韓国で誕生し、多くの観客の心をつかんできたミュージカル『レッドブック』が、2026年5月に日本初演を迎えます。「私」を書くことを選んだ女性アンナと、彼女を取り巻く人々との出会いを描くロマンティックコメディ作品。主人公アンナ役の咲妃みゆさん、真面目で“紳士”であることしか知らない新米弁護士・ブラウン役の小関裕太さんに、作品との出会い、俳優としての思い、そして“自分らしさ”について語ってもらいました。
【「他者を理解し尊重する」というメッセージに共感/ワクワクが何拍子もそろう作品】
──この作品に出演しようと思った決め手を教えてください。咲妃さん)
まず、物語に込められたメッセージにとても共感しました。「他者を理解し、尊重し、自分を見つめて生きていく」というテーマに強く惹かれたんです。
また、演出の小林香さんとはこれまでにもご一緒したことがあり、それ以来、またご縁があればいいなと思っていました。香さんが演出なさるということも決め手の一つですね。
実はもうひとつあって、アミューズさんとお仕事してみたいという思いもありました。これまでご一緒したアミューズ所属の俳優さんが皆さん本当に素敵で、刺激をたくさんいただいてきました。そして制作された作品も拝見する中で、いつか私も創作の仲間としてご一緒できたらと思っていました。
小関さん)
まず、19世紀イギリスという舞台設定に惹かれました。
僕は、もともと『メリー・ポピンズ』が好きでこの世界に入りました。『メリー・ポピンズ』の舞台は1910年、この作品は1800年代後半と、厳密に言うと時期は少し違うのですが、19世紀末から20世紀初頭の空気感にどこか共通するものを感じて、まずそこにワクワクしました。
配信で聴いた楽曲もとても美しく、耳なじみがいい。韓国語なので言葉は分からなかったのですが、すごく“感情”が伝わってきたんです。
そして、咲妃さんに同じく、小林香さんとまたご一緒できるというのも大きかったですね。20歳の頃にご一緒した経験は、今でも自分の財産になっています。そうやって、僕にとってのワクワクが何拍子もそろっている作品です。
──お二人は韓国版を観劇されたそうですね。咲妃さん)
出演が決まってから、渡韓して拝見することができました。
俳優さんの技術力の高さはもちろんですが、作品自体に漲るパワーに感銘を受けました。長く上演され続けている作品の軌跡を感じ、その歩みに対する敬意を新たにしました。
また、客席のお客様の熱気もすごくて、この作品がどれほど愛されているのかを感じ、日本の上演が一層楽しみになりました。それと同時に、「しっかり頑張らねば」という思いも湧きました。
小関さん)
僕も、咲妃さんとは別のタイミングでしたが韓国で観ました。物語の巧みさや、キャラクターの感情がすごく伝わってきて、作品のクオリティの高さを感じました。
また、隣で観ていた学生さんたちが涙している様子を見て、「日本でもこの感動の渦を作りたい」「この素敵な作品を日本初演として、日本語で日本のお客様に届けることに大きな意味がある!」と思ったんです。出演者という立場で、微力ながらもその一助になれればと思っています。
【「作って崩してまた作る」初演の醍醐味を共有できる】
──お互いの印象をお伺いしようと思いますが、その前にひとつ。先ほど、咲妃さんからアミューズの素敵な仲間たちへの賛辞がありましたが、アミューズ所属の小関さんはどう受け止められますか。小関さん)
中にいるとピンとこないというか。でも、すごいハードル上がっていますよね(笑)。期待を裏切らないようにしないと(笑)。
咲妃さん)
すでに、素敵な小関さんのお人柄に触れていますし、大変ご活躍されている素晴らしい俳優さんだと思っています。
小関さん)
ありがとうございます。ほっとしました(笑)。
──では改めて、お互いの印象をお聞かせください。咲妃さん)
