新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』ジークフリード王子役、李明賢さんインタビュー



柔らかな空気感と、伸びやかな踊りで観客を魅了する李明賢さん。
新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』では、ついにジークフリード王子役へ挑みます。
「ついに自分が踊るんだ」──そう語る李明賢さんに、ジークフリード王子役への緊張と喜び、音楽を大切にする踊り、そして“自分の色”について伺いました。バレエ団への愛もいっぱい詰まったインタビュー、スタートです!


【「ついに自分が踊るんだ」】



『ライモンダ』
撮影:瀬戸秀美



『ライモンダ』
撮影:瀬戸秀美


──『ライモンダ』でジャン・ド・ブリエンヌのロールデビューを終えたばかりですが、改めて振り返ってみていかがですか。

ロールデビューはいつも緊張します。『くるみ割り人形』に続いての主役でしたが、やっぱりまだ慣れないです。特に主役はパ・ド・ドゥを組む場面も多いので、いつも以上にドキドキします。練習した通りにやろう、落ち着こうと思うのですが、なかなか難しいです。でも、周りのみんなが応援してくれて、「よかったよ」と声をかけてくれたのが嬉しかったです。

──そして次は『白鳥の湖』。ジークフリード王子役へのキャスティングを聞いた時は。

最初は「どうしよう……」と思いました。
ジークフリード王子は、コンクールなどでヴァリエーションを踊る機会が多く、誰もが知る『白鳥の湖』の主役。だからこそ、「ついに自分が踊るんだ」という嬉しさと同時に、大きな緊張も感じました。
しかも僕にとっては、4幕バレエの主役自体が初めてですし、ピーター・ライト版の『白鳥の湖』を踊るのも初めて。
でも、監督や先生方がしっかり見てくださっているので、たくさん学びながら、自分を信じて頑張りたいと思っています。

──クラシック・バレエの代名詞ともいえる『白鳥の湖』。作品の思い出はありますか。

実は、プロとして初めて舞台に立った作品が『白鳥の湖』です。韓国国立バレエで、コロナ禍だったので公演は1回だけでしたが、その時はワルツを踊りました。その後、ユニバーサル・バレエではワルツとマズルカを踊りました。ただ、どちらもロシア系のバージョンです。

新国立劇場バレエ団のピーター・ライト版は、お芝居の要素にもとても重きを置き、王子がずっと舞台にいて、物語を背負っています。だからドラマをどう見せるかが大事になってくる。初めてのバージョンで、どんな『白鳥の湖』になるのか、今からワクワクしています。

──今の段階で、特に楽しみにしているシーンなどはありますか。

2幕のアダージョです。まず、あの音楽が大好き!そして、僕自身、柔らかい踊りが好きなので、あのアダージョを踊ることがすごく楽しみです。

あと、これまで僕が踊ってきた役は、どちらかというとハッピーなキャラクターが多く、ジークフリードのように悲しみを抱えている役は初めてなので、そこも新しい挑戦です。


【自分の色】



「Young NBJ GALA 2025」より『ラ・シルフィード』
撮影:鹿摩隆司


──大きな喪失感、悲しみを抱えたジークフリード王子の役作りについては、どのようなアプローチを考えていますか。

純粋な心を大切にしたいです。だからこそ黒鳥に騙されてしまうし、そのショックで白鳥を探しに行く。お客様に作品を届けるために、ストーリーがちゃんと見えるように作っていきたいと思っています。

加えて、僕は音楽をすごく大切にしています。悲しい音楽が、王子の感情へ導いてくれる。ほかの作品でも、音楽に入っていくことで、自然に演技も生まれてくる感覚があります。逆に、そこで「悲しい演技をしよう」と考えすぎると身体が固まってしまって、不自然になってしまう。音楽と物語を感じて、あとは身体に任せて踊りたいと思っています。もちろん振付の中で!ですが(笑)。

──主役を踊る機会が増えてきましたが、ご自身の踊りに変化は感じますか。

それぞれの役に入ることで見えるものはありますが、自分の踊り自体はそんなに変わっていないと思います。僕は「自分の色」を大切にしているので。

──自分の色はどうやって生まれるのでしょうか。

まずは自分が感じたジークフリードを提示する。その上で先生方から「もっとこうしたら」とアドバイスをいただいて、直していく感じです。人によって音の使い方も違いますし、みんな同じだとつまらないですよね。そして、それが自然に「ミョン(李さんの愛称)の色」になると思っています。

──その「ミョンの色」に観客は魅了されるのですね。お客様の反応は舞台上でどう受け止めていらっしゃいますか。

拍手をたくさんいただくと、アドレナリンがすごく出ます(笑)。


【等身大のジークフリード王子として】



『白鳥の湖』
撮影:長谷川清徳



『白鳥の湖』
撮影:長谷川清徳



『白鳥の湖』
撮影:長谷川清徳


──新国立劇場バレエ団ならではの『白鳥の湖』の魅力とは。

都さん(吉田都芸術監督)は、物語をどう伝えるかをとても大切にされているので、ドラマがしっかり伝わる舞台になると思います。コール・ド・バレエの美しさも本当にすごいです。観に来た方からも「床にガイドのテープもないのに、どうしてあんなに綺麗に揃うのか」と驚かれます。『白鳥の湖』でも、ぜひドラマと群舞の美しさを感じてもらいたいです。

──ご自身のジークフリードの魅力は。

これから作っていくので、まだよくわからないところもありますが。ジークフリードは21歳という設定で、僕の実年齢に近いんです。だからこそ、フレッシュな等身大のジークフリードをお見せできればと思っています。まずはしっかり練習して、パートナーの(柴山)紗帆さんと呼吸を合わせて踊りたいと思います。

