9月開幕、ミュージカル『ニコラ・テスラ』の稽古場取材会が行われました。
本作は、天才発明家、ニコラ・テスラの人生を描く新作オリジナルミュージカル。ウエストエンドで注目を集める音楽・歌詞のニック・ブッチャーさん、脚本のロジャー・ディッパーさん、そして演出・翻訳の下平慶祐さん。日英の若きクリエイターが時間と議論を重ねて生み出す新作に、海宝直人さん、成河さん、濱田めぐみさん、昆夏美さんという、日本のミュージカル界の第一線で活躍する4人が挑みます。
いまだ多くがベールに包まれている本作。ミュージカルナンバー3曲の披露と、キャスト・クリエイター7名が揃っての取材会。これは注目です。
【歌唱披露】
♪あなたの物語(ニコラ:海宝直人さん、キャサリン:濱田めぐみさん)
大学を退学となり、挫折と失意の中にいるニコラの前に現れたキャサリン。「自分の人生は自分自身が描くんだ」と力強く背中を押す。ニコラの物語が動き出す。
濱田さんは語るように歌い、それに呼応するように海宝さんも歌声で返す。対話を重ねながら、徐々にエンジンがかかっていくような一曲。そして、ニコラに語りかけるキャサリンとは──早く観たい!
♪特許を取得(ペック:成河さん、ブラウン:昆夏美さん)
発明をビジネスに!エジソンの会社を辞めたテスラ。弁護士のペックとエンジニアのブラウンが現れ、「その大発明を守り、お金に換え、世界を照らすには『特許』が必要だ」と、ビジネスについて教えていく。ニコラが一気に時代の表舞台へと駆け上がる。
ビジネスに疎いニコラに、両サイドからその心得を説く、テンポよくコミカルなナンバー。成河さんと昆さんが表情豊かに歌います。海宝さんの返しも絶妙!
♪稲妻走る頭脳(ニコラ:海宝直人さん、ペッシュル教授:成河さん)
ニコラの頭の中に広がる夢と覚醒。大学で、ペッシュル教授に考えを否定され、冷笑された若きニコラ。周囲からは無謀だと言われながらも、彼の頭の中では新しいモーターの仕組みや幾何学的なビジョンが駆け巡り始める。ニコラの決意と覚醒が、稲妻のごとくスパーク。
ここまで、周囲の人がニコラに働きかけ、影響を与えるナンバーが披露されてきましたが、最後は二コラ役海宝さんの歌声がスパーク。そこに重ねていくコーラスの厚みもすごい。たった4人で! 4人の歌声が重なる厚みと、鮮やかに立ち上がる関係性に、ますます期待が高まります。
ちなみに、この後行われた会見冒頭の海宝さんのご挨拶第一声、思わず成河さんが「テンション高いね!」と漏らすほどの勢いがありました。海宝さん曰く「あの歌を歌った後だから(笑)」とのこと。それほどまでにエネルギッシュな歌唱でした!
【作品を0から立ち上げる~クリエイター編~】
音楽・歌詞のニックさん、脚本のロジャーさんとともに、翻訳・演出の下平さんも創作の初期から加わり、ロンドンでのワークショップにも参加。4人の俳優がそれぞれトラック1、2、3、4を担い、トラック1が一貫してニコラ・テスラを、ほかの3人が複数の役を演じるというユニークな構成について、下平さんが語りました。
海宝直人(トラック1):ニコラ・テスラ
成河(トラック2)13役:父、ペッシュル教授、チャールズ・バチェラー、ハロルド・ブラウン、チャールズ・フレッチャー・ペック ほか
濱田めぐみ(トラック3)5役:キャサリン、母、ウェスティングハウス ほか
昆夏美(トラック4)12役:ナース、ダネ、エジソン、アルバート・S・ブラウンほか
下平さん)
この物語は、ニコラ・テスラという、エジソンのライバルと呼ばれている人物の生涯と、ニコラを取り巻く人々の物語です。それをたった4人のキャストで立ち上げます。
ニコラ・テスラは「3」という数字をすごく大事にしていました。ロンドンのワークショップでは、4人で「3」をどう扱うかについてかなり議論しました。その結果、ニコラ・テスラと「3人」を軸に構成しました。多数の役を担う濱田さん、昆さん、成河さんは、それぞれ違う何かを象徴するキャラクターを演じます。それが何かは──ぜひ観て感じていただければと思います。
また、1人の人生の話であるとともに、舞台全体のテーマは年々肥大する資本主義社会における価値観の均質化。そこにのろしを上げるような人生讃歌の作品になっていると思います。
続いて、ニックさんが語ったのは、テスラの先見性を表現する音楽について。
ニックさん)
まず目指したのは、耳に残る楽曲を作り、見終えたお客さんがその曲を口ずさみながら劇場を後にすること。
もう1つは、ニコラ・テスラの先見性を電気的な音楽によって表現することです。電子音楽やシンセ、エレクトリックギターなどを使い、電気が流れるような音風景を目指しました。
脚本のロジャーさんは、史実を土台にしながら、想像力を交えて物語を構築したと話します。
ロジャーさん)
ニコラ・テスラという歴史上の人物が経験したことを土台に、史実以外の部分については想像力を働かせて書き込んできました。
テスラは普通の人の何歩も先を進んでいた、とても先見の明があった人。その先見性を速いペースで表現したいと思いました。一方、人生の後半に差し掛かり、自分の人生を振り返るようになると、物語のペースも落ちていく構成になっています。
クリエイターみんなで話し合う中で大切にしたのは、ニコラ・テスラを生身の人間として描くこと。彼が残した功績を伝えるだけではなく、彼自身の人生や悩みを描くことで、観に来た方にも「自分にもこういう一面がある」と共感してもらえるようなストーリーにしてきました。
【作品を0から立ち上げる~キャスト編~】
開幕まで約2週間。まさに作品を「作っては壊す」真っただ中にいるキャスト陣からは、新作を生み出す稽古場の熱気が伝わってきました。
海宝さん)
すごく才能のある皆さんが集まっています。「ここがやりにくい」「こうしたら面白いのではないか」と、それぞれが意見をぶつけ合うことは、新作を作る上で必要不可欠なこと。それを「言いにくいな」と飲み込むことなく伝え合っています。
下平さんの演出ビジョンが実現した暁には、誰も見たことのない、新しいミュージカル作品が誕生すると感じています。皆で妥協なく、いいものを作ろうと戦っていますので、期待していてください。演者は4人ですが、劇場がパンパンになるくらいエネルギーに満ち満ちた公演になると思います。お楽しみに!
