<原作者来日記念スペシャルアフタートーク掲載>舞台『ナルキッソスの怒り』開幕レポート~お客様はその日の共演者~


【『ナルキッソスの怒り』原作者来日記念スペシャルアフタートークレポート】4/21追加掲載

4月19日13時公演後に、「原作者来日記念スペシャルアフタートーク」が開催されました。
登壇したのは、原作者のセルヒオ・ブランコさん、演出の藤田俊太郎さん、成河さん、通訳は原作の翻訳者であり、藤田さん、成河さんとともに上演台本も手掛けた仮屋浩子さんです。

まず登場したのは、藤田さん。この時点で2公演を終えた日本版初演の『ナルキッソスの怒り』。その2回の公演に大きな手応えを感じたご様子。その日のお客様が作り出す、持ち込む空気によっての変化、成河さんとの互いに与えあう2時間の相互作用が2回の公演の違いを生み出すこと体感していると語ります。

続いて、つい先ほどまで2時間の舞台を務めていた、心身ともに(!)まだ湯気が立ちのぼっていそうなくらいの状態で登場したのが成河さんです。2公演終えた率直な感想を「恥ずかしい」と言って、手のひらでお顔を隠すような仕草を見せます。この言葉に一瞬戸惑う観客。すると成河さんからは「告白して、まだ返事をもらっていないときの心境」と独特の表現で照れ臭そうに話します。

そして、ついに原作者であり劇作家のセルヒオ・ブランコさんが仮屋さんを伴って姿を現します。

前夜の初日公演とこの日の公演をご観劇されたセルヒオさん。ここからはセルヒオさんのお話で印象的だったポイントをいくつか、記憶と感想を交えて紹介します。


【幾重もの翻訳の成功】
仮屋浩子さんの翻訳に始まり、演出の藤田俊太郎さんによる読み解きと構想、各プランナーの手による具現化、俳優・成河さんの身体を通した立ち上げ、そして観客の中での再構築へ──。
本作は、そうした幾重もの“トランスレーション(翻訳)”の連鎖によって立ち上がっている。その一つひとつの過程に対し、セルヒオさんから感謝の言葉が述べられました。

これの点について、取材、観劇を通して感じたのは、その過程で作品の本質や仕掛け、情熱は一切減衰することなく、日本の上演、日本の観客に向けて最適な形を目指して作り上げられたこと。セルヒオさんにも、それが確かに届いているのだと感じました。誠実な創作がひとつ実を結んだと言えるでしょう。

続けて、「私たちにとって、“観客の眼差し”こそが何よりも重要だ。演劇は、見られることで初めて成立するものだという」と語るセルヒオさん。さらに、「AIが語られる時代だからこそ、人間の知性を体感できる場としての演劇の価値」を強調しました。


【愛を守るため】
母親から、なぜ暴力的なシーンを書くのかと問われたことがあるというセルヒオさん。その答えは「愛を守るため」。

セルヒオさんが生まれたのは、南米ウルグアイのモンテビデオ。地球のちょうど反対側に位置する。「我々はナイフとフォーク、日本は箸」と文化の違いを例え、日本の観客に向けて暴力性への配慮を示しつつも、愛を描くうえで不可欠な要素であると語る。そして「言葉も文化も異なるが、それでも、愛や死への恐れ、生の喜びはどこまでも普遍的なものだ」と説きます。

本作は決してバイオレンスを見せること自体を目的とした作品ではありません。むしろ、その奥にある感情を浮かび上がらせるための表現として、それは存在しているのです。


【お一人様観劇】
成河さんからは、国や土地によって観客の受け取り方に違いはあるのかという問いが投げかけられました。話題に挙がったのが、日本では“一人で観劇する”人が多いという傾向。

「一人で劇場に行くことを美しいと思う。大切なお出かけ、たとえばデートの待ち合わせには一人で行くでしょう。神社仏閣に参るときも同じ。それに近いものがあると思う。一人で劇場に足を運び、同じ時間を共有し、そしてまたそれぞれの人生へと戻っていく──」と、特異であることをポジティブに分析。

観劇という行為の、どこか神聖な性質に触れる言葉です。


【本当の演劇の始まり】
そして最後に語られたのが、「我々(演劇を届ける側)が去ってから、(観る側の)本当の演劇が始まる」という言葉。

劇場で受け取ったものを、それぞれが持ち帰り、自分の中で反芻していく。その過程こそが、この作品における最後の“トランスレーション”。
あれは何だったのか──。
そう問い続ける時間の中で、浮かび上がるのは、自分自身の姿なのかもしれない。


そして、成河さんが冒頭に話した「告白」の答え。
すぐに出る人もいれば、翌朝、1週間後、あるいはもっとずっと先の未来に、ふと見つかるのかもしれません。そんな未来へと繋がる公演、そしてアフタートークでした。