お仕事で何度かお目にかかる中で、小関さんは本当に広い心をお持ちの方だなと感じました。私はとても不器用で、なにをするにも時間がかかりますし、稽古場ではたくさん失敗すると思うのですが、取り繕わずに飛び込ませていただける方かなと。勝手に安心しています(笑)。
小関さん)
僕も同じタイプなんですよ。僕は、咲妃さんを尊敬しているので、同じですと言うのもおこがましいのですが。
昨年、ドラマのお仕事で初めてご一緒し、その時も「不器用で……」と仰っていたのですが、舞台での“完璧な咲妃みゆ”さんを観てきている僕は、ビックリしました。
でも「不器用で時間がかかる」という言葉は、誠実に作品に取り組む姿勢の表れだと思います。とくに、今回は日本初演で、日本版演出として立ち上げていく。僕は、初演作の立ち上げの経験は割と多いほうで、その大変さも知っています。どうしても作っては崩し、また作っては崩す──限られた時間の中で、お客様に楽しんでもらえる作品を作るのは困難も多く、根気がいる作業。そこでは時間がかかっても、ひとつずつ積み上げていく作業が大事になる。僕も決して器用ではないけれど、そんな作業が好きなんです。
咲妃さん)
よかったです。私も同じく、丁寧な創作が好きです!
小関さん)
僕も作品や咲妃さんをはじめとするカンパニーの皆さんに助けてもらいながら、たくさんの発見をし、新しい世界が広がったらいいなと思っています。僕も、仲間を信じて取り繕わずに飛び込もうと思います!
咲妃さん)
ブラウンは上流階級の紳士ですが、稽古場では身分は関係なく(笑)、みんなで失敗して恥をかいていきましょう。なんだか上から目線みたいになってしまいましたが(笑)。
【コメディは“呼吸”で生まれる】
──本作はロマンティックコメディでもあります。その辺りについては。小関さん)
昨年、コメディ作品を経験して、声を張ったり身体を使ったり、かなり鍛えられました。その感覚が残っているといいな。今回は、また違うものかもしれませんが……ロマンティックコメディなので(笑)。
咲妃さんのコメディは最高ですよね!
『最後のドン・キホーテ』を拝見したときに、「咲妃さんって、こんなにぶっ飛べるんだ」って思いました(笑)。
咲妃さん)
最近、ありがたいことに、“ぶっ飛んだ”お役をいただくことが多くて(笑)。
コメディについては、これまでご一緒してきた諸先輩方の光るコメディセンスを間近で学ばせていただき、「あの方のあの“間”が素敵だったな」と思い出しながら、自分なりに取り組んでいます。
その上で、私は、なんと言ってもコメディは相手との呼吸がとても大切だと思っています。無理に笑いを取りにいくのではなく、相手の呼吸を感じ、瞳と心で会話しながらお芝居をし、その結果としてお客様が笑ってくださったらラッキー、という気持ちで臨みたいと思います。
小関さん)
コメディタッチのお芝居のときだけでなく、咲妃さんはすごく目を合わせてくださるんですよ。それがすごく安心感につながります。ドラマでご一緒したときも、そう感じました。相手の目を見て、何かを受け取ろうとしてくださる。その姿勢がとても魅力的で、信頼できると思いました。
咲妃さん)
それはなぜかと言いますと。私が目を見る理由は……一人ではできないからなんです。
周りの方からいただくものが本当に大きく、それがないと、もう不安でしかなくて。だから、ちゃんと受け取りたくて、自然と目を見るようになったんだと思います。
小関さん)
僕も同じタイプなので、すごく安心できます。
──作品でも描かれる「自分らしさ」。お二人にとって、自分らしさとは何でしょうか。小関さん)
僕は「ワクワクを忘れないこと」です。
小学生の頃からずっとそう思っていて、何かを始めたときのワクワク感を忘れないことが、自分のエネルギーになっている気がします。目の前に壁がそびえ立っても、それを超えた先にあるものへのワクワクを信じて立ち向かっていく。そうやって取り組んでいます。
