小川絵梨子演劇芸術監督の任期を締めくくるフェスティバル「20の物語 ―週末を、劇場で―」より、青少年向け公演『チョコレート・アンダーグラウンド』の稽古場を取材しました。
原作はイギリスの作家アレックス・シアラーによる人気児童文学。身近な「チョコレート」が突然禁止されるというユニークな設定から始まる物語ですが、その先に描かれるのは「自由とは何か」「社会を変える一歩とは何か」という普遍的なテーマです。
脚本・演出を手掛けるのは、新国立劇場「こつこつプロジェクト」第三期でも本作を立ち上げた鈴木アツトさん。ファンタジーやユーモアをたっぷり盛り込みながらも、現実の社会へ自然と思いを巡らせてくれる──そんな作品が、着実に立ち上がっていました。

スマッジャーの家でも最後のチョコレートを頬張る
物語の舞台は、「健全健康党」が選挙で勝利し、「国民を虫歯から守る」という名目で「チョコレート禁止法」を施行した世界。「本日五時以降、チョコレートを禁止する」という突然の宣言によって、人々の日常は一変します。
チョコレートが大好きな中学生・ハントリーとスマッジャーは、なじみの雑貨店を営むバビおばさんと共に地下でチョコレートを作り始める「地下チョコバー」を計画。子どもたちの小さな反抗は、やがて大人たちをも巻き込み、大きなうねりへと発展していきます。
稽古場では、物語を彩るさまざまなアイデアが形になっていました。
開演前から健全健康党の党員に扮したキャストが観客に語りかける参加型の演出!禁書となったチョコレートのレシピ本を探しに古本屋街に出かけていくハントリーとスマッジャーのスリリングな冒険の様子はセットの流れるような移動で表現するなど、段ボール箱を自在に組み替えて次々と景色を変えていく舞台セット。さらにキャスト自身が行う転換や効果音(一部、口三味線)など、シンプルな仕掛けだからこそ想像力が刺激される演出が次々と生まれていきます。アナログな手触りが生み出す温もりが心地よい。

振付はモカさん
振付稽古では、歌に合わせて少しずつ動きやマイムが加えられていきました。踊りそのものを見せるというより、楽しさやスリル、物語の高揚感を表現するための振付。チョコレートを武器のように使って“仮想敵(幻想の隊員)”を追い払う場面もどこかユーモラスで、「戦い」さえも優しいファンタジーとして描かれていきます。
アクティングエリアの両脇には待機用の椅子が置かれ、スタンバイしていたキャストが突然立ち上がって別の人物へと姿を変える構成も印象的。6人のキャストだけで子どもから大人まで、政府側の人々から街の住民までを演じ分ける本作ならではの面白さが、稽古場からすでに伝わってきました。観客にも「あれ?あの人、さっきは別の役だったな」なんてわかってしまうでしょう。でもそれも含めて演劇のお約束であり、面白さ!
一方で、作品の芯は驚くほど骨太です。
鈴木さんがバビおばさんについて「特別な人ではなく、ひとりのおばあちゃんであってほしい」と語った言葉が、とても印象に残りました。英雄ではなく、私たちと同じ市井の人々が誰かの勇気に背中を押され、一歩踏み出していく。その積み重ねこそが、この作品の強さなのだと感じます。
シーン稽古では、抽象的なセットだからこそ「観客にどう伝わるか」を丁寧に確認。登場人物同士のセリフの受け渡し、観客への投げかけ、情報の受け渡しについては細かく言葉の精度を上げていきます。
また、キャスト自身が転換を担うため、小道具のスタンバイや立ち位置、次の場面への移動まで細かな段取りも繰り返し調整されていました。仕込みが肝心!

