甘くポップな世界観の中に、どこかビターな人間描写が潜む、“甘くてビターな心温まるミュージカル” 『チャーリーとチョコレート工場』。
ロアルド・ダールの名作『チョコレート工場の秘密』を原作に、映画版でも広く知られる本作。日生劇場での初日を前に行われたゲネプロの模様をレポートいたします。(チャーリー・バケット:古正悠希也、オーガスタス・グループ:渡邉隼人、ベルーカ・ソルト:原ののか、バイオレット・ボーレガード:吉田璃杏、マイク・ティービー:小山新太)
※ジョーじいちゃん役の小堺一機さんは、怪我のため、当面の間休演されます。同役は聖司朗さんが務めます。なお、聖司朗さんに代わり、ジェリー役は佐渡海斗さんが務めます。チョコレートに忍ばせた5枚のゴールデンチケットを引き当てた者だけが、謎に包まれたウォンカの工場へ招かれる──その特別な体験に参加する一人が、心優しい少年チャーリー・バケット。
【チャーリーの“優しさ”が照らすもの】年に一度、自分の誕生日にだけ「ウォンカのとびきり最高めちゃうまチョコ」を買ってもらうことを楽しみにしているチャーリー。次々と当選者が発表されていく中で見せる唖然とした表情の変化、当選の喜び、そして工場に足を踏み入れてからの“すべてが初めて”というまなざし。その一つひとつが丁寧に積み重ねられ、古正さんは、素直さと繊細さを併せ持つ完成度の高い芝居でチャーリー像を立ち上げます。
家族思いの優しいチャーリー。その優しさは家族だけにとどまらず、工場見学をともにする子どもたちにも向けられています。決して好感度が高いとは言えない彼らに対しても、その去っていく背中を見つめ、思いを残すチャーリー。“他者に向けられる優しさ”が、この物語に静かな芯を与えています。
工場で目の前に広がる世界に浮かれても、次の瞬間にはジョーじいちゃんにぴたりと寄り添う。その仕草ににじむのは、環境に裏打ちされた優しさ。
【チャーリーの優しさを育んだもの】
バケット夫人を演じるのは観月ありささん。働き者で家族を支える母。亡き夫とのダンスシーンも印象的で、観月さんの持つ明るさとしなやかさが、そのままバケット夫人像と重なります。貧しさの中にあっても決して悲観に沈まない、前を向く強さが、この家族の空気をつくっています。
ジョーじいちゃんは、怪我による休演が発表された小堺一機さんに代わり聖司朗さん。
仕事で忙しい母に代わり、チャーリーとともに工場見学へ向かうジョーじいちゃん。かつてウォンカの工場で働いていた彼は、ウォンカのお話をチャーリーに語って聞かせる。チャーリーにとって、大好きなかけがえのない存在です。
聖司朗さんは、チャーミングさと軽やかさ、そして頼もしさを兼ね備えたジョーじいちゃんを体現。長く床についていた彼が立ち上がる瞬間には、物語が一気に動き出すような高揚感があります。
【“我慢できない子どもたち”と、振り切れた大人たち】
チャーリーとともに工場見学に招かれるのは、カリカチュアライズされた、強い個性を持つ子どもたちと、その保護者たち。

オーガスタス・グループと母親

ベルーカ・ソルトと父親

バイオレット・ボーレガードと父親

マイク・ティービーと母親
食べることをやめられないオーガスタス、欲しいものはすぐ手に入れたいベルーカ、自己顕示欲を抑えられないバイオレット、刺激に溺れるマイク。それぞれが“何かを我慢できない子どもたち”として描かれ、ダール作品特有の毒っ気を担う存在。
そして彼らを溺愛する親たちもまた強烈で、ポップでカラフルな衣裳をまといながら、人間の醜さを大胆に体現。グループ夫人に鈴木ほのかさん、ボーレガード氏に芋洗坂係長さん、ソルト氏に岸祐二さん、ティービー夫人に彩吹真央さんという実力派キャストによる振り切った芝居が、キャラクターを鮮やかに浮かび上がらせます。
極彩色の世界にあって、パステルカラーの衣裳に身を包むチャーリー、そのコントラストも印象的です。
【人の本質を見抜く、ウォンカのまなざし】
堂本光一さんが演じるウィリー・ウォンカは、天才的でミステリアスな存在。
煙に巻くようなつかみどころのない言い回し、シニカルな雰囲気の裏に、人間不信や生きづらさを抱えながらも、“人の本質を見抜く目”を持つ人物として描かれます。
自由に見えて孤独を抱えるウォンカと、まっすぐなチャーリー。二人の出会いから、ガラスのエレベーターへとつながる物語の道筋を光一さんのウォンカがクリアに照らし出します。
堂本光一さんのウィリー・ウォンカは当たり役と言っていいほどの説得力です。ですが、この役が似合うというだけではない、「光一さんだからこそのウィリー・ウォンカ像、ここにあり」と感じさせます。
【五感で味わう“イマジネーションの世界”】
ウォーリー木下さんの演出、そして増田セバスチャンさんによるアートディレクション。ポップでスイート、そしてどこかダークな世界観が、舞台上に鮮やかに立ち上がります。(美術:石原 敬さん、衣裳:小西 翔さん、ヘアメイク&ウィッグ:SAKIEさん)
シーンによっては香りの演出も用いられ、まさに“五感で味わう”体験に。
ウォンカの工場で働く、不思議な存在・ウンパルンパの登場シーンも大きな見どころ。あの体勢でのパフォーマンスであることを忘れてしまうほど(実際、あの体勢は大変!という尊敬の念は抱くものの)、まさにウンパルンパそのもののような存在感!ポップなダンスはカーテンコールでも大盛り上がりです。
ガラスのエレベーターのシーンでは、劇場全体がイマジネーションの世界へと包み込まれるような感覚が広がり、舞台という表現との相性の良さを改めて感じさせます。
2幕冒頭、「ピュア・イマジネーション」で見せる子どもたちの表情も印象的です。
それまでのぎらついた欲望は消え、目の前のスイーツに心から満たされていく様子が浮かび上がります。
チョコレートを食べたいけれど、贅沢はできない。“願望を抱えながらも抑制できる”存在として描かれているチャーリー。そんな彼にも、ただ一つ、抑えきれないものがあります。それは──。目の前の出来事に心を動かし、思いを豊かに広げていくその力は、やがて思いがけないかたちで彼に返ってきます。
世界一カラフルで、かっこよくて、オシャレ。
それでいて、どこかほろ苦く、あたたかい。
「想像すれば見えてくる」、五感をひらいて味わいたいミュージカルです。
公演は4月29日まで日生劇場にて、5月6日~28日は福岡・博多座、6月5日~12日は大阪・フェスティバルホールにて上演です!
囲み取材レポートへ続く!
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人