てない、無理だ」と(笑)。一緒に観た誰もがそう思った。でも同時に、「負けたくない」という気持ちも強くあって。僕も、結構、熱かったんです(笑)。
今思っても、僕らの世代で地に足付けてベニサンのステージに立っていた代表が成河さんです。その頃の思いがあるから、演劇人としてずっと憧れ続けています。僕にとって成河さんは、共感と憧れ、その両方を抱えながら、ずっと見てきた存在です。
──ちなみに、お二人が初めて言葉を交わしたのは。成河)
仕事とは関係なく、お互いに噂を聞きつけて、世代も近いしちょっとしゃべろうかとファミレスで会ったのが最初です。そこから二人で朝6時くらいまでずっと話していた(笑)。
藤田)
本当にずっと話していましたね(笑)。
成河)
そこからご縁が続いて、ミュージカル『VIOLET』、『ラビットホール』、そして今回で3作品目。俳優として、これだけ一緒に作品を作れる演出家って、実は多くはないんです。
藤田)
成河さんほど、いろんな演出家と仕事をされている俳優さんもなかなかいないと思います。
成河)
いろんな畑の人と仕事をすることが、僕の夢でもあったので。
藤田くんとは、今回こうして、これまでの2作品とはまったく違うタイプの作品でご一緒できる。
困難だと思ったこの作品も、演出家と俳優という線引き、役割分担を超えて、混ざり合いながら創作できるのはすごく面白い。そもそも俳優のこんなわがままに伴走し、それを一緒に楽しんでくれる演出家は稀有。改めて、こういう関係性で作品を作れる人は他にいないなと思っています。
藤田)
ありがとうございます。僕も、この創作のプロセスを一緒に経験できていることを幸せに思っています。
【おまけ】
──最後にもう一度、原作を読むか読まないか問題について。成河)
実際、売られていますし、読めば全部わかります。その上で観るもよしですが、やっぱりまずはネタバレなしで観るのが面白いと思う。で、終わった後に読むのが、楽しい。
藤田)
原作を読まずに観ていただいて、読んで、もう一度観ていただけば(笑)。
成河)
その通り!
稽古場レポートへ続く!(近日公開)
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人