舞台『ハムレット』が5月9日、東京・日生劇場 にて開幕。初日を前に囲み取材が行われ、ハムレット役の市川染五郎さん、オフィーリア役の當真あみさん、クローディアス役の石黒賢さん、ガートルード役の柚香光さん、ポローニアス役の梶原善さん、レアティーズ役の石川凌雅さん、ホレイショー役の横山賀三さん、そして演出のデヴィッド・ルヴォーさんが登壇。約1か月に及ぶ濃密な稽古期間を経て迎える初日への思いを語りました。続いて行われた、公開ゲネプロレポートと合わせてお届けします。

ハムレット:市川染五郎
©松竹/梅田芸術劇場
【囲み取材レポート】
──まずは、初日を迎える今の心境をお聞かせください。
染五郎)
この1か月、本当に素敵なカンパニーの皆さんと一緒に魂を込めてきた『ハムレット』が、ようやく明日初日を迎えます。お客様が入ってようやく作品が鼓動を始めるというか、本格的に命が吹き込まれる。その時間をお客様と共有していきたいと思っています。
當真)
舞台に初挑戦させていただいて、本当にたくさん学ぶことがありました。皆さんのお芝居から得るものもたくさんありましたし、『ハムレット』という作品をどんどん自分の中で深めていけた期間でした。これからは、今まで蓄えてきたものを舞台上で皆さんと共有していく作業を楽しんでいけたらと思っています。
石黒)
私の役は、染五郎さん演じるハムレットの叔父であり、ハムレットの父である先王を殺したとんでもない悪人です(笑)。私にとっては初めてのシェイクスピア、初めての日生劇場。本当に初めて尽くしの作品ですが、このメンバーと一緒で良かったと思っています。デヴィッドの旗印のもと、本当に濃密で良い稽古をさせてもらいました。あとは幕が開くだけです。
柚香)
お稽古をすればするほど、「ここでこんな感情になるんだ」とか、「ガートルードはこんな思いを抱えて生きていたんだ」と、毎日発見がありました。シェイクスピアの台本はどこまでも深められる。感情や思考が点々と移動していくような感覚で、初めての体験をさせていただいています。皆様とこの劇場で『ハムレット』を共演できることを楽しみにしています。
梶原)
私も石黒さんと同じく、初シェイクスピア、初日生劇場です。今年60歳なんですけど、それも一緒(笑)。ポローニアスは従順に王に仕えながらも、自分の守りたいものを守り、調べたいことを調べる、ちょっとわがままな奴なんです。若い方々にもたくさん協力していただいて、気が付けば本当に素晴らしいカンパニーだなと思っています。幸せです。
石川)
約1か月の稽古を通して、本当にみんなで作り上げてきた『ハムレット』です。今この時代だからこそ演じる意味、伝える意味があると信じながら創り上げてきました。シェイクスピアの物語を継承していく身として、責任と覚悟を持って演じ切りたいと思っています。
横山)
僕自身も初めてのシェイクスピア作品で、稽古前はかなり緊張していました。でも、言葉を一つひとつ丁寧に読み解いていく日々がすごく刺激的で、それを身体で納得できた時に、『ハムレット』やホレイショーを演じることがすごく楽しくなりました。ハムレットが唯一信頼する友でもあるので、しっかり染五郎さんの隣にいて説得力のあるホレイショーでありたいと思っています。
ルヴォー)
私にとって日本の演劇は、人生の中でもとても大切な存在のひとつです。この日生劇場で、この素晴らしいキャストと『ハムレット』を作れることを大きな名誉に感じています。私たちがやっているのは、「こういう見方もあるよね」と、新たな形でシェイクスピアをお客様に届けること。このカンパニーは、現代の人間として、歴史あるシェイクスピアと手を携えている。その姿を見ていて、とても興奮しています。特に染五郎さんのハムレットは、今まで見たことのないハムレットです。
──染五郎さんはストレートプレイ初出演、初主演、一番大変だったことは?
染五郎)
ルヴォーさんから受け取るものを、自分の中で一つひとつ整理して、「今回のハムレットに必要なのは何か」を選択していく作業です。もちろん楽しいのですが、同時に大変でもありました。でも、「何を選び、どう生きるか」という悩み自体が、ハムレットと同じ感情。演じる役者とハムレットが、一心同体になってしまうような作品なんだと感じました。
──膨大な台詞はどのように身体に入れていったのでしょうか。
染五郎)
どうやって覚えたんでしょうね(笑)。でも、言葉を覚えるというより、まずハムレットの心の動きがあって、そのグラデーションの上に言葉が乗っている感覚なんです。まず思考があって、そこから自然と言葉が生まれてくる。その流れを作ることを大事にしました。
