紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて、こまつ座『マンザナ、わが町』上演中!
本作は、第二次世界大戦中、アメリカのカリフォルニア州マンザナ強制収容所で演劇をつくる5人の女性たちの対話を描く物語。1993年の初演以来、幾度も上演が重ねられてきた作品。
8年ぶりの再演となる今回は、鵜山仁さんの演出のもと、新たな5人の俳優が息の合ったアンサンブルで物語を紡ぎ、遠い過去ではなく"今"につながる物語として鮮やかに立ち上げています。(舞台写真撮影:宮川舞子)

増岡裕子 真飛聖 sara 福井由峰 栗田桃子
1942年3月、4か月前の真珠湾攻撃以来、アメリカでの「排日」の動きが高まる。財産や自由を奪われ収容所へ送られた日系人たち。砂漠の真ん中、マンザナ収容所のバラックの1室に集められたのは、新聞記者のソフィア(saraさん)、浪曲師のオトメ(増岡裕子さん)、手品師のサチコ(栗田桃子さん)、歌手のリリアン(福井由峰さん)、女優のジョイス(真飛聖さん)の5人。生活をともにしながら、所長命令で、収容所を美化する朗読劇「マンザナ、わが町」の上演に向けて、稽古を進める。
朗読劇の演出を務める日本語新聞主筆でアマチュア劇団のリーダー、ソフィア岡崎にはsaraさん。理知的な台詞回しと凛とした佇まいがぴったり。迷いながらも、自らが信じる合衆国憲法、父の教えを軸にして考え、対話していきます。いつも冷静なソフィアが、終盤、言葉を詰まらせ、語気を荒げる瞬間の思いに胸がギュッとなります。ただそんな憤りでさえも、ソフィアが発する言葉、日本語は美しい。
女流浪曲師のオトメ天津を演じるのは増岡裕子さん。銚子からアメリカ西海岸の農家へ嫁いだ日系1世、安い労働力として雇われた日本人の夫とともに苦労を重ねるも市民権は与えられていない。夫亡き後、浪曲師としての活動で得たお金を日本にいる子どもたちへ仕送りする。聞くも涙、語るも涙な身の上を、名調子で語るオトメ。聴衆として聴き入ってしまいます。増岡さんオトメの明るさとたくましさが舞台をポッと明るくします。本作のために浪曲に取り組んだという増岡さん、初挑戦とは思えない見事な唸りです!
手品師のサチコ斎藤を演じるのはこまつ座常連の栗田桃子さん。孤児として育ち、ついついみんなの身の上を根掘り葉掘り尋ねてしまう好奇心旺盛のサチコ。日本語はちょっと苦手というサチコの台詞を、栗田さんが見事な芝居で届けます。そしてその質問が物語を推進していきます!
福井由峰さんのリリアン竹内は、歌手を目指す2世。何があってもレコードとレコードプレイヤーだけは手放さない。歌手になるという夢に向かうひたむきさと負けん気を全身で体現します。アメリカの音楽を愛するリリアンとオトメの浪曲とアメリカ音楽の奇妙な融合シーンも楽しい!福井さんの瑞々しい歌声とお芝居にもご注目ください。
映画女優のジョイス立花を演じるのは真飛聖さん。日本大使館勤務の父をもつワシントン生まれの帰米2世のジョイス、女優オーラ満載での登場からの、振り切ったコメディエンヌ振り!お嬢様然としたちょっととぼけたような仕草や、なぜかオトメと気が合ってしまうところに思わず笑ってしまいます。そんなジョイスですが、彼女の口から語られるのは、ハリウッドで受けてきた差別とつらい思い出。それもこれも全部まとめて明るく話すジョイスの懐の大きさを感じさせます。
今年上演された一人芝居『ガールズ&ボーイズ』でWキャストとして支え合ってきた真飛さんと増岡さんが並んでわちゃわちゃしている姿に、「ふふっ」と思ってしまいました。
アメリカ生まれの2世、帰米2世、日本から渡った1世。育った環境も、使う言葉も、日本やアメリカへの思いも異なる5人は、はじめは衝突しながらも、対話を重ね、互いの歩んできた人生を知り、理解し合っていく。それぞれの人生は過酷ながら、分かり合う過程は笑いを交えながら軽やかに描かれます。この井上ひさし作品ならではの筆致が本作の魅力。
朗読劇の稽古を通して5人が少しずつ理解し合い、連帯し、さらに自分の新しい一面にも気づいていく──井上ひさしさんが愛した演劇が媒体となっているところも胸が熱くなります。また、歌・音楽がふんだんに盛り込まれた本作。唱歌、海外の民謡、アメリカのジャズなど多様な音楽のルーツを語る場面では、その楽しさ、歌唱の見事さだけでなく文化が人々の生活に根差し、深く心に刻まれていることを鮮やかに説きます。終盤、ソフィアの抗議文をきっかけに女性たちが団結する。そして「地球の色はみんな美しい」というメッセージが観劇後も心にこだまします。
史実を知る入口としての意義、戦争や差別という重い題材を扱いながら、人間の尊厳や他者との対話、そして演劇が持つ力をユーモアとともに描く本作。時代を超えて観客の心に響く井上ひさし作品の力を改めて感じさせる公演です。
舞台写真提供:こまつ座
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人