ミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』開幕レポート



韓国発のミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』が、東京建物 Brillia HALLにて日本初演の幕を開けました。19世紀ロンドンを舞台に、“官能小説を書く女性”アンナが、偏見や抑圧に立ち向かいながら「私」として生きる道を切り拓いていく本作。フェミニズムや多様性という現代的なテーマを扱いながらも、コミカルでチャーミングな会話劇、華やかなミュージカルナンバー、そして登場人物たちの愛らしさが観客を包み込む優しく、力強い作品です。【公開ゲネプロレポート】と【初日前囲み取材レポート】をお送りします。




【公開ゲネプロレポート】




真っ直ぐすぎるアンナと、“紳士”ブラウンの恋模様

アンナは、真っ直ぐで猪突猛進、それでいてどこかチャーミング。咲妃さんは、表情豊かなお芝居と歌声でアンナを体現します。

軽やかなナンバーはもちろん、アンナの魂の叫びそのもののような一幕ラストのナンバー♪罪な女 、終盤での主題を歌い上げる♪ 私は私を語る人は圧巻。一方で、ブラウンとのやり取りなどでは、コメディエンヌとしての魅力も炸裂。“真面目な顔で面白いことをする”絶妙な間合いに、客席も自然と笑いに包まれます。周囲から奇異の目で見られても、自分自身を信じて進み続けるアンナの姿から、パワーをもらい、自分らしく生きることの難しさと大切さを強く感じます。




そんなアンナに振り回されながらも惹かれていく、小関裕太さん演じるブラウンも魅力的。

“紳士”として生きてきた男が、アンナとの出会いを通じて価値観を揺さぶられ、時代の常識を飛び越えていく。その葛藤と純粋さを、小関さんは誠実な佇まいで表現します。現代の価値観では、ちょっと眉を顰めたくなるような言動も、「社会や教育に、そうあるべきと育てられた」ゆえのこと。小関さんの嫌みのないお芝居で、受け入れられる不思議。やがて未熟さへの自覚が生まれ、変わろうとする姿勢、それでもやはり頑ななところ、思わず見せるヘタレな一面、ブラウンにはいちいちキュンとさせられます。

そんな、咲妃さんと小関さん、アンナとブラウンの作り出す空気感が最高です。


ドロシー、ローレライ…愛すべき人々が彩る『レッドブック』




花乃まりあさん演じるドロシー、田代万里生さん演じるローレライの生き様も鮮烈です。

飄々としながらも包容力を感じさせるドロシーですが、息子と離れて暮らす寂しさ、母の愛、自立──彼女自身の話も聞きたくなるような、内面もぎっちりと詰まった造形。その微笑みの向こうに、ドロシーのこれまで歩んできた人生までもが感じられるような、花乃さんのドロシーです。

田代さんのローレライは、所作ひとつひとつまで美しく、それがうわべだけにとどまらず気高き精神の表れであるという説得力の高さに繋がります。女性文学会「ローレライの丘」のメンバーを見つめる温かな眼差しの奥にある愛──劇中劇のように繰り広げられる、秘められた過去を語るナンバー♪ローレライ も大きな見どころです。誰もが心に傷を負いながら、自らの足で立とうとしているのです。




また、ジャック役の中桐聖弥さん、アンディ役の加藤大悟さんら若手キャストも瑞々しく、息の合ったコンビネーションやエネルギッシュなナンバーには、自然に心が躍ります。世間知らずの坊っちゃんたちの、終盤での大活躍にもご期待ください。さらに、笑いを誘いながらも、作品世界にしっかりと根を張っているエハラマサヒロさん演じるジョンソン。時代の価値観や権力構造を象徴するような人物を、“ちゃんと憎たらしく”立ち上げています。


「私は私を語るひと」──優しさに包まれるラスト



シンプルながら変幻自在の舞台美術、カラフルな衣裳、韓国ミュージカルらしいお洒落なナンバーも、本作を彩る大きな要素。テンポ良く展開するコメディシーンと、ふと胸を刺す台詞や歌詞との緩急が心地よいのは、会見でも皆さんが大切にしたと語った「芝居」の緻密さの表れでしょう。