──歌舞伎との違いは感じますか?
染五郎)
舞台上でお客様の前で、劇世界を立体化させるという意味では歌舞伎と同じだと思っています。そこまで大きな違いは感じていません。
──當真さんは初舞台ですが、特に印象的だった学びは?
當真)
ルヴォーさんから何度も言われたのが、「今起きていること、感じていることを、お客様に共有してほしい」ということでした。映像と違って、目の前に観てくださる方がいる。そのことを意識しながら動きや気持ちを作っていくのは難しくもあり、大きな学びでした。
──柚香さんも、非常に難しい役どころです。
柚香)
毎日発見の連続です。「この言葉にはこんな思いが隠されていたんだ」と思った次の日に、「まだ全然わかっていなかった」と気づく。役者として本当に幸せな時間です。素晴らしいキャストの皆さんと言葉をぶつけ合う中で、いろんなものが露呈していく。それをどうお客様に届けられるのか、もっと探していきたいと思っています。
──染五郎さんと當真さんに伺います。稽古を通して、お互いの印象で変わったことはありますか?
染五郎)
當真さん、稽古場ですごく甘いものを食べていて(笑)。
當真)
やっぱり集中すると糖分補給したくなるんです(笑)。
染五郎)
大事ですね(笑)。
當真)
染五郎さんは約3時間出ずっぱり。稽古ではそれ以上の時間になりましたが、最初から最後までずっと作品の中に入り込んでいる。その集中力は本当に見習いたいと思っていました。
──フェンシングの稽古もかなり重ねられたそうですね。
染五郎)
基礎からしっかり教えていただいて、石川さんとも稽古終わりに二人で合わせたりしていました。どうしたら本当に斬っているように見えるか、どうしたら美しく見えるか、一つひとつこだわって作っています。
──最後に、お客様へメッセージをお願いします。
染五郎)
ルヴォーさんから「誰も見たことのないハムレットだ」と、初日前日にプレッシャーをかけられたんですけど(笑)。でも、これまで『ハムレット』をご覧になったことがある方にも、新鮮に映る作品になっていると思いますし、初めての方にも、きっと届くものがあると思っています。ルヴォーさんが稽古場でずっと言い続けてくださった「言葉をお客様に届ける」ということを大切にしながら、地方公演も含め最後まで走り切りたいです。
ルヴォー)
染五郎さんが感じているプレッシャーは、ハムレットと彼自身から来ていると思います(笑)。
私が初めて染五郎さんを見たのは、歌舞伎座での歌舞伎の公演で、そのときに「なんて知性のある俳優さんだろう、この方はハムレットにピッタリだ」と思っていたのです。
シェイクスピアに対して、理解できないかもしれないという不安を感じる方もいます。しかし私が伝えたいのは、この作品は実はとても現代的だということです。
そして人々が『ハムレット』を上演し続ける理由は、この作品が人間のほぼすべての側面、つまり父親や母親、結婚、そして死といったテーマを扱っているからです。ですから、この作品に触れる人々が、この劇が自分自身に語りかけていると、心から感じてくれることを願っています。
言葉を分かち合うことが何よりも大切です。それはあなたの言葉であり、私たちの言葉でもあり、とても力強いものです。ぜひ、お楽しみください。
【公開ゲネプロレポート】
ストレートプレイ初出演、初舞台、初シェイクスピア、初日生劇場──そして、今まで見たことのないハムレットと、「初もの尽くし」が印象的だった会見。
会見に続いて行われた公開ゲネプロでは、「初もの尽くし」の緊張感や瑞々しさと、「本当に初めてなのか」と驚かされる完成度、その両方が共存する、ゾクゾクするような3時間が広がっていました。
上演時間は休憩20分を含め約3時間15分。正直、最初はその長さに少し身構える気持ちもありました。しかし実際には、そこに不要な言葉やシーンはひとつもなく、長さを感じさせません。市川染五郎さん演じるハムレットが、止まらぬ思考と生きた言葉を携えて駆け抜ける──若さゆえの疾走感と危うさを感じる濃密な時間となりました。
若さの疾走感で駆け抜けるハムレット
物語の軸となるのは、父を失った若き王子・ハムレット。
父の亡霊から叔父クローディアスによる毒殺を知らされ、復讐へ向かっていく青年です。
しかし本作は単なる復讐劇ではありません。
ハムレットと母ガートルード、新王クローディアス。オフィーリアと父ポローニアス、兄レアティーズ。親子、家族というシンプルな構図の中に、王位継承、政治、権力、国家、社会という巨大な力が絡み合い、悲劇の連鎖を生み出していきます。