成河さん)
生みの苦しみとはよく言ったもので、本当に苦しんでいます(笑)。今はこうして取材を受けていても、内心では早く稽古したいんですよ(笑)。
一昨日の通し稽古後、かなり大胆な変更が決まりました。クリエイターチームの3人が時間をかけて作ってきた土台の上に、この2カ月で僕らが立ち上げてきたものに、根本からメスを入れたいと。昨日の稽古休みに3人が打ち合わせをして、新しく台本を作ってきたんです。僕らはまだそれを見ていないのでドキドキしています。でも、とにかく3人の絆が素晴らしい。今日、新しく構成した台本をもらうので、稽古頑張ります。
濱田さん)
皆さんお察しの通り、ものすごく早いんですよ、すべてが。新しいことを身体に取り入れたと思ったら、またすぐ変わっていく(笑)。まさにオリジナル作品ならではだと思います。
最初は下平さんのビジョンに手が届かなくて、「どういうことですか?」と、多分私が一番聞きました。でも、下平さんが細やかに、深く、たくさんの情報を持ってブレずに立っていてくれるので、みんなで頂上に向かって歩けている。展開も、稽古も、物語の進みもとにかく速い。それを取りこぼさず、いかに皆様に丁寧にお伝えできるかがキーだと思っています。
昆さん)
この夏は、みんなでニコラ・テスラに向き合ってきたという感覚があります。
今は、作っては壊して、作っては壊してという、本当に刺激的な創作期間。世の中にある素晴らしい作品も、こうして出来上がっているのかなと思います。
下平さんが突き進んでくださることが、私たちキャストにとって本当にありがたい。このまま一緒に突き進んで、初日を迎えたいと思います。
2026年の今、この作品を届ける意味については。
下平さん)
僕は作品を作るとき、そこにユニバーサルな感情があるかどうかをすごく大事にしています。今回も、どこの国でもわかる感情を探そうと、最初にニック、ロジャー、プロデューサーの井川さんと話し合いました。
僕は資本主義社会のことをすごく気にしているんですけれども、人の価値は他人が決めるものではなく、己が決めるものであるべきだと思っています。そういう意味でも、日本の皆さんにとって大きな感情を得られる作品になっているのではないかと思います。
成河さん)
ニコラ・テスラの偉業は、ひと言で説明するのがなかなか難しい。専門的な言葉でしか表現できないけれど、実際には僕たちの生活の中枢にある。そういうものって、僕たちの生活にはいくらでもあると思うんです。
でも、どんどん見えづらくなるし、僕たちもパッと理解できるものに飛びつくようになっている。わからないものも、きちんと日常の中に染み込んでいるんだと気づくきっかけになればと思っています。
海宝さん)
下平さんは、この作品では「エモーションを表現したい」と毎回おっしゃっています。テスラの人生を説明する伝記ではなく、彼の感情の旅路を描く作品です。
思いが伝わらないもどかしさや、人生の中でもう戻れないポイントだったり、誰もが感じるものがそこにはある。誰もがその思いに寄り添い、「寄り添ってもらった」と感じられるような、あたたかい人間讃歌になっていると思います。
昆さん)
私は稽古を見ていて、テスラを抱きしめたくなる瞬間がいくつもあります。彼はすごくもがいている。でも、その根底には彼の信念があるんです。
今を生きている皆さんの中にも、前に進みたいけれどうまくいかない、というもどかしさを抱えている方はたくさんいると思います。そんな方にも彼の生きざまが響く、共感できるテスラ像になっていると思います。
濱田さん)
私は少し違う角度から、テスラが研究していた「周波数」に注目しています。ネガティブな気持ちでいるのか、ハッピーな気持ちでいるのかによって、引き寄せるものも変わってくる。この作品を観ることで、「自分の周波数を変えられるんだ」という思いにたどり着いてもらえたらいいなと思っています。
元気がない方向に考えそうになったとき、ポジティブな感覚へと向かうきっかけになるようなキーを、この作品の中から、ニコラを通して見つけてもらえたらと思います。

上部のコイルはどんな動きをするのか? 照明は?
ワクワクは増すばかり!
天才発明家、交流vs直流の言葉に、難しさを感じる方もいるかもしれません。でも、取材会で一番に感じたのは楽しさです。ポップでコミカルな楽曲、エネルギッシュな歌い上げ、対話を描く芝居歌──多彩な楽曲で綴られるニコラ・テスラの人生の軌跡。
新作オリジナルミュージカルの創作、口々に大変さを語るキャストですが、その表情には充実感が漂います。
3曲を聴き、創作の現在地を知って、期待は高まるばかり。それでも、あのセットはどう動く? 12役、13役をどう演じ分ける? と、まだまだ知りたいことだらけ。全貌が明らかになる初日が待ち遠しい!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人