スピーディーな展開を支えるのが、ヴィクトリア朝ロンドンの社会の空気を創り出すアンサンブルキャストの皆さん。そこに生きる人々が、舞台の上で呼吸し、ぶつかり合い、変化していく。その姿を見ているうちに、いつしか“遠い時代の誰か”ではなく、“今を生きる私たち”の物語として胸に迫ってくるのです。

こうしてキャスト21名が一丸となって届ける物語。
人の弱さや未熟さもまるごと抱きしめるような、“優しさ”に満ちた作品です。

アンナが言葉にしてくれたことで救われる、抑圧されていた思い、
また、お互いが「違う」ことを認め合うところから始まるアンナとブラウンの関係、
そして、“自分を語る”ことの意味――。

笑って、胸が熱くなって、最後には少し自分を好きになれる。
『レッドブック』は、“私は私を語るひと”という副題そのままに、「あなたはどう生きたい?」と優しく問いかけてくるミュージカルでした。背筋がシャンと伸び、世界と向き合う視線が少し上がるような──そんな爽やかな気持ちで劇場を後にします。そして帰り道にも、「私は私を語る人」のメロディが、ずっと頭の中に流れていました。


【初日前囲み取材レポート】

初日に先駆け、演出の小林香さん、出演の咲妃みゆさん、小関裕太さん、花乃まりあさん、エハラマサヒロさん、中桐聖弥さん、加藤大悟さん、田代万里生さんによる囲み取材が行われました。(記事の内容は物語に触れます)


「濃密なお芝居」を積み重ねた稽古期間

──いよいよ日本初演の幕が開きます。今のお気持ちをお聞かせください。



咲妃)
約1カ月半のお稽古を経て、こうして無事に初日間近までたどり着けたことを幸せに思っています。演出の小林香さんを筆頭に、スタッフの皆さん、ミュージシャンの皆さん、本当に全員で力を合わせてここまで作り上げてまいりました。韓国でこの作品を大切に愛し守ってこられた方々への敬意を胸に、劇場へお越しくださるお客様への感謝を込めてアンナ役を務めたいと思います。



小関)
昨年の夏頃、韓国でこの作品の再演を拝見しました。言葉がすべて分かるわけではないんですが、歌の力、お芝居の力、そして観客の皆さんの熱量に圧倒されて。隣で涙を流している学生さんたちと一緒に、自分もウルウルしていました。
その記憶を胸に稽古を重ねてきましたが、この作品と向き合うことで、本当にたくさんの学びとエネルギーをもらいました。メッセージ性が強い作品ですが、最後にはお客様がハッピーになれる作品だと思っています。



花乃)
本当に濃厚なお稽古期間でした。早くお客様に届けたいという気持ちと同時に、「あの濃厚なお稽古が終わってしまったんだな」という寂しさもあります。
今回は自分にとって“新境地”だと思える役との出会いだったんですが、小林さんから「新境地というのは、見た目を変えただけでは生まれない。中身から新しいものを生み出さなければいけない」とお話しいただいて。その言葉を胸に、一生懸命稽古してまいりました。



田代)
稽古初日からマニキュアをして、スカートとハイヒールを履いて稽古に臨ませていただきました。僕が演じるのは“変に優雅で気品のある女装男性”という役柄。どういう人物を生み出せるのか悩みながら、小林さんや共演者の皆さんのお力を借りて、ようやく「これだ」というものが見えてきました。



エハラ)
みんながしっかりしゃべりすぎて、逆に緊張しています(笑)。
今回のキャストの皆さん、本当に歌唱力もすごいですし、場の空気の作り方もすごいんです。僕が演じるジョンソンという役は、今までやってきたどのコントよりもクセの強いキャラクターで。この中ではかなり異質な存在なんですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。



中桐)
約1カ月半、しっかり作品と役に向き合ってきたので、ようやくお客様に届けられることがすごく嬉しいです。稽古を通して、本当に素晴らしいキャストの皆さんに囲まれているんだなと改めて感じました。幕が開くのが楽しみです。



加藤)
濃密なお稽古で培ってきたものを、初日にぶつけていきたいと思います。

小林)
この作品はミュージカルですが、これ以上ないくらい“お芝居の稽古”をしてきました。皆さんが本当に真摯に芝居に向き合って、積み重ねてきたプロセスが、今日の舞台稽古で確実に実っていると感じています。
もちろん歌もダンスも楽しんでいただきたいですが、出演者21名で、本当に緻密なドラマ作りができたと思っています。


咲妃みゆ×小関裕太、互いへの信頼



──お稽古を通じて、お互いどんな存在になりましたか?