ハムレット:市川染五郎
©松竹/梅田芸術劇場

ハムレット:市川染五郎
©松竹/梅田芸術劇場
染五郎さんのハムレットは、登場した瞬間から強烈なインパクトを残します。喪に服する黒一色の衣裳、現代的な佇まい、そしてどこかナチュラルな若者感。会話は現代的なリズムで進み、シェイクスピアの言葉が不思議なほど自然に耳へ入ってくる。一方で、揺れや疑い、否定を繰り返しながら、思考の過程そのものを観客と共有するような独白の場面では、空気が一変。重厚感をまといながらも決して堅苦しくはなく、「今ここに生きている青年」の心の内として響いてきます。

クローディアス:石黒賢、ハムレット:市川染五郎
©松竹/梅田芸術劇場
若さゆえの危うさ、感情の疾走感、そして確かな表現力。その両方を兼ね備えた、まさに“今”の市川染五郎だからこそ生まれるハムレット。デヴィッド・ルヴォーさんが「見たことのないハムレット」と語った意味を実感させられました。とりわけ印象的だったのは、漆黒の衣裳からのぞく“手”の表現。指先ひとつにまで感情や思考が宿り、言葉にならない揺らぎまでも伝わってきます。ぜひ注目してほしいポイントです。
家族の愛と権力闘争が生む悲劇

オフィーリア:當真あみ
©松竹/梅田芸術劇場

オフィーリア:當真あみ、ハムレット:市川染五郎
©松竹/梅田芸術劇場
當真あみさん演じるオフィーリアは、純白の衣裳に象徴されるような透明感あふれる存在。自ら発光しているのではないかというほど視線を集めます。そして儚さだけではなく、芯のある声とまっすぐな言葉で鮮烈な印象を残す。会見で「言葉を共有したい」と語っていましたが、観客へしっかり届き、心を掴む力を持っていました。同時に、父から愛されているようでいて、権力争いや出世の道具として扱われる悲劇性もにじませます。ただ“美しい存在”として消費されない、痛みを伝えるオフィーリア像が立ち上がっていました。