こうして皆さんのお話を聞いて感じたのは、「オートフィクション」「一人芝居」「翻訳劇」といった枠組みに、もし少し構えてしまう気持ちがあるなら、一度それを取っ払ってみてほしいということ。

「成河さんが語る言葉と世界に身を委ねる時間」──そんな感覚で、この作品に触れてみてください。素晴らしいプランナー、スタッフ、俳優、そしてその日に居合わせた観客が紡ぎ出す物語が、きっとそこに立ち上がります。

『ナルキッソスの怒り』は、4月30日までの上演。




セルヒオ・ブランコ作『ナルキッソスの怒り』が開幕。
藤田俊太郎さんの演出、成河さんのお芝居で届けられる日本初上演!稽古場で積み重ねられてきた言葉と身体が、ついに立ち上がります。(対談前編対談後編稽古場レポート




リアルと虚構が交差する──
物語はセルヒオ自身が滞在したスロベニアの首都リュブリャナのホテルでの体験をもとに描かれます。演じるのは、成河さん。ただこの“成河さんが演じる”という言葉自体も揺らぐような、緻密でミステリアスな世界。いったい、どんな作品なのだろうという疑問について、ゲネプロ前の取材会で成河さんと藤田さんよりお話がありました。



──原作に出会ったときの印象。

成河さん)
もう1年以上前になりますが、非常に特殊な様式で書かれた戯曲で、そのまま翻訳して日本で上演するのはほぼ不可能だと感じました。どうすれば上演できるのか──自分自身が言葉に関わる形で創作しなくては難しいと思ったんです。上演台本から関わることになり、1年間準備を重ねてきました。

藤田さん)
鮮烈で、さまざまな様式を内包しながらも、大きな物語であると感じました。読んでいると想像力が一気に広がり、この作品に出会えたことにまず感謝しました。そして成河さんと出会い、稽古を重ねるごとにその想像がさらに膨らんでいき、今に至っています。


──1年かけての創作活動、上演に向けたアプローチについて。

成河さん)
この作品を日本版にアダプテーションするためには、日本語で書く作家が必要。そこで藤田さん、翻訳の仮屋さんと3人で“作家業”を担うことを決めたのが1年前です。

藤田さん)
劇作家自身が登場する構造の作品なので、それをどう日本版にアジャストするか。成河さんという存在が作家を演じる──その構造を日本のお客様に最も伝わる形にするため、上演台本を作り続けてきました。2週間に一度のペースで議論を重ね、立ち止まり、また進み…その積み重ねです。



──稽古で重視したことは?

成河さん)
稽古に入ってからも、ずっと構成を考えていました。どこをカットし、どうつなげるのか。どの言葉を選ぶのか──日本語の選び方にこだわりました。

藤田さん)
一番大きいのは「作家性」です。作家がこの物語に何を託し、何を託せなかったのか。それを探り続ける作業でした。つかめそうで消えて、また現れる。それがスリリングで楽しかったです。


──作家セルヒオ・ブランコさんとのやり取りは?

藤田さん)
日本版について直接やり取りをさせていただきました。時代や言葉の違いについても、シーンごとに新たな提案をいただきました。

成河さん)
この作品は観客と直接交流する構造なので、翻訳作品のままでは成立しない。セルヒオさんからは「日本のものとして上演すべきだ」とはっきり言っていただいたんです。


────一人芝居という形式について。

成河さん)
「オートフィクション」という言葉にとらわれすぎなくてもいいと思っています。むしろ重要なのは、2時間ずっと観客と対話し続けること。1秒も離れずに話しかけ続けるというのは初めての体験で、自分がやってきたことが問われるような感覚。これまでのすべてを注ぎ込む必要のある大変なことで、非常に鍛えられています(笑)。

藤田さん)
これは「お客様とともに紡ぐ物語」です。成河さんが与え続け、お客様もまた与える。その関係が2時間続いていく。だから上演時間も、その日の空気によって変わる可能性があります。毎回まったく違う表情の作品になると思います。演劇としては当たり前のことかもしれませんが。

──観客との関係性について

成河さん)
「見る/見られる」という関係が大きなテーマです。それはつまり観客席と舞台のことでもある。お客様はその日の共演者であり、一緒に作品を作る存在になります。

藤田さん)
劇場という場所で、想像力や痛み、そしてそれを乗り越えた先の喜びを共有できたらと思っています。最終的に、演劇という大きな喜びを持ち帰っていただけたら嬉しいです。

──初日に向けてメッセージを

藤田さん)
劇場に入ってから作品はさらに成長していきます。お芝居や演じているというのとはまた違う、成河さんが舞台上で“そこにいる”姿、“伝える”姿を、ぜひ目撃していただきたいです。作品に惚れ込んだプランナー、スタッフも含めて全員で創ってきました。今とても良い状態で初日を迎えられます。