咲妃)
私は少し年上ということもあって、「頑張って引っ張っていかなきゃ」という気持ちがあったんです。でも実際には、たくさん助けていただきました。
(「本当ですか。僕のほうこそたくさん助けてもらって」という小関さんの言葉に)この期に及んで取り繕った言葉は言いません(笑)。本当に感謝しかないですし、裕太くんと一緒にお芝居を作り上げていく濃密な日々が、あっという間に過ぎてしまったことに寂しさも感じています。でも、ここからお客様にお届けする中で、まだまだ裕太くんとも皆さんとも、新しい化学反応が生まれるんじゃないかと楽しみです。
素晴らしい相手役さんに恵まれたと心から思っています。

小関)
最初は「咲妃さん」と呼んでいたんですが、役柄上、自分のほうが1歳上という設定なので、「対等に話せるように、ゆうみ(咲妃さんの愛称)って呼んで」と言っていただいて。「ゆうみちゃん」と呼ばせていただくようになりました(笑)。
本当に可愛らしい方なのですが、俳優としては、1秒も無駄にせず、休むことなく歩き続ける姿勢、どっしりとした背中を見せてくださる方。アンナという人物も、自分のやりたいことがはっきりしていて芯の通った役なので、そういう部分が咲妃さんご自身とも重なるんです。この作品だけでなく、これから先も尊敬したいと思える俳優さん。明日、初日を迎えてからは、また全然違う景色を一緒に見られることを楽しみにしていますが、現時点でもすでに咲妃さんは役柄のアンナのように、僕の背中を押して前へ進ませてくれる、とても心強い存在です。

──花乃さんに伺います。宝塚時代の同期・咲妃みゆさんとのミュージカル初共演についてはいかがですか。

花乃)
10代で出会った頃から、彼女は約40人いる同期の中でも、早くから「スターになる」と期待されていた存在でした。同期でありながら、自分にいい緊張感を与えてくれる、尊敬する女性だったんです。

実際にこうしてしっかりお芝居をご一緒して、その思いはさらに強くなりました。お芝居をしている時はもちろん、カンパニーの中での在り方も本当に素敵で。たくさんの経験を積まれてきた方なんだなと感じますし、小関さんとのやり取りを見ていても、本当に魅力的な女性だなと思っています。毎日ご一緒できることがとても嬉しいです。

──田代さんは、“変に優雅で気品のある女装男性”ローレライ役を演じられます。どのような人物として捉えていますか。

田代)
まず、僕が演じるローレライという役は、“ローレライ”という名前を受け継いだ人物なんです。劇中では、花乃さん演じる“元祖ローレライ”と、僕が演じる“名もなき青年”が出会い、恋をする。しかし──。その後、彼女の意志を受け継いだ青年が、“ローレライの丘”という組織を立ち上げ、彼女が髪につけていた羽ペンを髪飾りとして身につけながら、“ローレライ”として生きていくんです。
だからこそ、この役の土台には“元祖ローレライへの愛”がある。その想いを大切に演じたいと思っています。

──エハラさんは、役作りのための身体づくりにも取り組まれたとか。

エハラ)
今回は、とてもふてぶてしいおじさんの役なんです(笑)。なので稽古期間中は、計画的に暴飲暴食をして身体づくりをしてきました。
本当に実力のある皆さんばかりのカンパニーなので、追いつけ追い越せの気持ちで必死に食らいついています。最後まで走り切りたいです。

──中桐さん、この作品に参加して得たものは。

中桐)
本当にたくさんあります。キャストの皆さんもスタッフの皆さんも、お芝居への探究心がものすごくて。小林さんも、一人ひとりに寄り添いながら稽古を進めてくださるんです。

みんなで作品を作り上げていく楽しさや面白さを、改めて強く感じています。

──加藤さんはグランドミュージカル初挑戦となります。注目してほしいポイントは。

加藤)
この素敵なカンパニーの皆さんとご一緒できたことを、本当に幸せに思っています。
稽古場では、小林さんのエネルギーとキャスト全員のエネルギーがぶつかり合いながら、『レッドブック』を作り上げてきました。その一瞬一瞬が、僕にとって大切な思い出の1ページになっています。
細部までこだわって積み重ねてきた作品なので、ぜひいろいろな視点から楽しんでいただけたら嬉しいです。