咲妃さん)
私は、頑固さかもしれません(笑)。
占いでも必ず「超頑固」と出るのですが、自分でもそうだと、遅まきながら自覚はしています。頑固が故に苦労することもありますが、そのおかげで経験できたこともたくさんあります。あらがわずに自分を受け入れて生きていく、その意思が私らしさなのかなと思います。
小関さん)
ほかの人から見ると「芯がある」と言い換えられるのではと思うんです。まだ僕は、咲妃さんの「頑固」な一面には出会っていませんが、稽古でそんなところを発見するのも楽しみです。
咲妃さん)
確かに「芯がある」という言葉をいただくことも多かったように思います。(かしこまって)温かいフォローをいただきありがとうございます。
小関さん)
その切り返しが、めっちゃコメディエンヌなんですよ(笑)。
【俳優という仕事は「救い」/「主観より俯瞰」】
──俳優という仕事についてはどう感じていますか。咲妃さん)
私はもともと、自分の気持ちを自分の言葉で伝えるのがとても苦手でした。でも役を通してなら、自分の素直な気持ちを台詞に乗せて届けられるんです。宝塚音楽学校の演劇の授業でその感覚を初めて体験して、「お芝居って、心が救われるんだ」と感じました。
今まで、このお仕事を続けてこられたのも、好きだからというのももちろんありますが、自分にとってお芝居や演劇が救いだったからだと思います。そして、お仕事であると同時に、人生をかけて「自分らしさ」を探していく道のりの、出発点となったのも間違いなく演劇だと思います。
小関さん)
いろんな思いを経て、今は、「役」と同時に「役割」を意識することが多いです。その作品において、俳優としてどんな役割を担うのか。そして自分が演じる人物が、物語の中でどんな役割を持っているのか。
役についても、自分の主観で捉えるというより、その人物が物語の軸なのか、スパイスなのか、誰かに影響を与える存在なのか、あるいは立ちはだかる存在なのか……といった具合に、作品全体を俯瞰して考えることが多いですね。その中で自分の役割を果たすことを大切にしています。
だから俳優の仕事としては、作品をベースに、自分の人生やキャリアの中で、このタイミングでこの作品に取り組む意味を考えます。そうやって作品に向き合う中で、素敵な作品に携わってワクワクしたり、そこで出会った人から何か影響を受けたり。そういうところにやりがいを感じています。
──そうした視点で見ると、今回、小関さんが演じるブラウンという人物は、物語の中でどんな役割を担っていると感じていますか。小関さん)
アンナという芯の強い女性が中心にいる物語なので、観客が彼女を追って物語を見つめる中で、ふと気持ちが楽になったり「頑張れ」と思えたりする存在。そこがこのキャラクターの個性、魅力だと思っています。
──咲妃さんが、今、アンナというお役に出会った意味をどう感じていますか。咲妃さん)
本当にご縁、運命だと思っています。
多くの方が演じ、お客様にも愛されてきたアンナという役に向き合う機会をいただけたことに感謝しています。
このご縁に責任を持って作品をお届けする。それが自分の使命だと思っています。
【Story】
紳士の国・ロンドン。その中でも最も保守的だったヴィクトリア朝時代に生きる、 主⼈公アンナ(咲妃みゆ)は少し変わっていた。淑女として振る舞うよりも「私」として生きたい―。
真面目で“紳士”であることしか知らない新米弁護士・ブラウン(小関裕太)や個性的な登場人物たちとの出会いをきっかけに、アンナは、官能的な小説を書くことで自分を表現し始める。型破りで刺激的なその内容は、瞬く間に評判を呼び、多くの読者を熱狂させていく。一方で、「女性のあるべき姿に反している」「社会に悪影響だ」と非難され、 ついに裁判にかけられてしまう……。
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人