クローディアス:石黒賢
©松竹/梅田芸術劇場

ガートルード:柚香光
©松竹/梅田芸術劇場

ポローニアス:梶原善
©松竹/梅田芸術劇場

ガートルード:柚香光、クローディアス:石黒賢
©松竹/梅田芸術劇場
クローディアス役の石黒賢さん、ガートルード役の柚香光さん、ポローニアス役の梶原善さんら親世代も非常に人間臭い。恐れからハムレットを遠ざける新王、弱さ、揺らぎの中で右往左往する王妃、娘を使ってハムレットを探ろうとする父。王や王妃、宰相という立場にありながら、そこにいるのは決して“歴史上の人物”ではなく、生き延びようともがく人間たちです。ゴールドの衣裳を見事に着こなす柚香さん。息子ハムレットと対峙する場面の迫真の芝居、母であり女であるガートルードの葛藤は見ごたえあり。

前列左よりレアティーズ:石川凌雅、ハムレット:市川染五郎
後列左クローディアス:石黒賢、後列右ガートルード:柚香光
©松竹/梅田芸術劇場

ポローニアス:梶原善、オフィーリア:當真あみ、レアティーズ:石川凌雅
©松竹/梅田芸術劇場
石川凌雅さん演じるレアティーズは、妹オフィーリアを深く愛する青年。希望に満ちた序盤の旅立ちから、絶望と怒りを抱えた帰国、そして復讐心に燃える男へ──直情的な感情表現を高い熱量で体現します。終盤、ハムレットとの対峙では、憎しみだけでは終わらない希望の欠片ものぞかせました。妥協なく作り込まれた殺陣シーンも大きな見どころです。

ホレイショー:横山賀三
©松竹/梅田芸術劇場

ハムレット:市川染五郎、ホレイショー:横山賀三
©松竹/梅田芸術劇場
横山賀三さん演じるホレイショーも印象的。ハムレットの無二の親友でありながら、王族とは異なる立場から世界を見つめる青年であり、どこか“観測者”のような趣があります。ナチュラルな会話の積み重ねがあるからこそ、終盤の言葉の強さがより胸に響く。悲劇を少し離れた場所から記憶し、語り継ぐ重要な役どころを、『テラヤマキャバレー』に続くルヴォー作品出演となる横山さんが繊細に演じています。
また、ローゼンクランツとギルデンスターン、通称“ロズギル”の存在感も独特。ポップな色のパーカーにジャケット姿で登場する二人は、王の命令に従ううち、いつの間にか駒のように消費されていく存在として浮遊感を漂わせます。
言葉を信じたルヴォー演出
赤を基調とした舞台セット、舞台袖に控えるバンドによる生演奏と効果音、複数のパネルを使った流れるような場面転換、そして印象的な光と影。それらが作品にスピード感と臨場感を生み出していました。具象的な装飾を増やすのではなく、シンプルな空間の中で、人間の感情と言葉を際立たせる演出。まさに“言葉と芝居を信じた”『ハムレット』です。
俳優たちが持つ若さと、全力でぶつかり合う熱量。それが強く作用する今回の『ハムレット』。シェイクスピア作品としての重厚さはありながら、驚くほど現代的で、生々しく、深掘りしがいのある舞台となっていました。
◆「もろきもの、お前の名は女」、本作には家父長制的な価値観が色濃く漂います。父への忠誠、母への理想、女性に求められる“純潔”──そうした価値観に縛られたハムレットは、ガートルードやオフィーリアを前に激しく揺れ動く。一方でオフィーリア自身もまた、父や兄、王たちの思惑に翻弄され、悲劇へとのみ込まれていきます。若者たちの苦悩と暴走の背後に、“父たちの世界”が重く横たわっていることも、本作の大きな特徴です。
ほかにも、新鮮に映る仕掛けや遊び心、現代へ投げかけられるメッセージが数多く散りばめられています。それはぜひ、劇場で体感してください。
公演は、5月30日まで日生劇場にて上演の後、6月5日~14日は大阪・SkyシアターMBS、6月20日、21日は愛知・名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)にて上演です。
舞台写真提供:松竹/梅田芸術劇場
おけぴ取材班:chiaki(囲み取材撮影・文)監修:おけぴ管理人