──演出の小林さん。日本初演版としてこだわったこと、届けたいものを教えてください。

小林)
こだわったのは、“ちゃんとお芝居をする”ということです。ミュージカルではありますが、とにかく濃密で緻密なドラマを作ろうと稽古してきました。『レッドブック』というタイトルが何を意味するのか、その捉え方はお客様一人ひとり違うと思います。この作品を通して、“自分にとってのレッドブック”を見つけてもらえたら嬉しいですね。


「レッドブック」が問いかけるもの

──最後に、作品を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

田代)
この『レッドブック』という作品は、本当にメッセージ性の強い作品です。お稽古中もそうでしたし、今も楽屋で自然と、この作品のテーマについて話し合う時間が生まれています。ただ役柄として向き合うだけではなく、「もし自分だったらどうだろう」と、それぞれが自分自身に引き寄せて考えているんです。
観劇後は、お客様同士で感想を語り合ったり、帰り道に、自分は何者なんだろう、自分はこれからどう生きていきたいんだろう――そんなことを少しだけ考えたりしていただければ。そしてなにより笑顔で劇場を後にしていただけたら嬉しいです。劇場でお待ちしております。

花乃)
本当に素晴らしい楽曲にあふれたミュージカルですが、小林さんの演出のもと、緻密にお芝居を作り上げてきました。私自身も稽古中、何度も感動して涙が流れる瞬間があって。お客様にもきっと、そんな体験をしていただけるのではないかと思っています。

小関)
最初に台本を読んだ時は、“女性を応援する物語”だと思っていたんです。でも読めば読むほど、性別や年齢、世代を超えて、それぞれの胸に刺さるものがある作品だと感じました。2026年の日本初演版、このメンバーだからこそ生まれる『レッドブック』を、ぜひ劇場で体感していただきたいです。

咲妃)
私はこの作品に出会えたことに、本当に感謝しています。韓国で拝見し、感銘を受け、お稽古の日々でもたくさんの学びを得ました。他者を思いやること、自分自身の心と向き合うことの大切さを教えてくれる、この作品を、日本で上演しようとエネルギーを注いでくださった皆様への敬意を胸に、明日から全力で舞台をお届けしたいと思います。



【Story】
紳士の国・ロンドン。その中でも最も保守的だったヴィクトリア朝時代に生きる、 主⼈公アンナ(咲妃みゆ)は少し変わっていた。淑女として振る舞うよりも「私」として生きたい―。
真面目で“紳士”であることしか知らない新米弁護士・ブラウン(小関裕太)や個性的な登場人物たちとの出会いをきっかけに、アンナは、官能的な小説を書くことで自分を表現し始める。型破りで刺激的なその内容は、瞬く間に評判を呼び、多くの読者を熱狂させていく。一方で、「女性のあるべき姿に反している」「社会に悪影響だ」と非難され、 ついに裁判にかけられてしまう……。

【公演情報】
ミュージカル『レッドブック~私は私を語るひと~』
2026年5月16日(土)~5月31日(日) @東京建物 Brillia HALL
2026年6月27日(土)~6月30日(火) @森ノ宮ピロティホール
2026年7月4日(土)~7月5日(日) @御園座

★5/29(金)18時公演はおけぴ観劇会★
おけぴ観劇会では、終演後は出演者の舞台挨拶を予定。
恒例の特製相関図付き観劇会マップももちろん作成予定です。
話題作の日本初演、ぜひご一緒に観劇いたしましょう!

脚本 ハン・ジョンソク
作曲 イ・ソニョン
演出・上演台本・訳詞 小林 香
音楽監督 桑原まこ

出演 咲妃みゆ 小関裕太 花乃まりあ エハラマサヒロ
中桐聖弥 加藤大悟 伊東弘美 KENTARO
可知寛子 栗山絵美 高井泉名 井上花菜 伊藤広祥 感音
坂元宏旬 シュート・チェン 鈴木大菜 米良まさひろ 池田航汰(Swing) 石田彩夏(Swing)
/ 田代万里生

公式サイト https://redbookjp.com
企画製作 AMUSE CREATIVE STUDIO

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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