仁木祥太郎さん、國崎史人さん
調子に乗りやすいスマッジャーを演じる國崎史人さん、慎重派のハントリーを演じる仁木祥太郎さんは、驚くほど自然に「中学生」として存在しています。チョコレートを頬張る幸福感、夢中で駆け回る無邪気さ、そして「本当にこれでいいのだろうか」と社会へ疑問を投げかける真っすぐさ。その純粋なエネルギーが、観る人の心を動かしていきそうです。さらに未来の子どもたちを思う気持ちには、ハッとさせられます。
そしてもう一人、クラスメイトのフランキーの行動も印象的。善悪では割り切れないもの、それでもこれだけは譲れないもの──それを話し合うきっかけにもなりそうです。

佐乃美千子さん

斉藤悠さん
そんな二人に触発されて立ち上がるのが、佐乃美千子さんが演じるバビおばさん、斉藤悠さん演じるブレイズさん。スマッジャーとハントリー、そしてバビおばさんが地下チョコバーでチョコレートを作る場面には、大人たちまでも童心に返ったような楽しさがあふれます。一方で、ブレイズさんは二人との出会いをきっかけに、自らも大きな決断を下す人物。子どもたちへ未来を託す“大人”の姿が、物語に厚みを与えています。
チョコのレシピ本を探す二人の前に現れる古本屋のブレイズさんが、「混合、精錬、調温、包装」チョコ製造の4つのプロセスを説いていきます。

柳内佑介さん

篠原初実さん
さらに、大統領や捜査官などを演じる柳内佑介さん、スマッジャーの母や党本部の守衛などを演じる篠原初実さんも、多彩な役柄を自在に行き来。特に「健康第一」を心から信じ切っている守衛の満ち足りた表情から、正義が時として人を縛る怖さも感じさせられました。
チョコレートをきっかけに始まる物語ですが、その先に描かれるのは「世界を救う英雄が立ち上がる」のではなく、「社会の中で力の弱い立場にある人たちが少しずつ勇気をつないでいく」姿です。
バビおばさんとともに「地下チョコバー」を始めたスマッジャーとハントリー。しかし、その活動はすぐに党に知られ、スマッジャーが拘束される事態に――。果たして二人の運命は?
密造、闇市場、革命──穏やかではない言葉が並びますが、それらを甘い「チョコレート」で包み込み、子どもから大人まで楽しめる物語へと昇華させているのが、本作の魅力です。
子どもたちが起こす素敵な革命に参加しましょう!
2026年7月16日から始まる「20の物語 -週末を、劇場で-」は、短編・中編を中心に、世界中の様々な作品を毎週木曜日から日曜日まで、3週にわたり、週替わりで上演するフェスティバルです!
ご紹介した、青少年向け公演『チョコレート・アンダーグラウンド』(ご観劇は4歳~(推奨年齢:10歳以上))のほかにも、読み聞かせ『くまの子ウーフ』(無料公演)や新国立劇場が誇る「歴史劇シリーズ」のメンバーが挑むリーディング公演『マクベス』、別役実と武者小路実篤。対照的!?な日本人劇作家のユーモアあふれる短編を2本立て『トイレはこちら/或日の一休和尚』。多民族・多宗教国家シンガポールの劇作家アルフィアン・サアットが描くリアル、リーディング公演『ナディラ』や、小川監督の演出でお届けする台湾の劇作家・鴻鴻による『煙草のハイ(High)について-吸煙對身體有High-』などなど、多彩なラインアップ。どう観劇予定を組み立てるか、楽しい悩みが尽きません!タイムテーブルなど詳細はHPにて!
ものがたり
舞台はイギリス。選挙で勝利した「健全健康党」は、 国民を虫歯から守るために「チョコレート禁止法」を発令する。甘いものが弾圧される中、党に戦いを挑むことにした中学生のハントリーとスマッジャーは、チョコの密造販売を思いつく。古本屋でチョコ製造のレシピ本を見つけ、自ら作るべく「地下チョコバー」を始めるが、すぐに二人の活動が党にバレてしまい、スマッジャーが拘束される事態に!二人の運命はどうなる!?
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人