──パートナーのお名前が出たところで。柴山紗帆さんの印象をお聞かせください。



『テーマとヴァリエーション』
Theme and Variations
Choreography by George Balanchine © The George Balanchine Trust
撮影:鹿摩隆司


紗帆さんはテクニックが素晴らしく、軸が強いのでパートナーとしてとても信頼しています。前回、組ませていただいた『テーマとヴァリエーション』での難しいパ・ド・ドゥでも合わせてくださって、とても踊り易かったので、また紗帆さんと踊れることを嬉しく思います。どんなオデット(白鳥)/オディール(黒鳥)になるのか──テクニックの強い紗帆さんのオディールはすごく魅力的でしょうし、オデットはどのように演じられるのか、まだ想像がつかなくて楽しみです。

──楽しみにされている2幕のアダージョは、流れるように繋がっていく振付ですが、実際はかなり繊細なコントロールが必要ですよね。

本当に難しいです。すべてをコントロールし、ゆっくり持ち上げて、ゆっくり下ろす……男性側のサポート次第で、女性の踊りも変わってきます。また、パとパの繋ぎなども大事になってくると思います。

──これからリハーサルが始まる『白鳥の湖』への意気込みをお願いします。

今回がジークフリードのデビューになります。しっかりリハーサルして、いい舞台をお届けしたいです。


【好きが止まらない!僕の居場所】



『くるみ割り人形』
撮影:鹿摩隆司


──ここからは、李明賢さんご自身について伺ってまいります。新国立劇場バレエ団での2シーズン目も終わろうとしています。改めて、このバレエ団の好きなところは。

もう、全部好きです(笑)。

まずは、音源でなくピアノでリハーサルをすること。レパートリー作品の数々も大好きです。『マノン』や『不思議の国のアリス』など、韓国ではやっていなかった作品も多くて、新しい作品に出会えることにも喜びを感じています。また、監督と話しやすい雰囲気も好きですし、ダンサーのみんなも優しくて、いろいろと教えてくれるんです。それぞれが自分のことにもしっかり取り組みながら、バレエ団全体としても助け合って、仲が良いところも大好きです。

──好きなところが止まりませんね!

僕にとって4つ目のバレエ団。ここが、やっと見つけた「自分の居場所」だと思っています。そして、舞台に立ち、満席のお客様を見て、とても愛されているバレエ団なのだと実感しています。いつも劇場に足を運んでくださり、ありがとうございます。


──バレエを始めたきっかけは?

最初はジャズダンスを習っていました。でもテレビでバレエを観た僕が真似して踊り出したらしく、それを見た母がバレエ学校に連れて行き──それからずっとバレエを続けています。始めたのは小学校4年生くらいです。

ただ、最初は身体が硬すぎて、ストレッチが本当に痛くて(笑)。そんなに好きではありませんでした。器械体操のストレッチのコースに行ったりして少しずつ柔らかくなり、ヴァリエーションや作品を踊るようになって、どんどん楽しくなっていきました。

──今では、とてもしなやかで柔らかい印象です。

今も硬いところは結構あるんですよ(笑)。でも、伸びやかに踊るのが好きなので、踊りが硬く見えないのかもしれませんね。


【入団のきっかけは……】

──新国立劇場バレエ団で踊ろうと思ったのは。

新国立劇場バレエ団のInstagramで、山田悠貴さんが『夏の夜の夢』(「シェイクスピア・ダブルビル」、2023年)のパックを踊っている動画を見たんです。それをきっかけに興味をもち、「レパートリーがすごくいいな」と思って。日本のアニメも好きでしたし、日本に住んでみたい気持ちもありました。

すると運よく、すぐにオーディションがあることがわかり、当時所属していたバレエ団の日本人の先輩の助けを借りて日本語で応募書類を書いたんです。そのほうがプラスになると思って。そうしたら、日本語ができると思われたのか、その後の連絡も全部日本語で。英語で応募した友人には、英語で返事が届きました(笑)。

(バレエ団スタッフより:日本語で書いてくれたことで誠意が伝わり、嬉しかったです。ただ、応募書類への記入が日本語かそうでないかは合否には影響しません(笑))

──日本での生活はいかがですか。

すごく楽しいです。韓国料理が食べたくなったら新大久保に行けばいいし、洋服屋さんもいっぱいあってショッピングも楽しめますし。でも休みの日は意外と家から出ないです。ちゃんと休みたいので(笑)。

──休息も大事ですね!



素敵な笑顔で伸びやかに踊る姿が印象的な李明賢さん。踊り同様に、とても柔らかい物腰で、誠実に答えてくださいました。お話に合ったように、物語のなかでハッピーなオーラを振りまくようなこれまでのお役とはまた違う、憂いの王子ジークフリードをどう表現されるのか。ますます楽しみになりました。そして、本作に限らず、これからも大注目ですね。「李明賢さんのジークフリードのロールデビューを観た」という経験は、今回の公演限り。皆さん、お見逃しなく!


【公演情報】
新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』
2026年6月5日(金)~6月14日(日)@新国立劇場 オペラパレス

<スタッフ>
振付:マリウス・プティパ / レフ・イワーノフ / ピーター・ライト
演出:ピーター・ライト / ガリーナ・サムソワ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
美術・衣裳:フィリップ・プロウズ
照明:ピーター・タイガン

<出演>
新国立劇場バレエ団
キャストスケジュールは公演HPにてご確認ください。

指揮:ポール・マーフィー(5日、6日18:30、7日、9日、10日、12日、14日)
冨田実里 (6日13:00、11日、13日)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

公演HP:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/swanlake/

舞台写真提供:新国立劇場バレエ団
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人

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