成河さん)
少し怖い部分もある作品ですが、最後まで手をつないで安全なところへお連れします。その先には、人の営みの豊かさや穏やかさがある。体験したことのない劇場体験になると思うので、ぜひ一緒にこの時間を作っていただけたら嬉しいです。


【ゲネプロレポート】

「体験」「目撃」という言葉が似合う作品『ナルキッソスの怒り』。
そしてそれは同時に、“言葉で説明することを拒む”作品でもある。




出演者は成河さんひとり。開演前、客席に現れた成河さんは観客に語りかけ、そのまま舞台へと移行していきます。だが、そこでもなお「成河」として話し続ける──

全編を通して感じるのは、境界の揺らぎです。確かなのは「成河さんがそこにいる」ということだけ──のはずですが、それすらも疑わしくなってくる。そこにいるのは誰なのか、ここはどこなのか、何が起こっているのか。観客は足場の不確かなまま、想像力を頼りに物語を進んでいくことになります。

スロベニアの首都リュブリャナのホテル、228号室
やがて語られるのは、劇作家セルヒオがスロベニアの首都リュブリャナで体験した出来事。舞台上にはベッド、椅子、スーツケース、テーブルなどが倒れた状態で並び、成河さんの手によって立ち上がり、空間が次々と変容していく。



立体として登場するのは博物館のマンモスの骨。それをゆっくりと撫でるセルヒオ。
イゴールという青年との出会い、情事、博物館での体験、学会での講演、部屋に点在する染み──出来事は次々と展開し、映像やテキストも駆使されながら、観客は理解よりも先に、その流れへと巻き込まれていきます。





こうして、部屋に残された染みの謎を追うミステリーの中で、友人のマーロウ、ホテルの支配人が登場し、もちろんイゴールという謎めいた青年も、セルヒオの語りには次々と人物が現れる。
それぞれの人物像がくっきりと立ち上がる面白さに加え、成河さんがセルヒオを演じ、そのセルヒオが語りの中で別の誰かと会話する──言葉にすれば複雑な構造を、瞬時に、そして軽やかに立ち上げていく。

こうして一人の俳優が複数の人物を瞬時に立ち上げ、語りの中で会話を成立させていく。その技巧も見どころのひとつですが、本作の本質はそこにとどまらない。




自己と他者との間で揺れ動く芸術家の眼差しを論じるセルヒオ。ナルキッソスの神話を下敷きに、「見る/見られる」という関係性が浮かび上がります。自己とは他者の眼差しを通して存在するものなのか──その問いが、舞台上の成河さんとスクリーンに映し出される像の関係性として立ち現れる。

また、観客は単なる受け手ではありません。成河さんが語りかけ続けることで、観客は“共演者”としてこの作品に組み込まれていく。その日、その場にいる観客によって作品の空気は変化し、上演そのものが揺らいでいくような感覚が生まれることでしょう。




突然挿入される歌や、客席を練り歩く場面など、作品の論理とは異なるベクトルで感覚を揺さぶるシーンも。それらは掴もうとすると逃げていく境界の揺らぎを、むしろ心地よいものへと変えていくのです。



舞台と客席の境界を曖昧にし、思いがけない景色へと観客を導く照明や映像、舞台装置もまた、その揺らぎを支える重要な要素です。物語も、その提示方法も、多層的に構築された本作。言語化しきれない感覚が残るのは、それが“体験”として設計されているからなのでしょう。

ひとつ確かなことを挙げるならば、「劇場に居合わせた」という事実なのかもしれません。一人芝居という名のもとに、2時間、その場に居合わせた俳優と観客とで紡がれるこの作品を、ぜひ体験してください。



芝居が上手い、というような基準を忘れてしまうほどの話術で、2時間舞台に立ち続ける成河さん。練りに練られた台詞や上演台本をその身に落とし込み、最後にはそれすら手放して観客と向き合っているような舞台でした。そして、その“すごさ”を前面に出すことなく成立させてしまう。終わってから、じわじわとそのすごさへの興奮が──

公演は4月30日まで、東京芸術劇場シアターウエストにて。なお、原作のセルヒオ・ブランコさんが来日され、4月19日(日)13時公演終演後には、成河さん、藤田さんとともにアフタートークが開催されます。
【公演情報】
『ナルキッソスの怒り』
2026年4月18日(土)~4月30日(木)@東京・東京芸術劇場シアターウエスト
作:セルヒオ・ブランコ
翻訳:仮屋浩子(『ナルキッソスの怒り』北隆館刊)
上演台本:仮屋浩子、成河、藤田俊太郎
演出:藤田俊太郎
出演:成河
公式HP:https://narcissus-stage.com/

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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